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嬉しい繋がり
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「一花くんの席はここだよ」
そう案内された席は周りの席とは違って、ふわふわのクッションや座布団が置かれている。
「僕のためにわざわざ……すみません」
「いや、楽しく過ごしてもらいたくてやっただけだから気にしないで」
その優しさがとても嬉しい。
「一花、座らせてもらおうか。浅香さん、ありがとうございます」
征哉さんはそういうと、そっと僕をその椅子に下ろしてくれた。
「どうだ?」
「はい。とっても座り心地いいです」
「それならよかった。私はあっちで蓮見さんとコーヒーでも飲んでいるから、ゆっくり過ごすといい」
「はい。ありがとうございます」
征哉さんが離れていくのは少し心細くなってしまったけれど、すぐ近くに浅香さんがいてくれるからホッとする。
「今日のスイーツと飲み物はもう用意してあるから、待っててね」
「はい。すごく楽しみです」
こんな素敵な場所で浅香さんと一緒に食べておしゃべりができるだけで幸せなのに、一体何が食べられるんだろう。
なんだかドキドキする。
「お待たせいたしました」
運ばれてきたのはいろんな種類のお菓子が乗せられた大きなお皿。
メロンだけじゃなくて、苺とかバナナとかもある。
もちろんプリンも!
僕が前に好きだって話したのを覚えていてくれたのかな?
「わぁー、すごい! おいしそう!!」
あまりにも綺麗で美味しそうでびっくりしてしまう。
「ふふっ。うちのパティシエと話をしたら、ぜひ一花くんにはいろんなものを食べて欲しいって言ってね、一口サイズで特別に作ってくれたんだよ。その中で気に入ったものがあれば、おかわりもできるからね」
「そんな……いいんですか?」
「ああ、一花くんに楽しんでもらいたいんだ。それにね、一花くんのおかげで私もお揃いのものを用意してもらえたんだ。こんなにたくさんの種類を食べられるなんて幸せだね」
浅香さんがニコニコと笑ってる。
僕はそれだけですごく幸せになれたんだ。
ドキドキしながら、目の前のお皿から一つ選んで食べてみる。
「んんっ! おいひぃ!!」
「――っ、可愛いな」
「浅香さんも食べてみてください。すっごく美味しいですよ」
「ああ、んっ! 美味しいね」
美味しいものを共有できるって、やっぱり嬉しい。
<side征哉>
「一花が今日のこの日を楽しみにしていて、少し嫉妬してしまいましたよ」
「ははっ。君もまだまだ若いな。でも気持ちがよくわかるよ」
「浅香さんとはもう長いんですか?」
「そうだな。付き合ってからはまだそこまで時間は経っていないが、敬介のことを知ってからもう十五年以上にはなるかな」
「十五年? 一花が十八ですからほぼ同じだけの時を過ごされてきて、お付き合いされてそこまで時間が経っていないということは、かなり長く思われていたんですか?」
「ああ、そうだな。そう考えると長い年月だ。だが、敬介と過ごすようになってからはあっという間だよ」
そう言って、蓮見さんは離れた場所に座る浅香さんを愛おしそうに見つめる。
こんなにも愛し合っている彼らの間を十五年も阻んできたのはなんだったのか想像もつかないが、一つ言えることは私が経験しているよりもずっとずっと耐えてきたということだろう。
一花を前にして、手を出せないでいる私のように。
なんだか少し同志のような気持ちになる。
私もいつか、蓮見さんと浅香さんのように慣れるようにその時を待ち続けるだけだ。
「あの映像は気に入ってくれたのだろう?」
「ええ、それはもちろん」
「実は、あれと同じものを自宅にも取り付けられるのだが、もし必要なら言ってくれ。頼んでおこう」
「えっ? あれを自宅に?」
まさかのことに驚きしかないが、もしあれを本当に自宅に取り付けられるなら最高だ。
来るべき一花との夜のために、私の寝室と風呂場につけておくのもいいかもしれない。
「ああ、あれは設定したらリアルタイムで映像を飛ばすこともできるらしい。だから、離れた場所にいても何をしているのかいつでもみられる」
「それはいいですね。今でも一応取り付けているのですが、あれほど高性能ではないので別のものを考えていたところだったんです」
あれなら、今よりも死角がない映像を会社にいても確認できる。
それは素晴らしい。
「なら、ちょうどいい。実は、あれを開発しているのが敬介の友人でね。彼の手がけるものは全て素晴らしいんだよ」
「浅香さんのご友人……もしかして、倉橋社長ですか?」
「ああ、やっぱり知っているか。そうだ、彼だよ。彼はきっと君の求めるものをたくさん紹介してくれると思うから、私が間に入るより、直接やりとりしても構わないよ」
大学時代、二学年上だった彼は、同じ経済学部に在籍していた浅香さんと蓮見さんの弟である涼平さんと共に学内ではかなり有名な存在だった。
当時医学部に在籍していた私にも彼の噂話が届くほどだったから、かなりのものだ。
大学在籍中から巨万の富を得ているという話がまことしやかに流れていたが、おそらくあの噂は本物だっただろう。
貴船コンツェルンの次期当主として将来が子どもの時から決まっていた私にとっては、自らの力で未来を切り開いていく彼の姿は雲の上の存在のように見えていた。
その彼ととうとう繋がりを持つことができる。
こんなにも嬉しいことはない。
「ぜひ、お願いします。私の連絡先を伝えていただいて構いませんから」
「ああ、わかった。じゃあ、そう話しておこう」
思いがけない話に胸が高鳴っていた時、
「あれ? 貴船さんじゃないですか」
と声をかけてくる人物がいた。
そう案内された席は周りの席とは違って、ふわふわのクッションや座布団が置かれている。
「僕のためにわざわざ……すみません」
「いや、楽しく過ごしてもらいたくてやっただけだから気にしないで」
その優しさがとても嬉しい。
「一花、座らせてもらおうか。浅香さん、ありがとうございます」
征哉さんはそういうと、そっと僕をその椅子に下ろしてくれた。
「どうだ?」
「はい。とっても座り心地いいです」
「それならよかった。私はあっちで蓮見さんとコーヒーでも飲んでいるから、ゆっくり過ごすといい」
「はい。ありがとうございます」
征哉さんが離れていくのは少し心細くなってしまったけれど、すぐ近くに浅香さんがいてくれるからホッとする。
「今日のスイーツと飲み物はもう用意してあるから、待っててね」
「はい。すごく楽しみです」
こんな素敵な場所で浅香さんと一緒に食べておしゃべりができるだけで幸せなのに、一体何が食べられるんだろう。
なんだかドキドキする。
「お待たせいたしました」
運ばれてきたのはいろんな種類のお菓子が乗せられた大きなお皿。
メロンだけじゃなくて、苺とかバナナとかもある。
もちろんプリンも!
僕が前に好きだって話したのを覚えていてくれたのかな?
「わぁー、すごい! おいしそう!!」
あまりにも綺麗で美味しそうでびっくりしてしまう。
「ふふっ。うちのパティシエと話をしたら、ぜひ一花くんにはいろんなものを食べて欲しいって言ってね、一口サイズで特別に作ってくれたんだよ。その中で気に入ったものがあれば、おかわりもできるからね」
「そんな……いいんですか?」
「ああ、一花くんに楽しんでもらいたいんだ。それにね、一花くんのおかげで私もお揃いのものを用意してもらえたんだ。こんなにたくさんの種類を食べられるなんて幸せだね」
浅香さんがニコニコと笑ってる。
僕はそれだけですごく幸せになれたんだ。
ドキドキしながら、目の前のお皿から一つ選んで食べてみる。
「んんっ! おいひぃ!!」
「――っ、可愛いな」
「浅香さんも食べてみてください。すっごく美味しいですよ」
「ああ、んっ! 美味しいね」
美味しいものを共有できるって、やっぱり嬉しい。
<side征哉>
「一花が今日のこの日を楽しみにしていて、少し嫉妬してしまいましたよ」
「ははっ。君もまだまだ若いな。でも気持ちがよくわかるよ」
「浅香さんとはもう長いんですか?」
「そうだな。付き合ってからはまだそこまで時間は経っていないが、敬介のことを知ってからもう十五年以上にはなるかな」
「十五年? 一花が十八ですからほぼ同じだけの時を過ごされてきて、お付き合いされてそこまで時間が経っていないということは、かなり長く思われていたんですか?」
「ああ、そうだな。そう考えると長い年月だ。だが、敬介と過ごすようになってからはあっという間だよ」
そう言って、蓮見さんは離れた場所に座る浅香さんを愛おしそうに見つめる。
こんなにも愛し合っている彼らの間を十五年も阻んできたのはなんだったのか想像もつかないが、一つ言えることは私が経験しているよりもずっとずっと耐えてきたということだろう。
一花を前にして、手を出せないでいる私のように。
なんだか少し同志のような気持ちになる。
私もいつか、蓮見さんと浅香さんのように慣れるようにその時を待ち続けるだけだ。
「あの映像は気に入ってくれたのだろう?」
「ええ、それはもちろん」
「実は、あれと同じものを自宅にも取り付けられるのだが、もし必要なら言ってくれ。頼んでおこう」
「えっ? あれを自宅に?」
まさかのことに驚きしかないが、もしあれを本当に自宅に取り付けられるなら最高だ。
来るべき一花との夜のために、私の寝室と風呂場につけておくのもいいかもしれない。
「ああ、あれは設定したらリアルタイムで映像を飛ばすこともできるらしい。だから、離れた場所にいても何をしているのかいつでもみられる」
「それはいいですね。今でも一応取り付けているのですが、あれほど高性能ではないので別のものを考えていたところだったんです」
あれなら、今よりも死角がない映像を会社にいても確認できる。
それは素晴らしい。
「なら、ちょうどいい。実は、あれを開発しているのが敬介の友人でね。彼の手がけるものは全て素晴らしいんだよ」
「浅香さんのご友人……もしかして、倉橋社長ですか?」
「ああ、やっぱり知っているか。そうだ、彼だよ。彼はきっと君の求めるものをたくさん紹介してくれると思うから、私が間に入るより、直接やりとりしても構わないよ」
大学時代、二学年上だった彼は、同じ経済学部に在籍していた浅香さんと蓮見さんの弟である涼平さんと共に学内ではかなり有名な存在だった。
当時医学部に在籍していた私にも彼の噂話が届くほどだったから、かなりのものだ。
大学在籍中から巨万の富を得ているという話がまことしやかに流れていたが、おそらくあの噂は本物だっただろう。
貴船コンツェルンの次期当主として将来が子どもの時から決まっていた私にとっては、自らの力で未来を切り開いていく彼の姿は雲の上の存在のように見えていた。
その彼ととうとう繋がりを持つことができる。
こんなにも嬉しいことはない。
「ぜひ、お願いします。私の連絡先を伝えていただいて構いませんから」
「ああ、わかった。じゃあ、そう話しておこう」
思いがけない話に胸が高鳴っていた時、
「あれ? 貴船さんじゃないですか」
と声をかけてくる人物がいた。
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