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私は何も知らない!
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「な、何よ! 嘘だと思ってるの?!」
弁護士たちの視線にムカついて思わず声をあげてしまったが、弁護士よりも先に隣から私を咎める声が飛んできた。
「母さん……っ、本当のことを言ってよ」
「――っ、直純! 母さんは嘘なんか――」
「撮れるわけないって言ってる時点でおかしいじゃないか!」
「えっ……」
何? どういうこと?
「直純くんは優秀ですね。あなたが発したことの意味をちゃんと理解しているようだ。この中であなただけがわかっていないようですね」
「どういう意味よ!」
「だって、カメラがなかったから撮れるわけがない……ということは、そういう場面があったと白状しているものでしょう?」
「――っ!! そ、それは……言葉のあやよ!」
「言っておきますが、これが偽造でも合成でもありません。正真正銘、本物の写真ですよ」
「な――っ、そんなわけないっ!! 大体どこからこんな写真が出てきたっていうの?」
「これですよ」
そう言って、弁護士が出してきたのは小さな服。
「これ……」
「櫻葉さんが沐浴後に自分の息子に着せた服です」
確かに覚えがある。
生まれたばかりの子どもにこんな高価な服を着せて……それが余計に私の嫉妬心を増幅させたんだ。
「これがなんだっていうの? ただのベビー服でしょう?」
「このベビー服の足元にある櫻葉家の小さな紋章が見えますか? これがカメラだったんですよ」
「えっ……? うそ、でしょう? こんな小さなものがカメラなんて……!」
「櫻葉さんが、息子さんの見ている世界が見たいと仰って、当時の最先端の技術を使って小指の爪ほどの小さなカメラを開発させてベビー服に取り付けてたんです。沐浴の後に家族の団欒を過ごす予定だったようですからね。このカメラは足の動きに反応して無音でシャッターが切られるタイプのものでした。だからこのカメラの存在に気づかれることはなかったのですが、この服が処分されずに実行犯の住んでいた場所から発見されたのは奇跡でしたよ。と言っても年月が経ち過ぎてこのカメラから画像を取り出して復元するのはかなり大変な作業でこの服が見つかってから、かなりの日数を要しましたけどね。そうしてようやく現像にまで漕ぎ着けて出てきたのはたったの3枚。そのうちの一枚がこれです。だから合成でも偽造でもない本物ですよ」
「そんな……っ」
まさか、そんなのが残っていたなんて……。
でも、一緒にいたからって私が共犯だなんて決まったわけじゃない。
「残された写真の中であなたが映っていたのはこの一枚。ですが、実行犯が櫻葉家の子どもを抱きかかえた隣にあなたの姿が映っているのは紛れもない事実。まだ実行犯を知らないと言いますか?」
「し、知りません。そんな昔のこと、いちいち覚えてないわ。そうよ、こっちは毎日何十人もの赤ちゃんを相手していたの。誰が会いにきたなんて覚えてない」
「母さんっ! いい加減にしろよ! ちゃんと全部本当のこと話してくれよ!」
「直純! 母さんは嘘なんて吐かないわ! あなたは私よりこの人たちを信じるっていうの?」
「――っ!! じゃあ、ちゃんと信じさせてくれよ!」
「だから、言ってるでしょう? 私は何も知らないの! 櫻葉さんは担当だったけど、生まれた時は出産が重なって全然会えなかったわ。大体、あの写真だって、本当に私かどうかわかったものじゃない。古ぼけてるし、同じ制服着てるんだから他の看護師と間違えてるかもしれないじゃない! そうよ! 私がこの場にいたっていう明確な証拠を見せてよ!」
そういうと、弁護士たちは何も言わなかった。
いや、何も言えなかったんだろう。
だってこの写真が私だっていう確実な証拠がないのだから。
ただ似ているだけなら、証拠としての意味はなさないはず。
ふふっ。私の勝ちだわ。
「ほら、ないんでしょう? 失礼するわ」
勝利を確信して、椅子から立ちあがろうとしたその時、直純が突然握っていた手を机の上で開くと、その手のひらからシャラっと何かが零れ落ちる音が聞こえた。
「じゃあこれ、何か説明してよ」
「――っ!! こ、これ……っ、どうしてあんたが?」
「中学に入ってすぐに学校に提出しなきゃいけない書類に判子が押されてないことに気づいて、学校行く前に慌てて母さんの部屋の引き出しの中を探したんだ。前にそこから母さんが判子出してたのを見たことがあったから。その時に引き出しの奥にあった巾着袋の中からこれを見つけたんだよ。これの飾り、さっきのカメラのそれと同じじゃないか?」
直純の指の先には、さっきのベビー服についていたものと同じ櫻葉家の紋章のついた小さなネックレスがあった。
弁護士たちの視線にムカついて思わず声をあげてしまったが、弁護士よりも先に隣から私を咎める声が飛んできた。
「母さん……っ、本当のことを言ってよ」
「――っ、直純! 母さんは嘘なんか――」
「撮れるわけないって言ってる時点でおかしいじゃないか!」
「えっ……」
何? どういうこと?
「直純くんは優秀ですね。あなたが発したことの意味をちゃんと理解しているようだ。この中であなただけがわかっていないようですね」
「どういう意味よ!」
「だって、カメラがなかったから撮れるわけがない……ということは、そういう場面があったと白状しているものでしょう?」
「――っ!! そ、それは……言葉のあやよ!」
「言っておきますが、これが偽造でも合成でもありません。正真正銘、本物の写真ですよ」
「な――っ、そんなわけないっ!! 大体どこからこんな写真が出てきたっていうの?」
「これですよ」
そう言って、弁護士が出してきたのは小さな服。
「これ……」
「櫻葉さんが沐浴後に自分の息子に着せた服です」
確かに覚えがある。
生まれたばかりの子どもにこんな高価な服を着せて……それが余計に私の嫉妬心を増幅させたんだ。
「これがなんだっていうの? ただのベビー服でしょう?」
「このベビー服の足元にある櫻葉家の小さな紋章が見えますか? これがカメラだったんですよ」
「えっ……? うそ、でしょう? こんな小さなものがカメラなんて……!」
「櫻葉さんが、息子さんの見ている世界が見たいと仰って、当時の最先端の技術を使って小指の爪ほどの小さなカメラを開発させてベビー服に取り付けてたんです。沐浴の後に家族の団欒を過ごす予定だったようですからね。このカメラは足の動きに反応して無音でシャッターが切られるタイプのものでした。だからこのカメラの存在に気づかれることはなかったのですが、この服が処分されずに実行犯の住んでいた場所から発見されたのは奇跡でしたよ。と言っても年月が経ち過ぎてこのカメラから画像を取り出して復元するのはかなり大変な作業でこの服が見つかってから、かなりの日数を要しましたけどね。そうしてようやく現像にまで漕ぎ着けて出てきたのはたったの3枚。そのうちの一枚がこれです。だから合成でも偽造でもない本物ですよ」
「そんな……っ」
まさか、そんなのが残っていたなんて……。
でも、一緒にいたからって私が共犯だなんて決まったわけじゃない。
「残された写真の中であなたが映っていたのはこの一枚。ですが、実行犯が櫻葉家の子どもを抱きかかえた隣にあなたの姿が映っているのは紛れもない事実。まだ実行犯を知らないと言いますか?」
「し、知りません。そんな昔のこと、いちいち覚えてないわ。そうよ、こっちは毎日何十人もの赤ちゃんを相手していたの。誰が会いにきたなんて覚えてない」
「母さんっ! いい加減にしろよ! ちゃんと全部本当のこと話してくれよ!」
「直純! 母さんは嘘なんて吐かないわ! あなたは私よりこの人たちを信じるっていうの?」
「――っ!! じゃあ、ちゃんと信じさせてくれよ!」
「だから、言ってるでしょう? 私は何も知らないの! 櫻葉さんは担当だったけど、生まれた時は出産が重なって全然会えなかったわ。大体、あの写真だって、本当に私かどうかわかったものじゃない。古ぼけてるし、同じ制服着てるんだから他の看護師と間違えてるかもしれないじゃない! そうよ! 私がこの場にいたっていう明確な証拠を見せてよ!」
そういうと、弁護士たちは何も言わなかった。
いや、何も言えなかったんだろう。
だってこの写真が私だっていう確実な証拠がないのだから。
ただ似ているだけなら、証拠としての意味はなさないはず。
ふふっ。私の勝ちだわ。
「ほら、ないんでしょう? 失礼するわ」
勝利を確信して、椅子から立ちあがろうとしたその時、直純が突然握っていた手を机の上で開くと、その手のひらからシャラっと何かが零れ落ちる音が聞こえた。
「じゃあこれ、何か説明してよ」
「――っ!! こ、これ……っ、どうしてあんたが?」
「中学に入ってすぐに学校に提出しなきゃいけない書類に判子が押されてないことに気づいて、学校行く前に慌てて母さんの部屋の引き出しの中を探したんだ。前にそこから母さんが判子出してたのを見たことがあったから。その時に引き出しの奥にあった巾着袋の中からこれを見つけたんだよ。これの飾り、さっきのカメラのそれと同じじゃないか?」
直純の指の先には、さっきのベビー服についていたものと同じ櫻葉家の紋章のついた小さなネックレスがあった。
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