歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています

波木真帆

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幸せすぎて

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<sideひかる>

お母さんに折り紙を教えてもらって僕もいろんなものが作れるようになった。

ずっと寝ているだけの僕でもできることがあるのは嬉しい。

「もう少し体力がついたら、折り紙以外のこともできるようになるわ。ひかるくんは何かしたいことある?」

「あ、あの……僕、本が読みたいです」

「本?」

「あんまり勉強してこなかったから、漢字もあまり得意じゃないんですけど……中学校に行っていたときは図書館に行くのが楽しみで……」

「そう。なら、征哉に話をしてひかるくんが好きそうな本を用意してもらうわ。今は、まだ座って長時間読むのは大変でしょうから、耳で聴く本から始めてみましょう」

「耳で、本を?」

「ええ。オーディオブックって言ってね、読み聞かせのようなものよ。これで覚えたら紙の本も読めるようになるわ」

「――っ、そんなものがあるんですね……すごいっ!!」

中学校でたくさんの本に触れたときに、卒業するまでに図書室の中にある本を全部読んでみたいと思っていたけれど、小学校も中学校も満足に通えなかった僕は一冊の本を読むのにものすごく時間がかかる。
その上、施設の仕事のお手伝いがあって休みがちだったから、結局ほとんど読めずじまいで卒業してしまった。

お店に引き取られてからは毎日仕事ばかりで本に触れ合うこともなくて、もっと勉強したいって思ってた。

ここにきて、優しいお母さんにいろいろなことを教えてもらったり、征哉さんに優しくお世話してもらったり……僕の知らない世界に触れ合えて本当に幸せだ。

耳で聴く本か……楽しみだな。


食事をしながらお母さんが征哉さんにその本の話をしてくれた。
そうしたら

「ひかるにしたいことができたならよかった。明日にでも用意するから楽しみにしていてくれ」

と笑顔で言ってくれる。
本当にここは幸せすぎて怖いくらいだ。

食事を終えると、すぐに征哉さんが身体を拭いてくれる。
お風呂がわりなんだって。
冷たいタオルなのかと思ったら、あったかくてびっくりして声を上げてしまった。

だって、施設だってお店でだって、お風呂はいつもお水だったから。
それが普通だと思ってた。

夏はまだよかったけれど、冬は寒くて……だからお風呂苦手だったんだよね。
でも、あったかいタオルって身体がポカポカして気持ちがいい。

ついつい寝そうになってしまう。

身体中をくまなく拭いてくれて、新しいおむつにも替えてくれる。
昼間はお母さんにもやってもらうけど、やっぱり征哉さんの方が力があるから、あっという間だ。
でもやっぱり申し訳ないって思ってしまう。
早くトイレくらいは自分で行けるようになるといいな。

「さぁ、着替えも終わったしそろそろ寝ようか」

そう言って征哉さんがベッドに入ってきて、僕を抱きしめてくれる。

ふわっといい匂いがして安心する。
征哉さんの匂いってどうしてこんなに安心するんだろうな。不思議。

「ひかる、このままでいいから少し話を聞いてもらえるか?」

少し不安そうな征哉さんの声が聞こえた。
話ってなんだろう?
もしかして、ここを追い出されたりしないよね?

また前のような生活に戻ることになったら……頑張れる気がしない。
あの頃はそれが普通だと思っていたからなんとかできていたけれど、こんな幸せを知ってしまったんだ。

でも、迷惑はかけたくないから出て行くしかないかな。

これから先のことが一気に不安になって、思わず目の前の征哉さんの胸元にすり寄ると

「ひかる。ごめん。不安にさせたんだな。違うよ、ひかるを手放したりなんてしないからな」

と抱きしめてくれる。

「ほ、ほんとう、ですか?」

「ああ、もちろんだよ。ひかるはもう家族だって言ったろう?」

潤んでしまった目を征哉さんが優しく拭ってくれる。
どれだけ泣いたってこんな優しいことしてくれる人いなかったのに。

でもよかった。
追い出されたりしないんだ……。

「よかった……」

安心して心の声が漏れると、征哉さんは僕を抱きしめながら

「不安にさせてごめん」

と謝ってくれた。

「話というのはね、あのときトラックでひかるを轢いた彼が、ひかるに謝りたいって言っているんだ」

「えっ……あの人が?」

僕の足がトラックの下敷きになってすぐに運転席から駆け降りてきてくれたあの人。
救急車と警察を呼んでと叫ぶお母さんの後ろですぐに電話をかけてくれたのをうっすら覚えてる。

――すぐに救急車来るからね! ごめんね、ごめんね!!

涙を流しながら、何度も謝ってくれていたっけ。
あのときはもう自分が死ぬと思っていたから、お母さんが生きてくれればいいってそれだけを思ってた。

「嫌でもあの事故を思い出すからひかるが会いたくないというなら、断っておくよ。ひかるが無理をすることはないんだ。ただ、彼はずっと警察署でひかるの安否を心配していたみたいだから、ひかるが元気だっていうことだけ伝えたい。どうだろう?」

「あの、僕……」

なんて言ったらいいんだろう。
確かにあの事故で一生歩けないかもしれないって言われたけど、今の僕はこんなにも幸せで……。
ある意味、恩人なんじゃないかって思ってた。

だから、僕のためにずっと苦しんでほしくない。

「ひかる……ごめん、まだ早すぎたかな」

「あ、あの……違うんです。僕、ちゃんと生きてますし、今、すごく幸せで……だから、あの人に謝ってもらうことなんて、何もなくて……それで……」

「ひかる……っ、わかったよ。ひかるの気持ちはわかった」

「征哉さん……」

「ただ、人一人を傷つけてしまったという彼の後悔の念と謝罪の気持ちを受け入れて上げてほしいんだ。そうじゃないと、きっと彼は前に進むこともできない」

そう言われてハッとした。
そうか……僕は幸せだけど、あの人はずっと申し訳ないって思い続けるんだ。

「僕……会います。会ってちゃんと気持ちを伝えます」

「ひかる……わかった。そう伝えておくよ。ゆっくりおやすみ」

抱きしめられながら、胸の辺りをトントンと優しく叩かれて目を瞑る。
その一定のリズムに誘われながら、僕はあっという間に眠りについていた。
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