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グリとの再会
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<side征哉>
「ひかる、櫻葉会長と話をしてきたよ」
部屋に戻り、声をかけるとひかるはピクリと身体を震わせながら不安そうにこちらを向いた。
「心配しなくていい、ひかるに会いたいと仰っていたよ」
「――っ、本当ですか?」
「ああ、明後日我が家に来てくださることになった」
「明後日……お父さんに会えるんですね」
「ひかる、よかったな」
「はい……」
震える声でそう言葉を返すひかるの目からポロリと涙が溢れた。
私はそっとひかるを抱きしめながら、
「何も心配はいらないよ」
と背中を撫でるとひかるは私の胸に顔を擦り寄せて泣いていた。
きっと今までの辛い日々を思い出しているのかもしれない。
あのまま両親の元から引き離されることなく過ごしていたら……愛情たっぷりに育てられていたはずなのだ。
この18年の辛い日々はどうしたってひかるの記憶からは消せないだろうが、これから何倍もの時間をかけて愛情たっぷりに守っていきたい。
いつか、あの辛かった日々をあんなこともあったなと言えるくらいに。
しばらくひかるを抱きしめながら、心を落ち着かせていると扉を叩く音が聞こえた。
母が扉を開けると、そこにいたのは執事の牧田。
「奥さま。イリゼホテル&リゾートの浅香さまとClef de Coeurの蓮見さまがお越しになりました」
「えっ? 征哉。何か知っている?」
「ああ、私が対応するよ。すぐにいく。ひかる、少し待っていてくれ」
「わかりました」
ひかるをヘッドボードに寄りかからせて、部屋を出る。
「応接室にお通ししております」
「わかった」
浅香オーナーはきっとグリの件でお越しになったのだろうが、蓮見社長は一体どうしたのだろう?
しかも揃ってお越しになるとは……。
確か、蓮見社長の弟と浅香オーナーが友人だという話は聞いているが、その関係で一緒に来られたのか?
なんとも不思議な取り合わせのように感じるが、とりあえず会って話をしてみたらわかるだろうか。
驚きつつも急いで応接室に向かい、声をかけて中に入ると、入った瞬間に蓮見社長が一緒にお越しになった理由がわかった。
なるほど、そういうことだったか。
なんとも……。
思わず笑みを浮かべてしまったが、すぐにいつもの表情を作り声をかけた。
「お待たせしてしまいまして申し訳ございません」
「いえ、こちらこそ突然お伺いいたしまして大変失礼いたしました」
「グリの件でお越しいただいたのですよね?」
「はい。その通りです。志摩さんと谷垣さんからお話を伺いまして、ひかるさんにお譲りしたく連れてきたのです。志摩さんたちにはウサギの飼育に必要なものを買い出しに行って頂いていますので、先にグリを連れてきました」
そういうと浅香さんは可愛らしいウサギ用のケージをテーブルに乗せた。
あの時の灰色の可愛いウサギが不思議そうにこちらをみているのがわかる。
「そうでしたか、わざわざ足をお運びいただきありがとうございます」
「いえ、こちらもお譲りする方と直接お話をさせていただく機会があった方が安心します」
「それはそうですね。グリをお譲りいただくことをご了承いただき本当にありがとうございます」
「ひかるさんに直接グリを手渡したいのですが、いかがでしょうか?」
「それはひかるも喜ぶと思います。今はちょうど起きていますので、部屋にご案内いたします」
そういうと、浅香さんは隣にいる蓮見さんと顔を見合わせて笑みを浮かべた。
その蓮見さんの笑顔を見るだけでさっき感じたのが間違いではなかったことを確信する。
きっと心配でついて来られたのだろうな。
まぁ、私ももしひかるが行くといえば、必ずついていくのだから気持ちはよくわかる。
なんとなく蓮見さんに親近感のようなものを感じながら、二人をひかるの部屋に案内する。
「少しこちらでお待ちいただけますか?」
二人が頷くのを確認して部屋の中に入る。
「ひかる」
「あっ、征哉さん。もうお客さまお帰りになったんですか?」
「ああ、そのことなんだが少し目を瞑っていてもらえるか?」
「えっ? また何かあるんですか?」
あの車椅子をプレゼントした日のことを覚えてくれているようだ。
「ああ、そうだ。ひかるを驚かせたい」
「ふふっ。わかりました」
楽しそうに目を瞑るひかるをその場に残し、私はそっと扉を開けると浅香さんたちが静かに中に入ってきた。
そして、ひかるのベッドの上でケージを開くと、グリがそっとひかるの布団に自ら乗っていった。
「んっ?」
「ふふっ。ひかる、いいよ。目を開けてご覧」
「はい」
素直にひかるが目を開けた途端、グリがぴょんとひかるの胸元に目掛けて飛んでいった。
「わっ!! えっ?」
驚きつつも優しく受け止めたひかるは自分の腕の中にグリがいることを信じられない様子だったけれど、
「ひかるさん、グリのことよろしくね」
と浅香さんが優しく言葉をかけると、ひかるはグリにそっと頬を寄せながら、
「は、い……ありが、とう、ございます……」
と涙を潤ませ震える声でお礼を言っていた。
「ひかる、櫻葉会長と話をしてきたよ」
部屋に戻り、声をかけるとひかるはピクリと身体を震わせながら不安そうにこちらを向いた。
「心配しなくていい、ひかるに会いたいと仰っていたよ」
「――っ、本当ですか?」
「ああ、明後日我が家に来てくださることになった」
「明後日……お父さんに会えるんですね」
「ひかる、よかったな」
「はい……」
震える声でそう言葉を返すひかるの目からポロリと涙が溢れた。
私はそっとひかるを抱きしめながら、
「何も心配はいらないよ」
と背中を撫でるとひかるは私の胸に顔を擦り寄せて泣いていた。
きっと今までの辛い日々を思い出しているのかもしれない。
あのまま両親の元から引き離されることなく過ごしていたら……愛情たっぷりに育てられていたはずなのだ。
この18年の辛い日々はどうしたってひかるの記憶からは消せないだろうが、これから何倍もの時間をかけて愛情たっぷりに守っていきたい。
いつか、あの辛かった日々をあんなこともあったなと言えるくらいに。
しばらくひかるを抱きしめながら、心を落ち着かせていると扉を叩く音が聞こえた。
母が扉を開けると、そこにいたのは執事の牧田。
「奥さま。イリゼホテル&リゾートの浅香さまとClef de Coeurの蓮見さまがお越しになりました」
「えっ? 征哉。何か知っている?」
「ああ、私が対応するよ。すぐにいく。ひかる、少し待っていてくれ」
「わかりました」
ひかるをヘッドボードに寄りかからせて、部屋を出る。
「応接室にお通ししております」
「わかった」
浅香オーナーはきっとグリの件でお越しになったのだろうが、蓮見社長は一体どうしたのだろう?
しかも揃ってお越しになるとは……。
確か、蓮見社長の弟と浅香オーナーが友人だという話は聞いているが、その関係で一緒に来られたのか?
なんとも不思議な取り合わせのように感じるが、とりあえず会って話をしてみたらわかるだろうか。
驚きつつも急いで応接室に向かい、声をかけて中に入ると、入った瞬間に蓮見社長が一緒にお越しになった理由がわかった。
なるほど、そういうことだったか。
なんとも……。
思わず笑みを浮かべてしまったが、すぐにいつもの表情を作り声をかけた。
「お待たせしてしまいまして申し訳ございません」
「いえ、こちらこそ突然お伺いいたしまして大変失礼いたしました」
「グリの件でお越しいただいたのですよね?」
「はい。その通りです。志摩さんと谷垣さんからお話を伺いまして、ひかるさんにお譲りしたく連れてきたのです。志摩さんたちにはウサギの飼育に必要なものを買い出しに行って頂いていますので、先にグリを連れてきました」
そういうと浅香さんは可愛らしいウサギ用のケージをテーブルに乗せた。
あの時の灰色の可愛いウサギが不思議そうにこちらをみているのがわかる。
「そうでしたか、わざわざ足をお運びいただきありがとうございます」
「いえ、こちらもお譲りする方と直接お話をさせていただく機会があった方が安心します」
「それはそうですね。グリをお譲りいただくことをご了承いただき本当にありがとうございます」
「ひかるさんに直接グリを手渡したいのですが、いかがでしょうか?」
「それはひかるも喜ぶと思います。今はちょうど起きていますので、部屋にご案内いたします」
そういうと、浅香さんは隣にいる蓮見さんと顔を見合わせて笑みを浮かべた。
その蓮見さんの笑顔を見るだけでさっき感じたのが間違いではなかったことを確信する。
きっと心配でついて来られたのだろうな。
まぁ、私ももしひかるが行くといえば、必ずついていくのだから気持ちはよくわかる。
なんとなく蓮見さんに親近感のようなものを感じながら、二人をひかるの部屋に案内する。
「少しこちらでお待ちいただけますか?」
二人が頷くのを確認して部屋の中に入る。
「ひかる」
「あっ、征哉さん。もうお客さまお帰りになったんですか?」
「ああ、そのことなんだが少し目を瞑っていてもらえるか?」
「えっ? また何かあるんですか?」
あの車椅子をプレゼントした日のことを覚えてくれているようだ。
「ああ、そうだ。ひかるを驚かせたい」
「ふふっ。わかりました」
楽しそうに目を瞑るひかるをその場に残し、私はそっと扉を開けると浅香さんたちが静かに中に入ってきた。
そして、ひかるのベッドの上でケージを開くと、グリがそっとひかるの布団に自ら乗っていった。
「んっ?」
「ふふっ。ひかる、いいよ。目を開けてご覧」
「はい」
素直にひかるが目を開けた途端、グリがぴょんとひかるの胸元に目掛けて飛んでいった。
「わっ!! えっ?」
驚きつつも優しく受け止めたひかるは自分の腕の中にグリがいることを信じられない様子だったけれど、
「ひかるさん、グリのことよろしくね」
と浅香さんが優しく言葉をかけると、ひかるはグリにそっと頬を寄せながら、
「は、い……ありが、とう、ございます……」
と涙を潤ませ震える声でお礼を言っていた。
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