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好きな人
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<side一花>
「一花くん、これお土産だよ」
「わぁー、ありがとうございます!」
昼食から戻ってきた尚孝さんが渡してくれた小さな箱に入っていたのは小瓶に入った美味しそうなプリン。
「食後のデザートにも同じものがついていたんだけどね、すっごく美味しかったから一花くんにも食べてもらいたくて……。ねぇ、唯人さん」
「ええ、ここのプリン。絶品でしたよ」
「尚孝さんと志摩さんがそういうならすごく楽しみです。征哉さん、これ食べてもいいですか?」
「ああ、いいよ。志摩くんも谷垣くんもありがとう」
征哉さんの言葉に笑顔を見せると、二人は運転席の方に戻って行った。
車がゆっくりと動き出すけれど、全然揺れも感じないから安心してプリンを食べることができる。
少し硬めのプリンにピンク色のクリームと苺が乗っているプリン。
スプーンを入れちゃうのが勿体無い気がするけど、食べたいもんね。
「んんっ!! 美味しいっ!!」
「ふふっ。よかったな」
「これ、プリンも苺の味がしますよ。征哉さんも食べてみてください」
あまりの感動にスプーンに乗せてあーんと差し出すと、征哉さんは嬉しそうに口を開けて、パクッと食べてくれた。
「どうですか?」
「ああ、美味しいな。一花が食べさせてくれたから余計に美味しく感じるよ」
「ふふっ。征哉さんったら……」
「本当だよ。ほら、一花にも食べさせてあげよう」
そう言って僕の手からスプーンを取って僕の口にプリンを運んでくれる。
「んっ、美味しいです」
「そうだろう? あっ、ちょっと待って」
「えっ?」
何かあったのかと驚いている僕に、さっと征哉さんの顔が近づいてきたかと思ったら、唇に征哉さんの温もりを感じた。
「あの……」
「ふふっ。クリームついていたよ。一花の口は小さいからな」
そっか。
唇の端についたクリームをとってくれたんだ。
優しいな。
でも、ちょっとドキドキする。
それからしばらくして車が止まったのは、大きな建物の駐車場。
「着いたな。ここが今日宿泊する旅館だよ」
「わぁ、こんなすごいところにお泊まりするんですか?」
「ふふっ。お泊まりか、可愛いな。ほら、おいで。外に出よう」
さっと僕を抱き上げてくれて、車の外に出る。
考えたらお家を出てから外に出るのは初めてだ。
周りは山に囲まれていて、すごく空気が美味しい気がする。
「会長、一花さん。お疲れさまでした」
「ああ、運転ありがとう。私たちはこれからそのまま出かけてくるから、志摩くんたちはチェックインして休んでいてくれ。夕食だけは一緒にとろうか。あちらを出る時に連絡を入れるよ」
「承知しました。荷物も運び入れておきますので、ご安心ください。ああ、すぐに車をご用意しますね」
そういうと、志摩さんはキャンピングカーの側面を開けて、中に入っていた車を取り出してくれた。
「わぁ、かっこいい車!」
「ふふっ。気に入ったなら嬉しいよ。じゃあ、一花行こうか」
そういうと、征哉さんは運転席の隣の扉を開けて、そこに僕を座らせてくれた。
カチッとシートベルトも取り付けて、準備万端だ。
志摩さんと尚孝さんに見送られながら、征哉さんは颯爽と車に乗り込み発進させた。
「一花、座り心地は大丈夫か?」
「はい。とってもいい感じです。僕、征哉さんが運転しているところ、初めてみました」
「ああ、そうだな。前に動物園に出かけた時も運転は志摩くんだったからな」
「尚孝さんが言ってたんです、運転中の志摩さんがすっごくかっこよかったって……」
「そうなのか? それは志摩くんに教えてやったら喜ぶだろうな」
「僕も思います、征哉さん……すっごくかっこいいです。あっ、でも運転中だけじゃなくて征哉さんはずっとかっこいいですよ」
「――っ、それは嬉しいな。一花もずっと可愛いよ。初めて会った時からずっと、そう思ってるよ」
「征哉さん……」
優しくて甘い声に、僕の心のドキドキが止まらなかった。
<side直純>
「あれ? 磯山先生はお出かけですか?」
今日はお休みだと聞いていたけれど、起きてリビングに行くと磯山先生の姿がなかった。
「ああ、今日は私のお友だちが来てくれることになったから、お迎えに行ってくれてるんだよ」
「絢斗さんの、お友だちですか?」
「そう。久しぶりに来てくれるから、楽しみなんだ」
「そうなんですね。じゃあ、僕は邪魔しないように部屋に行ってますね」
母さんが時々友人を家に呼ぶことがあったけれど、その時は部屋から出てはいけないという決まりがあった。
大人の話を聞いちゃいけないってずっと言われていたし、母さんの友人が帰ると、ちゃんと勉強していたかチェックされるからいつも以上に必死になって勉強していたんだよね。
ここでも勉強道具をたくさん揃えてもらえたからやることはいっぱいある。
というか、勉強できる環境を整えてもらえたことに感謝しなくちゃ!
そう思っていたのだけど、
「今日は、直純くんも一緒にいて欲しいんだ」
と言われて驚いてしまう。
「えっ? 僕も? どうしてですか?」
「素直で優しい子を預かったって話をしたら、ぜひ直純くんに会いたいと言っててね。だから、自慢したいんだ」
「そんな……っ、僕なんて……」
「ううん、僕なんてって言っちゃだめ。私は直純くんが好きだよ。私の好きな人を貶すのは、いくら直純くんでもダメだからね」
「絢斗さん……」
「ふふっ。卓さんが美味しいケーキを買ってくるって言ってたから、みんなで一緒に食べよう」
「はい」
僕を好きだと言ってくれるなんて……。
父さんにも、母さんにも言われたことないかもしれないな。
愛情を感じていたと思っていたけど、そういえば言葉にされたことはなかった気がする。
僕は好かれていなかったのかな……。
絢斗さんの優しい言葉が嬉しいけど、両親の気持ちに気付かされてなんだか少し悲しい。
「一花くん、これお土産だよ」
「わぁー、ありがとうございます!」
昼食から戻ってきた尚孝さんが渡してくれた小さな箱に入っていたのは小瓶に入った美味しそうなプリン。
「食後のデザートにも同じものがついていたんだけどね、すっごく美味しかったから一花くんにも食べてもらいたくて……。ねぇ、唯人さん」
「ええ、ここのプリン。絶品でしたよ」
「尚孝さんと志摩さんがそういうならすごく楽しみです。征哉さん、これ食べてもいいですか?」
「ああ、いいよ。志摩くんも谷垣くんもありがとう」
征哉さんの言葉に笑顔を見せると、二人は運転席の方に戻って行った。
車がゆっくりと動き出すけれど、全然揺れも感じないから安心してプリンを食べることができる。
少し硬めのプリンにピンク色のクリームと苺が乗っているプリン。
スプーンを入れちゃうのが勿体無い気がするけど、食べたいもんね。
「んんっ!! 美味しいっ!!」
「ふふっ。よかったな」
「これ、プリンも苺の味がしますよ。征哉さんも食べてみてください」
あまりの感動にスプーンに乗せてあーんと差し出すと、征哉さんは嬉しそうに口を開けて、パクッと食べてくれた。
「どうですか?」
「ああ、美味しいな。一花が食べさせてくれたから余計に美味しく感じるよ」
「ふふっ。征哉さんったら……」
「本当だよ。ほら、一花にも食べさせてあげよう」
そう言って僕の手からスプーンを取って僕の口にプリンを運んでくれる。
「んっ、美味しいです」
「そうだろう? あっ、ちょっと待って」
「えっ?」
何かあったのかと驚いている僕に、さっと征哉さんの顔が近づいてきたかと思ったら、唇に征哉さんの温もりを感じた。
「あの……」
「ふふっ。クリームついていたよ。一花の口は小さいからな」
そっか。
唇の端についたクリームをとってくれたんだ。
優しいな。
でも、ちょっとドキドキする。
それからしばらくして車が止まったのは、大きな建物の駐車場。
「着いたな。ここが今日宿泊する旅館だよ」
「わぁ、こんなすごいところにお泊まりするんですか?」
「ふふっ。お泊まりか、可愛いな。ほら、おいで。外に出よう」
さっと僕を抱き上げてくれて、車の外に出る。
考えたらお家を出てから外に出るのは初めてだ。
周りは山に囲まれていて、すごく空気が美味しい気がする。
「会長、一花さん。お疲れさまでした」
「ああ、運転ありがとう。私たちはこれからそのまま出かけてくるから、志摩くんたちはチェックインして休んでいてくれ。夕食だけは一緒にとろうか。あちらを出る時に連絡を入れるよ」
「承知しました。荷物も運び入れておきますので、ご安心ください。ああ、すぐに車をご用意しますね」
そういうと、志摩さんはキャンピングカーの側面を開けて、中に入っていた車を取り出してくれた。
「わぁ、かっこいい車!」
「ふふっ。気に入ったなら嬉しいよ。じゃあ、一花行こうか」
そういうと、征哉さんは運転席の隣の扉を開けて、そこに僕を座らせてくれた。
カチッとシートベルトも取り付けて、準備万端だ。
志摩さんと尚孝さんに見送られながら、征哉さんは颯爽と車に乗り込み発進させた。
「一花、座り心地は大丈夫か?」
「はい。とってもいい感じです。僕、征哉さんが運転しているところ、初めてみました」
「ああ、そうだな。前に動物園に出かけた時も運転は志摩くんだったからな」
「尚孝さんが言ってたんです、運転中の志摩さんがすっごくかっこよかったって……」
「そうなのか? それは志摩くんに教えてやったら喜ぶだろうな」
「僕も思います、征哉さん……すっごくかっこいいです。あっ、でも運転中だけじゃなくて征哉さんはずっとかっこいいですよ」
「――っ、それは嬉しいな。一花もずっと可愛いよ。初めて会った時からずっと、そう思ってるよ」
「征哉さん……」
優しくて甘い声に、僕の心のドキドキが止まらなかった。
<side直純>
「あれ? 磯山先生はお出かけですか?」
今日はお休みだと聞いていたけれど、起きてリビングに行くと磯山先生の姿がなかった。
「ああ、今日は私のお友だちが来てくれることになったから、お迎えに行ってくれてるんだよ」
「絢斗さんの、お友だちですか?」
「そう。久しぶりに来てくれるから、楽しみなんだ」
「そうなんですね。じゃあ、僕は邪魔しないように部屋に行ってますね」
母さんが時々友人を家に呼ぶことがあったけれど、その時は部屋から出てはいけないという決まりがあった。
大人の話を聞いちゃいけないってずっと言われていたし、母さんの友人が帰ると、ちゃんと勉強していたかチェックされるからいつも以上に必死になって勉強していたんだよね。
ここでも勉強道具をたくさん揃えてもらえたからやることはいっぱいある。
というか、勉強できる環境を整えてもらえたことに感謝しなくちゃ!
そう思っていたのだけど、
「今日は、直純くんも一緒にいて欲しいんだ」
と言われて驚いてしまう。
「えっ? 僕も? どうしてですか?」
「素直で優しい子を預かったって話をしたら、ぜひ直純くんに会いたいと言っててね。だから、自慢したいんだ」
「そんな……っ、僕なんて……」
「ううん、僕なんてって言っちゃだめ。私は直純くんが好きだよ。私の好きな人を貶すのは、いくら直純くんでもダメだからね」
「絢斗さん……」
「ふふっ。卓さんが美味しいケーキを買ってくるって言ってたから、みんなで一緒に食べよう」
「はい」
僕を好きだと言ってくれるなんて……。
父さんにも、母さんにも言われたことないかもしれないな。
愛情を感じていたと思っていたけど、そういえば言葉にされたことはなかった気がする。
僕は好かれていなかったのかな……。
絢斗さんの優しい言葉が嬉しいけど、両親の気持ちに気付かされてなんだか少し悲しい。
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