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彼との出会い <side征輝>

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まさか、彼をこの腕に抱けるなんて……。
私はなんて幸せなのだろう。


彼と出会ったのは1週間ほど前。
とある珈琲店に立ち寄った時だった。

休憩をしにいつも立ち寄る珈琲店が満席で、仕方なく少し離れた珈琲店に足を踏み入れた。
ここは年齢層が少し低めで休憩をするには少し騒がしいのだけど、味は悪くない。

今日のおすすめのブレンドコーヒーを注文してテラス席に座っていると、隣のテーブルに大学生の二人連れが座った。
少しチャラめの今時の大学生といった感じの男が一方的に話すのを、もう一人は途中でうまく相槌を打ちながら聴き役に徹していた。


「今日の相手はかなりくたびれたおっさんでさ、仕事で失敗したから癒してほしいとか言ってきて本当にうざかったんだけど、羽振りだけはよくてさ。これ、買ってもらったんだ」

「あ、これ。司が欲しがってた時計だよね。よかったね」

「なぁ、史希も一緒にバイトしようぜ。お前、人気出そうだから欲しいものなんでも買ってもらえるし」

「うーん、でも僕……知らない人と話すの苦手だし。司の話聞いてる方が楽しいよ」

「そうか? まぁ、でもやりたくなったらいつでも言ってくれよ」

「うん、ありがとう。ところで次の講義のレポートだけど……」



友達の誘いも断りつつ、うまく話題を変えたな。
意外とこういう子って本当に人との関係性を保つの上手なんだよな。

私はそんな彼に興味を持って、さりげなくを装って彼の顔を見た瞬間……一目惚れしたんだ。
あまりの衝撃に思わず机に足をぶつけてしまい、ガタッと大きな音を立ててしまった。

「あっ、大丈夫ですか?」

「あ、ああ。うるさくして申し訳ない」

「いいえ。僕たちの方が騒いでいたと思いますので、お気になさらず」

そう言ってにっこりを笑顔を向けてくれた。

「くっ――!」

ドクドクと鼓動が早まる。
ああ、私はなんでこんなにも緊張しているんだ?

こんなこと、本当に初めてだ。

「あっと、司、ごめん。僕、バイトの時間もうすぐだから先に行くね」

「ああ、また明日な。バイト、気をつけろよ」

「うん、ありがと」

そう言って立ち去っていく彼をどうすることもできずに見つめていると、

「すみません、ちょっといいですか?」

と彼と一緒にいた男に声をかけられた。
突然の声かけに訝しみながら、

「何か?」

と返すと、彼はニヤリと笑って自分のコーヒーと荷物を持って私の向かいに腰を下ろした。

「ふふっ。あなた、史希に興味持ったんじゃないですか?」

「えっ?」

「よかったら俺、協力しますよ」

この子はあの子の友達じゃないのか?
どう見ても怪しげな物言いに眉を顰める。

「何が目的なんだ?」

「ああ、心配しないでください。俺はただ史希を守りたい、それだけなんです」

「守りたい? どういうことなんだ?」

彼の意図が全く見えずわけがわからない。
彼はそんな私を安心させるように笑顔で鞄から学生証を取り出して私の目の前に置き、話し始めた。

「俺、高崎司って言います。史希とは大学に入ってからのダチなんですけど、実は、あいつの小学校から高校までの親友の野上のがみ将人まさとは俺の従兄弟なんです。それで、大学で九州から出てくる時に将人から史希を守ってほしいって言われたんです。史希、あっちでもかなり人気で……ああ、男にも女にもね。だけど、あいつ自身無自覚っつうか、純粋っつうか、誰からの好意にも気づかないし、だけど会う人会う人興味を持たせちゃって……まぁ、人たらしってやつですね。本当に危なくって、クラスで将人を中心にみんなであいつを守ってたらしいんですよ。でも、大学で一人暮らしするってことになって……それで将人が心配して俺に連絡してきたんです。最初は俺も将人がかなり大袈裟に言ってるって思ってたんですけど本当マジやばくて……。ニコイチで行動して牽制しまくって、あいつに興味持つやつ全部俺がかっさらってあいつに近づかないようにしてたんですけど、俺も本気で好きな子できちゃって……さすがに守るのも難しくなってきたんですよ」

彼の本気の表情が大変さを如実に表していて、彼の言っていることに嘘はなさそうだと思った。

「じゃあさっき、彼と話してたバイトは?」

「ああ、やっぱ聞いてました? 俺がパパ活始めたのはあいつに包容力のある男見つけるためなんですよ。どう見たってあいつは女を守るってタイプじゃないし、男でも同年代や年下ってタイプじゃないでしょ? 年上であいつをちゃんと守れる優しい男が似合ってるんですよ。あいつを守るには金も立場も必要だし、だから金持ちが集まるパパ活サイトであいつに似合う男探してたんですよ。今回のやつはイマイチでしたけど、割といい男が揃ってるっ聞いたんで、そろそろ史希を誘って会わせようかなって思ってたんですけど断られちゃいました」

「なるほど、そういうことだったのか……」

「あなたは見た目はもちろん、金も持ってそうだし……それに何より史希に興味がある。俺の探してるタイプにピッタリかなって思って声かけさせてもらったんですけど、どうですか?」

「ああ。もちろん、彼と知り合える機会をもらえるなら、絶対手放さないし大切にする」

「ふふっ。なら、交渉成立。あなたになら史希任せても大丈夫そうだ。いつにします?」

「そうだな……1週間後。ちょうど父親の会社の創立記念パーティーがあるんだ。そこに史希くんを連れて行こう。彼を恋人だって紹介するよ」

「なるほど、外堀から埋める作戦ですか?」

「ああ。彼にはそれが良さそうだ」

「さすがですね、あんな短時間で史希のことをもうわかってる」

そう言って笑う彼は本当にホッとした表情で私を信用してくれているようだ。

「これ、渡しておくよ」

そう言って私は彼に自分の名刺を渡した。

「こ、これ……すげぇ。本当にすごい人だったんですね」

「ふふっ。大したことはないよ。だが、彼を路頭に迷わせるようなことは絶対にないかな」

「よかった、あなたに声かけて……。じゃあ、1週間後、待ち合わせはどこにします?」

「通りの向こうに珈琲専門店があるだろう? そこに彼を来させてくれ」

「わかりました。あ、これ俺の名刺がわりに写真でもなんでも撮っちゃってくれていいですから」

軽い感じで学生証を指差す彼に

「じゃあ、失礼して」

と写真を撮らせてもらい、ついでに彼が持っている史希くんの可愛い画像も分けてもらい、彼と別れた。
会えない間はこの写真でなんとか我慢できそうだな。
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