歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています

波木真帆

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混乱極まる

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「あ、あの……」

「ははっ。さすがのお前もこの状況をまだ理解できないようだな」

「はっ?」

一眞さんはいたずらっ子のような笑顔を浮かべると向かい座る一花さんに、それはそれは優しい声をかけた。

「一花、彼がさっき話をしていた史紀。一花の親戚だよ。一花は自分で挨拶できるかな?」

「は、はい」

鈴の鳴るような可愛らしい声が聞こえたと思ったら、ほんのり頬を赤らめて笑顔で見つめてくれる。
それにドキッとしていると、ゆっくりと口が開いた。

「史紀さん。初めまして。お父さんの息子の貴船一花です」

「――っ、可愛いっ! って、あれ……? き、ふね? えっ? どうして?」

「ははっ。一花は征哉くんの恋人だよ。もう籍を入れているんだ」

「ええーーっ!!!!」

想像だにしない出来事に、私は一眞さんと貴船会長を前に大声を出してしまった。

「ほ、本当ですか?」

にわかには信じられない話に貴船会長に尋ねたのだけれど、貴船会長は今までに見たこともないほど幸せな表情で頷いて見せた。

「ええ。一花は私の大切な恋人ですよ。なぁ、一花」

「はい。僕、征哉さんが大好きです」

「一花、嬉しいよ」

目の前で一花さんと貴船会長が幸せそうに見つめ合い、一花さんの肩に腕を回しさらにピッタリとくっつき合う様子にこれが冗談ではなく、事実なのだと悟った。

まさか、貴船会長が男性……しかも、一花さんを恋人に?

一眞さんの様子を見ると、それを喜んでいるように見える。

ようやく叶った一花さんとの対面で与えられる情報量の多さに頭がクラクラしてしまうが、何とか言葉を絞り出して、

「お、おめでとうございます」

と告げると、

「「ありがとうございます」」

と貴船会長と一花さんが二人で、息のあった言葉を返してくれた。

いろいろ聞きたいことはあるけれど、幸せそうな貴船会長と一花さんを心の底から嬉しそうに見つめる一眞さんを見ているとそれだけで良くなってくる。
もう細かいことは気にしないでいいか。
一眞さん、本当に幸せそうだからな。

「あ、これ……もし、よかったら皆さんでどうぞ」

あまりにも驚きすぎてすっかり忘れてしまっていた、伊吹が渡してくれた紙袋を思い出して袋から取り出してテーブルに置いた。

「ここのカステラ絶品なので、ぜひ一花さんに召し上がっていただきたいです。ここ以上に美味しいカステラを私は知りませんから、一花さんも気に入っていただけると思いますよ」

一度伊吹がカステラを作るところを見せてもらったことがあるけれど、あの時のかっこいい姿をつい思い出して笑みを浮かべてしまう。

「かす、てら……?」

てっきり喜んでくださるかと思ったが、一花さんはどうやらカステラを知らないようだ。
けれどすぐに貴船会長が優しい声をかけていた。

「一花はきっと好きだと思うよ。史紀さん、ありがとうございます。お義父さん、早速いただいてもいいですか?」

「ああ、史紀。気を遣わせたな。二階堂、頼む」

「承知しました」

二階堂さんがテーブルの上のカステラを取ろうとした時、

「あっ、征哉さん。この、かすてらの箱……あの、金平糖と同じ模様が付いてますよ! ほら、星の模様です!」

と言われて、ドキッとしてしまった。

「ああ、本当だな。史紀さん、このカステラ。もしかして……<星彩庵>のものですか?」

「ふぇっ、あっ、は、はい。そうなんです」

「なるほど……史紀さんにとって、このカステラはかなり思い入れのあるもののようですね」

「――っ!! い、いや。特にそのようなことは……」

貴船会長の何もかも見透かしたようなその笑顔につい挙動不審になってしまう。

「史紀、どうしたんだ? さっきからおかしいぞ」

「な、なんでもないんです」

一眞さんに声をかけられて必死に誤魔化すけれど、目の前の貴船会長は私をじっと見つめたままだ。

何となく居た堪れない時間が流れる中、

「一花さま。カステラをお持ちしました」

と二階堂さんがそっと小皿を一花さんの目の前に置き、一緒に温かいお茶も添えて出していた。
その後、私たちにも順番にお茶とカステラを出してくれた。

「わぁっ! 綺麗!」

「ほおっ、これはまた素晴らしいな」

「ええ、本当に見ているだけで楽しいですね」

一花さんも一眞さんも、そして貴船会長もカステラを見て感嘆の声を上げる。

カステラを見てこの反応は、普通はありえないだろう。
けれど伊吹のカステラを見れば誰しもがこのような反応をする。

なんせ、伊吹の作るカステラの上には砕いた金平糖が散りばめられ、それが美しいグラデーションとなって色をつけて、それがまるで<星彩>つまり、星の光に見えるのだ。
店の名前にもなった、伊吹の一番の自信作で、お祝いには欠かせないものだと言われている。

だから、私は一花さんに対面できることがあれば必ずこれを持参しようと決めていた。

予想以上に喜んでもらえて私は嬉しい。
これは絶対に伊吹に報告しないとな。

伊吹の喜ぶ顔を想像しながら、湯呑みに手を伸ばした私は

「ふふっ。もしかして、史紀さんの特別なお相手が作ったもの、とか?」

と確信めいた貴船会長のその言葉にびっくりし、

「――っ、うわっ!!」

思わず目の前のお茶をこぼしてしまった。
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