歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています

波木真帆

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幸せの日

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<side一眞>

席に着き、一花と征哉くんが来るのを待っていると、

「こんなに大勢の人に心から祝福されるなんて幸せですね」

と隣に座る未知子さんから声をかけられそっと辺りを見回した。

出席者全員の笑顔に胸が熱くなる。

「本当にそうですね」

「これも一花くんの人柄のおかげですよ」

「いやいや、征哉くんの誠意のおかげですよ」

「ふふっ。本当に征哉は一花くんと出会えて幸せになれましたわ」

「二人が出会ってくれたおかげで、私も一花に再会できて幸せになれた。となると、一花と出会うきっかけを作ってくださった未知子さんは二人のキューピッドですよ」

「あら、私が? ふふっ」

「玄哉さんも麻友子もきっときっと未知子さんに感謝して、今一緒に見ているかもしれませんね」

「ええ、この素晴らしい天気ならそんなこともありそう」

未知子さんが見上げた先には雲ひとつない青空が広がっている。
こんなにも清々しい空の下で清らかな二人の幸せを祝福する。
なんとも素晴らしい日になりそうだ。

「今から、お二人がこちらに来られます。一花さんには目を瞑っていただいた状態でこちらに来られますので、皆さま、お声はお出しにならないようにご注意ください。貴船の合図で一花さんが目を開けられましたら、<結婚おめでとう!>とお声がけをお願い致します」

志摩くんの言葉に少し離れた席に座っている直純くんが両手を口に当てるのが見える。
ふふっ。本当に素直な子だ。

少し経って、一花たちが来るという方角から黒五つ紋付き羽織袴に身を包んだ征哉くんが綿帽子をつけた白無垢姿の一花を抱きかかえてこちらに向かってくるのが見える。

「――っ!!!」

二人のその出立ちが麻友子との結婚式と重なって懐かしささえ込み上げてくる。

ああ、本当にお似合いの二人だ。

きっと引き離されることなく我が家で育ったとしても、一花は間違いなく征哉くんと愛を育み、この日を迎えたことだろう。

こちらに来ながら、征哉くんはそっと私を見て、優しげな笑顔を向ける。

一花のことは絶対に幸せにします。

その視線だけでそう告げているのがありありと感じられる。

ああ。征哉くんになら、一花を任せられる。
それは一生変わらないだろう。

「一花、目を開けてもいいよ」

その声に一花がゆっくりと目を開ける。
一番最初に目が合ったのは私だ。

大きな目をさらに丸くしている一花は

「結婚おめでとう!」

の声にさらに驚いて周りを見て涙を流し始めた。

これまでの人生で何度も涙を流したことだろう。
けれど、今日のこの涙は私と再会した時に見せてくれた涙とおなじくらいに幸せの涙だったに違いない。

一花の涙に抑えきれない涙が溢れ落ちそうになった瞬間、さっと隣の席から白いハンカチを渡された。

「これは、かたじけない」

「いいえ。私もおなじですから」

そう言って微笑む未知子さんの頬にも涙が流れていた。

「子どもたちが幸せな一歩を踏み出すのを見られて、親としてはこの上ない幸せですね」

「ああ、本当に……」

みんなからの祝福を一心に浴びながら幸せそうに抱き合う二人を見て、心から温かな気持ちになれた。

しばらく経って征哉くんから声をかけられ、二人の元に駆け寄ると、一花を抱きかかえてこちらに連れてきて欲しいと頼まれた。

花嫁衣装に身を包んだ一花を渡され、私の腕に抱きしめる。
生まれたばかりのあの真っ白なおくるみに包まれていた一花の姿と重なって魂が揺さぶられる。
一花と麻友子を失い、幸せの絶頂から一気に奈落の底に叩きつけられたあの日、まさかこんな幸せな日を迎えられるとは思っていなかったな。

「――っ、一花、大きくなったな」

涙を溢しそうになるのを必死に抑えながら振り絞った言葉に、一花は嬉しそうに私に抱きついてくれた。

そして、私は一花を抱きかかえ、赤い絨毯の先に連れて行き、征哉くんに向けて歩き始めた。
私の大事な一花を征哉くんに託すために。

「征哉くん、一花を頼むよ」

「はい。お任せください!」

その力強い声に安心して一花を彼の元に送り届けた。

そして、一花に椅子が用意され、征哉くんはそれに一花を優しく座らせた。

今日の式は人前式。

征哉くんは私たちに向かってゆっくりと口を開いた。

「今日、この善き日にご参列いただいた皆さまの前で、私は一花への愛を誓います。一花との出会いは私にとって人生最大の幸運でした。一花は私に人を愛するということを教えてくれたのです。だからこそ、私はこれからの人生の全てを一花に捧げ、一花を愛し続けることをここに誓います」

征哉くんの言葉に私も含め、参列者全員が拍手を送ると、一花は征哉くんの言葉に嬉しそうに笑顔で応えていた

「一花、一生私のそばでその笑顔を見せてほしい」

「はい。僕……幸せです」

征哉くんが一花を抱きしめて、軽いキスを送る。
まるで絵画のような美しさに、私たちはただただ幸せな気持ちで見守り続けていた。

「一花、あっちを見てごらん。ご参列の皆さまもあちらをご覧ください」

征哉くんの言葉にさっき私が一花を抱きかかえて立っていた赤い絨毯の先に目をやると、そこには新郎のような白いベストを身につけたフランが小さなカゴを咥えて立っていた。
その隣には甲斐くんの姿も見える。

さらにそのフランの背中には一花のかわいがっているグリがちょこんと座っているのが見えた。

「フラン、おいで」

征哉くんの声にフランがゆっくりと歩き出す。
どうやら背中のグリが落ちないように気をつけているようだ。

そのなんともいえない可愛らしい姿に、参列者は次々に写真を撮っていた。
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