歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています

波木真帆

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父のために

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<side征哉>

一花はどこにいても変わらずにただ、私を愛してくれる。

初めての実家で櫻葉会長と食事をすることになっても、私の隣に座りたいと言ってくれた。

それがどれだけ私を喜ばせたか、一花にはわからないだろう。
だがそれでもいい。

私は一花が、私がそばにいることを自然だと思ってくれるだけで幸せなのだ。

食事を終え、一花が寛げるようにと広々としたソファーに移り、話をしていると一花に

「あの、征哉さん……僕の、荷物を持ってきてもらえますか?」

と頼まれた。

一花と出かけるときには、万が一のための着替えなどが入った荷物を持ち歩いているが、何か必要なものでもあっただろうか?

荷物を取りながら、

「汗でもかいたか?」

と尋ねると、

「あっ、違うんです。ちょっと中に大事なものを入れていて……」

と笑顔を見せてくれる。

一花は私からバッグを受け取ると、その中から小さな包みを取り出した。

そしてそれを大切そうに腕に抱くと、櫻葉会長に差し出した。

「あの……お父さん、これ……お父さんに、受け取って欲しくて……」

「――っ、これを、私に……?」

「はい。気に入ってもらえるか、わからないんですけど……。

小さく頷きながら、ほんのりと頬を染めて笑いかける。

櫻葉会長は震える手で一花からその包みを受け取った。

一花がラッピングをしたのだろうか。
何度かやり直した形跡のある包装紙とリボンがゆっくりと外されていく。

一花は少し緊張した様子で隣にいた私に抱きついてきた。

一花からの最初の贈り物が私ではなかったことは、ほんの少し私を嫉妬させたが相手は一花の実の父親。
しかも、一花はこうして私を必要としてくれている。

それだけで余計な嫉妬など消してしまおう。

一花にとって私は特別な存在であるが、櫻葉会長も何にも変え難い存在なのだ。
それを理解してやらなければな。

「――っ、一花……これは、もしかして……」

震える櫻葉会長の手にあるのは、落ち着いた雰囲気のあるブルーグレーのマフラー。
ケーブル編みで作られていて、編み物を始めたばかりの一花にとってこれを作り上げるのは大変だったことだろう。

しかも、先日、目にした私のマフラーとは明らかに柄も色も違うから、一花は二つを並行で編んでいたということだ。
一本編むのにも大変だっただろうに、二本もとなるとかなり無理をしたんじゃないか。
今夜はゆっくり休ませてあげないといけないな。

「未知子お母さんに教えてもらって、僕が編んだんです。あまり上手にできなかったんですけど使ってもらえたらなって……」

「一花っ!! ああ、私はこれほど嬉しい贈り物をもらったことがないよ。まさか、息子の手作りをもらえるなんて!! 一花、ありがとう!! 本当に嬉しいよ」

「お父さん……そんなに喜んでもらえたら、僕……嬉しいです」

これまで多くの贈り物をいただいてきた櫻葉会長でも、一花からのこの贈り物に勝るものはないだろう。
手放しで喜ぶのも無理はない。

そんな父親の喜びに安堵の表情を浮かべる一花を見ていると、嫉妬などする気にもならないな。

「一花、櫻葉会長の首にかけてあげたらどうだ?」

「お父さん、良いですか?」

「ああ、一花。頼むよ」

櫻葉会長の嬉しそうな声に、一花はマフラーを手にしてそっと首にかけた。

「ああ、あったかいな。これから冬は毎日これを使わせてもらおう」

櫻葉会長の手が何度もマフラーの上を滑っていく。
その表情は幸せそのものだ。

「一花、よかったな」

こそっと耳元で囁くと、一花は嬉しそうに頷いていた。

それからもずっと櫻葉会長はマフラーを巻いたまま一花と話を続けていた。

しばらくして、二階堂さんがお茶を持ってくると、

「二階堂、見てくれ。一花が私のために編んでくれた手編みのマフラーだぞ」

「えっ? こちらを、一花さまが? まぁまぁ、なんと素敵なマフラーでしょう。旦那さま、ようございましたね」

「ああ、息子の手編みのマフラーをもらえる父親などそうはいないぞ。私は本当に幸せ者だ」

あの櫻葉会長がこんなにも感情を露わにして喜びを表現なさるとは……。
現社長の史紀ふみのりさんがこの姿を見たら驚かれるだろうな。
なんせ、史紀さんは威厳ある櫻葉会長にいつも緊張していたのだから。

今のこの姿を見たら、櫻葉会長への緊張も無くなってしまうかもしれないな。

「櫻葉会長、それではそろそろ私たちはお暇いたします」

「もう帰ってしまうのか? 泊まっていってくれても良いのだぞ」

「申し訳ありません。一花が泊まるにはいろいろな準備が必要なのです。今度はきちんと準備を整えて参りますので、その時は泊まらせていただいてもよろしいですか?」

「ああ、そうだな。そうしてくれ。一花、今度はゆっくり泊りにおいで。さっきも言ったが、ここは一花の実家なのだからな」

「はい。お父さん」

今日一日で一花と櫻葉会長の距離がグッと縮まったようだな。

一花は帰る前にもう一度麻友子さんの仏前に向かい、挨拶をしてからぬいぐるみを手に取った。

「お母さん、また来ますね」

その声は、清々しく爽やかで幸せに満ち溢れていた。
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