136 / 313
父のために
しおりを挟む
<side征哉>
一花はどこにいても変わらずにただ、私を愛してくれる。
初めての実家で櫻葉会長と食事をすることになっても、私の隣に座りたいと言ってくれた。
それがどれだけ私を喜ばせたか、一花にはわからないだろう。
だがそれでもいい。
私は一花が、私がそばにいることを自然だと思ってくれるだけで幸せなのだ。
食事を終え、一花が寛げるようにと広々としたソファーに移り、話をしていると一花に
「あの、征哉さん……僕の、荷物を持ってきてもらえますか?」
と頼まれた。
一花と出かけるときには、万が一のための着替えなどが入った荷物を持ち歩いているが、何か必要なものでもあっただろうか?
荷物を取りながら、
「汗でもかいたか?」
と尋ねると、
「あっ、違うんです。ちょっと中に大事なものを入れていて……」
と笑顔を見せてくれる。
一花は私からバッグを受け取ると、その中から小さな包みを取り出した。
そしてそれを大切そうに腕に抱くと、櫻葉会長に差し出した。
「あの……お父さん、これ……お父さんに、受け取って欲しくて……」
「――っ、これを、私に……?」
「はい。気に入ってもらえるか、わからないんですけど……。
小さく頷きながら、ほんのりと頬を染めて笑いかける。
櫻葉会長は震える手で一花からその包みを受け取った。
一花がラッピングをしたのだろうか。
何度かやり直した形跡のある包装紙とリボンがゆっくりと外されていく。
一花は少し緊張した様子で隣にいた私に抱きついてきた。
一花からの最初の贈り物が私ではなかったことは、ほんの少し私を嫉妬させたが相手は一花の実の父親。
しかも、一花はこうして私を必要としてくれている。
それだけで余計な嫉妬など消してしまおう。
一花にとって私は特別な存在であるが、櫻葉会長も何にも変え難い存在なのだ。
それを理解してやらなければな。
「――っ、一花……これは、もしかして……」
震える櫻葉会長の手にあるのは、落ち着いた雰囲気のあるブルーグレーのマフラー。
ケーブル編みで作られていて、編み物を始めたばかりの一花にとってこれを作り上げるのは大変だったことだろう。
しかも、先日、目にした私のマフラーとは明らかに柄も色も違うから、一花は二つを並行で編んでいたということだ。
一本編むのにも大変だっただろうに、二本もとなるとかなり無理をしたんじゃないか。
今夜はゆっくり休ませてあげないといけないな。
「未知子お母さんに教えてもらって、僕が編んだんです。あまり上手にできなかったんですけど使ってもらえたらなって……」
「一花っ!! ああ、私はこれほど嬉しい贈り物をもらったことがないよ。まさか、息子の手作りをもらえるなんて!! 一花、ありがとう!! 本当に嬉しいよ」
「お父さん……そんなに喜んでもらえたら、僕……嬉しいです」
これまで多くの贈り物をいただいてきた櫻葉会長でも、一花からのこの贈り物に勝るものはないだろう。
手放しで喜ぶのも無理はない。
そんな父親の喜びに安堵の表情を浮かべる一花を見ていると、嫉妬などする気にもならないな。
「一花、櫻葉会長の首にかけてあげたらどうだ?」
「お父さん、良いですか?」
「ああ、一花。頼むよ」
櫻葉会長の嬉しそうな声に、一花はマフラーを手にしてそっと首にかけた。
「ああ、あったかいな。これから冬は毎日これを使わせてもらおう」
櫻葉会長の手が何度もマフラーの上を滑っていく。
その表情は幸せそのものだ。
「一花、よかったな」
こそっと耳元で囁くと、一花は嬉しそうに頷いていた。
それからもずっと櫻葉会長はマフラーを巻いたまま一花と話を続けていた。
しばらくして、二階堂さんがお茶を持ってくると、
「二階堂、見てくれ。一花が私のために編んでくれた手編みのマフラーだぞ」
「えっ? こちらを、一花さまが? まぁまぁ、なんと素敵なマフラーでしょう。旦那さま、ようございましたね」
「ああ、息子の手編みのマフラーをもらえる父親などそうはいないぞ。私は本当に幸せ者だ」
あの櫻葉会長がこんなにも感情を露わにして喜びを表現なさるとは……。
現社長の史紀さんがこの姿を見たら驚かれるだろうな。
なんせ、史紀さんは威厳ある櫻葉会長にいつも緊張していたのだから。
今のこの姿を見たら、櫻葉会長への緊張も無くなってしまうかもしれないな。
「櫻葉会長、それではそろそろ私たちはお暇いたします」
「もう帰ってしまうのか? 泊まっていってくれても良いのだぞ」
「申し訳ありません。一花が泊まるにはいろいろな準備が必要なのです。今度はきちんと準備を整えて参りますので、その時は泊まらせていただいてもよろしいですか?」
「ああ、そうだな。そうしてくれ。一花、今度はゆっくり泊りにおいで。さっきも言ったが、ここは一花の実家なのだからな」
「はい。お父さん」
今日一日で一花と櫻葉会長の距離がグッと縮まったようだな。
一花は帰る前にもう一度麻友子さんの仏前に向かい、挨拶をしてからぬいぐるみを手に取った。
「お母さん、また来ますね」
その声は、清々しく爽やかで幸せに満ち溢れていた。
一花はどこにいても変わらずにただ、私を愛してくれる。
初めての実家で櫻葉会長と食事をすることになっても、私の隣に座りたいと言ってくれた。
それがどれだけ私を喜ばせたか、一花にはわからないだろう。
だがそれでもいい。
私は一花が、私がそばにいることを自然だと思ってくれるだけで幸せなのだ。
食事を終え、一花が寛げるようにと広々としたソファーに移り、話をしていると一花に
「あの、征哉さん……僕の、荷物を持ってきてもらえますか?」
と頼まれた。
一花と出かけるときには、万が一のための着替えなどが入った荷物を持ち歩いているが、何か必要なものでもあっただろうか?
荷物を取りながら、
「汗でもかいたか?」
と尋ねると、
「あっ、違うんです。ちょっと中に大事なものを入れていて……」
と笑顔を見せてくれる。
一花は私からバッグを受け取ると、その中から小さな包みを取り出した。
そしてそれを大切そうに腕に抱くと、櫻葉会長に差し出した。
「あの……お父さん、これ……お父さんに、受け取って欲しくて……」
「――っ、これを、私に……?」
「はい。気に入ってもらえるか、わからないんですけど……。
小さく頷きながら、ほんのりと頬を染めて笑いかける。
櫻葉会長は震える手で一花からその包みを受け取った。
一花がラッピングをしたのだろうか。
何度かやり直した形跡のある包装紙とリボンがゆっくりと外されていく。
一花は少し緊張した様子で隣にいた私に抱きついてきた。
一花からの最初の贈り物が私ではなかったことは、ほんの少し私を嫉妬させたが相手は一花の実の父親。
しかも、一花はこうして私を必要としてくれている。
それだけで余計な嫉妬など消してしまおう。
一花にとって私は特別な存在であるが、櫻葉会長も何にも変え難い存在なのだ。
それを理解してやらなければな。
「――っ、一花……これは、もしかして……」
震える櫻葉会長の手にあるのは、落ち着いた雰囲気のあるブルーグレーのマフラー。
ケーブル編みで作られていて、編み物を始めたばかりの一花にとってこれを作り上げるのは大変だったことだろう。
しかも、先日、目にした私のマフラーとは明らかに柄も色も違うから、一花は二つを並行で編んでいたということだ。
一本編むのにも大変だっただろうに、二本もとなるとかなり無理をしたんじゃないか。
今夜はゆっくり休ませてあげないといけないな。
「未知子お母さんに教えてもらって、僕が編んだんです。あまり上手にできなかったんですけど使ってもらえたらなって……」
「一花っ!! ああ、私はこれほど嬉しい贈り物をもらったことがないよ。まさか、息子の手作りをもらえるなんて!! 一花、ありがとう!! 本当に嬉しいよ」
「お父さん……そんなに喜んでもらえたら、僕……嬉しいです」
これまで多くの贈り物をいただいてきた櫻葉会長でも、一花からのこの贈り物に勝るものはないだろう。
手放しで喜ぶのも無理はない。
そんな父親の喜びに安堵の表情を浮かべる一花を見ていると、嫉妬などする気にもならないな。
「一花、櫻葉会長の首にかけてあげたらどうだ?」
「お父さん、良いですか?」
「ああ、一花。頼むよ」
櫻葉会長の嬉しそうな声に、一花はマフラーを手にしてそっと首にかけた。
「ああ、あったかいな。これから冬は毎日これを使わせてもらおう」
櫻葉会長の手が何度もマフラーの上を滑っていく。
その表情は幸せそのものだ。
「一花、よかったな」
こそっと耳元で囁くと、一花は嬉しそうに頷いていた。
それからもずっと櫻葉会長はマフラーを巻いたまま一花と話を続けていた。
しばらくして、二階堂さんがお茶を持ってくると、
「二階堂、見てくれ。一花が私のために編んでくれた手編みのマフラーだぞ」
「えっ? こちらを、一花さまが? まぁまぁ、なんと素敵なマフラーでしょう。旦那さま、ようございましたね」
「ああ、息子の手編みのマフラーをもらえる父親などそうはいないぞ。私は本当に幸せ者だ」
あの櫻葉会長がこんなにも感情を露わにして喜びを表現なさるとは……。
現社長の史紀さんがこの姿を見たら驚かれるだろうな。
なんせ、史紀さんは威厳ある櫻葉会長にいつも緊張していたのだから。
今のこの姿を見たら、櫻葉会長への緊張も無くなってしまうかもしれないな。
「櫻葉会長、それではそろそろ私たちはお暇いたします」
「もう帰ってしまうのか? 泊まっていってくれても良いのだぞ」
「申し訳ありません。一花が泊まるにはいろいろな準備が必要なのです。今度はきちんと準備を整えて参りますので、その時は泊まらせていただいてもよろしいですか?」
「ああ、そうだな。そうしてくれ。一花、今度はゆっくり泊りにおいで。さっきも言ったが、ここは一花の実家なのだからな」
「はい。お父さん」
今日一日で一花と櫻葉会長の距離がグッと縮まったようだな。
一花は帰る前にもう一度麻友子さんの仏前に向かい、挨拶をしてからぬいぐるみを手に取った。
「お母さん、また来ますね」
その声は、清々しく爽やかで幸せに満ち溢れていた。
911
あなたにおすすめの小説
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる