歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています

波木真帆

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一花の願い

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<side櫻葉一眞>

一花とともに麻友子の墓参りに行く。
麻友子を失ってから、ずっと抱いてきた夢だった。

可愛い我が子の誕生という幸せの絶頂から一転、生まれたばかりの一花を失い、そして最愛の妻も失ったあの日から、私の世界は色を失った。

なぜ私たちが引き裂かれなければいけなかったのか。
どうして私だけがこの世界に留まっているのか。

何度も何度も自問自答を繰り返しつつ、それでもなんとか生きて来られたのは一花の死の連絡が来なかったからだ。

どこかで必ず生きてくれている。
その微かな希望だけが私をこの世界に留める一筋の光だった。

そして、ようやく出会えた。

年齢よりは遥かに小さく、栄養状態も悪かったが生きて出会えた。
お父さんと呼んでくれた。
それだけで、私の世界に再び色が戻った。

あの日から、私は一花との失われた時間を取り戻すように連絡を交わし続けた。

一花からは毎日写真付きでメッセージが届く。

可愛いウサギと一緒だったり、ぬいぐるみと一緒だったり、もちろん可愛らしい写真だが……でも私が可愛いと思うのは、満面の笑顔でこちらを見つめる一花だけ。

許してほしい。
私には一花以外、目に入らないんだ。

十八年ぶりに出会った時、すでに一花が貴船家の養子に入っていたことは、少なからず私の心を落胆させた。
少しの間でもいい。
櫻葉一花として、私の息子としての日々を一緒に過ごしてみたかったんだ。

けれど、命が尽きかけていた一花を救ってくれたのだ。
そして、一花を守るために養子にしてくれたのだから、私が文句を言えた義理ではない。

それに何より、一花が貴船という苗字になったことを喜んでいたのだから。

名前などどうでもいい。
一花が幸せならば……。

そう思えるようになったんだ。

そうして、ようやく一花を連れて、麻友子の元に行くことができた。

君の息子はこんなにも可愛く、素直で、良い子に育ったよ。
そう思うだろう?

――ねぇ、一眞さん。この子は私たちの唯一の花。ずっと笑顔でいてほしいわ。

ああ、本当にその通りになったよ。
ほら、笑顔が可愛いだろう。

――ええ、本当に可愛いわ。一眞さん、ありがとう。一花をここに連れてきてくれて……。

風の隙間からそんな声が聞こえた気がした。

麻友子……君のおかげで私は今、幸せだよ。



「さぁ、そろそろ帰ろうか」

その言葉に、一花が頷くとさっと征哉君がやってきて、一花を抱き上げた。

すると、一花はそっと私に視線を向け、何か言いたげに征哉くんにも視線を向けた。

「一花、どうした?」

「あの……僕……」

「んっ? ゆっくりでいいよ。どうしたのかな?」

何か言いにくそうな表情に少し屈んで一花に尋ねると、

「あの……今日、お父さんのお家に行きたいです……」

と少し頬を染めながら言ってくれた。

「えっ? うちに?」

「はい。もう少しお父さんと麻友子お母さんと一緒にいたいなって……。だめ、ですか?」

「いやいや、きてくれたら嬉しいよ!! 征哉くん、いいか?」

「はい。一花の望みですから」

「――っ!! ありがとう!!」

息子と共に家に帰ることができる。

それがどれほど私を喜ばせたか……。

一花を存分に楽しませてやろう。
ああ、こんな幸せが来るなんて……麻友子。ありがとう。


「ここが……お父さんのお家ですか?」

車の中から我が家を見て、少し驚いたように声を上げる一花。
ああ、なんて可愛いんだろうな。

「ああ、一花の家でもあるよ。一花にとっては実家だからいつ来てくれても良いんだよ」

「僕の実家……嬉しいです」

その言葉だけでそんなにも喜んでくれるなんて……私の方が嬉しいよ。

玄関前に車が止まり、征哉くんが一花を抱きかかえて下ろそうとするが、

「あっ、征哉くん。初めて一花がこの家に入るから、私が抱いて連れて行っても構わないか?」

と声をかけた。

征哉くんは一瞬戸惑いの表情を見せたが、一花の表情を確認して、

「わかりました。どうぞ」

と言ってくれた。

きっと一花も嫌だと思ってくれていないことを確認したのだろう。

「右足に気をつけてください」

「ああ、わかった」

一花が事故に遭った時に負った箇所か。

そっと宝物のように抱きかかえると一花が私の首に腕を回してくれる。
こんなにも近くで一花の顔を見られることが何よりも嬉しい。

腕に乗せてよくわかる。
一花の身体が驚くほど軽いことに。

これでも初めて会った時よりは格段に栄養状態もよくなっているというのに、それでもこの軽さ。

征哉くんに救ってもらうまでの一花の環境がどれほど劣悪だったかがわかる。

涙が出そうになるのを必死に抑えて、一花を抱きかかえて自宅に入った。

「おかえりなさいませ。旦那さま」

「ああ、今日は息子と一緒に帰ってきたよ」

「おおっ! 一花さま……っ。お会いできて嬉しゅうございます」

「あの、お父さん……この方は?」

「うちに長らく仕えてくれている執事の二階堂にかいどうだよ。この家のことならなんでも知っているからわからないことがあったらなんでも聞くといい」

「そうなんですね、二階堂さん。一花です。僕も会えてとっても嬉しいです。これからよろしくお願いします」

「――っ!! 一花さま、勿体無いお言葉を賜りまして光栄でございます。本当にご無事でようございました……」

一花の言葉に二階堂は涙を潤ませる。
ずっと私と共に苦しみを分かち合ってくれていたからな。

二階堂に一花を会わせることができて本当によかった。
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