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命があっただけで
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「くそっ! なんて奴らだ!」
先生は僕のことを思って怒ってくれてる。
それだけが今の僕には何よりの救いだった。
「あの……僕、ここを出ていきます。入院なんてできません」
「何言ってるんだ! 君は動ける状態じゃないんだよ」
「でも……僕、ずっとタダ働きでお金も持ってなくて……入院費なんてとても……」
「タダ働き? いや、それよりも、入院費のことは心配しなくていいよ」
「えっ? 心配しなくていいってどういうことですか?」
そう尋ねたけれど、先生はニコッと優しい笑顔を向けるだけで、何も答えなかった。
その代わりに
「君が一生懸命助けたあの方が、君が目を覚ましたらお礼が言いたいって仰って、部屋の外で待っていらっしゃるんだよ」
と教えてくれた。
「あの人が?」
「ああ。君のことすごく心配していたから、呼んでもいいかな?」
「あ、はい。あの、あの人は元気なんですか?」
「ああ。君が守ったからね。最初に転んだ時に捻った足以外に怪我はなかったよ」
「そうですか……ああ、よかったぁー」
きっとあの人には大事な家族がいる。
その家族の人たちを悲しませずに済んで本当によかった。
「君は……」
「えっ?」
「あ、いや。すぐに呼んでくるよ」
部屋を出て行った先生はすぐにあの和服のあの人を連れて戻ってきた。
「ああっ! 本当に目を覚ましてよかった!!」
「――っ!!!」
初めて人に優しく抱きしめられた気がする。
人って、こんなにあったかいものなんだな。
「ごめんなさい! 私のせいであなたに痛い思いをさせてしまって本当にごめんなさい」
「い、いえ。あなたのせいなんかじゃないです。僕は助けられただけで幸せですから……」
「まぁ、なんて優しい子なのかしら。あなたのお名前を聞いてもいいかしら?」
「えっ、はい。僕、佐伯ひかるです」
「ひかるくんね。まぁ、なんて可愛らしい名前なんでしょう。すごく似合ってるわ」
「――っ、そんなこと……っ、言われたの、初めてです」
「そうなの? あなたみたいに可愛い子見たことないのに」
にこやかな笑顔を向けられながら、そんなに褒められると照れてしまう。
「あのね、ひかるくん。この貴船さんが君の治療費を払ってくださったんだ」
「えっ? おばあさんが? そんな……っ、悪いです」
「何を言っているの? ひかるくんは私を庇って怪我をしたのだから、私が払うのが当然なの。だから気にしないでゆっくり治してちょうだい」
「あの、僕は……一体どういう状態なんですか?」
足も身体もとてつもなく痛いし、歩けないかもしれないって聞いたけど、実際に自分がどうなっているのか全くわからないのが不安なんだ。
「ひかるくんは事故の際に右足をトラックに轢かれて粉砕骨折してしまったんだ。痛くて動かせないのはそのせいだよ。とりあえず手術で骨を固定しているけれど、当分は絶対安静にしないといけないよ。骨がくっついてから少しずつリハビリに入るかな。それでも以前のように歩いたり、走ったりできるようになる可能性はかなり低い。でも命があっただけ、本当に幸運だったんだよ」
やっぱり元のようには歩けないんだ……。
それならお荷物だと言われても仕方がない。
「まぁ、なんてこと……ひかるくん……本当にごめんなさいね。私、どうやってあなたに償ったらいいか……」
「そんな……っ、あなたは何も悪くないですよ。僕は助けられて嬉しかったんです。僕は歩けなくなっても悲しんでくれる人なんていませんから」
「ひかるくん……」
「それに、先生もおっしゃってましたけど、命があっただけ幸運です。こうしてあなたが元気だって知ることができましたから」
そう。
この人が怪我をしていたら、きっと悲しむ人もいっぱいいたはず。
僕なら誰も悲しまない。
それでよかったんだ。
「本当になんて優しい子なのかしら。ありがとう。ここではゆっくりと休んでちょうだい。しっかり治して、一緒にリハビリを頑張りましょう」
「はい。今までこんなベッドに寝たこともないので、なんだかちょっとワクワクします」
「ひかるくん……」
潤んだ瞳で見つめられる。
僕をこんな優しい目で見てくれた人なんて今までいなかったから、照れちゃうな。
「さぁ、貴船さん。ひかるくんを少し休ませてあげてください」
「ええ、そうね。また明日来るわ。ひかるくん、何か好きなものはあるかしら?」
「好きなもの、ですか?」
何を聞かれているんだろう?
なんて答えたらいい?
「そう。メロンとか桃とか、お菓子とか……榎木先生。食べさせたらダメなものはあるかしら?」
「いえ。念のためにアレルギー検査もしましたが、特に反応はありませんでした。怪我で入院ですから、特にありませんよ」
「そう、よかったわ。ひかるくん、何が好き?」
「あ、あの……僕、どれも食べたことがないので……」
「えっ? そう。じゃあ、私のおすすめを持ってくるわ」
にっこり笑って、先生と一緒に部屋を出て行った。
看護師さんに鎮痛剤というのを貰って飲むと、すぐに眠たくなってきた。
そしてそのまま僕は眠ってしまっていた。
先生は僕のことを思って怒ってくれてる。
それだけが今の僕には何よりの救いだった。
「あの……僕、ここを出ていきます。入院なんてできません」
「何言ってるんだ! 君は動ける状態じゃないんだよ」
「でも……僕、ずっとタダ働きでお金も持ってなくて……入院費なんてとても……」
「タダ働き? いや、それよりも、入院費のことは心配しなくていいよ」
「えっ? 心配しなくていいってどういうことですか?」
そう尋ねたけれど、先生はニコッと優しい笑顔を向けるだけで、何も答えなかった。
その代わりに
「君が一生懸命助けたあの方が、君が目を覚ましたらお礼が言いたいって仰って、部屋の外で待っていらっしゃるんだよ」
と教えてくれた。
「あの人が?」
「ああ。君のことすごく心配していたから、呼んでもいいかな?」
「あ、はい。あの、あの人は元気なんですか?」
「ああ。君が守ったからね。最初に転んだ時に捻った足以外に怪我はなかったよ」
「そうですか……ああ、よかったぁー」
きっとあの人には大事な家族がいる。
その家族の人たちを悲しませずに済んで本当によかった。
「君は……」
「えっ?」
「あ、いや。すぐに呼んでくるよ」
部屋を出て行った先生はすぐにあの和服のあの人を連れて戻ってきた。
「ああっ! 本当に目を覚ましてよかった!!」
「――っ!!!」
初めて人に優しく抱きしめられた気がする。
人って、こんなにあったかいものなんだな。
「ごめんなさい! 私のせいであなたに痛い思いをさせてしまって本当にごめんなさい」
「い、いえ。あなたのせいなんかじゃないです。僕は助けられただけで幸せですから……」
「まぁ、なんて優しい子なのかしら。あなたのお名前を聞いてもいいかしら?」
「えっ、はい。僕、佐伯ひかるです」
「ひかるくんね。まぁ、なんて可愛らしい名前なんでしょう。すごく似合ってるわ」
「――っ、そんなこと……っ、言われたの、初めてです」
「そうなの? あなたみたいに可愛い子見たことないのに」
にこやかな笑顔を向けられながら、そんなに褒められると照れてしまう。
「あのね、ひかるくん。この貴船さんが君の治療費を払ってくださったんだ」
「えっ? おばあさんが? そんな……っ、悪いです」
「何を言っているの? ひかるくんは私を庇って怪我をしたのだから、私が払うのが当然なの。だから気にしないでゆっくり治してちょうだい」
「あの、僕は……一体どういう状態なんですか?」
足も身体もとてつもなく痛いし、歩けないかもしれないって聞いたけど、実際に自分がどうなっているのか全くわからないのが不安なんだ。
「ひかるくんは事故の際に右足をトラックに轢かれて粉砕骨折してしまったんだ。痛くて動かせないのはそのせいだよ。とりあえず手術で骨を固定しているけれど、当分は絶対安静にしないといけないよ。骨がくっついてから少しずつリハビリに入るかな。それでも以前のように歩いたり、走ったりできるようになる可能性はかなり低い。でも命があっただけ、本当に幸運だったんだよ」
やっぱり元のようには歩けないんだ……。
それならお荷物だと言われても仕方がない。
「まぁ、なんてこと……ひかるくん……本当にごめんなさいね。私、どうやってあなたに償ったらいいか……」
「そんな……っ、あなたは何も悪くないですよ。僕は助けられて嬉しかったんです。僕は歩けなくなっても悲しんでくれる人なんていませんから」
「ひかるくん……」
「それに、先生もおっしゃってましたけど、命があっただけ幸運です。こうしてあなたが元気だって知ることができましたから」
そう。
この人が怪我をしていたら、きっと悲しむ人もいっぱいいたはず。
僕なら誰も悲しまない。
それでよかったんだ。
「本当になんて優しい子なのかしら。ありがとう。ここではゆっくりと休んでちょうだい。しっかり治して、一緒にリハビリを頑張りましょう」
「はい。今までこんなベッドに寝たこともないので、なんだかちょっとワクワクします」
「ひかるくん……」
潤んだ瞳で見つめられる。
僕をこんな優しい目で見てくれた人なんて今までいなかったから、照れちゃうな。
「さぁ、貴船さん。ひかるくんを少し休ませてあげてください」
「ええ、そうね。また明日来るわ。ひかるくん、何か好きなものはあるかしら?」
「好きなもの、ですか?」
何を聞かれているんだろう?
なんて答えたらいい?
「そう。メロンとか桃とか、お菓子とか……榎木先生。食べさせたらダメなものはあるかしら?」
「いえ。念のためにアレルギー検査もしましたが、特に反応はありませんでした。怪我で入院ですから、特にありませんよ」
「そう、よかったわ。ひかるくん、何が好き?」
「あ、あの……僕、どれも食べたことがないので……」
「えっ? そう。じゃあ、私のおすすめを持ってくるわ」
にっこり笑って、先生と一緒に部屋を出て行った。
看護師さんに鎮痛剤というのを貰って飲むと、すぐに眠たくなってきた。
そしてそのまま僕は眠ってしまっていた。
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