12 / 286
何も心配はいらない
しおりを挟む
病院の機材ごと、僕を家に連れて行く?
征哉さんはそう言ったの?
「そんなこと……」
無理ですよ……そう言おうと思ったけれど、その前に征哉さんからの説明が入る。
「大丈夫、心配はいらないよ。こう見えて、私は医師の資格を持っている。外科医として仕事をしていた期間もあるんだ。だから何の問題もないよ。ひかるの療養先がここから我が家に変わるだけだ」
「征哉さん、お医者さんなんですか?」
「医師以外の仕事もしているけれどね」
「すごいです!」
「ふふっ。大したことはないが、そんなふうに褒めてもらえると嬉しくなるな」
征哉さんが笑顔を見せてくれるたびにドキドキしてしまうのはどうしてなんだろうな。
でも……ずっと見ていたいと思ってしまう。
「じゃあ、すぐに準備を整えてくるから少しだけ待っていてもらえるかな」
「えっ、は、はい」
征哉さんの笑顔に見惚れている間に、もう征哉さんのお家に移ることが決まってしまったみたいだ。
僕はここにいてもどこにいても結局は動けないのだし、ただ寝ているだけならどこに行っても一緒なんだろうけど、迷惑はかけないようにしないといけないな。
「ありがとう。ひかるが来てくれたら母が喜ぶよ」
「そんな……僕の方こそ嬉しいです。これからここでずっと一人だと覚悟していたので……」
「ひかるは一人じゃないよ」
「えっ?」
「私も母も、それに主治医の榎木先生もみんなひかるが元気に、そして幸せになれるように願ってる。だから、一人だなんて思わなくていい。私がこれからずっと君のことを支えるよ」
「征哉さん……」
「だから、ひかる……約束してくれ。決して一人で悩んだりしないって。必ず誰かに相談してくれ。できれば相談相手は私がいいが、言いにくければ母でも榎木先生でもいいよ」
征哉さんの真剣な目。
今まで誰がこうして僕のために真剣な目を向けてくれただろう……。
本当に僕は一人じゃないんだ。
嬉しいとか、ありがとうとか、伝えたい言葉はたくさんあるけれど、幸せな感情が込み上げてきて言葉も返せない。
ただ僕は何度も何度も頷くしかできなかった。
「ああ、ひかる。泣かないで。ごめん、怖かったかな?」
スッと征哉さんの親指で目元を拭われる。
泣いてなんてないのにと思っていたけれど、僕は知らない間に泣いていたみたいだ。
「ちが――っ、怖く、ないです……ただ、嬉しくて……」
「そうか、ならよかった」
本当に優しい人なんだな、征哉さんって。
「少し休んでいて。すぐに戻ってくるからね」
そういうと、そっと僕の頬に触れてから部屋を出ていった。
触れられた頬が熱い。
一体どうしてしまったんだろう、僕……。
< side征哉>
こうもうまく連れ出せるとは思わなかったな。
あまりにも素直すぎて心配になってしまうほどだ。
だが、奴が忍び込んでくる前にひかるを安全な場所に移動させることができる。
これで安心だ。
すぐにでも用意させないとな。
私はスマホを取り出し、母さんに電話をかけた。
ー母さん?
ーどうしたの? ひかるくんに何かあったの?
ーいや、今からひかるをうちに移すことにした。
ーえっ? どういうこと?
ー詳しい事情は後で話すからとりあえず受け入れ態勢を整えてほしい。今から、私の部屋から一番近い客間に医療用のベッドと機材を届けるから牧田に伝えてくれ。
ーわかったわ。すぐに整えるわ。準備が整ったら連絡するから。
ーああ、頼むよ。
そこからいろんな方面に連絡を入れ、我が家に医療用の特別なベッドを搬入させ、機材その他も運び入れ、ひかる受け入れの準備を整えさせた。
ここからひかるを我が家まで運ぶ車も手配したし、あとは病院側の手続きだけだな。
これは榎木先生に頼めばすぐに終わるだろう。
私は急いで榎木先生の部屋に向かった。
「今、いいか?」
ノックして中に入れば、
「何か進展がありましたか?」
とすぐに尋ねてくる。
ひかるのことを相当気にかけてくれていたみたいだな。
「有原くんから連絡来てないか?」
「えっ? 佳史が何か?」
「あのクズ男、よりにもよって有原くんの事務所に弁護を頼みに行ったらしい。示談金と慰謝料を自分が手に入れるにはどうしたらいいかって」
「はぁ? 佳史もまたおかしな男に絡まれたものだな」
「ああ、真面目だからちゃんと話を聞いてやった上で、受け取る権利は何もないどころか、警察に捕まると言ったら暴れて出て行ったそうだよ」
「暴れて? 佳史は大丈夫だったんですか?」
「ふふっ。そこが気になるか? 有原くんがあんな男にやられるわけないだろう。何も問題はないよ」
そう言ってやると安堵の表情を浮かべていた。
有原くんは有段者だし、たとえ襲われても返り討ちにできるほど強いのだが、恋人としてはやはり心配なのだな。
「それなら安心しました。それで、これからどうするんですか?」
「奴が病院に忍び込んでひかると接触する恐れが出てきたから、ひかるを安全な場所に移動させる」
「えっ? 移動させるって、ひかるくんはまだ絶対安静ですよ」
「それなら、我が家で面倒を見ることにしたから問題ない。今、ベッドや機材その他の準備も整えているからあと30分ほどで受け入れられるる。小児科医だった母もいるし、専属の看護師も手配する予定だからひかるにとってここにいる状態と変わらないだろう?」
「もうそこまで手配なさったんですか?」
榎木先生が驚くのも無理はない。
だが、私としては一分一秒も惜しいのだ。
「ああ、ひかるには心穏やかな場所で療養してほしいからな」
「征哉さんがそこまでお決めになっているのでしたら、こちらは反対もありません。主治医としてたまに診察に伺うことを許可いただければですが……」
「それならいつでもきてもらって構わないよ」
「わかりました。それでは退院と自宅療養の手続きをしますね」
「ああ、頼む」
「それにしてもいつの間に名前呼びになったんですか?」
「さっき病室で彼と話したんだよ。その時にな」
「なるほど」
榎木先生は何か言いたげな表情をしていたが、そのまま話は終わりすぐに手続きを終わらせてくれた。
征哉さんはそう言ったの?
「そんなこと……」
無理ですよ……そう言おうと思ったけれど、その前に征哉さんからの説明が入る。
「大丈夫、心配はいらないよ。こう見えて、私は医師の資格を持っている。外科医として仕事をしていた期間もあるんだ。だから何の問題もないよ。ひかるの療養先がここから我が家に変わるだけだ」
「征哉さん、お医者さんなんですか?」
「医師以外の仕事もしているけれどね」
「すごいです!」
「ふふっ。大したことはないが、そんなふうに褒めてもらえると嬉しくなるな」
征哉さんが笑顔を見せてくれるたびにドキドキしてしまうのはどうしてなんだろうな。
でも……ずっと見ていたいと思ってしまう。
「じゃあ、すぐに準備を整えてくるから少しだけ待っていてもらえるかな」
「えっ、は、はい」
征哉さんの笑顔に見惚れている間に、もう征哉さんのお家に移ることが決まってしまったみたいだ。
僕はここにいてもどこにいても結局は動けないのだし、ただ寝ているだけならどこに行っても一緒なんだろうけど、迷惑はかけないようにしないといけないな。
「ありがとう。ひかるが来てくれたら母が喜ぶよ」
「そんな……僕の方こそ嬉しいです。これからここでずっと一人だと覚悟していたので……」
「ひかるは一人じゃないよ」
「えっ?」
「私も母も、それに主治医の榎木先生もみんなひかるが元気に、そして幸せになれるように願ってる。だから、一人だなんて思わなくていい。私がこれからずっと君のことを支えるよ」
「征哉さん……」
「だから、ひかる……約束してくれ。決して一人で悩んだりしないって。必ず誰かに相談してくれ。できれば相談相手は私がいいが、言いにくければ母でも榎木先生でもいいよ」
征哉さんの真剣な目。
今まで誰がこうして僕のために真剣な目を向けてくれただろう……。
本当に僕は一人じゃないんだ。
嬉しいとか、ありがとうとか、伝えたい言葉はたくさんあるけれど、幸せな感情が込み上げてきて言葉も返せない。
ただ僕は何度も何度も頷くしかできなかった。
「ああ、ひかる。泣かないで。ごめん、怖かったかな?」
スッと征哉さんの親指で目元を拭われる。
泣いてなんてないのにと思っていたけれど、僕は知らない間に泣いていたみたいだ。
「ちが――っ、怖く、ないです……ただ、嬉しくて……」
「そうか、ならよかった」
本当に優しい人なんだな、征哉さんって。
「少し休んでいて。すぐに戻ってくるからね」
そういうと、そっと僕の頬に触れてから部屋を出ていった。
触れられた頬が熱い。
一体どうしてしまったんだろう、僕……。
< side征哉>
こうもうまく連れ出せるとは思わなかったな。
あまりにも素直すぎて心配になってしまうほどだ。
だが、奴が忍び込んでくる前にひかるを安全な場所に移動させることができる。
これで安心だ。
すぐにでも用意させないとな。
私はスマホを取り出し、母さんに電話をかけた。
ー母さん?
ーどうしたの? ひかるくんに何かあったの?
ーいや、今からひかるをうちに移すことにした。
ーえっ? どういうこと?
ー詳しい事情は後で話すからとりあえず受け入れ態勢を整えてほしい。今から、私の部屋から一番近い客間に医療用のベッドと機材を届けるから牧田に伝えてくれ。
ーわかったわ。すぐに整えるわ。準備が整ったら連絡するから。
ーああ、頼むよ。
そこからいろんな方面に連絡を入れ、我が家に医療用の特別なベッドを搬入させ、機材その他も運び入れ、ひかる受け入れの準備を整えさせた。
ここからひかるを我が家まで運ぶ車も手配したし、あとは病院側の手続きだけだな。
これは榎木先生に頼めばすぐに終わるだろう。
私は急いで榎木先生の部屋に向かった。
「今、いいか?」
ノックして中に入れば、
「何か進展がありましたか?」
とすぐに尋ねてくる。
ひかるのことを相当気にかけてくれていたみたいだな。
「有原くんから連絡来てないか?」
「えっ? 佳史が何か?」
「あのクズ男、よりにもよって有原くんの事務所に弁護を頼みに行ったらしい。示談金と慰謝料を自分が手に入れるにはどうしたらいいかって」
「はぁ? 佳史もまたおかしな男に絡まれたものだな」
「ああ、真面目だからちゃんと話を聞いてやった上で、受け取る権利は何もないどころか、警察に捕まると言ったら暴れて出て行ったそうだよ」
「暴れて? 佳史は大丈夫だったんですか?」
「ふふっ。そこが気になるか? 有原くんがあんな男にやられるわけないだろう。何も問題はないよ」
そう言ってやると安堵の表情を浮かべていた。
有原くんは有段者だし、たとえ襲われても返り討ちにできるほど強いのだが、恋人としてはやはり心配なのだな。
「それなら安心しました。それで、これからどうするんですか?」
「奴が病院に忍び込んでひかると接触する恐れが出てきたから、ひかるを安全な場所に移動させる」
「えっ? 移動させるって、ひかるくんはまだ絶対安静ですよ」
「それなら、我が家で面倒を見ることにしたから問題ない。今、ベッドや機材その他の準備も整えているからあと30分ほどで受け入れられるる。小児科医だった母もいるし、専属の看護師も手配する予定だからひかるにとってここにいる状態と変わらないだろう?」
「もうそこまで手配なさったんですか?」
榎木先生が驚くのも無理はない。
だが、私としては一分一秒も惜しいのだ。
「ああ、ひかるには心穏やかな場所で療養してほしいからな」
「征哉さんがそこまでお決めになっているのでしたら、こちらは反対もありません。主治医としてたまに診察に伺うことを許可いただければですが……」
「それならいつでもきてもらって構わないよ」
「わかりました。それでは退院と自宅療養の手続きをしますね」
「ああ、頼む」
「それにしてもいつの間に名前呼びになったんですか?」
「さっき病室で彼と話したんだよ。その時にな」
「なるほど」
榎木先生は何か言いたげな表情をしていたが、そのまま話は終わりすぐに手続きを終わらせてくれた。
814
お気に入りに追加
4,719
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
地味で冴えない俺の最高なポディション。
どらやき
BL
前髪は目までかかり、身長は160cm台。
オマケに丸い伊達メガネ。
高校2年生になった今でも俺は立派な陰キャとしてクラスの片隅にいる。
そして、今日も相変わらずクラスのイケメン男子達は尊い。
あぁ。やばい。イケメン×イケメンって最高。
俺のポディションは片隅に限るな。
兄弟がイケメンな件について。
どらやき
BL
平凡な俺とは違い、周りからの視線を集めまくる兄弟達。
「関わりたくないな」なんて、俺が一方的に思っても"一緒に居る"という選択肢しかない。
イケメン兄弟達に俺は今日も翻弄されます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる