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ひかるの笑顔
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<side征哉>
愛しい人に膝枕をして、上からその寝顔を見つめる日が私にくるとは思ってもみなかったな。
「ふふっ。ひかるくん、安心しきった顔をしてるわ。よほど征哉のそばが安心するのね」
「硬くて寝にくいかと思ったが、よかったよ」
「ふふっ。そんな心配をしていたの?」
「ひかるには心地良く寝て欲しいからな」
毎日の私の手入れですっかり艶を取り戻したひかるの髪を撫でると、
「う、ん……っ」
と嬉しそうな表情を見せながら擦り寄ってくる。
ひかるの顔がそんな場所にあるというだけでも少し興奮してしまうのだが、そんなに嬉しそうな表情を見せられるといろいろと危ないかもしれない。
流石に母が隣にいる状態で、勃たせられないから必死に抑えつけるが、膝枕というのは幸せでもあり我慢との戦いでもあるのだと今、初めて知った。
しばらくひかるを見つめていると、ひかるの身体が身動ぎゆっくりと瞼が開いていく。
ひかるの綺麗な瞳に私の顔が映るのを幸せに感じながら声をかけると、ひかるは一瞬理解が追いついていないようだったが、すぐにたくさん寝過ぎてしまったかと心配の声を上げた。
だが、ここしばらく同じスケジュールで過ごしているひかるはしっかりと体内時計が刻まれているようだ。
同じタイミングで志摩くんと谷垣くんが帰ってきているのも見える。
ひかるの可愛い寝顔を見せずに済んでよかった。
それにしてもあの二人。
行きよりもさらに距離が縮まっている気がするが……いや、距離が縮まるどころか、もしかしてもう付き合っているのか?
流石にそれは……とも思ったが、でも谷垣くんが志摩くんに向けるあの表情を見るとどうやら間違いではなさそうだ。
意外と志摩くんも手が速いな。
谷垣くんはひかるに似てそっち方向には鈍感なように見えたが、どうやって落としたのか参考までにあとで聞いてみるとしよう。
午後からはひかるが一番楽しみにしていたゾウ舎に向かう。
ゾウに会いにいくぞと教えてあげるとそこからもうすでに興奮していて実に可愛らしい。
車椅子に乗せ、ゾウ舎に向かうと遠くから聞こえてくるゾウの鳴き声に感動しているようで、その純粋な喜びにただただ笑みが溢れる。
ひかるより視線が高い私が先にゾウの姿を捉え、ひかるに教えると、
「わぁー!! すごいっ! 本当に鼻が長いっ!! しかもおっきいーーっ!!」
と心からの感嘆の声が聞こえる。
そんな純粋に喜んでいるひかるには申し訳ないが、さっきの膝枕の興奮の余韻が残っている私にはどうにもふしだらな言葉に変換されて伝わってくる。
ひかるが私の……をみて、こんな声を上げてくれたら……。
くっ――!!
想像してはダメだ!
こんなことがひかるに知られたら嫌われてしまうぞ!
必死に自分を叱咤して、冷静を装いゾウを見て喜ぶひかるに
「ひかるの夢が一つ叶えられたかな」
と告げると、少し涙目で嬉しいと言ってくれた。
これから、ひかるの夢を全部叶えてやろう。
そして、その隣にはいつも私がいよう。
ひかるの笑顔を間近で見られるように……。
「ああ……本当に、ゾウさんってこんなに大きかったんだ……」
ゾウを見つめながらしみじみというひかるが可愛い。
「ひかる、実際にゾウを見て怖くないか?」
「怖くなんかないです! もうずっと見ていたいくらいです」
「ふふっ。そうか、じゃあ今から私と行こうか」
「えっ? どこにいくんですか?」
「今から、ゾウに餌やりができるんだよ」
「えっ……餌やり?」
そう。
この動物園ではおやつの時間に入場者が餌をあげられるという企画をしている。
ひかるの大好きなゾウに餌やりができるからこの動物園に決めたと言っても過言ではない。
しかも餌をあげられるのは一日に一組だけ。
志摩くんが早々に予約をとってくれたから実現できたことだ。
「どうだ、ひかる。やってみないか?」
もし、ひかるが実物のゾウを見て怖がったら、餌やりは志摩くんたちにお願いしようと思っていたが、
「やりたいです!!! 本当に、僕が餌やりできるんですか?」
目をキラキラ輝かせて笑顔を見せるひかるの姿に、杞憂だったなと思わされる。
「ああ、じゃあ一緒に行こう」
ゾウ舎の中に車椅子は入れない。
なので、私はひかるを抱き上げてゾウ舎の裏側に入った。
「ひかるくんですね。今日は餌やりよろしくお願いします!」
明るい声で呼びかけてくれたスタッフに
「はい。僕頑張ります!!」
と嬉しそうに返事をするひかる。
ああ、本当に可愛い。
バケツを持ったスタッフに付き添われて、さっきまで見ていたゾウ舎の中に入ると、
「この子から餌をお願いします」
と指示される。
「わぁ! 可愛い、子どものゾウさんだ!」
「はい。この子はバナナが好きなので、これをあげてください」
ひかるは渡されたバナナを受け取り、子ゾウに差し出すと、子ゾウは長い鼻で器用にバナナを受け取り皮のまま食べ、パオーンと雄叫びを上げた。
「ふふっ。可愛い子に餌をもらえて喜んでいますよ」
何本かその子にバナナを食べさせてから、今度は大人のゾウにも餌をあげる。
流石に子ゾウとは比べ物にならないほど大きいが、近くで見るとさらに迫力が増す。
「ひかる、怖くないか?」
「はい。大丈夫です」
「この子はりんごが好きなので、これをあげてくださいね」
ひかるがりんごを手のひらに乗せて渡すと、またゾウは器用に鼻で受け取り口の中に放り込んだ。
むしゃむしゃとゾウが口を動かすたびに、りんごの甘い香りが漂ってくる。
たくさんりんごを食べさせた後で、
「せっかくなので、怖くなければゾウさんを撫でてみませんか?」
とスタッフに声をかけられて」
「わぁ! やってみたいです!!」
と笑顔を見せる。
「じゃあこっちに来てください」
指示された通りゾウの横に立ち、ひかるがそっと撫でるとゾウは大人しく立っていた。
「わぁー、僕ゾウさんを撫でてます!! すごい! 感動です!!」
ああ、この表情が見たかったんだ。
餌やりと触れ合いを終え、ゾウ舎を出る。
「ひかる、ゾウを撫でてみてどうだった?」
「僕……征哉さんに撫でられるとホッとするんです。だから、ゾウさんも同じように安心してくれたらいいなって思って撫でたんです」
「――っ、そうか……。ゾウも嬉しそうにしていたな」
「はい。だから僕すごく嬉しかったです」
ひかるは本当に嬉しそうだ。
今日はここに連れてきて本当によかったな。
愛しい人に膝枕をして、上からその寝顔を見つめる日が私にくるとは思ってもみなかったな。
「ふふっ。ひかるくん、安心しきった顔をしてるわ。よほど征哉のそばが安心するのね」
「硬くて寝にくいかと思ったが、よかったよ」
「ふふっ。そんな心配をしていたの?」
「ひかるには心地良く寝て欲しいからな」
毎日の私の手入れですっかり艶を取り戻したひかるの髪を撫でると、
「う、ん……っ」
と嬉しそうな表情を見せながら擦り寄ってくる。
ひかるの顔がそんな場所にあるというだけでも少し興奮してしまうのだが、そんなに嬉しそうな表情を見せられるといろいろと危ないかもしれない。
流石に母が隣にいる状態で、勃たせられないから必死に抑えつけるが、膝枕というのは幸せでもあり我慢との戦いでもあるのだと今、初めて知った。
しばらくひかるを見つめていると、ひかるの身体が身動ぎゆっくりと瞼が開いていく。
ひかるの綺麗な瞳に私の顔が映るのを幸せに感じながら声をかけると、ひかるは一瞬理解が追いついていないようだったが、すぐにたくさん寝過ぎてしまったかと心配の声を上げた。
だが、ここしばらく同じスケジュールで過ごしているひかるはしっかりと体内時計が刻まれているようだ。
同じタイミングで志摩くんと谷垣くんが帰ってきているのも見える。
ひかるの可愛い寝顔を見せずに済んでよかった。
それにしてもあの二人。
行きよりもさらに距離が縮まっている気がするが……いや、距離が縮まるどころか、もしかしてもう付き合っているのか?
流石にそれは……とも思ったが、でも谷垣くんが志摩くんに向けるあの表情を見るとどうやら間違いではなさそうだ。
意外と志摩くんも手が速いな。
谷垣くんはひかるに似てそっち方向には鈍感なように見えたが、どうやって落としたのか参考までにあとで聞いてみるとしよう。
午後からはひかるが一番楽しみにしていたゾウ舎に向かう。
ゾウに会いにいくぞと教えてあげるとそこからもうすでに興奮していて実に可愛らしい。
車椅子に乗せ、ゾウ舎に向かうと遠くから聞こえてくるゾウの鳴き声に感動しているようで、その純粋な喜びにただただ笑みが溢れる。
ひかるより視線が高い私が先にゾウの姿を捉え、ひかるに教えると、
「わぁー!! すごいっ! 本当に鼻が長いっ!! しかもおっきいーーっ!!」
と心からの感嘆の声が聞こえる。
そんな純粋に喜んでいるひかるには申し訳ないが、さっきの膝枕の興奮の余韻が残っている私にはどうにもふしだらな言葉に変換されて伝わってくる。
ひかるが私の……をみて、こんな声を上げてくれたら……。
くっ――!!
想像してはダメだ!
こんなことがひかるに知られたら嫌われてしまうぞ!
必死に自分を叱咤して、冷静を装いゾウを見て喜ぶひかるに
「ひかるの夢が一つ叶えられたかな」
と告げると、少し涙目で嬉しいと言ってくれた。
これから、ひかるの夢を全部叶えてやろう。
そして、その隣にはいつも私がいよう。
ひかるの笑顔を間近で見られるように……。
「ああ……本当に、ゾウさんってこんなに大きかったんだ……」
ゾウを見つめながらしみじみというひかるが可愛い。
「ひかる、実際にゾウを見て怖くないか?」
「怖くなんかないです! もうずっと見ていたいくらいです」
「ふふっ。そうか、じゃあ今から私と行こうか」
「えっ? どこにいくんですか?」
「今から、ゾウに餌やりができるんだよ」
「えっ……餌やり?」
そう。
この動物園ではおやつの時間に入場者が餌をあげられるという企画をしている。
ひかるの大好きなゾウに餌やりができるからこの動物園に決めたと言っても過言ではない。
しかも餌をあげられるのは一日に一組だけ。
志摩くんが早々に予約をとってくれたから実現できたことだ。
「どうだ、ひかる。やってみないか?」
もし、ひかるが実物のゾウを見て怖がったら、餌やりは志摩くんたちにお願いしようと思っていたが、
「やりたいです!!! 本当に、僕が餌やりできるんですか?」
目をキラキラ輝かせて笑顔を見せるひかるの姿に、杞憂だったなと思わされる。
「ああ、じゃあ一緒に行こう」
ゾウ舎の中に車椅子は入れない。
なので、私はひかるを抱き上げてゾウ舎の裏側に入った。
「ひかるくんですね。今日は餌やりよろしくお願いします!」
明るい声で呼びかけてくれたスタッフに
「はい。僕頑張ります!!」
と嬉しそうに返事をするひかる。
ああ、本当に可愛い。
バケツを持ったスタッフに付き添われて、さっきまで見ていたゾウ舎の中に入ると、
「この子から餌をお願いします」
と指示される。
「わぁ! 可愛い、子どものゾウさんだ!」
「はい。この子はバナナが好きなので、これをあげてください」
ひかるは渡されたバナナを受け取り、子ゾウに差し出すと、子ゾウは長い鼻で器用にバナナを受け取り皮のまま食べ、パオーンと雄叫びを上げた。
「ふふっ。可愛い子に餌をもらえて喜んでいますよ」
何本かその子にバナナを食べさせてから、今度は大人のゾウにも餌をあげる。
流石に子ゾウとは比べ物にならないほど大きいが、近くで見るとさらに迫力が増す。
「ひかる、怖くないか?」
「はい。大丈夫です」
「この子はりんごが好きなので、これをあげてくださいね」
ひかるがりんごを手のひらに乗せて渡すと、またゾウは器用に鼻で受け取り口の中に放り込んだ。
むしゃむしゃとゾウが口を動かすたびに、りんごの甘い香りが漂ってくる。
たくさんりんごを食べさせた後で、
「せっかくなので、怖くなければゾウさんを撫でてみませんか?」
とスタッフに声をかけられて」
「わぁ! やってみたいです!!」
と笑顔を見せる。
「じゃあこっちに来てください」
指示された通りゾウの横に立ち、ひかるがそっと撫でるとゾウは大人しく立っていた。
「わぁー、僕ゾウさんを撫でてます!! すごい! 感動です!!」
ああ、この表情が見たかったんだ。
餌やりと触れ合いを終え、ゾウ舎を出る。
「ひかる、ゾウを撫でてみてどうだった?」
「僕……征哉さんに撫でられるとホッとするんです。だから、ゾウさんも同じように安心してくれたらいいなって思って撫でたんです」
「――っ、そうか……。ゾウも嬉しそうにしていたな」
「はい。だから僕すごく嬉しかったです」
ひかるは本当に嬉しそうだ。
今日はここに連れてきて本当によかったな。
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