歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています

波木真帆

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保養所へ

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「先輩」

「ああ、有原くん。榎木くんも今日はありがとう。休暇中だったのに、都合をつけてもらって悪かったな」

「いえ、先輩と一花さんの幸せな姿を拝見できてよかったですよ。ねぇ、賢吾」

「ええ。一花くんがあんなにも回復している姿を見られて、医師としてこんなに嬉しいことはありませんよ」

榎木くんが初めて一花と会ったあの時は、ガリガリに痩せていてあまりの栄養状態の悪さに、怪我が治ったとしても一生歩けないだろうという診断だった。

私自身、レントゲン写真を見たときは一生車椅子が手放せないだろうという診断をした。

そこからここまでの回復を見せるとは……あの時を知っているからこそ、今の状態は本当に奇跡に近い。
それだけ一花自身が頑張ったことと何より谷垣くんの適切なリハビリのおかげだろう。

一花がもう少し回復したら、専属の任を解き、彼の力を待っている患者たちのもとに帰してあげた方がいいかもしれないな。

もちろん、志摩くんが心配するだろうから、聖ラグエルのようなしっかりと目が届くような職場でないといけないが。
谷垣くんの存在は、以前の一花のように将来への希望が絶たれた患者の最後の希望になることは間違いない。

「また近いうちに診察に伺いますから、あのことは十分お気をつけくださいね」

「ああ、わかってる。肝に銘じておくよ」

有原くんはなんの話かわかっていないようだが、特に尋ねる様子もなく、二人で幸せそうに帰って行った。

榎木くんにあれだけ念を押されたら、いうことを聞かないわけにいかないからな。
そもそも私も一花に無理をさせる気はないし。
ただ、愛し合える方法があるのなら、今夜は一花と最後まで繋がりたいと思うだけだ。

少し長くなったが、一花は大丈夫だろうかと思って視線を受けるとお義父さんと史紀さん、そして安城くんが一花を囲むように座っていた。

「すみません、お義父さん。一花、待たせて悪い」

「大丈夫です。征哉さんが挨拶して回っているの、僕、ちゃんと見てましたから」

「そうか、ありがとう」

「それより、今日はパパたちも一緒のところにお泊まりなんですね」

「ああ、部屋は別だが宿泊場所は同じだよ」

「直くんたちも一緒だって言ってたし、修学旅行っていうのみたいでなんだか楽しいですね。」

小学校も中学校もほとんどいかせてもらっていない一花は、もちろん行事も体験していないだろうから実際に修学旅行に参加したことはない。
ただ、それに参加した同級生の話は聞いていたんだろう。

そういえば、直純くんもあの事件のせいで中学校に行けなくなったから修学旅行には参加できなくなったんだったな。

やっぱり一緒に過ごせるような時間は作ってやったほうがいいか。

夜は長いのだからな。

「じゃあ、その宿泊所に移動しようか。お義父さんたちもゆっくり向かってください」

「ああ、ありがとう。では一花。また後で」

「はい。パパ。史紀さんと安城さんもありがとうございました」

三人を見送って、部屋を出ると天沢と千里さんが私たちを待っていた。

「貴船、一花さん。今日は本当にありがとう」

「いや、私たちもいい思い出ができた。なぁ、一花」

「はい。千里さんともお友達になれてよかったです」

「一花ちゃん、またいつでも遊びにきてね」

「はい。メッセージも送りますね」

すっかり仲良くなった一花と千里さんの様子を微笑ましく思いながら、私は駐車場に向かった。

私たちの姿が見えたのかすぐに運転席から下りてきた志摩くんに扉を開けてもらい、一花をキャンピングカーのベッドに座らせた。

「会長、すぐに出発しますね」

「ああ、ありがとう」

しっかりと扉が閉められ、車がゆっくりと動き出す。
一花は窓から見える庭を見つめて、

「今日は本当に楽しかったです。征哉さん……ありがとうございます」

と笑顔で振り返った。

「一花……私こそ、楽しかった。いや、それ以上だな。みんなの前で一花を一生愛すると誓うことができてよかった」

「はい。僕も幸せです……」

そう言って、一花は私にもたれかかると一気に深い眠りに落ちていった。

一花にとってはハードな一日だっただろうからな。

「一花、お疲れさま……」

そっと頬にキスをして、一花を抱いたままベッドに横たわり幸せそうな表情で眠る一花を見つめ続けた。

数十分ほど車を走らせて、保養所に到着し車から降りてきた私の腕の中で一花が寝ていることに気づいた志摩くんと谷垣くんは、二人で私たちの部屋の分も手続きを終わらせてくれた。

「何から何まで悪いな」

「いえ。一花さん、ここまでよく頑張ったと思いますよ。だいぶ体力もついてきましたね」

「ああ、そうだな。全部谷垣くんのおかげだよ。ありがとう」

志摩くんの言葉に返すように谷垣くんにお礼を言うと、

「そんな……っ、お礼だなんて」

とほんのりと頬を赤らめていたが、本当にそう思っている。

「本当のことだからな。明日までは二人の世話になるが、そのあとはのんびりと過ごしてきてくれ」

「はい。ありがとうございます」

彼らに部屋の前までついてきてもらい、私たちの荷物を玄関の中に置くと、二人は自分たちの泊まる部屋に入って行った。

中に入るとすぐに広いリビング。
開放感のある大きな窓の向こうは広いテラスがあり、そこには二人で入るには十分すぎる露天風呂がある。
ここなら一花もゆったりと入れるだろう。
露天風呂のあるテラスには、リビングの隣にあるベッドルームからも行き来ができるから安心だ。

ベッドで寝かせようかと思ったが、そこまで長くは寝ないだろうと考え、私は一花をソファーに寝かせた。
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