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一花の思い、私の思い
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<side一眞>
部屋の真ん中で一花がランドセルを抱きかかえたまま泣いているのを見た時は、一花を傷つけてしまったかと胸が痛んだ。
けれど、ここにあるものは全て一花のために買い揃えたもの。
一花が見つかって我が家に来てくれることになった時も、処分するなんて考えられなかった。
贈り物の一つ一つにその時の想いが詰まっている。
一花が使えないままその時期を過ぎてしまったとしても、私にとっては大切なものでどうしても捨てることなんてできなかった。
でも、一花は……。
小学校を卒業してからこんなにも年月を経て、自分のものだと言われても悔しさしかないのではないか。
もっと早く私が探し出していれば、一花がこれを使えたかもしれないのに。
そう思ったら胸が痛くて苦しくて、どうしようもなかった。
一花がどんな小学校生活を過ごしたかわからない。
一花も私たちに心配させないようにと事実を全て打ち明けることはしないだろう。
私は一花の悲しみに寄り添うことしかできないんだ。
そんな自分の不甲斐なさを感じていたのに、一花は
――ぼくの、らんどせるが、あったんだって……わかったから……
と喜んでくれていた。
使えなかったことを悔やむことなど微塵も見せず、私が一花のために用意していたその事実だけを喜んでくれたのだ。
この子はどうしてこんなに……。
いや、一花はこういう子なんだ。
そう、自分でもさっきそう言ったばかりじゃないか。
一花は私たちが人を恨むことを望む子ではない、と。
一花の方がよほど前を向いている。
大人な私たちの方が頭が硬過ぎたのだな。
嬉しそうにランドセルを胸に抱きしめる一花に征哉くんは素晴らしい提案をしてくれた。
このランドセルをリメイクしようと言ってくれたのだ。
このランドセルが新たなものとなって一花の生活の一部になる。
こんな嬉しいことはない。
一花のために買い求めたこのランドセルは、最高品質の革を使いオーダーメイドで作ってもらったものだ。
そこに頼めば、リメイクもしてもらえるかもしれないな。
征哉くんにそのことを話してみよう。
一花はこれを使って、あのぬいぐるみが背負える小さなランドセルを作ってほしいと言ってくれた。
これで私も麻友子も毎日ランドセルを背負った一花が見られるわけだな。
ならば、あのぬいぐるみの一花に、通わせようと思っていた小学校の制服でも特注で作って着させようか。
ああ、それは楽しみだな。
一花が嬉しそうにランドセルを抱きしめるのを見て、少しそれを背負ってほしいと思ったが。そんなことを言って嫌がられないか心配になってしまった。
けれど、私の思いを理解したように征哉くんが一花にランドセルを背負ってみないかと提案してくれた。
一花はそれを喜んで受け入れ、ランドセルのベルトを少し長くして一花に背負わせると、小さな一花の背中にピッタリと収まった。
流石に小学生用だから小さいと言われればそうかもしれないが、いや、私には十分ぴったりに見える。
今時の身体の大きな六年生は、今の一花とあまり変わらなさそうだからな。
可愛い一花のランドセル姿に私は年甲斐もなく興奮してしまった。
でも可愛い息子の晴れ姿だ。
少しくらい興奮したっていいだろう。
気づけば持っていたスマホで一花の可愛い姿を撮りまくっていた。
ランドセルを背負った一花との二人での写真も征哉くんに撮ってもらえたし、大満足だ。
これはプリントアウトして麻友子の仏壇にも飾ろう。
麻友子も大喜びしてくれるだろうな。
<side二階堂>
「旦那さま、一花さまがお持ちのそれは……」
二階から下りてこられた皆さまを迎えた私の目に飛び込んできたのは、決して忘れることのない大切な思い出。
「ああ、私が一花のために用意していたランドセルだ。そうだ、一花。二階堂にも先ほどの姿を見せてあげてくれないか?」
「はい。征哉さん、いいですか?」
「ああ、もちろんだよ」
ソファーにお座りになった一花さまが、征哉さまに手助けされながらランドセルを背負われる。
その瞬間、まるで小学生の一花さまを拝見できたような感動に襲われた。
「どうですか? 二階堂さん」
「おお、なんということでしょう。本当にお似合いで……私、嬉しゅうございます」
――必ず一花がこのランドセルを背負ってくれるはずだから!
そう仰って、どんなランドセルにしようかと一生懸命考えておられた旦那さまのお姿を思い出す。
あの時の思いがようやく実を結んだのだ。
旦那さまの夢を叶えてくださった一花さまには感謝しかない。
「さぁ、二階堂。この可愛い一花のために食事を頼む」
「はい、ただいま。すぐにご用意いたしますのでダイニングルームにご移動くださいませ」
私の言葉にランドセルを下ろした一花さまは、それを大切そうに胸に抱え、征哉さまに抱きかかえられて旦那さまとご一緒にダイニングルームへと向かわれた。
笑顔で一花さまを見つめる旦那さまのお姿に笑みが溢れる。
旦那さま……本当にようございました。
奥さまも心から喜んでおられますよ。
部屋の真ん中で一花がランドセルを抱きかかえたまま泣いているのを見た時は、一花を傷つけてしまったかと胸が痛んだ。
けれど、ここにあるものは全て一花のために買い揃えたもの。
一花が見つかって我が家に来てくれることになった時も、処分するなんて考えられなかった。
贈り物の一つ一つにその時の想いが詰まっている。
一花が使えないままその時期を過ぎてしまったとしても、私にとっては大切なものでどうしても捨てることなんてできなかった。
でも、一花は……。
小学校を卒業してからこんなにも年月を経て、自分のものだと言われても悔しさしかないのではないか。
もっと早く私が探し出していれば、一花がこれを使えたかもしれないのに。
そう思ったら胸が痛くて苦しくて、どうしようもなかった。
一花がどんな小学校生活を過ごしたかわからない。
一花も私たちに心配させないようにと事実を全て打ち明けることはしないだろう。
私は一花の悲しみに寄り添うことしかできないんだ。
そんな自分の不甲斐なさを感じていたのに、一花は
――ぼくの、らんどせるが、あったんだって……わかったから……
と喜んでくれていた。
使えなかったことを悔やむことなど微塵も見せず、私が一花のために用意していたその事実だけを喜んでくれたのだ。
この子はどうしてこんなに……。
いや、一花はこういう子なんだ。
そう、自分でもさっきそう言ったばかりじゃないか。
一花は私たちが人を恨むことを望む子ではない、と。
一花の方がよほど前を向いている。
大人な私たちの方が頭が硬過ぎたのだな。
嬉しそうにランドセルを胸に抱きしめる一花に征哉くんは素晴らしい提案をしてくれた。
このランドセルをリメイクしようと言ってくれたのだ。
このランドセルが新たなものとなって一花の生活の一部になる。
こんな嬉しいことはない。
一花のために買い求めたこのランドセルは、最高品質の革を使いオーダーメイドで作ってもらったものだ。
そこに頼めば、リメイクもしてもらえるかもしれないな。
征哉くんにそのことを話してみよう。
一花はこれを使って、あのぬいぐるみが背負える小さなランドセルを作ってほしいと言ってくれた。
これで私も麻友子も毎日ランドセルを背負った一花が見られるわけだな。
ならば、あのぬいぐるみの一花に、通わせようと思っていた小学校の制服でも特注で作って着させようか。
ああ、それは楽しみだな。
一花が嬉しそうにランドセルを抱きしめるのを見て、少しそれを背負ってほしいと思ったが。そんなことを言って嫌がられないか心配になってしまった。
けれど、私の思いを理解したように征哉くんが一花にランドセルを背負ってみないかと提案してくれた。
一花はそれを喜んで受け入れ、ランドセルのベルトを少し長くして一花に背負わせると、小さな一花の背中にピッタリと収まった。
流石に小学生用だから小さいと言われればそうかもしれないが、いや、私には十分ぴったりに見える。
今時の身体の大きな六年生は、今の一花とあまり変わらなさそうだからな。
可愛い一花のランドセル姿に私は年甲斐もなく興奮してしまった。
でも可愛い息子の晴れ姿だ。
少しくらい興奮したっていいだろう。
気づけば持っていたスマホで一花の可愛い姿を撮りまくっていた。
ランドセルを背負った一花との二人での写真も征哉くんに撮ってもらえたし、大満足だ。
これはプリントアウトして麻友子の仏壇にも飾ろう。
麻友子も大喜びしてくれるだろうな。
<side二階堂>
「旦那さま、一花さまがお持ちのそれは……」
二階から下りてこられた皆さまを迎えた私の目に飛び込んできたのは、決して忘れることのない大切な思い出。
「ああ、私が一花のために用意していたランドセルだ。そうだ、一花。二階堂にも先ほどの姿を見せてあげてくれないか?」
「はい。征哉さん、いいですか?」
「ああ、もちろんだよ」
ソファーにお座りになった一花さまが、征哉さまに手助けされながらランドセルを背負われる。
その瞬間、まるで小学生の一花さまを拝見できたような感動に襲われた。
「どうですか? 二階堂さん」
「おお、なんということでしょう。本当にお似合いで……私、嬉しゅうございます」
――必ず一花がこのランドセルを背負ってくれるはずだから!
そう仰って、どんなランドセルにしようかと一生懸命考えておられた旦那さまのお姿を思い出す。
あの時の思いがようやく実を結んだのだ。
旦那さまの夢を叶えてくださった一花さまには感謝しかない。
「さぁ、二階堂。この可愛い一花のために食事を頼む」
「はい、ただいま。すぐにご用意いたしますのでダイニングルームにご移動くださいませ」
私の言葉にランドセルを下ろした一花さまは、それを大切そうに胸に抱え、征哉さまに抱きかかえられて旦那さまとご一緒にダイニングルームへと向かわれた。
笑顔で一花さまを見つめる旦那さまのお姿に笑みが溢れる。
旦那さま……本当にようございました。
奥さまも心から喜んでおられますよ。
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