イケメンスパダリ医師は天涯孤独な彼を放っておけない

波木真帆

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俺が守ってやりたい

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「観月、助かったよ。依頼料は後でメールにでも送ってくれ。すぐに振り込むから」

「いや、依頼料はいらないよ。綾城がほとんど調べてくれてたのが大きいし、それにお前があれを録音してたのもいい証拠になったからな」

そう言いながら、観月はさっき奴らから受け取った書類と空良の金を渡してくれた。
ここで俺がもう一度依頼料を支払うと言ってもきっと観月は受け取らないだろう。
そういうやつだ。
ここは観月の優しさに甘えておくとしようか。

「ありがとう」

「ふっ。お前にそう感謝されたらくすぐったいな。今度空良くんだったか、会わせてくれよ」

「ああ。今週末の綾城の結婚式にお前も行くんだろ? 空良も一緒に行くことにしてるから、その時に紹介するよ」

「そうか。なら、楽しみにしとく。じゃあな」

観月には借りができたな。
何か返せることがあれば、俺は何でも力を貸すぞ。


俺は書類と金を持って、空良の元へと急いだ。

午後から休診の病院には誰の気配もない。
今は空良以外に入院患者もおらず、今日は栄養士や調理スタッフにも午後から休みを与えたから、本当にこの病院には今は俺と空良だけだ。
もちろん、栄養バランスの良い食事が必要な空良の夕食はあらかじめ作ってもらっておいて、温めるだけだから俺にも用意できる。

俺は足取り軽く、空良のいる特別室へと向かった。

セキュリティゲートをすぎて、特別室の扉を開けると空良が

「おかえりなさい!」

と声をかけてくれるものだと思っていた。

何となくドキドキしながら、中に入るが一向に声がかからない。
どうしたんだと思って見てみると、空良はベッドに横たわって眠っていた。

俺は急いで脈を取り、首に手を当てたがどうやら眠っているだけのようだ。
勉強に疲れたのか、それとも休憩をとるようにと言ったからそれで休んでいるのか落ち着いた寝息が聞こえる。

なんだ、よかったとホッとしつつ、空良の可愛らしい寝顔に癒される自分がいることに気づいた。

俺はベッドに腰をかけ、空良の頭を優しく撫でると空良の柔らかな髪が手を滑っていく。
このままこの子を俺が守ってやりたい……そんな気持ちが俺の中を占めていくのがわかった。

「うーん」

髪に触れたから起こしてしまったかとさっと手を離したが、空良は座っていた俺の腰あたりに擦り寄るように手を伸ばし、ギュッと抱きしめてくる。
そして、安心したような表情を見せながら、すやすやと深い眠りに入っていく。

俺はその場から動くことができなくなってしまったが、こんな可愛いことをされて嫌な気はしない。

ああ、俺にこんな感情が芽生えるとはな……。

ここのところ忙しかった俺の疲労を和らげるような、俺よりも体温の高い空良の温もりがじわじわと伝わってきて、俺にまで睡魔が訪れる。
少しくらいならいいだろう。

空良が目覚める前に離れればいい。

そう考えて俺は空良が俺の腰に回していた腕を起こさないようにそっと持ち上げ、その間に自分の身体を下へと摺下ろし、空良の眠るベッドにゆっくりと横たわった。

空良は一瞬眉を顰めたものの、空良の身体を俺へと近づけるとすぐに擦り寄ってきた。
ポスンと俺の肩口に頭を乗せ、また気持ちよさそうに眠りへと誘われていく姿に思わず笑みが溢れた。

特別室の広いベッドは俺と空良が寝ても余裕がある。
しかし、俺たちはベッドの中央にピッタリと寄り添いあい、俺も知らぬ間に温かな眠りへと吸い込まれていった。

それからどれくらいの時間が経っただろうか。
俺は頬に何かが触れる感触で目を覚ました。

目の前には頬をほんのりと赤く染めた空良の姿があった。
一瞬、ああ、これは夢だ……そう思い、再び目を閉じようとしたのだが、

「あの、せんせぃ……」

戸惑う空良の可愛らしい声が耳にスッと入ってきて、一瞬にして覚醒した。

見れば、俺は空良をギュッと腕の中に抱き込んだままだ。

俺は急いで腕を離した。

「悪い、空良の様子を見にきたら眠っていたんでな、俺も少し休ませてもらおうと横になったらしっかりと眠ってしまっていたみたいだ。どこか痛くなったりしていないか?」

「大丈夫です。僕、目を覚まして驚いただけで……でも、久しぶりにぐっすり寝れたんです。
もしかしたら先生が一緒に寝てくれたからかも。なんだかすっごく心地よくて……安心できたから」

「あまり眠れてなかったのか?」

そう尋ねると空良は寂しげな表情をしながら教えてくれた。

両親を一度に亡くして賑やかだった家が一瞬で怖く感じた、と。
しんと静まり返った家で、自分の息遣いしか聞こえない……そんな中で眠るのが怖くて怖くてたまらなかった、そう教えてくれた。

睡眠不足な上に食費を削って栄養不足、その上、働きずめだったか……。
そりゃあ、身体も壊すな。

「そうか……。寂しかったんだな」

「さみ、しい……?」

「ああ、一度にご両親を亡くして、これからのことを考える暇もないままに1人放り出されて、信頼する大人も、身内もいなくて誰かに思いを吐き出すこともできなかったんだろう? 1人で寂しいって言葉も言えずに……」

「そっか……僕、ずっと寂しかったんだ……」

空良はようやく自分の気持ちに気付いたようだ。
両親を亡くしてがむしゃらに生きてきてようやく……。

「だが、これからは寂しいなんて思いはさせないよ」

「えっ? それってどういう……」

「ここを退院したら、私の家で一緒に住もう。私が一緒なら熟睡できるんだろう?」

「でも、そんな迷惑……」

「迷惑なんかじゃない。私が空良といたいんだ。ダメか?」

「悠木先生……なんで僕なんかにそんなに優しくしてくれるんですか?」

空良のまっすぐな瞳が俺を見つめる。

空良が好きなんだ……と、そうここで俺の本当の気持ちを伝えるべきか?
だが、俺たちは男同士だ。
こんなにも純粋な空良に拒絶されたら……?
俺は流石に立ち直れないかもしれない。

それほどまでに空良は俺の心をもう掴んでいるんだ。

どうする?

俺はゴクリと息を呑んだ。
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