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家族写真
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<sideひかる>
「あっ、お母さん! カンガルーがいますよ!」
次々現れる動物さんたちに興奮が止まらない。
お母さんが見たいといっていたカンガルーが現れて、嬉しくて教えるとお母さんは笑顔を見せてくれた。
「あら、ほんと! ほら、ひかるくん。あのカンガルーのお腹……」
お母さんが指さす方を見ていると、カンガルーのお腹からぴょこっと小さな顔が出ているのが見えた。
「わっ! 赤ちゃん、ですか?」
「ええ。ひかるくん、珍しい光景が見られたわね。なかなか見られないから貴重よ!」
「わぁ、そうなんですね。ふふっ。可愛いなぁ。征哉さん、見てください! 赤ちゃんですよ」
「本当だな。ああやって常に母親とくっついていられて安心なんだろうな」
「そうですね……ほんと、幸せそう」
いつでもくっついていられて、お母さんの温もりを感じられて、カンガルーの赤ちゃんって幸せなんだな。
そう思っていると、突然後ろから大きな腕が回ってきてびっくりした。
「わっ! せ、征哉さん……っ、どうしたんですか?」
「私もいつでもひかるとくっついていてあげよう。そうしたら安心するだろう?」
「ひゃっ……」
耳元で優しい声で囁かれて身体がピクッと震えてしまった。
なんだかすごくドキドキする。
でも、同じくらい安心する。
どうしてだろう?
「征哉、ひかるくんがびっくりしているわよ」
「ふふっ。ごめん、ごめん。でも安心しただろう?」
「は、はい」
なんとかそう答えると、征哉さんとお母さんは嬉しそうに笑っていた。
カンガルーの先に進むと、尚孝さんと志摩さんが立ち止まっているのが見えた。
「志摩くん、ここに入るのか?」
「はい。もう入れますよ」
「ここはなんですか?」
「ふふっ。入ったらわかるよ。ねぇ、谷垣さん」
「ええ」
なんだかすっかり仲良しになった様子の志摩さんと尚孝さんが笑顔で僕たちを案内してくれる。
征哉さんに押してもらいながら車椅子で中に入ると、いくつかの広い囲いの中にウサギさんや、ウサギさんによく似た動物が楽しそうに走っているのが見えた。
「わぁー! 可愛いっ!!」
「ここはウサギとモルモットと触れ合えるんですよ」
「触れ合えるって、触っていいんですか?」
「ええ。抱っこもできますよ」
「えっ、抱っこも? わぁー、嬉しい!!」
「ひかる、どの子がいい? 連れてくるよ」
そう言われて僕は囲いの中をみると、たくさんのウサギさんが楽しそうに遊んでいる中、一羽のウサギさんだけが隅の方で丸くなっているのを見て、それがまるで施設にいたころの僕みたいに見えた。
自分だけが引き取られず、小さな子たちが楽しそうに遊んでいる間、施設長や施設長の奥さんから言いつけられた用事をするのに必死でいつも僕は一人だった。
あのとき、誰かに優しくしてほしいってずっと思ってた。
誰かが手を差し伸べてくれたら僕は一人じゃないって思えたのに。
「僕、あの子がいいです」
僕が指差していうと、征哉さんはすぐにその子のところに行って、そっと抱き上げて連れてきてくれた。
そして、ひざ掛けをかけた僕の上にそっと乗せてくれたんだ。
小さくて軽いけど、暖かい。
恐る恐る手のひらで撫でると、今まで感じたことのないふわふわな感触が心地良い。
「わっ、可愛い……」
ウサギさんは僕が撫でている間、とてもおとなしくいてくれた。
「あら、グリがこんなにおとなしいなんて……」
「えっ?」
「ああ、驚かせてごめんなさいね。私、このグリが生まれた時からお世話をしているの。でも、なかなか人見知りが抜けなくて……いつも囲いの中でも一人でいてね。綺麗なグレーの毛並みをしているからみなさん抱っこしたいっていってくれるのだけど嫌がって逃げちゃうものだから……こんなにおとなしく膝に乗って、しかも気持ちよさそうに撫で撫でされているのは初めて見たわ」
「そうなんですか……」
「ええ。だから、きっとグリはあなたのことが好きなんだと思うわ。あなたもグリのことを好きになってくれたかしら?」
「はい。すっごく可愛いです」
「そういってくれると嬉しいわ。ねぇ、グリ」
そういうと、飼育員さんはグリちゃんの背中を撫でて立ち去っていった。
「ひかる、このウサギに気に入られたみたいだな」
「征哉さんが連れてきてくれる時も逃げなかったから、征哉さんも気に入られてますよ」
「ははっ。確かに」
「会長、せっかくですから写真を撮りましょうか?」
志摩さんがそう声をかけてくれて、征哉さんは自分のスマホを志摩さんに渡していた。
車椅子の僕の右隣にお母さん、左隣に征哉さんがしゃがんでくれて、そして、膝の上のグリちゃんも一緒に写真を撮った。
この時の僕はきっと満面の笑みだったと思う。
だって、こんな嬉しい写真撮影は生まれて初めてだったから。
「あっ、お母さん! カンガルーがいますよ!」
次々現れる動物さんたちに興奮が止まらない。
お母さんが見たいといっていたカンガルーが現れて、嬉しくて教えるとお母さんは笑顔を見せてくれた。
「あら、ほんと! ほら、ひかるくん。あのカンガルーのお腹……」
お母さんが指さす方を見ていると、カンガルーのお腹からぴょこっと小さな顔が出ているのが見えた。
「わっ! 赤ちゃん、ですか?」
「ええ。ひかるくん、珍しい光景が見られたわね。なかなか見られないから貴重よ!」
「わぁ、そうなんですね。ふふっ。可愛いなぁ。征哉さん、見てください! 赤ちゃんですよ」
「本当だな。ああやって常に母親とくっついていられて安心なんだろうな」
「そうですね……ほんと、幸せそう」
いつでもくっついていられて、お母さんの温もりを感じられて、カンガルーの赤ちゃんって幸せなんだな。
そう思っていると、突然後ろから大きな腕が回ってきてびっくりした。
「わっ! せ、征哉さん……っ、どうしたんですか?」
「私もいつでもひかるとくっついていてあげよう。そうしたら安心するだろう?」
「ひゃっ……」
耳元で優しい声で囁かれて身体がピクッと震えてしまった。
なんだかすごくドキドキする。
でも、同じくらい安心する。
どうしてだろう?
「征哉、ひかるくんがびっくりしているわよ」
「ふふっ。ごめん、ごめん。でも安心しただろう?」
「は、はい」
なんとかそう答えると、征哉さんとお母さんは嬉しそうに笑っていた。
カンガルーの先に進むと、尚孝さんと志摩さんが立ち止まっているのが見えた。
「志摩くん、ここに入るのか?」
「はい。もう入れますよ」
「ここはなんですか?」
「ふふっ。入ったらわかるよ。ねぇ、谷垣さん」
「ええ」
なんだかすっかり仲良しになった様子の志摩さんと尚孝さんが笑顔で僕たちを案内してくれる。
征哉さんに押してもらいながら車椅子で中に入ると、いくつかの広い囲いの中にウサギさんや、ウサギさんによく似た動物が楽しそうに走っているのが見えた。
「わぁー! 可愛いっ!!」
「ここはウサギとモルモットと触れ合えるんですよ」
「触れ合えるって、触っていいんですか?」
「ええ。抱っこもできますよ」
「えっ、抱っこも? わぁー、嬉しい!!」
「ひかる、どの子がいい? 連れてくるよ」
そう言われて僕は囲いの中をみると、たくさんのウサギさんが楽しそうに遊んでいる中、一羽のウサギさんだけが隅の方で丸くなっているのを見て、それがまるで施設にいたころの僕みたいに見えた。
自分だけが引き取られず、小さな子たちが楽しそうに遊んでいる間、施設長や施設長の奥さんから言いつけられた用事をするのに必死でいつも僕は一人だった。
あのとき、誰かに優しくしてほしいってずっと思ってた。
誰かが手を差し伸べてくれたら僕は一人じゃないって思えたのに。
「僕、あの子がいいです」
僕が指差していうと、征哉さんはすぐにその子のところに行って、そっと抱き上げて連れてきてくれた。
そして、ひざ掛けをかけた僕の上にそっと乗せてくれたんだ。
小さくて軽いけど、暖かい。
恐る恐る手のひらで撫でると、今まで感じたことのないふわふわな感触が心地良い。
「わっ、可愛い……」
ウサギさんは僕が撫でている間、とてもおとなしくいてくれた。
「あら、グリがこんなにおとなしいなんて……」
「えっ?」
「ああ、驚かせてごめんなさいね。私、このグリが生まれた時からお世話をしているの。でも、なかなか人見知りが抜けなくて……いつも囲いの中でも一人でいてね。綺麗なグレーの毛並みをしているからみなさん抱っこしたいっていってくれるのだけど嫌がって逃げちゃうものだから……こんなにおとなしく膝に乗って、しかも気持ちよさそうに撫で撫でされているのは初めて見たわ」
「そうなんですか……」
「ええ。だから、きっとグリはあなたのことが好きなんだと思うわ。あなたもグリのことを好きになってくれたかしら?」
「はい。すっごく可愛いです」
「そういってくれると嬉しいわ。ねぇ、グリ」
そういうと、飼育員さんはグリちゃんの背中を撫でて立ち去っていった。
「ひかる、このウサギに気に入られたみたいだな」
「征哉さんが連れてきてくれる時も逃げなかったから、征哉さんも気に入られてますよ」
「ははっ。確かに」
「会長、せっかくですから写真を撮りましょうか?」
志摩さんがそう声をかけてくれて、征哉さんは自分のスマホを志摩さんに渡していた。
車椅子の僕の右隣にお母さん、左隣に征哉さんがしゃがんでくれて、そして、膝の上のグリちゃんも一緒に写真を撮った。
この時の僕はきっと満面の笑みだったと思う。
だって、こんな嬉しい写真撮影は生まれて初めてだったから。
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