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何も心配はいらない

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病院の機材ごと、僕を家に連れて行く?
征哉さんはそう言ったの?

「そんなこと……」

無理ですよ……そう言おうと思ったけれど、その前に征哉さんからの説明が入る。

「大丈夫、心配はいらないよ。こう見えて、私は医師の資格を持っている。外科医として仕事をしていた期間もあるんだ。だから何の問題もないよ。ひかるの療養先がここから我が家に変わるだけだ」

「征哉さん、お医者さんなんですか?」

「医師以外の仕事もしているけれどね」

「すごいです!」

「ふふっ。大したことはないが、そんなふうに褒めてもらえると嬉しくなるな」

征哉さんが笑顔を見せてくれるたびにドキドキしてしまうのはどうしてなんだろうな。
でも……ずっと見ていたいと思ってしまう。

「じゃあ、すぐに準備を整えてくるから少しだけ待っていてもらえるかな」

「えっ、は、はい」

征哉さんの笑顔に見惚れている間に、もう征哉さんのお家に移ることが決まってしまったみたいだ。
僕はここにいてもどこにいても結局は動けないのだし、ただ寝ているだけならどこに行っても一緒なんだろうけど、迷惑はかけないようにしないといけないな。

「ありがとう。ひかるが来てくれたら母が喜ぶよ」

「そんな……僕の方こそ嬉しいです。これからここでずっと一人だと覚悟していたので……」

「ひかるは一人じゃないよ」

「えっ?」

「私も母も、それに主治医の榎木先生もみんなひかるが元気に、そして幸せになれるように願ってる。だから、一人だなんて思わなくていい。私がこれからずっと君のことを支えるよ」

「征哉さん……」

「だから、ひかる……約束してくれ。決して一人で悩んだりしないって。必ず誰かに相談してくれ。できれば相談相手は私がいいが、言いにくければ母でも榎木先生でもいいよ」

征哉さんの真剣な目。
今まで誰がこうして僕のために真剣な目を向けてくれただろう……。

本当に僕は一人じゃないんだ。

嬉しいとか、ありがとうとか、伝えたい言葉はたくさんあるけれど、幸せな感情が込み上げてきて言葉も返せない。
ただ僕は何度も何度も頷くしかできなかった。

「ああ、ひかる。泣かないで。ごめん、怖かったかな?」

スッと征哉さんの親指で目元を拭われる。
泣いてなんてないのにと思っていたけれど、僕は知らない間に泣いていたみたいだ。

「ちが――っ、怖く、ないです……ただ、嬉しくて……」

「そうか、ならよかった」

本当に優しい人なんだな、征哉さんって。

「少し休んでいて。すぐに戻ってくるからね」

そういうと、そっと僕の頬に触れてから部屋を出ていった。

触れられた頬が熱い。

一体どうしてしまったんだろう、僕……。


< side征哉>

こうもうまく連れ出せるとは思わなかったな。
あまりにも素直すぎて心配になってしまうほどだ。

だが、奴が忍び込んでくる前にひかるを安全な場所に移動させることができる。
これで安心だ。

すぐにでも用意させないとな。
私はスマホを取り出し、母さんに電話をかけた。


ー母さん?

ーどうしたの? ひかるくんに何かあったの?

ーいや、今からひかるをうちに移すことにした。

ーえっ? どういうこと?

ー詳しい事情は後で話すからとりあえず受け入れ態勢を整えてほしい。今から、私の部屋から一番近い客間に医療用のベッドと機材を届けるから牧田まきたに伝えてくれ。

ーわかったわ。すぐに整えるわ。準備が整ったら連絡するから。

ーああ、頼むよ。

そこからいろんな方面に連絡を入れ、我が家に医療用の特別なベッドを搬入させ、機材その他も運び入れ、ひかる受け入れの準備を整えさせた。

ここからひかるを我が家まで運ぶ車も手配したし、あとは病院側の手続きだけだな。
これは榎木先生に頼めばすぐに終わるだろう。

私は急いで榎木先生の部屋に向かった。

「今、いいか?」

ノックして中に入れば、

「何か進展がありましたか?」

とすぐに尋ねてくる。
ひかるのことを相当気にかけてくれていたみたいだな。

「有原くんから連絡来てないか?」

「えっ? 佳史が何か?」

「あのクズ男、よりにもよって有原くんの事務所に弁護を頼みに行ったらしい。示談金と慰謝料を自分が手に入れるにはどうしたらいいかって」

「はぁ? 佳史もまたおかしな男に絡まれたものだな」

「ああ、真面目だからちゃんと話を聞いてやった上で、受け取る権利は何もないどころか、警察に捕まると言ったら暴れて出て行ったそうだよ」

「暴れて? 佳史は大丈夫だったんですか?」

「ふふっ。そこが気になるか? 有原くんがあんな男にやられるわけないだろう。何も問題はないよ」

そう言ってやると安堵の表情を浮かべていた。

有原くんは有段者だし、たとえ襲われても返り討ちにできるほど強いのだが、恋人としてはやはり心配なのだな。

「それなら安心しました。それで、これからどうするんですか?」

「奴が病院に忍び込んでひかると接触する恐れが出てきたから、ひかるを安全な場所に移動させる」

「えっ? 移動させるって、ひかるくんはまだ絶対安静ですよ」

「それなら、我が家で面倒を見ることにしたから問題ない。今、ベッドや機材その他の準備も整えているからあと30分ほどで受け入れられるる。小児科医だった母もいるし、専属の看護師も手配する予定だからひかるにとってここにいる状態と変わらないだろう?」

「もうそこまで手配なさったんですか?」

榎木先生が驚くのも無理はない。
だが、私としては一分一秒も惜しいのだ。

「ああ、ひかるには心穏やかな場所で療養してほしいからな」

「征哉さんがそこまでお決めになっているのでしたら、こちらは反対もありません。主治医としてたまに診察に伺うことを許可いただければですが……」

「それならいつでもきてもらって構わないよ」

「わかりました。それでは退院と自宅療養の手続きをしますね」

「ああ、頼む」

「それにしてもいつの間に名前呼びになったんですか?」

「さっき病室で彼と話したんだよ。その時にな」

「なるほど」

榎木先生は何か言いたげな表情をしていたが、そのまま話は終わりすぐに手続きを終わらせてくれた。
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