イケメンスパダリ医師は天涯孤独な彼を放っておけない

波木真帆

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俺の気持ち

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翌日、彼を自分の病院に転院させた。

彼がここにいることは誰にもわからないから大丈夫だとは思ったが、念の為に最上階の特別室に入れた。ここは俺と看護師長しか入れないようにしているため、セキュリティも万全だ。

「ここで数日休んでまずは身体を回復させるとしよう」

「迷惑をかけてしまってごめんなさい」

「ほら、また謝ってる。私が好きでやってることだから気にしなくていいと言ったろ?」

「はい。ありがとうございます」

ああ、これだ。彼がふと見せてくれるこの笑顔が俺を温かい気持ちにさせてくれるんだ。もっとこの表情が見たい。いつも笑っていてくれればいい。

「ここで出される食事はうちの優秀な栄養士が君の身体のことを考えて朝昼夕と献立を決めて、料理スタッフが美味しく作ってくれているから残さずにしっかりと食べるんだよ」

「はい。3食食べられるのなんて、かなり久しぶりだからお腹が驚きそうです」

まだまだ育ち盛りなのに、食費を削るなんて相当辛かっただろうな……。
早くステーキでも焼肉でもなんでも好きなものを食べさせてやりたいものだ。

「ここがしばらくの間、君の部屋になるわけだが何をして過ごしたい?」

「えっ? 何してって……」

「君は病気や怪我で入院しているわけではないから好きに過ごしてくれていいんだ。テレビはそこのを見ていいし、何か勉強でもしたいなら揃えてあげよう」

勉強でも……というと彼の目がキラキラと輝き始めた。

「あの、僕……実は、先生みたいなお医者さんになりたくて……医学部を目指してたんです」

「えっ? そうなのか?」

「はい。でも、両親が亡くなって高校辞めなくちゃいけなくなって……でも諦めきれなくていつか自力で大学行こうと思ってお金貯めようとしてたんです」

「それであんなに一生懸命働いてたわけか……。なるほど……なら、勉強するか?」

「えっ?」

「医学部に行きたいなら、まずは高卒認定試験を受けて合格を目指そう。高卒認定試験は年2回あって、今年はあと1回ある。あと2ヶ月もないけれど、元々医学部を目指して頑張っていたなら集中して勉強すれば合格できるだろう。それに合格すれば、他の受験生と同じスタートラインに立てる。頑張ってみるか?」

「は、はいっ!! 僕、頑張ります!!」

頬が紅潮して表情が生き生きとしている。ああ、俺は彼のこんな表情が見たかったんだ。

それからすぐに彼専用のノートパソコンと、高卒認定試験の問題集など勉強に必要なもの一式を特別室へと運んだ。彼は久しぶりの勉強道具に歓喜しながら問題集に目を通している。

「いいか、まだ身体が万全なわけではないから根を詰めすぎないように休憩時間もきちんと取るようにな」

「はい。わかりました」

彼はまだ新しいノートパソコンを嬉しそうに開いて勉強を始めた。俺は喜ぶ彼の姿に安心しながらそっと部屋を出て、自分の部屋へと向かった。

パソコンを開くと、もうすでに綾城からの報告のメールが届いていた。流石に仕事が早いな。


なるほど、やっぱりな。壺を割ったというのは無料で働かせるための罠か。あそこで働かされている子たちはみんなそういう罠で逃げるに逃げられない状況にさせられているようだ。

彼が今まで働いた分の給料から罰金として徴収された分の返還とそして、アルバイト中に倒れたことによる労災保険の請求をするとしよう。今度はあいつらが逃げるに逃げられない状況にしてやろう。

そうと決まれば行動は早い方がいい。俺はスマホを取り出し、ある男に電話をかけた。

ーもしもし。珍しいな。

ーああ、観月みづき。今、大丈夫か?

電話の相手は観月凌也りょうや。俺と綾城とは高校、大学と同級生。父親が開業医なこともあって最初は医学部を目指していたが、自分は医者には向いてないと言い出して高3で突然法学部を目指した結果、桜城大学法学部に首席で入学した凄いやつ。今は自分の事務所を持っている凄腕の弁護士だ。

ーちょうど依頼人が帰ったところだよ。タイミング良かったな。

ーなら、良かった。ちょっと早急に力を貸して欲しいんだが……。

ー悠木、本当に珍しいな。お前が俺に頼み事なんて。

ーああ、ちょっとな。実はうちの病院に今入院している子なんだが――――

俺は彼から聞き出した全ての話と綾城が集めてくれた資料内容を観月には伝えた。

ーなるほど。そこまで証拠が揃ってるなら楽勝だな。それにしても綾城は相変わらずだな、どうやったらそんな短時間でそれだけの資料集められるんだ?

ーははっ。俺もそこが不思議で仕方ないよ。まぁ、あいつは敵には回したくないな。

ーだな。それで乗り込むのはいつにする? 俺は……そうだな、明後日と5日後なら都合がいいんだが……。

ーじゃあ、明後日だな。少しでも早くあの子を……空良を安心させてやりたいんだ。

ー悠木……お前、今の自分の顔見てみろよ。

ーどういう意味だ?

ー蕩けるような甘い声出してる。気付いてないのか?

ー――っ!

甘い声って嘘だろっ。
観月に指摘されるほど俺がそんな……。

ーこの前、綾城から一生のパートナーと出会った。結婚式挙げるから是非参加してくれ! って言われたけど、どうやらお前もそうみたいだな。お前ら恋人ができるタイミングもほとんど同じとかどれだけ仲良いんだよ。

ーはぁ? 恋、人……って、違う、違う。俺はただあの子が放っておけないだけで……。

ーだから、今までお前にそんなことがあったか? その『空良くん』だけじゃないのか? お前、その子のことが好きなんだよ。お前も本当はわかってるんだろ?

俺は観月の指摘に何も反論できなかった。
俺が……あの子を、好き?
だからこんなにも気になるのか?

ーまぁ、ゆっくり気持ちの整理をするんだな。とりあえず、明後日午後から休診だったろ? 13時に俺の事務所に来てくれ。診断書と綾城の資料忘れないようにな。

観月はさっと電話を切り、俺はしばらくの間、プーップーッと電話が切れた画面を見つめていた。

俺はあの子が好きなのか? いや、そんなわけない。ただ純粋にあの子が気になるだけだ。そうに決まってる。

俺は自分の気持ちを確かめるために、彼の病室へと向かった。

そっと扉を開けると、彼が真剣な様子で勉強している姿が目に入ってくる。その姿に一瞬ドキッとしてしまうが、それはきっと観月があんなこと言ったから意識してしまっているだけだ。そう思っていた。

カタンと音を立ててしまい、彼が俺の方に目を向けるとさっきの真剣な表情が一転、本当に花が綻ぶような可愛らしい顔で

「悠木先生!」

と名前を呼んでくれた。

その瞬間、俺はわかった。
俺は彼が……空良が好きなんだと。
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