190 / 209
話をしよう
しおりを挟む
「じゃあ、そろそろ寝ようか」
「お父さんはお風呂に入ったんですか?」
「ああ。一花たちが入っている間に、別の風呂に入ってきたんだ」
「へぇー。別の、お風呂……すごい」
一花は驚いているが、この広い屋敷で風呂が一つなんてありえない。
我が家にだって、私たちが使うだけでも三つはあるし、客間にもそれぞれつけてある、
シャワールームやサウナもあるから、それを入れればかなりの数だ。
一花は我が家でも私の部屋と一花の部屋くらいしか知らないから当然だろうな。
一花を布団に寝かせると、
「わぁ、いつもより天井が高いですね」
と楽しそうだ。
確かにベッドではない分、天井まで高く感じるだろう。
「なんだか懐かしいです」
「懐かしい?」
「はい。施設にいたときでもあのお店でも床に寝ていたので、こんなに天井が高かったなぁって思い出しました。あ、もちろんこんなふわふわの布団なんてなかったので今とは全然違いますけど」
「一花……っ、悪い。嫌なことを思い出させたか?」
お義父さんの顔が青ざめているのがわかる。
「今からでもベッドに……」
「ううん、大丈夫です」
「私を気遣っているのなら無理しなくていいんだぞ」
「本当に大丈夫です。今はあの時とは違うって、ちゃんとわかってますから」
「一花……」
「それに隣を見たらお父さんと征哉さんがいて……僕、嬉しいです。手、繋いでもいいですか?」
「――っ、ああ。もちろんだよ」
一花が嬉しそうに手を伸ばす。
私とお義父さんはそれを優しく握った。
「ふふっ。お父さんと征哉さん。同じくらいあったかいです」
幸せそうな一花の声にほっとして、私もお義父さんも布団に横たわった。
「このまま寝ちゃうのが勿体無いですね」
「そうか。じゃあ……少し、話をしてもいいか?」
「わぁ! お父さんの話、聞きたいです」
「征哉くんもいいか?」
自分からあの話をしてもいいか?
その確認なんだろう。
確かに直純くんのことは私から話すより、お義父さんからの方が良さそうだ。
「ええ。お願いします」
そういうとお義父さんは
「わかった」
と一言だけ答えた。
「一花……これから一花の昔話をする。もう聞きたくないなと思ったら、言ってくれ」
「僕の、昔話? はい、わかりました」
一花は不思議そうな声を出していたが、お義父さんの声のトーンに何やら思うところがあったのだろう。
素直にわかったと返していた。
「一花が病院から誘拐されて、あの施設に連れて行かれたことは知っているだろう?」
「――っ、はい……」
一花の指がピクリと震えた。
今の一言だけで施設での辛い日々を思い出したのかもしれない。
「一花、大丈夫か?」
「大丈夫です。お父さんと征哉さんがいてくれるから……」
その言葉に無理がないのがわかって、お義父さんは話を続けた。
「あの時、病院の看護師の中に……一花の誘拐を手伝った人間がいたんだ。その人物が、あの施設長の妻である早紀の犯行を手伝った。一花を盗み出すのに早紀一人では難しかったからな」
「そう、なんですね……」
「共犯者の女は早紀に多額の金をもらい、病院を辞めてそこから遠く離れた場所に住み着いた。そして、数年経って結婚したんだ」
「結婚相手の人って、その人が共犯者ってことは……」
「もちろん知らない。全てを隠して生きていたんだ。そして、二人に子どもが生まれた。犯人からもらった金で悠々自適に女は生活をしていたが、ある時転機が訪れた」
「転機?」
「ああ。一花が征哉くんと出会い、私の息子だとわかった。私は一花を連れ去った犯人を捕まえるべく、征哉くんと協力して調査をして、早紀を逮捕したが、その時に共犯者の存在もわかったんだ。そして、共犯者も無事に逮捕した」
「えっ……じゃあ、その人の旦那さんと子どもは?」
「夫は、妻が逮捕されて日本では働けないということで、海外で仕事をすることになった」
「じゃあ、子どももお父さんと一緒に?」
「いや、海外の仕事には子どもを連れて行けないから、この事件を担当してくれた磯山弁護士の家に引き取られたんだ」
「磯山、弁護士って……」
「一花のために今まで私たちと一緒に動いてくれていた弁護士の先生だよ。一花がひかるという名前から一花に変更できたのも、谷垣くんを一花の専属にするように話をつけてくれたのも磯山先生だ。私の会社の顧問弁護士もされているんだよ」
一花を傷つけていたものたち全てを排除するように尽力してくれたのも磯山先生だが、そこまでのことは話さないでいいだろう。
「犯罪者の息子となってしまったその子を世間の目から磯山先生が守ってくれているんだ」
「そうなんですね。でも、よかった……」
「一花は彼が磯山先生のところに引き取られてよかったと思うか?」
「はい。すごく優しそうな先生だし、きっとその子も安心していると思います」
「そうか……それで、話の続きだが……その子が、一花に会いたいと言ってるんだ」
「えっ? 僕に? どうして?」
「母親がしたことを知って、一花に謝りたいんだそうだよ」
そう言うと、一花は黙ってしまった。
「お父さんはお風呂に入ったんですか?」
「ああ。一花たちが入っている間に、別の風呂に入ってきたんだ」
「へぇー。別の、お風呂……すごい」
一花は驚いているが、この広い屋敷で風呂が一つなんてありえない。
我が家にだって、私たちが使うだけでも三つはあるし、客間にもそれぞれつけてある、
シャワールームやサウナもあるから、それを入れればかなりの数だ。
一花は我が家でも私の部屋と一花の部屋くらいしか知らないから当然だろうな。
一花を布団に寝かせると、
「わぁ、いつもより天井が高いですね」
と楽しそうだ。
確かにベッドではない分、天井まで高く感じるだろう。
「なんだか懐かしいです」
「懐かしい?」
「はい。施設にいたときでもあのお店でも床に寝ていたので、こんなに天井が高かったなぁって思い出しました。あ、もちろんこんなふわふわの布団なんてなかったので今とは全然違いますけど」
「一花……っ、悪い。嫌なことを思い出させたか?」
お義父さんの顔が青ざめているのがわかる。
「今からでもベッドに……」
「ううん、大丈夫です」
「私を気遣っているのなら無理しなくていいんだぞ」
「本当に大丈夫です。今はあの時とは違うって、ちゃんとわかってますから」
「一花……」
「それに隣を見たらお父さんと征哉さんがいて……僕、嬉しいです。手、繋いでもいいですか?」
「――っ、ああ。もちろんだよ」
一花が嬉しそうに手を伸ばす。
私とお義父さんはそれを優しく握った。
「ふふっ。お父さんと征哉さん。同じくらいあったかいです」
幸せそうな一花の声にほっとして、私もお義父さんも布団に横たわった。
「このまま寝ちゃうのが勿体無いですね」
「そうか。じゃあ……少し、話をしてもいいか?」
「わぁ! お父さんの話、聞きたいです」
「征哉くんもいいか?」
自分からあの話をしてもいいか?
その確認なんだろう。
確かに直純くんのことは私から話すより、お義父さんからの方が良さそうだ。
「ええ。お願いします」
そういうとお義父さんは
「わかった」
と一言だけ答えた。
「一花……これから一花の昔話をする。もう聞きたくないなと思ったら、言ってくれ」
「僕の、昔話? はい、わかりました」
一花は不思議そうな声を出していたが、お義父さんの声のトーンに何やら思うところがあったのだろう。
素直にわかったと返していた。
「一花が病院から誘拐されて、あの施設に連れて行かれたことは知っているだろう?」
「――っ、はい……」
一花の指がピクリと震えた。
今の一言だけで施設での辛い日々を思い出したのかもしれない。
「一花、大丈夫か?」
「大丈夫です。お父さんと征哉さんがいてくれるから……」
その言葉に無理がないのがわかって、お義父さんは話を続けた。
「あの時、病院の看護師の中に……一花の誘拐を手伝った人間がいたんだ。その人物が、あの施設長の妻である早紀の犯行を手伝った。一花を盗み出すのに早紀一人では難しかったからな」
「そう、なんですね……」
「共犯者の女は早紀に多額の金をもらい、病院を辞めてそこから遠く離れた場所に住み着いた。そして、数年経って結婚したんだ」
「結婚相手の人って、その人が共犯者ってことは……」
「もちろん知らない。全てを隠して生きていたんだ。そして、二人に子どもが生まれた。犯人からもらった金で悠々自適に女は生活をしていたが、ある時転機が訪れた」
「転機?」
「ああ。一花が征哉くんと出会い、私の息子だとわかった。私は一花を連れ去った犯人を捕まえるべく、征哉くんと協力して調査をして、早紀を逮捕したが、その時に共犯者の存在もわかったんだ。そして、共犯者も無事に逮捕した」
「えっ……じゃあ、その人の旦那さんと子どもは?」
「夫は、妻が逮捕されて日本では働けないということで、海外で仕事をすることになった」
「じゃあ、子どももお父さんと一緒に?」
「いや、海外の仕事には子どもを連れて行けないから、この事件を担当してくれた磯山弁護士の家に引き取られたんだ」
「磯山、弁護士って……」
「一花のために今まで私たちと一緒に動いてくれていた弁護士の先生だよ。一花がひかるという名前から一花に変更できたのも、谷垣くんを一花の専属にするように話をつけてくれたのも磯山先生だ。私の会社の顧問弁護士もされているんだよ」
一花を傷つけていたものたち全てを排除するように尽力してくれたのも磯山先生だが、そこまでのことは話さないでいいだろう。
「犯罪者の息子となってしまったその子を世間の目から磯山先生が守ってくれているんだ」
「そうなんですね。でも、よかった……」
「一花は彼が磯山先生のところに引き取られてよかったと思うか?」
「はい。すごく優しそうな先生だし、きっとその子も安心していると思います」
「そうか……それで、話の続きだが……その子が、一花に会いたいと言ってるんだ」
「えっ? 僕に? どうして?」
「母親がしたことを知って、一花に謝りたいんだそうだよ」
そう言うと、一花は黙ってしまった。
応援ありがとうございます!
1,747
お気に入りに追加
4,362
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる