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彼のお願い
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<sideひかる>
夢の中で誰かが僕の頬に優しく触れる。
この優しくて大きな手は一体誰だろう?
でもものすごく安心する。
今まで誰からもこんなふうに触れられたことなんてなかったからかな。
目が覚めると、頭がスッキリしていることに気づく。
これまでずっとモヤがかかっていたように見えていた目も今ははっきり見える気がする。
そんなスッキリした頭で考える。
ここどこだっけ。
身体を動かそうとしてズキッと痛みを感じて一瞬で思い出す。
ああ、そうだ。
ここは病院だ。
なぜか視線を感じて、そっちに目を向けるとスーツを着た長身の男性が僕を見下ろしているのが見えた。
えっ……
「だ、れ……?」
思わず心の中の声が漏れてしまった。
白衣を着ていないからお医者さんじゃない。
じゃあ、この人は一体?
彼は僕の言葉に一瞬驚いていたようだったけれど、
「驚かせてごめんね」
と優しい笑顔を見せてくれた。
「少し君と話がしたいんだが、体調はどうかな? まだ眠るなら話は後にしよう」
こんなふうに僕を気遣ってくれた人なんて、今まで誰もいなかった。
この人、すごく優しい人なのかも。
「だい、じょうぶです……」
「そうか。なら疲れるといけないから、少しだけ話をさせてもらうね」
そういうと、ベッド脇に置かれていた椅子に腰を下ろした。
「これなら、君と話しやすい」
そんな優しい笑顔に気づけば僕も笑っていた。
「ああ、君は笑顔も可愛いね」
「――っ、そんなこと……初めて、言われました……」
「そうなのか? 君の魅力に気づかないなんて勿体無いな」
「――っ!!」
そんなふうに褒められるなんてこと自体初めてで、どう返していいのかわからない。
彼が嘘をついているように見えないのが余計に恥ずかしかった。
「あまり長居をして疲れさせてしまうといけないから、そろそろ本題に入るね。私は貴船征哉。君が助けてくれたのは私の母だよ」
「えっ、貴船さんの……息子さんって、いうことですか?」
「ああ、そうだ。君は母の命を救ってくれた恩人なんだよ。だが、君に大怪我をさせてしまったことが申し訳なくてね」
「そんなこと――っ、僕はただ貴船さんが無事だっただけで、本当に嬉しかったので……だから、気にしないでください。僕が怪我しても誰も悲しむ人なんていないけれど、貴船さんが怪我をしたらあなたが悲しむでしょう? あなたを悲しませないことができただけで、僕は幸せなんです」
あの時、トラックに轢かれた時もなんとか無事でいてほしいってずっと思ってた。
貴船さんがもし怪我をしていたら、今頃きっと彼の顔はもっと曇っていたはずだから。
僕は彼の笑顔を見られただけで、本当に幸せなんだ。
「――っ、君は……っ、どうしてそんなに……」
彼の顔が少し苦しげに見えて不安になる。
「僕、変なことを言っちゃいましたか? すみません」
「違うんだ。君のような心優しい子に母を救ってもらって、感謝しているんだよ」
「心優しいなんて……ありがとうございます」
人から感謝されるって、嬉しいものなんだな。
「君にお礼がしたいんだが、何か欲しいものはないかな?」
「お礼? そんなの要りません。僕、お礼が欲しくて貴船さんを助けたわけじゃないですから」
感謝されるだけで嬉しいのに、それ以上にお礼なんて……僕には必要ない。
「ふふっ。君ならそう言うと思ったよ」
「えっ……」
「榎木先生から聞いたんだ。君が自分の怪我のことよりも母の安否を気遣っていたとね。本気で母のことを想ってくれていたんだって私は本当に嬉しかったんだよ」
「貴船さん……」
「ああ、私のことは征哉でいい。母も同じ貴船だから紛らわしいだろう?」
確かに言われてみればそうだ。
「は、はい。あの、じゃあ……征哉、さん……」
「ふふっ。呼び捨てでも構わないが、まぁ今はそれでいいよ。君のことはひかるくんと呼んでいいかな?」
「は、はい。僕のほうこそ、別に呼び捨てでも……」
「じゃあそうさせてもらおうかな。ひかる」
「――っ!!!」
にっこりと微笑みながら、名前を呼ばれただけなのになんでこんなにドキドキしているんだろう?
自分で自分がわからない。
「名前で呼ぶと、距離が縮まった気がするな」
「は、はい。そう、ですね……」
いや、縮まりすぎてドキドキが止まらないんだけど……。
「ひかるに欲しいものがないんだったら、私からいくつかお願いをしてもいいかな?」
「僕に、お願い? はい、僕にできることならなんでもしますけど……」
「――っ、この子は危ないな……」
「えっ? 今、なんて言ったんですか?」
征哉さんがボソリと何かを呟いたけれど、よく聞こえなかった。
「ああ、独り言だから気にしないでいい。それよりもお願いなんだが、明日から母の相手をしてもらえないだろうか?」
「えっ? 貴船さんの?」
「ああ、転んだ時に足を捻ったらしくて、あまり出歩けないものだから、うちに来て母の話し相手になって欲しいんだ」
「えっ、でも……僕、動けないのに……」
「それなら何の問題もない。病院の機材ごと、ひかるくんを我が家に連れて行くから」
「えっ?」
一瞬何を言われたのかわからずに僕は思わず声を上げてしまった。
夢の中で誰かが僕の頬に優しく触れる。
この優しくて大きな手は一体誰だろう?
でもものすごく安心する。
今まで誰からもこんなふうに触れられたことなんてなかったからかな。
目が覚めると、頭がスッキリしていることに気づく。
これまでずっとモヤがかかっていたように見えていた目も今ははっきり見える気がする。
そんなスッキリした頭で考える。
ここどこだっけ。
身体を動かそうとしてズキッと痛みを感じて一瞬で思い出す。
ああ、そうだ。
ここは病院だ。
なぜか視線を感じて、そっちに目を向けるとスーツを着た長身の男性が僕を見下ろしているのが見えた。
えっ……
「だ、れ……?」
思わず心の中の声が漏れてしまった。
白衣を着ていないからお医者さんじゃない。
じゃあ、この人は一体?
彼は僕の言葉に一瞬驚いていたようだったけれど、
「驚かせてごめんね」
と優しい笑顔を見せてくれた。
「少し君と話がしたいんだが、体調はどうかな? まだ眠るなら話は後にしよう」
こんなふうに僕を気遣ってくれた人なんて、今まで誰もいなかった。
この人、すごく優しい人なのかも。
「だい、じょうぶです……」
「そうか。なら疲れるといけないから、少しだけ話をさせてもらうね」
そういうと、ベッド脇に置かれていた椅子に腰を下ろした。
「これなら、君と話しやすい」
そんな優しい笑顔に気づけば僕も笑っていた。
「ああ、君は笑顔も可愛いね」
「――っ、そんなこと……初めて、言われました……」
「そうなのか? 君の魅力に気づかないなんて勿体無いな」
「――っ!!」
そんなふうに褒められるなんてこと自体初めてで、どう返していいのかわからない。
彼が嘘をついているように見えないのが余計に恥ずかしかった。
「あまり長居をして疲れさせてしまうといけないから、そろそろ本題に入るね。私は貴船征哉。君が助けてくれたのは私の母だよ」
「えっ、貴船さんの……息子さんって、いうことですか?」
「ああ、そうだ。君は母の命を救ってくれた恩人なんだよ。だが、君に大怪我をさせてしまったことが申し訳なくてね」
「そんなこと――っ、僕はただ貴船さんが無事だっただけで、本当に嬉しかったので……だから、気にしないでください。僕が怪我しても誰も悲しむ人なんていないけれど、貴船さんが怪我をしたらあなたが悲しむでしょう? あなたを悲しませないことができただけで、僕は幸せなんです」
あの時、トラックに轢かれた時もなんとか無事でいてほしいってずっと思ってた。
貴船さんがもし怪我をしていたら、今頃きっと彼の顔はもっと曇っていたはずだから。
僕は彼の笑顔を見られただけで、本当に幸せなんだ。
「――っ、君は……っ、どうしてそんなに……」
彼の顔が少し苦しげに見えて不安になる。
「僕、変なことを言っちゃいましたか? すみません」
「違うんだ。君のような心優しい子に母を救ってもらって、感謝しているんだよ」
「心優しいなんて……ありがとうございます」
人から感謝されるって、嬉しいものなんだな。
「君にお礼がしたいんだが、何か欲しいものはないかな?」
「お礼? そんなの要りません。僕、お礼が欲しくて貴船さんを助けたわけじゃないですから」
感謝されるだけで嬉しいのに、それ以上にお礼なんて……僕には必要ない。
「ふふっ。君ならそう言うと思ったよ」
「えっ……」
「榎木先生から聞いたんだ。君が自分の怪我のことよりも母の安否を気遣っていたとね。本気で母のことを想ってくれていたんだって私は本当に嬉しかったんだよ」
「貴船さん……」
「ああ、私のことは征哉でいい。母も同じ貴船だから紛らわしいだろう?」
確かに言われてみればそうだ。
「は、はい。あの、じゃあ……征哉、さん……」
「ふふっ。呼び捨てでも構わないが、まぁ今はそれでいいよ。君のことはひかるくんと呼んでいいかな?」
「は、はい。僕のほうこそ、別に呼び捨てでも……」
「じゃあそうさせてもらおうかな。ひかる」
「――っ!!!」
にっこりと微笑みながら、名前を呼ばれただけなのになんでこんなにドキドキしているんだろう?
自分で自分がわからない。
「名前で呼ぶと、距離が縮まった気がするな」
「は、はい。そう、ですね……」
いや、縮まりすぎてドキドキが止まらないんだけど……。
「ひかるに欲しいものがないんだったら、私からいくつかお願いをしてもいいかな?」
「僕に、お願い? はい、僕にできることならなんでもしますけど……」
「――っ、この子は危ないな……」
「えっ? 今、なんて言ったんですか?」
征哉さんがボソリと何かを呟いたけれど、よく聞こえなかった。
「ああ、独り言だから気にしないでいい。それよりもお願いなんだが、明日から母の相手をしてもらえないだろうか?」
「えっ? 貴船さんの?」
「ああ、転んだ時に足を捻ったらしくて、あまり出歩けないものだから、うちに来て母の話し相手になって欲しいんだ」
「えっ、でも……僕、動けないのに……」
「それなら何の問題もない。病院の機材ごと、ひかるくんを我が家に連れて行くから」
「えっ?」
一瞬何を言われたのかわからずに僕は思わず声を上げてしまった。
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