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最良の選択
しおりを挟む<side未知子>
不安そうに絢斗くんの影に隠れるように立つ直純くんを見て、胸が痛かった。
知らない人に会うのだから不安なのは当然だろう。
しかも直純くんにしてみれば、縁もゆかりもない人間に出会うのは緊張と不安しかないに決まってる。
けれど直純くんの表情にはそれ以上のものが見えていた。
自分を否定されないか、受け入れてもらえるだろうかと不安に押しつぶされそうな顔をしていた。
彼をそこまで追い詰めていたものはなんだろう。
それを解決できなければ、根本的な解消にはならないのかもしれない。
挨拶もそこそこに磯山さんが彼をキッチンに連れ出す。
私はその間、絢斗くんとリビングで話を始めた。
「第一印象はどうでした?」
「うーん、誰かを出迎えることに慣れてない気がしたわね。不安そうでつい抱きしめてしまいそうになったわ」
「ふふっ。未知子さんが抱きしめてくださったら、直純くんも安心するかも。でも、出迎えることに慣れてないというのは本当かもしれません。今日、未知子さんが来られると話をしたら、邪魔しないように部屋に行ってますって言ってたんです」
「それって……」
「ええ、きっといつもそのようにさせられていたんだと思います。だから、一人で過ごすことに抵抗なくて声をかけないとずっと部屋から出てこないんです。きっと私たちの邪魔をしちゃいけないと思っているんでしょうね。だから、最近はできるだけ部屋に行かせないでリビングで一緒に過ごしているんですよ。最初は緊張していたみたいで落ち着かなそうだったんですけど、最近は自分からソファーに座って同じ空間で過ごすことを楽しんでくれているみたいです」
「そう。素晴らしいわ。やっぱり絢斗くんと磯山さんね。安心して直純くんを任せられるわ」
施設に入れようかと話になってすぐに磯山さんが声を上げてくれたと言っていたけれど、本当にあれがいい選択だったようね。
父親とまでも引き離されて可哀想だと思ったけれど、全ての環境を一気に変えることも悪いことじゃない。
直純くんにとってはこれが最良の選択だったのかもね。
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