歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています

波木真帆

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一花へのお願い

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<side一眞>

とうとうその瞬間が来た。
一花と征哉くんが帰る時間だ。

フランは本能で何か気づいているのか、一花の膝の上から離れようとしない。

だが、長くなればなるほど離れがたくなるのも事実。

ここは心を鬼にして、一花と征哉くんには帰ってもらわないといけないだろう。

「あの、お父さん……また、泊まりに来てもいいですか?」

「ああ、もちろんだよ。私の承諾など必要ない。ここは一花の実家なのだと言ったろう?」

「はい。その時はまたお父さんと征哉さんと三人で一緒に寝たいです」

「一花……っ! ああ、私も楽しみにしているよ」

一花が私と一緒に寝ることを望んでくれただけで嬉しい。
それがたとえ、征哉くんと三人であっても嬉しいものだ。
ああ、本当に私は幸せだな。

「それから、あのランドセルなんですけど一度持ち帰って、それからえっと……りめいくっていうのを考えてもいいですか?」

「いいよ。あれは一花のだから一花の好きなようにしていい。もし、リメイクをするならあのランドセルを作ってくれた人に話をしておこう」

「わぁ! お父さん! ありがとう!!」

「一花……私から、一つお願い事をしても構わないか?」

「お父さんが、僕にお願い事ですか? はい、なんでも言ってください!!」

一花がキラキラとした目で見つめてくれる。
きっと私からのお願いだと聞いて、楽しみにしてくれているのだろうが、こんなお願い事を受け入れてもらえるかどうか……。

だが、どうしてもお願いしてみたいのだ。

「あの……嫌なら、断ってくれて構わないんだ。だから、無理することはない。いいか。一花」

「?? はい、わかりました」

一花は不思議そうにしながらも頷いてくれた。

それでも少し勇気がいる。
けれど、一花の隣には征哉くんももちろんいて、私と一花の話を黙って聞いてくれているし、ここで引き下がるわけにはいかない。

私は勇気を奮い立たせて、頼んでみることにした。

「あの、一花……パパと呼んでくれないか?」

「えっ?」

「私のことをパパと呼んで欲しいんだ。一花を探していたときは、ずっと愛する息子にお父さんと呼んでもらえたら嬉しいと思っていた。だが、一花と出会って、一花にはお父さんよりもパパと呼ばれたいと思ってしまったんだ。いや、もちろんお父さんと呼ばれるのも嬉しいんだ! それは本当だ! 信じてくれ! だが、パパと呼ばれたいという夢も忘れられないんだ。一花がずっと私のそばにいてくれたらきっと呼んでくれていたはずなんだ。だから……っ」

――あのね、一花……パパが大好き!!

一花と初めて一緒に寝た昨夜……私は夢の中で幼い一花にそう言われたんだ。

その喜びをどうしても忘れることができない。
だから、現実の世界でも一花にパパと呼んでもらえたら……なんて、夢を抱いてしまった。

一花はそんな私を軽蔑しないだろうか……。

しんと静まり返ってしまって、不安に駆られる。
やはり無謀な望みだっただろうか……。

今からでも冗談だと取り消そうか。
そうだ、それがいい。

スゥと息を吸い込んで言葉に出そうとした瞬間、

「パパ……大好きだよ」

と少し照れを含んだ声が私の耳に届いた。

「――っ、一花っ!!」

「ふふっ。パパ。僕もパパの方が言いやすいです」

「そうか、一花。嬉しいよ!! さっきのをもう一度言ってくれないか?」

「パパ。一花はパパが大好きだよ」

ああ、あの夢は正夢だったんだ。
もしかしたら麻友子が見せてくれたのかもしれないな。


「では、お義父さん。そろそろ……」

「ああ、そうだな。玄関まで見送れないが、気をつけて帰ってくれ」

「はい。フランをよろしくお願いします」

「ああ、征哉くんも一花を頼んだぞ」

ランドセルやその他の荷物を先に二階堂に車に積み込ませて、準備が整ったところで、一花がフランに

「フラン、またね。遊びに来るからその時まで僕のことを忘れないでね」

と優しく頭を撫でた。

そうして一花のフランへの最後の挨拶が終わったところで、私がフランを抱きかかえたと同時に征哉くんが一花を抱き上げて急いで玄関へ駆けて行った。

フランも何が起こったのかわからないうちに、一花と征哉くんはあっという間に我が家から出て行ってしまった。

「ワゥンっ、ワゥンっ!!」

フランが一花がいなくなったことに気づいて、大声で泣きながら一花達の後を追いかけて行ったが、もうすでにそこには姿はなかった。

フランはしばらく玄関から離れず、蹲って悲しげな声を出していたが、

「フラン。おいで。一花はまた遊びに来るからな」

とそばに寄り添って頭を撫でてやると、フランは私の胸に飛び込んできた。

「フラン……今日は私と一緒に寝ようか」

「わふっ!!」

尻尾を振ってくれたフランを見て、私は安堵のため息を漏らしたのだった。
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