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大好きな時間
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<side直純>
「さぁさぁ、こっちのケーキも美味しいわよ。きっと直純くんも好きだと思うわ」
「は、はい。いただきます」
誘われるままフォークを入れてみる。
実は僕はケーキを食べるのは初めてだ。
ずっと食べてみたいと思っていたけれど、母さんが出してくれるのはプリンだけ。
出されたものを静かに食べるようにと言われていたから、これが食べたい! なんてわがままを言えなかった。
それはデザートだけじゃなく、食事も同じで、いつも同じようなメニューをずっと出されていたのを黙々と食べるだけだった。
だから、磯山先生のお家に来て毎日、何が食べたい? って聞かれるのが困ってしまう。
だって、料理を知らないんだから。
僕は母さんがアレルギーがあると申告してしまったから、小学校も中学校も給食を食べられず学校ではずっと母さんの作るお弁当を食べていた。
その上、人混みが嫌だからっていう母さんの意見で外食もしたことがなく、母さんが出してくれたものしか食べたことがない。
でも、なんでもいいと答えると、絢斗さんも磯山先生も悲しそうな顔をするんだ。
だから、僕は部屋で料理の本をこっそり読んでいる。
絢斗さんの荷物は違う部屋に運ばれていったけど、元々あの部屋は絢斗さんの部屋だから、本棚に残っていたみたい。
それを見つけて嬉しくて、その本を読んで食べてみたいと思ったものをリクエストするようになったんだ。
親子丼、カレー、ビーフシチューにミートソーススパゲティ。
初めてリクエストした時はドキドキしたけど、喜んで作ってくれて完成したのは本に載っているよりもずっとずっと美味しそうでびっくりしてしまった。
それからあんなに憂鬱だった食事の時間が楽しみで楽しみでたまらないんだ。
絢斗さんたちが勧めてくれるものに間違いはないって思ってる。
だから、苦手だったプリンも口にしてみた。
同じプリンと言っていいのかわからないくらい、すごく美味しくてあっという間に食べ終えてしまったんだ。
そして、次はケーキ。
これはクラスメイトが誕生日やクリスマスに食べていたと話していたからずっと食べてみたかった。
ドキドキしながらフォークを入れると、柔らかな中にスッと入っていく。
うわっ、なにこの感覚。
何もかもが柔らかくて、口の中で溶けてしまう。
おっきな苺もすっごく甘くて美味しい!!!
ケーキってこんなに美味しいものだったんだ!
今日でプリンとケーキ、二つも美味しいものを知ってしまったな。
「あの、ごちそうさまでした。すっごく美味しかったです」
「ふふっ。良かったわ」
未知子さんの優しい笑顔にホッとする。
やっぱり絢斗さんのお友達だからすっごく優しいんだな。
デザートも食べ終わり、そろそろ部屋に行ったほうがいいのかなとドキドキしていると、
「直純くんは、毎日何をして過ごしているのかしら?」
と尋ねられた。
「えっ、あっ。はい。その……今は、学校を休んでるので、家で勉強してます」
「そう。偉いのね。でも一人で勉強はつまらないんじゃないかしら?」
「そんなことはないです! 僕、ずっと一人で勉強してきましたし、一人のほうが集中できるので楽しいです」
「そうなの。直純くんはすごいわ。それで、毎日どこまでしようと計画をしてやってるの?」
思いがけない問いかけに一瞬言葉に詰まってしまう。
計画なんてしたことない。
与えられた時間、めいっぱい勉強するだけだから。
「えっ……いえ。それは……自分ができるところまで、です。だから、計画はしてないです……」
「今までどれくらい長い時間勉強していたことがあるの?」
「えっと……学校が休みの日は、ご飯の時間以外はずっと勉強してたので、17、8時間くらいです」
「……そう。直純くんは勉強が大好きなのね」
大好き……そんなこと考えたことなかったな。
ただ、部屋にいる間勉強するようにって言われていたからやってただけ。
解けない問題が解けるようになるのは嬉しかったし。
嫌いではなかったってことは、好き、だったのかな。
でもこのお家に来てから、絢斗さんがリースやアロマキャンドル作りを教えてくれるから、勉強時間は減ってる。
本当はもっと勉強しないといけないんだろうけど、他のことが楽しくて仕方がないんだ。
それに、磯山先生も僕に料理を手伝わせてくれたり、コーヒーの淹れ方を教えてくれたり、勉強以外の知識をいっぱい教えてくれる。
「でも……このお家に来て絢斗さんも磯山先生もいろんなことを教えてくれるので、今は勉強よりお二人と過ごす時間が好きです」
「ふふっ。そうなのね。それなら、今はその時間を大切にしたほうがいいわ」
「えっ…いい、んですか?」
「ええ。楽しい時間を過ごすのは成長するのにすごく大切なことなの。直純くんはまだ子どもだから、そうやって人と触れ合って経験するのも勉強になるの。机に向かってする勉強は一時間でいいわ」
「たった、一時間ですか?」
「そう。そのほうが集中して覚えられるの。それ以上になると頭も身体も辛くなってしまうのよ。ずっと勉強していた時、頭痛とかしなかった?」
「そういえば、してました。でも集中力が足りないからだって言われてたから……」
「頭痛はね、これ以上は勉強しても意味がないよって教えてくれてるのよ。直純くんはここに来て頭痛が起きたことはある?」
「ないです。家では毎日痛かったけど、ここに来てからはそう言えば一度も痛くなったことがないです」
「じゃあ、今の生活が直純くんの身体には合ってるってことなのよ。身体からのサインを見逃したらダメよ」
未知子さんの言葉の一つ一つが心に突き刺さる。
僕はずっと無理をしていたってこと?
勉強しない生活にちょっと罪悪感を感じていたけど、これが正常だったってことなのかな?
「あのね、未知子さんは小児科の先生をしていたんだよ。だから、無理してる子はすぐに気づいちゃうの」
「えっ……お医者、さん?」
「ふふっ。もう遠い昔のことだけどね」
本当なんだ、すごい。
未知子さんがお医者さんだなんてびっくりしちゃったな。
「さぁさぁ、こっちのケーキも美味しいわよ。きっと直純くんも好きだと思うわ」
「は、はい。いただきます」
誘われるままフォークを入れてみる。
実は僕はケーキを食べるのは初めてだ。
ずっと食べてみたいと思っていたけれど、母さんが出してくれるのはプリンだけ。
出されたものを静かに食べるようにと言われていたから、これが食べたい! なんてわがままを言えなかった。
それはデザートだけじゃなく、食事も同じで、いつも同じようなメニューをずっと出されていたのを黙々と食べるだけだった。
だから、磯山先生のお家に来て毎日、何が食べたい? って聞かれるのが困ってしまう。
だって、料理を知らないんだから。
僕は母さんがアレルギーがあると申告してしまったから、小学校も中学校も給食を食べられず学校ではずっと母さんの作るお弁当を食べていた。
その上、人混みが嫌だからっていう母さんの意見で外食もしたことがなく、母さんが出してくれたものしか食べたことがない。
でも、なんでもいいと答えると、絢斗さんも磯山先生も悲しそうな顔をするんだ。
だから、僕は部屋で料理の本をこっそり読んでいる。
絢斗さんの荷物は違う部屋に運ばれていったけど、元々あの部屋は絢斗さんの部屋だから、本棚に残っていたみたい。
それを見つけて嬉しくて、その本を読んで食べてみたいと思ったものをリクエストするようになったんだ。
親子丼、カレー、ビーフシチューにミートソーススパゲティ。
初めてリクエストした時はドキドキしたけど、喜んで作ってくれて完成したのは本に載っているよりもずっとずっと美味しそうでびっくりしてしまった。
それからあんなに憂鬱だった食事の時間が楽しみで楽しみでたまらないんだ。
絢斗さんたちが勧めてくれるものに間違いはないって思ってる。
だから、苦手だったプリンも口にしてみた。
同じプリンと言っていいのかわからないくらい、すごく美味しくてあっという間に食べ終えてしまったんだ。
そして、次はケーキ。
これはクラスメイトが誕生日やクリスマスに食べていたと話していたからずっと食べてみたかった。
ドキドキしながらフォークを入れると、柔らかな中にスッと入っていく。
うわっ、なにこの感覚。
何もかもが柔らかくて、口の中で溶けてしまう。
おっきな苺もすっごく甘くて美味しい!!!
ケーキってこんなに美味しいものだったんだ!
今日でプリンとケーキ、二つも美味しいものを知ってしまったな。
「あの、ごちそうさまでした。すっごく美味しかったです」
「ふふっ。良かったわ」
未知子さんの優しい笑顔にホッとする。
やっぱり絢斗さんのお友達だからすっごく優しいんだな。
デザートも食べ終わり、そろそろ部屋に行ったほうがいいのかなとドキドキしていると、
「直純くんは、毎日何をして過ごしているのかしら?」
と尋ねられた。
「えっ、あっ。はい。その……今は、学校を休んでるので、家で勉強してます」
「そう。偉いのね。でも一人で勉強はつまらないんじゃないかしら?」
「そんなことはないです! 僕、ずっと一人で勉強してきましたし、一人のほうが集中できるので楽しいです」
「そうなの。直純くんはすごいわ。それで、毎日どこまでしようと計画をしてやってるの?」
思いがけない問いかけに一瞬言葉に詰まってしまう。
計画なんてしたことない。
与えられた時間、めいっぱい勉強するだけだから。
「えっ……いえ。それは……自分ができるところまで、です。だから、計画はしてないです……」
「今までどれくらい長い時間勉強していたことがあるの?」
「えっと……学校が休みの日は、ご飯の時間以外はずっと勉強してたので、17、8時間くらいです」
「……そう。直純くんは勉強が大好きなのね」
大好き……そんなこと考えたことなかったな。
ただ、部屋にいる間勉強するようにって言われていたからやってただけ。
解けない問題が解けるようになるのは嬉しかったし。
嫌いではなかったってことは、好き、だったのかな。
でもこのお家に来てから、絢斗さんがリースやアロマキャンドル作りを教えてくれるから、勉強時間は減ってる。
本当はもっと勉強しないといけないんだろうけど、他のことが楽しくて仕方がないんだ。
それに、磯山先生も僕に料理を手伝わせてくれたり、コーヒーの淹れ方を教えてくれたり、勉強以外の知識をいっぱい教えてくれる。
「でも……このお家に来て絢斗さんも磯山先生もいろんなことを教えてくれるので、今は勉強よりお二人と過ごす時間が好きです」
「ふふっ。そうなのね。それなら、今はその時間を大切にしたほうがいいわ」
「えっ…いい、んですか?」
「ええ。楽しい時間を過ごすのは成長するのにすごく大切なことなの。直純くんはまだ子どもだから、そうやって人と触れ合って経験するのも勉強になるの。机に向かってする勉強は一時間でいいわ」
「たった、一時間ですか?」
「そう。そのほうが集中して覚えられるの。それ以上になると頭も身体も辛くなってしまうのよ。ずっと勉強していた時、頭痛とかしなかった?」
「そういえば、してました。でも集中力が足りないからだって言われてたから……」
「頭痛はね、これ以上は勉強しても意味がないよって教えてくれてるのよ。直純くんはここに来て頭痛が起きたことはある?」
「ないです。家では毎日痛かったけど、ここに来てからはそう言えば一度も痛くなったことがないです」
「じゃあ、今の生活が直純くんの身体には合ってるってことなのよ。身体からのサインを見逃したらダメよ」
未知子さんの言葉の一つ一つが心に突き刺さる。
僕はずっと無理をしていたってこと?
勉強しない生活にちょっと罪悪感を感じていたけど、これが正常だったってことなのかな?
「あのね、未知子さんは小児科の先生をしていたんだよ。だから、無理してる子はすぐに気づいちゃうの」
「えっ……お医者、さん?」
「ふふっ。もう遠い昔のことだけどね」
本当なんだ、すごい。
未知子さんがお医者さんだなんてびっくりしちゃったな。
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