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より良い未来のために
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「せっかくだから、千里さんたちも一緒に写真を撮りましょうか」
母はすっかり綺麗な花たちの写真を撮ることに喜びを見出したようで、
「征哉、一花くんをここに座らせて」
とさっきまで一花が座っていた椅子を指差した。
一花をドレスに着替えさせたし、もうそろそろ今日の宿泊所への移動を始めようかと声をかけようと思っていたが、ここは好きにやらせたほうがよさそうだ。
「ああ、わかったよ。その代わり、一花には無理させないようにしてくれ」
「ええ、わかってるわよ」
その言葉を信じて、一花を椅子に座らせてそこから離れるとすぐに一花は花たちに囲まれる。
その中にはさっき着替えてきたばかりの千里さんや和泉さん、そして日南くんも入っている。
千里さんは桜守出身者だけあって、浅香さんや絢斗さんとの共通点もあるし、仲間には入りやすいだろう。
和泉さんと日南くんはそんな彼らに流されているようだが、その表情に困惑の様子はないから心配はいらないか。
もうしばらく楽しませれば満足するだろう。
それまで少しあっちで休んでおくか。
「天沢、もう仕事も終わりだろう。あっちで一緒に話でもしよう」
「ああ、そうだな」
千里さんのことを気に掛けつつも、私の言葉に賛同してついてきた。
「麻生さんと佐久川さんもこちらにどうぞ」
「はい。失礼します」
佐久川社長は少し恐縮していたが、もう結婚式も終わっているし、撮影隊は先に片付けを済ませて帰っていると言っていたから問題はない。
麻生さんはこちらに座っても視線は日南くんに向いたままで、少し心配しているようだった。
「そういえば、佐久川さん。うちの小石川と恋人になったとか?」
「えっ? ああ、そうなんです。さっき一緒に昼食を摂った時に恋人になることを了承してもらいました」
「そうですか、それはよかったです」
「すみません、事後報告になってしまって……」
「いえ、小石川はうちの従業員ですが、もう大人ですからプライベートなことには口は出すつもりはありません。昼休憩の時間もそれこそ仕事中ではありませんから。それにうちも報告しなければいけないようですし……」
そう言って、天沢は麻生さんに視線を向けた。
「麻生さんも佐久川さんに報告があるんでしょう?」
「いえ、私はまだそこまでは……」
「えっ? まだ? でもさっきもあんなに親しげにしていたでしょう?」
天沢は驚いているようだが、佐久川さんと和泉さんと比べると、麻生さんと日南くんはまだ距離感が違う気がする。
だからまだ正式なカップルではないと思っていたから、私にしてみればやはりかという気持ちが大きい。
「天沢、麻生さんは彼が一仕事を終えるのを待っているんだよ。あとは時間の問題だ。麻生さん、そうでしょう?」
「ええ、まぁ。そうなればいいと思っていますが」
「大丈夫ですよ、彼の様子を見る限り麻生さんに好意は持っているようですし」
私の言葉に麻生さんはほっとしたように笑顔を見せた。
「それにしてもめでたいなぁ。今回の結婚式で新たに二組のカップルができたということだろう?」
「ええ、そうですね。幸せな場所で幸せが増えるのは嬉しいことです」
上機嫌な磯山先生にそう返していると、
「それでこれからはどうなさるご予定ですか?」
と志摩くんが口を挟んだ。
「これからの予定とは?」
「お仕事ですよ。プリムローズとしてお仕事を続ける予定ならお二組とも遠距離恋愛ということになりますが、どちらもお忙しいご職業でしょうから、時間を合わせるのは難しいのではないですか?」
「そうですね。私もそのことは考えていたんですがお互いにとっていい方法がなかなかいい考えが思いつかなくて……」
志摩くんのいうことは至極正論だ。
確かにここは都心からかなり離れた地域。
多くの店のウェディングプロデュースを手がける仕事をしながら、ここまで通うのは大変だろう。
それに確か、和泉さんは運転免許は持っているが苦手で近場の慣れた場所しか走れないと聞いたことがある。
そんな人が都心まで車でくるのは無謀だろうし、そんなことは佐久川さんもさせないだろう。
「それならばいっそのこと、その会社を畳んだらいいんじゃないか?」
「えっ?」
みんなが悩んでいた中、思いがけない蓮見さんの言葉に全員が視線を向けた。
「蓮見さん、それはどういうことですか?」
「この結婚式に参加するにあたって、プリムローズという会社を調べさせてもらったが、まだ会社としての規模は小さいものの、ウェディングプロデュースを手がけた相手からの評判ははすこぶるいい。それはつまり、式を挙げるカップルのニーズをしっかりと受け入れてそれを実行できる能力に長けているということだ。それならば、いろいろな店を相手にせずとも、この店に新たに婚礼部を作り、この店での結婚式に力を注げば良いのではないか? そうすれば、結婚式と食事会を兼ねた披露宴も打ち合わせがしやすくなるし、ここで式を挙げたいというカップルにも利点は大きい」
蓮見さんの言葉にただただ納得しかない。
いろいろな店のプロデュースをすることはメリットもあるが、デメリットも大きい。
それがこの店だけに力を注ぐとなれば肉体的にも精神的にも負担はかなり減るだろう。
佐久川さんも、蓮見さんの案に驚愕しつつも納得している様子。
「確かにそうです。店からの要望と挙式するお客さまとの要望が急に変わったりすることも多くてそれを擦り合わせるのがかなり大変でしたが、この店でのプロデュース限定となればそれはかなりやりやすくなります。天沢さんはこの案はいかがでしょうか?」
「うちとしてはそれは願ったり叶ったりですよ。今回のことでプリムローズさんにはこれからもお願いしようと思っていましたし、うち限定でしてくださるのならウェディング事業もかなり手を広げられます。佐久川さんさえよろしければ、うちと統合という形でも構いませんよ」
天沢もかなり乗り気のようだから、この話はうまくいきそうだ。
「ある程度の線引きは必要になるが、一定のランク以上のお客さまにはうちやイリゼホテルの衣装をこちらでも着られるようにすることも可能だ。そうすればここで挙式したいお客様が増えるのではないか?」
「えっ? 蓮見さんがそこまでしていただけるのですか?」
「こうして繋がりを持ったのだからな。私にできることがあれば協力するよ」
「――っ、ありがとうございます!!」
志摩くんからの言葉で、ここまで大きなことが決まることになるとは思ってもいなかったが、これもいい巡り合わせというものだろう。
天沢の店のウェディング事業はうまくいきそうだな。
母はすっかり綺麗な花たちの写真を撮ることに喜びを見出したようで、
「征哉、一花くんをここに座らせて」
とさっきまで一花が座っていた椅子を指差した。
一花をドレスに着替えさせたし、もうそろそろ今日の宿泊所への移動を始めようかと声をかけようと思っていたが、ここは好きにやらせたほうがよさそうだ。
「ああ、わかったよ。その代わり、一花には無理させないようにしてくれ」
「ええ、わかってるわよ」
その言葉を信じて、一花を椅子に座らせてそこから離れるとすぐに一花は花たちに囲まれる。
その中にはさっき着替えてきたばかりの千里さんや和泉さん、そして日南くんも入っている。
千里さんは桜守出身者だけあって、浅香さんや絢斗さんとの共通点もあるし、仲間には入りやすいだろう。
和泉さんと日南くんはそんな彼らに流されているようだが、その表情に困惑の様子はないから心配はいらないか。
もうしばらく楽しませれば満足するだろう。
それまで少しあっちで休んでおくか。
「天沢、もう仕事も終わりだろう。あっちで一緒に話でもしよう」
「ああ、そうだな」
千里さんのことを気に掛けつつも、私の言葉に賛同してついてきた。
「麻生さんと佐久川さんもこちらにどうぞ」
「はい。失礼します」
佐久川社長は少し恐縮していたが、もう結婚式も終わっているし、撮影隊は先に片付けを済ませて帰っていると言っていたから問題はない。
麻生さんはこちらに座っても視線は日南くんに向いたままで、少し心配しているようだった。
「そういえば、佐久川さん。うちの小石川と恋人になったとか?」
「えっ? ああ、そうなんです。さっき一緒に昼食を摂った時に恋人になることを了承してもらいました」
「そうですか、それはよかったです」
「すみません、事後報告になってしまって……」
「いえ、小石川はうちの従業員ですが、もう大人ですからプライベートなことには口は出すつもりはありません。昼休憩の時間もそれこそ仕事中ではありませんから。それにうちも報告しなければいけないようですし……」
そう言って、天沢は麻生さんに視線を向けた。
「麻生さんも佐久川さんに報告があるんでしょう?」
「いえ、私はまだそこまでは……」
「えっ? まだ? でもさっきもあんなに親しげにしていたでしょう?」
天沢は驚いているようだが、佐久川さんと和泉さんと比べると、麻生さんと日南くんはまだ距離感が違う気がする。
だからまだ正式なカップルではないと思っていたから、私にしてみればやはりかという気持ちが大きい。
「天沢、麻生さんは彼が一仕事を終えるのを待っているんだよ。あとは時間の問題だ。麻生さん、そうでしょう?」
「ええ、まぁ。そうなればいいと思っていますが」
「大丈夫ですよ、彼の様子を見る限り麻生さんに好意は持っているようですし」
私の言葉に麻生さんはほっとしたように笑顔を見せた。
「それにしてもめでたいなぁ。今回の結婚式で新たに二組のカップルができたということだろう?」
「ええ、そうですね。幸せな場所で幸せが増えるのは嬉しいことです」
上機嫌な磯山先生にそう返していると、
「それでこれからはどうなさるご予定ですか?」
と志摩くんが口を挟んだ。
「これからの予定とは?」
「お仕事ですよ。プリムローズとしてお仕事を続ける予定ならお二組とも遠距離恋愛ということになりますが、どちらもお忙しいご職業でしょうから、時間を合わせるのは難しいのではないですか?」
「そうですね。私もそのことは考えていたんですがお互いにとっていい方法がなかなかいい考えが思いつかなくて……」
志摩くんのいうことは至極正論だ。
確かにここは都心からかなり離れた地域。
多くの店のウェディングプロデュースを手がける仕事をしながら、ここまで通うのは大変だろう。
それに確か、和泉さんは運転免許は持っているが苦手で近場の慣れた場所しか走れないと聞いたことがある。
そんな人が都心まで車でくるのは無謀だろうし、そんなことは佐久川さんもさせないだろう。
「それならばいっそのこと、その会社を畳んだらいいんじゃないか?」
「えっ?」
みんなが悩んでいた中、思いがけない蓮見さんの言葉に全員が視線を向けた。
「蓮見さん、それはどういうことですか?」
「この結婚式に参加するにあたって、プリムローズという会社を調べさせてもらったが、まだ会社としての規模は小さいものの、ウェディングプロデュースを手がけた相手からの評判ははすこぶるいい。それはつまり、式を挙げるカップルのニーズをしっかりと受け入れてそれを実行できる能力に長けているということだ。それならば、いろいろな店を相手にせずとも、この店に新たに婚礼部を作り、この店での結婚式に力を注げば良いのではないか? そうすれば、結婚式と食事会を兼ねた披露宴も打ち合わせがしやすくなるし、ここで式を挙げたいというカップルにも利点は大きい」
蓮見さんの言葉にただただ納得しかない。
いろいろな店のプロデュースをすることはメリットもあるが、デメリットも大きい。
それがこの店だけに力を注ぐとなれば肉体的にも精神的にも負担はかなり減るだろう。
佐久川さんも、蓮見さんの案に驚愕しつつも納得している様子。
「確かにそうです。店からの要望と挙式するお客さまとの要望が急に変わったりすることも多くてそれを擦り合わせるのがかなり大変でしたが、この店でのプロデュース限定となればそれはかなりやりやすくなります。天沢さんはこの案はいかがでしょうか?」
「うちとしてはそれは願ったり叶ったりですよ。今回のことでプリムローズさんにはこれからもお願いしようと思っていましたし、うち限定でしてくださるのならウェディング事業もかなり手を広げられます。佐久川さんさえよろしければ、うちと統合という形でも構いませんよ」
天沢もかなり乗り気のようだから、この話はうまくいきそうだ。
「ある程度の線引きは必要になるが、一定のランク以上のお客さまにはうちやイリゼホテルの衣装をこちらでも着られるようにすることも可能だ。そうすればここで挙式したいお客様が増えるのではないか?」
「えっ? 蓮見さんがそこまでしていただけるのですか?」
「こうして繋がりを持ったのだからな。私にできることがあれば協力するよ」
「――っ、ありがとうございます!!」
志摩くんからの言葉で、ここまで大きなことが決まることになるとは思ってもいなかったが、これもいい巡り合わせというものだろう。
天沢の店のウェディング事業はうまくいきそうだな。
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