歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています

波木真帆

文字の大きさ
上 下
5 / 291

彼を守ろう!

しおりを挟む
<side榎木医師>

彼が18だと言った時は信じられなかった。
彼の発育状態から見て、どう贔屓目に見たって15、6……。

身元を表すようなものを何ひとつ持っていないばかりか、今時の子なのに携帯の使い方も知らない。

養父母の元に電話をかけ交通事故に遭って手術までしたと説明したというのに、心配するどころか入院などしなくていいからすぐに帰って働けとさえ言ってくる。
しかもそもそも労働力として置いていただけで養子でもないと言い切られ、彼はどれだけ辛かったことだろう。

せめてもの救いは助けた相手が貴船さんだったということ。

未知子さんのご実家は元華族で、世が世なら国を治める家柄を持つお方だ。
そして、この聖ラグエル病院を創設の折に資金援助してくださった貴船コンツェルンの総帥、故・貴船玄哉とうやさんの奥さまでもある。

玄哉さん亡き後、貴船コンツェルンの跡を継がれたのが息子の征哉さん。
彼は弁護士資格と医師の資格も持つ、我々には考えられないほどの才能を持っているお方だ。

その二人が彼の身元引受人になったのだから、たとえ彼が養父母のいた家を追い出されたとしても何の問題もないだろう。
いや、そもそも戸籍にも入れていないと言っていたから、彼にとっては養父母でもない赤の他人だ。
今のうちに追い出されて正解だったのかもしれない。

なんせ、あんなクズな発言をする奴らのことだ。
どこかで彼がこの病院で高待遇を受けているのを知ったら、さも養父母であるかのような顔をして、ここにやってくるかもしれない。

決して彼には会わせないように病院中に周知させておかないとな。
なんと言っても奴らに会うことは、彼の負担にしかならないのだから。
ここでゆっくりと静養して心と身体の健康を取り戻すとしよう。


「ねぇ、榎木先生。あの子は今まで一体どんな生活をしてきたのかしら? 果物も知らない。ベッドにも寝たことがないなんて……」

「実はさっき、貴船さんが来られる前にあの子の両親という人たちと電話で話をしたんですが――」
「先生、貴船さんがお越しになりました」

と貴船さんにさっきの出来事を話そうとしたタイミングで征哉さんが来られたと看護師から連絡が入った。
ちょうどいい。
一緒に話を聞いてもらおう。

「ああ、中に入ってもらってくれ」

それからすぐに征哉さんが部屋にやってきた。

「彼が目を覚ましたと聞いて部屋を覗いたんだが、眠っていたようだったのでこちらに来させてもらった」

「ええ。そうなんです。先ほど目を覚ましてお母さまとお話になりましたよ。少し疲れていた様子でしたので、今はゆっくり休ませています」

「そうか。それで、彼はどこの誰かわかったのか? 警察の方でもまだ身元が判明していないようだったが」

「ええ。彼に話を聞きました。彼は佐伯ひかるくん。事故現場近くに住む18歳です」

「えっ? 18歳? とてもそんな年には見えなかったわ」

貴船さんが驚くのも当然だ。
私でさえ、彼が18だなんて信じられないのだから。

「ひかるくんはどこかの児童福祉施設で育ったようです。そして、今は商店街にある定食屋……確か満腹食堂と言っていましたね、そこの夫婦に引き取られたようですが、彼らはひかるくんを養子として迎えておきながら、実は養子縁組をしておらず、単なる労働力として店でタダ働きをさせていたようです」

「なんだと?! そんな酷いことを……」

「さっき、ひかるくんが事故にあったから話を聞きにきて欲しいと連絡を入れたら、働けなくなったやつはお荷物だからそっちで勝手にやってくれと、本当に酷い言い草でしたよ」

「あんなに良い子がなんて酷い目に……」

貴船さんはひかるくんを思いやって涙を流している。

「そいつらとの会話は?」

「もちろん、録音済みですよ。ひかるくんへの虐待の疑いもありましたから証拠として録っておいたんです。ひかるくんが日常的に食事を与えられていない証拠もきちんと纏めておきました」

「さすが榎木先生。ではその証拠を全て私に送ってくれ」

「わかりました」

「それから、しばらくの間は彼の部屋には誰も近づけさせないように。いいか?」

「それはもちろんお約束します」

私の返事に頷きつつも、征哉さんの目の奥には怒りが見えた。
よほど奴らの所業に腹を立てているようだ。

正直に言って、ここまで感情移入されるとは思わなかったが何か思うところがあるのかもしれない。

「ねぇ、征哉。私にも何かできることはないかしら?」

「母さんには彼の話し相手になってもらおう。それで、できるだけさりげなくいろんな話を聞き出してほしい」

「ええ。わかったわ。任せてちょうだい」

「あっ、でも母さんも足を怪我しているんだから無理はしないように」

「ふふっ。こんなのひかるくんの傷に比べたら大したことはないわ。しっかり手当もしてもらっているし、心配しないで大丈夫よ」

このお二人がタッグを組めば、ひかるくんも安心だな。

<side征哉>

あれからすぐに警察に話を聞きにいった。
弁護士バッジをかざし、彼から依頼された弁護士で、身元引受人にもなっていることを伝えれば、事故当時の全ての情報を聞き出すことができた。

が、彼の身元については警察でもまだ把握できずにいるようだ。
近隣の学校などにも照会したが、彼に該当する生徒は見つからなかったそうで、今は範囲を広げて調査中との回答だった。

うーん、母さんの話では中学生か、高校生くらいということだったからすぐに身元も割れると思ったが……。
母さんが見誤るなんてことはないはずだが……もしかして、著しく成長が遅れているのか?

とりあえず事故の詳細と、彼を轢き現行犯逮捕されたトラック運転手、そして彼の仕事先の情報を手に入れ、急いで病院に戻った。

そろそろ目を覚ましているかもしれない。
そんな期待を胸に彼のいる病棟に向かった。

「ああ、あの患者さんなら先ほど目を覚まされて、先生とお話をされていましたよ」

彼が目を覚ました。
そう言われて、なぜか胸が高鳴る。
そんな自分の感情に戸惑いつつも、母さんを助けてくれた恩人だからだと言い聞かせる。

そうだ、彼にお礼が言いたいんだ。

珍しく緊張しながら、彼がいる特別室の扉を叩くが返答がない。

不安を覚え、そっと扉を開いて中に入るとベッドの小さな膨らみが見えた。

本当に小さいな。
やはり中学生か? 

私が入ってきても微動だにしないところを見ると、寝ているのか?

起こさないようにゆっくり顔の見える位置に足を進めると、

「――っ!!!」

彼を一目見てさらに胸が高鳴る自分がいた。
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...