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償いがしたい!
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「改めて聞くが君は夫婦として、迫田美代に課せられる慰謝料をこれから先一緒に払って行くつもりなのか?」
「は、はい。それが私たち家族にできる唯一の償いだと思っています」
「君の心意気は素晴らしいと思うが、15年もの間、重大な犯罪を犯したことを隠し続け、あわよくば時効まで逃げ続けようとしたどころか、犯罪が露呈した時に息子を放置して自分だけ逃げようとする人間を妻として、そして母としてこれから先、心から信用して家族として生活することができるのか?」
「えっ……」
「もし、家族で頑張って支払っていこうと決めた償いの途中で迫田美代が逃げ、数億円の慰謝料が君と息子の肩にのしかかっても、君はそれが正しい償いだと思うか?」
美代が……私たちを捨てて、逃げる……?
そんなこと考えてなかった。
美代が自分の罪を反省して出てくるまで美代に代わって償いを続け、美代が悔い改めて出所してきたらそれから先は一緒に償いをしていこうと思っていた。
それが美代を選んだ私の責任であり、加害者家族としてできる唯一の方法だと思っていたんだ。
だが、美代は直純を放置して逃げようとした?
信じられない。
美代は直純を可愛がっていたはずなのに。
「な、直純……本当なのか? 美代が……母さんが、直純を置いて逃げようとしたというのは……」
お願いだ、そんなことないと言ってくれ!!
美代はそんなことしなかったと、言ってくれ!
けれど、私の願いも虚しく、
「本当だよ……母さん、二度も僕を置いて逃げようとしたんだ。一度目はこの事務所の前で弁護士さんたちと鉢合わせした時。そして、二度目は……母さんが、共犯者だって事実がわかった時。僕をこの場に置き去りにして自分だけ逃げようとしたんだ」
と悲しげな表情を見せた。
「そんな……」
がっくりと項垂れる私に直純がなおも続ける。
「父さん……僕は、母さんとまた会うことになってももう今までのようにそばにいられる自信はないよ。だって、家族に隠し事はなしだってずっと言ってた母さん自身が僕たちに大きな隠し事をしていたんだよ。それに、大声で叫びながら僕を置き去りにした時の、あの異様な母さんの姿が忘れられないんだ……」
「直純……嫌な思いをさせてごめん。ごめんな」
私が手を伸ばすと、直純は私の元に駆け寄ってきて抱きついてきてくれた。
「父さん……っ」
また泣かせてしまったな。
私のせいで嫌な思いをさせてしまった。
「父さん……僕は母さんのせいで苦しんだ櫻葉会長さんと一花さんに償いがしたいと思ってる。でも……母さんにはもう二度と会いたくない。僕……母さんが、怖いんだ。だから、母さんとは別で償いがしたい。父さんが僕だけを守ろうとしてくれるのは嬉しいけど、母さんと繋がりを持ったままの父さんじゃ嫌だ」
美代が、怖い……。
直純にそう思わせてしまうほど、その時の美代は尋常ではなかったのだろう。
「それが……直純の本心なんだな」
「うん。だから、僕……中学を卒業したら働くよ」
「な、何言って――」
「大丈夫。中学は義務教育だから、これからずっと欠席したって卒業証書はもらえる。働くのは4月からしか働けないけど、それまでは通信教育ですぐに使えそうな資格を取るよ。そうしたら少しでもいいところで働けるかもしれないでしょう? そして、そのお金を毎月、一花さんと櫻葉会長さんに受け取ってもらう」
「直純……っ、お前まで、そんなこと……責任は父さんが……」
「ううん、僕が何不自由なく過ごしてきた間、一花さんは苦しい思いをしてたんだ。それに櫻葉会長さんだって、奥さんと一花さんを一気に奪われて苦しんだんだ。それくらいじゃ、全然足りないよ。僕みたいな子どもにはこんなことくらいしかできないのが辛いくらいなんだ」
よほど悔しいのだろう。
真っ赤になるほど拳を握りしめて……。
それくらい、美代のしでかした罪の重さを感じているんだ。
「お前が働く必要はない。美代をお前の母親にしてしまったのは私の責任なんだ。だから、お前がしたいと言ってくれた分まで私が償いをするよ」
直純にそう言って、私は櫻葉会長に視線を向けた。
「櫻葉会長、私と息子は美代と別れて改めて償いを致します。それが息子の希望であり、私の希望でもあります。だから、お願いです。どんな辛い仕事でも構いません。私に仕事を与えてはいただけないでしょうか? どうか、お願いします!」
「迫田美代とは縁を切る、ということか?」
「はい。息子を見捨てて自分だけ逃げようとした時点で、美代が家族を捨てたんです。もう私の家族は直純だけです」
「そうか……わかった」
そういうと、櫻葉会長は貴船会長と顔を見合わせて頷き、私に視線を向けた。
「近々、中東で新規事業を始める予定だ。まだ海の物とも山の物ともつかない計画段階だが、先に現地に行って調査をする人を探していた。これが当たれば我が櫻葉グループにとってかなりの利益となるだろう。期間は最低でも5年。迫田くん、君が行ってくれるか?」
「はい! もちろんです! 精一杯努めさせていただきます!」
中東という場所にも仕事内容にも不安はある。
だが、仕事を与えられ償いができると思えば頑張れるというものだ。
「じゃあ、父さん! 僕も一緒に――」
「いや、直純くん。君は日本に残ってもらおう」
「えっ?」
嬉しそうな直純の言葉を制した櫻葉会長の言葉に、直純は驚きの声をあげた。
「は、はい。それが私たち家族にできる唯一の償いだと思っています」
「君の心意気は素晴らしいと思うが、15年もの間、重大な犯罪を犯したことを隠し続け、あわよくば時効まで逃げ続けようとしたどころか、犯罪が露呈した時に息子を放置して自分だけ逃げようとする人間を妻として、そして母としてこれから先、心から信用して家族として生活することができるのか?」
「えっ……」
「もし、家族で頑張って支払っていこうと決めた償いの途中で迫田美代が逃げ、数億円の慰謝料が君と息子の肩にのしかかっても、君はそれが正しい償いだと思うか?」
美代が……私たちを捨てて、逃げる……?
そんなこと考えてなかった。
美代が自分の罪を反省して出てくるまで美代に代わって償いを続け、美代が悔い改めて出所してきたらそれから先は一緒に償いをしていこうと思っていた。
それが美代を選んだ私の責任であり、加害者家族としてできる唯一の方法だと思っていたんだ。
だが、美代は直純を放置して逃げようとした?
信じられない。
美代は直純を可愛がっていたはずなのに。
「な、直純……本当なのか? 美代が……母さんが、直純を置いて逃げようとしたというのは……」
お願いだ、そんなことないと言ってくれ!!
美代はそんなことしなかったと、言ってくれ!
けれど、私の願いも虚しく、
「本当だよ……母さん、二度も僕を置いて逃げようとしたんだ。一度目はこの事務所の前で弁護士さんたちと鉢合わせした時。そして、二度目は……母さんが、共犯者だって事実がわかった時。僕をこの場に置き去りにして自分だけ逃げようとしたんだ」
と悲しげな表情を見せた。
「そんな……」
がっくりと項垂れる私に直純がなおも続ける。
「父さん……僕は、母さんとまた会うことになってももう今までのようにそばにいられる自信はないよ。だって、家族に隠し事はなしだってずっと言ってた母さん自身が僕たちに大きな隠し事をしていたんだよ。それに、大声で叫びながら僕を置き去りにした時の、あの異様な母さんの姿が忘れられないんだ……」
「直純……嫌な思いをさせてごめん。ごめんな」
私が手を伸ばすと、直純は私の元に駆け寄ってきて抱きついてきてくれた。
「父さん……っ」
また泣かせてしまったな。
私のせいで嫌な思いをさせてしまった。
「父さん……僕は母さんのせいで苦しんだ櫻葉会長さんと一花さんに償いがしたいと思ってる。でも……母さんにはもう二度と会いたくない。僕……母さんが、怖いんだ。だから、母さんとは別で償いがしたい。父さんが僕だけを守ろうとしてくれるのは嬉しいけど、母さんと繋がりを持ったままの父さんじゃ嫌だ」
美代が、怖い……。
直純にそう思わせてしまうほど、その時の美代は尋常ではなかったのだろう。
「それが……直純の本心なんだな」
「うん。だから、僕……中学を卒業したら働くよ」
「な、何言って――」
「大丈夫。中学は義務教育だから、これからずっと欠席したって卒業証書はもらえる。働くのは4月からしか働けないけど、それまでは通信教育ですぐに使えそうな資格を取るよ。そうしたら少しでもいいところで働けるかもしれないでしょう? そして、そのお金を毎月、一花さんと櫻葉会長さんに受け取ってもらう」
「直純……っ、お前まで、そんなこと……責任は父さんが……」
「ううん、僕が何不自由なく過ごしてきた間、一花さんは苦しい思いをしてたんだ。それに櫻葉会長さんだって、奥さんと一花さんを一気に奪われて苦しんだんだ。それくらいじゃ、全然足りないよ。僕みたいな子どもにはこんなことくらいしかできないのが辛いくらいなんだ」
よほど悔しいのだろう。
真っ赤になるほど拳を握りしめて……。
それくらい、美代のしでかした罪の重さを感じているんだ。
「お前が働く必要はない。美代をお前の母親にしてしまったのは私の責任なんだ。だから、お前がしたいと言ってくれた分まで私が償いをするよ」
直純にそう言って、私は櫻葉会長に視線を向けた。
「櫻葉会長、私と息子は美代と別れて改めて償いを致します。それが息子の希望であり、私の希望でもあります。だから、お願いです。どんな辛い仕事でも構いません。私に仕事を与えてはいただけないでしょうか? どうか、お願いします!」
「迫田美代とは縁を切る、ということか?」
「はい。息子を見捨てて自分だけ逃げようとした時点で、美代が家族を捨てたんです。もう私の家族は直純だけです」
「そうか……わかった」
そういうと、櫻葉会長は貴船会長と顔を見合わせて頷き、私に視線を向けた。
「近々、中東で新規事業を始める予定だ。まだ海の物とも山の物ともつかない計画段階だが、先に現地に行って調査をする人を探していた。これが当たれば我が櫻葉グループにとってかなりの利益となるだろう。期間は最低でも5年。迫田くん、君が行ってくれるか?」
「はい! もちろんです! 精一杯努めさせていただきます!」
中東という場所にも仕事内容にも不安はある。
だが、仕事を与えられ償いができると思えば頑張れるというものだ。
「じゃあ、父さん! 僕も一緒に――」
「いや、直純くん。君は日本に残ってもらおう」
「えっ?」
嬉しそうな直純の言葉を制した櫻葉会長の言葉に、直純は驚きの声をあげた。
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