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届いた報告書
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「おはよう、一花くん」
前もって谷垣くんに伝えていたからか、来て早々新しい名前で声をかけていた。
何も言っていなければいつものようにひかるくんと呼ばれていたはずだからな。
やはり伝えていて正解だった。
もう一花は新しく生まれ変わったのだから。
「おはようございます、尚孝さん。なんだかちょっと照れますね」
「いや、一花くんの名前よく似合っているよ。これ、お祝い。一花っていう名前にぴったりだろう? 唯人さんと一緒に選んだんだ」
「わぁ、すっごく綺麗!! それにいい香り~! ありがとうございます、尚孝さん。志摩さん」
谷垣くんが一花に手渡した花束は全ての違う種類の花が一本ずつ入っているのに、とても調和の取れた綺麗な花束。
色とりどりのその花束に一花は満面の笑みを見せた。
「気に入ってもらえてよかったよ。会長、それじゃあいきましょうか」
「ああ、そうだな。一花、行ってくるよ」
「はい。行ってらっしゃい!」
笑顔で見送られて抱きしめたい衝動が抑えられない。
「仕事頑張ってくるから。一花もリハビリ頑張るんだよ」
そう言って一花を優しく抱きしめた。
ふわっと漂ってくる一花の匂いに興奮していると、
「征哉さん……」
と私を呼ぶ小さな声が聞こえた。
気になって一花に顔を向けた瞬間、唇にチュッと仄かな感触を感じた。
「えっ……」
「ふふっ。頑張ってきてくださいね」
可愛らしい笑みに我慢しきれず、もう一度私の方からも唇を奪った。
もちろん重ね合わせるだけの優しいキス。
チュッと重ね合わせて唇を離すと、一花は嬉しそうに笑っていた。
「尚孝さん。帰りも迎えに来ますから、来るまでここで待っていてくださいね」
「はい。唯人さんもお仕事頑張ってください」
私たちの隣でチュッと仄かな音が聞こえる。
なんだ、この幸せな空間は。
一花と谷垣くんに見送られながら私たちは部屋を出た。
「会長、驚かれましたか?」
「なんだ、志摩くんは知っていたのか?」
「ええ、実は昨日一花さんから尚孝さんにメッセージが届いていたんです」
「一花からメッセージ?」
「ええ。<朝のお見送りの時に何かしててあげられることはないですか?>って。それで二人で考えて、<キスをしてあげると喜びますよ>って返してあげたら、<頑張ります>って返ってきたんできっとするんだろうなって思ってました」
「ああ、だから君たちもしてくれたのか?」
「ええ。教えた本人がやってないと不思議に思うでしょう? でも一花さんのおかげで私も尚孝さんからキスしてもらえたんで今日一日頑張れそうです」
「ははっ。一花に便乗したわけか。さすが志摩くんだな」
こういうところは抜かりない。
だが、二人のおかげで新しい朝の習慣ができたようだ。
真面目で素直な一花のことだからこれから毎日やってくれることだろう。
「それにしても今日は一緒に来たのか?」
「今日、というよりはこれから毎日ですよ。一緒に暮らすことにしたんです」
「それはまた、素早いな」
「ええ。一人にしておくのは心配ですから。なので、これからは毎朝会長をお迎えに上がりますよ。帰りは別になることも多いので運転手には会社で待機するように伝えましたから」
「仕事が早いな」
「はい。それが自慢です」
そう得意気に笑って見せる。
志摩くんも谷垣くんというパートナーを得て随分と変わったようだ。
「そんな仕事が早い志摩くんに尋ねるが、アレはどうなってる?」
「はい。それも抜かりなく。車内でお渡しします」
「さすがだな。いうことないよ」
「今回は特に協力くださった方も多かったので私一人の仕事ではありませんよ」
そうは言いつつも一花のために尽力してくれたのだから、有難い。
逸る気持ちを抑えながら、玄関を出て車に乗り込むと
「こちらが届いた報告書です」
と少し分厚めな書類を手渡してきた。
「かなり多そうだな」
「はい。いろんな方向から調査をお願いしましたのでその分かと」
「そうか」
まず出てきたのは迫田美代。
旧姓横川。52歳。
当時麻友子さんが通っていたレディースクリニックの看護師で、今は東京から離れた田舎で旦那と子ども(14歳)の三人暮らし。
18年前に麻友子さんへの不適切発言がきっかけで麻友子さんを死に追いやったことで罪に問われたが不起訴処分となった。
しかし、イメージダウンを嫌ったクリニックからは解雇を言い渡され、その後すぐに東京を離れたとある。
だが、追加調査によると、迫田美代はこの地域の中でもかなりの高級住宅街に居住し、専業主婦として悠々自適な生活を過ごしているようだ。
しかし、夫の保は年収350万程度の役職なしの会社員。
両親はすでに他界しており、その際に引き継いだ遺産等もなし。
迫田美代の方も両親は学生時代にすでに他界。
兄弟姉妹もなし。
両親からの遺産をたっぷりと引き継いだと周りに話しているようだが、両親から引き継いだ遺産はなし。
だが、この土地にやってきた時にはかなり羽振りもよかったそうだから、間違いなく一花を攫うのに一役買い、その成功報酬として受け取ったとみて間違いない。
まずはこの女からだな。
前もって谷垣くんに伝えていたからか、来て早々新しい名前で声をかけていた。
何も言っていなければいつものようにひかるくんと呼ばれていたはずだからな。
やはり伝えていて正解だった。
もう一花は新しく生まれ変わったのだから。
「おはようございます、尚孝さん。なんだかちょっと照れますね」
「いや、一花くんの名前よく似合っているよ。これ、お祝い。一花っていう名前にぴったりだろう? 唯人さんと一緒に選んだんだ」
「わぁ、すっごく綺麗!! それにいい香り~! ありがとうございます、尚孝さん。志摩さん」
谷垣くんが一花に手渡した花束は全ての違う種類の花が一本ずつ入っているのに、とても調和の取れた綺麗な花束。
色とりどりのその花束に一花は満面の笑みを見せた。
「気に入ってもらえてよかったよ。会長、それじゃあいきましょうか」
「ああ、そうだな。一花、行ってくるよ」
「はい。行ってらっしゃい!」
笑顔で見送られて抱きしめたい衝動が抑えられない。
「仕事頑張ってくるから。一花もリハビリ頑張るんだよ」
そう言って一花を優しく抱きしめた。
ふわっと漂ってくる一花の匂いに興奮していると、
「征哉さん……」
と私を呼ぶ小さな声が聞こえた。
気になって一花に顔を向けた瞬間、唇にチュッと仄かな感触を感じた。
「えっ……」
「ふふっ。頑張ってきてくださいね」
可愛らしい笑みに我慢しきれず、もう一度私の方からも唇を奪った。
もちろん重ね合わせるだけの優しいキス。
チュッと重ね合わせて唇を離すと、一花は嬉しそうに笑っていた。
「尚孝さん。帰りも迎えに来ますから、来るまでここで待っていてくださいね」
「はい。唯人さんもお仕事頑張ってください」
私たちの隣でチュッと仄かな音が聞こえる。
なんだ、この幸せな空間は。
一花と谷垣くんに見送られながら私たちは部屋を出た。
「会長、驚かれましたか?」
「なんだ、志摩くんは知っていたのか?」
「ええ、実は昨日一花さんから尚孝さんにメッセージが届いていたんです」
「一花からメッセージ?」
「ええ。<朝のお見送りの時に何かしててあげられることはないですか?>って。それで二人で考えて、<キスをしてあげると喜びますよ>って返してあげたら、<頑張ります>って返ってきたんできっとするんだろうなって思ってました」
「ああ、だから君たちもしてくれたのか?」
「ええ。教えた本人がやってないと不思議に思うでしょう? でも一花さんのおかげで私も尚孝さんからキスしてもらえたんで今日一日頑張れそうです」
「ははっ。一花に便乗したわけか。さすが志摩くんだな」
こういうところは抜かりない。
だが、二人のおかげで新しい朝の習慣ができたようだ。
真面目で素直な一花のことだからこれから毎日やってくれることだろう。
「それにしても今日は一緒に来たのか?」
「今日、というよりはこれから毎日ですよ。一緒に暮らすことにしたんです」
「それはまた、素早いな」
「ええ。一人にしておくのは心配ですから。なので、これからは毎朝会長をお迎えに上がりますよ。帰りは別になることも多いので運転手には会社で待機するように伝えましたから」
「仕事が早いな」
「はい。それが自慢です」
そう得意気に笑って見せる。
志摩くんも谷垣くんというパートナーを得て随分と変わったようだ。
「そんな仕事が早い志摩くんに尋ねるが、アレはどうなってる?」
「はい。それも抜かりなく。車内でお渡しします」
「さすがだな。いうことないよ」
「今回は特に協力くださった方も多かったので私一人の仕事ではありませんよ」
そうは言いつつも一花のために尽力してくれたのだから、有難い。
逸る気持ちを抑えながら、玄関を出て車に乗り込むと
「こちらが届いた報告書です」
と少し分厚めな書類を手渡してきた。
「かなり多そうだな」
「はい。いろんな方向から調査をお願いしましたのでその分かと」
「そうか」
まず出てきたのは迫田美代。
旧姓横川。52歳。
当時麻友子さんが通っていたレディースクリニックの看護師で、今は東京から離れた田舎で旦那と子ども(14歳)の三人暮らし。
18年前に麻友子さんへの不適切発言がきっかけで麻友子さんを死に追いやったことで罪に問われたが不起訴処分となった。
しかし、イメージダウンを嫌ったクリニックからは解雇を言い渡され、その後すぐに東京を離れたとある。
だが、追加調査によると、迫田美代はこの地域の中でもかなりの高級住宅街に居住し、専業主婦として悠々自適な生活を過ごしているようだ。
しかし、夫の保は年収350万程度の役職なしの会社員。
両親はすでに他界しており、その際に引き継いだ遺産等もなし。
迫田美代の方も両親は学生時代にすでに他界。
兄弟姉妹もなし。
両親からの遺産をたっぷりと引き継いだと周りに話しているようだが、両親から引き継いだ遺産はなし。
だが、この土地にやってきた時にはかなり羽振りもよかったそうだから、間違いなく一花を攫うのに一役買い、その成功報酬として受け取ったとみて間違いない。
まずはこの女からだな。
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