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不安と驚き
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「智さんっ」
「暁、お疲れさま」
仕事を終えて、会社玄関に向かうと智さんの車が停まっているのが見えて、急いで助手席に乗り込むと智さんが満面の笑みで迎えてくれた。
ああ、この一瞬の幸せのために仕事を頑張ってると言っても過言じゃないな。
僕が助手席に座ると、運転席から身を乗り出してシートベルトをつけてくれるのもいつものことだ。
もちろん、外す時も同じ。
初日に自分でできますよと言ったけれど、
「少しでも暁に触れたいだけなので気にしないで」
と言われてしまってからは、お願いすることにしている。
ああ、もしかしたらイケメンとラブラブな雰囲気とか噂されていたのは、これを見られていたのかもしれないな。
恥ずかしいけれど、この幸せを止める気にはなれない。
「わっ! んっ」
シートベルトをつけられながら突然唇に智さんの柔らかな唇の感触を感じて驚いてしまう。
「さ、智さん……っ」
「ごめん、目の前に暁の可愛い唇が見えたら我慢できなくなった」
本当に無意識だったんだというような表情に嬉しくなる。
「あの、大丈夫です。僕も……智さんとキス、したかったので……」
「――っ!! ああっ、もうこのまま家に連れ帰りたくなるからあんまり煽らないでくれ」
「えっ? 煽る?」
「はぁーっ、もう。暁が可愛すぎて困るな」
「えっ、あの……ごめん、なさい?」
「ふふっ。もう本当に暁は可愛いな」
手をぎゅっと握られて、ゆっくりと車が動き出した。
「上田先生には先に店に入ってもらってるから」
「は、はい。ちょっと緊張してきました」
「ふふっ。大丈夫だよ、詳しいことはまだだが、大事な子にあって欲しいとは話してあるから」
「えっ、そうなんですか? じゃあ、僕が男だってことも話してないんですか?」
「ああ。でも、心配しないでいいよ。上田先生はそんなことで嫌悪感を感じるような人じゃないから」
「はい」
そう返事はしたものの、今までずっとゲイであることを隠していた僕にとって少し不安だった。
田辺が仕事と本人の性的指向は全く別ものだと言ってくれたし、智さんのことを隠したりしないで恥ずかしがらずに堂々としていようと思ったばかりだけど、いざその時になると少し怖くなってくる。
「暁、不安にさせたか?」
「あ、いえ。あの……」
「どうした? 不安なことがあったら言ってくれ」
「あの……智さんが上田先生に話せなかったのは、僕が男だから言いにくかったのかなって……」
「ああ、そうか……悪い。あの言い方だとそう思ってしまうよな。違うんだ、私が今まで恋愛をしてこなかったから、口で説明しても上田先生は信じられないだろうと思ったんだ。だから、なにも言わずに私が暁と一緒にいて、幸せなところを見せるのが一番なんだ。だから、暁は何も心配しなくていいよ」
「智さん……」
「私を信じてくれ」
「はい」
僕が信じるのは周りの目じゃない。
智さんだけだ。
そう自分に言い聞かせている間に、車は目的地であるお店に到着した。
駐車場から細い路地をぬけ、小さな扉の前で番号を押すとカチャっと音が聞こえて扉が開いた。
「さぁ、気をつけて入って」
「ここ、お店なんですか? すごい場所にあるんですね」
「ああ、ここで認められた人からの紹介がないと入れない特別な店なんだよ。仕事柄、秘密にしないといけない話とか、打ち合わせをするときにここを使うんだよ」
なるほど。
確かにここなら秘密を守られそう。
弁護士さんってお店ひとつ探すにしても大変なんだな。
「こちらのお部屋でございます」
案内された部屋の前で、従業員さんが
「お連れ様がお越しでございます」
と声をかけて去っていく。
普通なら扉を開けてくれそうだけど、できるだけ邪魔をしないってことなのかな。
智さんがお待たせしましたと声をかけ入っていく隣を着いていくと、上田先生と思しきスーツの男性が僕をみたまま、目を丸くして動きを止めてしまった。
ああ、やっぱりダメだったのかもしれない……。
さっきまでの不安が一気に押し寄せてきて、目に涙が溜まっていくのがわかる。
泣いちゃいけない、泣いちゃいけない。
必死に涙がこぼれないように押し留めていると、
「暁、心配しなくていい。私が何も言わなかったから驚いていらっしゃるだけなんだ」
と必死な様子で智さんがフォローしてくれる。
その優しさは嬉しいけれど、どうみてもそれ以上に驚いている。
今日は邪魔しないように帰った方がいいかもしれない。
そう思っていると、
「申し訳ない! ただ、あまりにもタイムリーで本当に驚いただけなんだ」
と慌てたように上田先生が声をあげた。
タイムリー?
どういう意味だろう?
僕と同じように不思議に思ったらしい智さんが先生に尋ねると、驚くべき事実を教えてくれた。
「実は、私がロサンゼルスまで追いかけて行ったのは、彼と同じ歳くらいの男性なんだよ。私の恋人も男性なんだ」
その言葉に僕も智さんもびっくりしてつい大声を上げてしまった。
でもまさか、上田先生に恋人さんも男の人だったなんて……。
田辺の恋人さんも男性だって言ってたし、本当に僕が知らなかっただけで意外と多かったのかもしれないな。
本当に僕は世間知らずだったんだ……。
「暁、お疲れさま」
仕事を終えて、会社玄関に向かうと智さんの車が停まっているのが見えて、急いで助手席に乗り込むと智さんが満面の笑みで迎えてくれた。
ああ、この一瞬の幸せのために仕事を頑張ってると言っても過言じゃないな。
僕が助手席に座ると、運転席から身を乗り出してシートベルトをつけてくれるのもいつものことだ。
もちろん、外す時も同じ。
初日に自分でできますよと言ったけれど、
「少しでも暁に触れたいだけなので気にしないで」
と言われてしまってからは、お願いすることにしている。
ああ、もしかしたらイケメンとラブラブな雰囲気とか噂されていたのは、これを見られていたのかもしれないな。
恥ずかしいけれど、この幸せを止める気にはなれない。
「わっ! んっ」
シートベルトをつけられながら突然唇に智さんの柔らかな唇の感触を感じて驚いてしまう。
「さ、智さん……っ」
「ごめん、目の前に暁の可愛い唇が見えたら我慢できなくなった」
本当に無意識だったんだというような表情に嬉しくなる。
「あの、大丈夫です。僕も……智さんとキス、したかったので……」
「――っ!! ああっ、もうこのまま家に連れ帰りたくなるからあんまり煽らないでくれ」
「えっ? 煽る?」
「はぁーっ、もう。暁が可愛すぎて困るな」
「えっ、あの……ごめん、なさい?」
「ふふっ。もう本当に暁は可愛いな」
手をぎゅっと握られて、ゆっくりと車が動き出した。
「上田先生には先に店に入ってもらってるから」
「は、はい。ちょっと緊張してきました」
「ふふっ。大丈夫だよ、詳しいことはまだだが、大事な子にあって欲しいとは話してあるから」
「えっ、そうなんですか? じゃあ、僕が男だってことも話してないんですか?」
「ああ。でも、心配しないでいいよ。上田先生はそんなことで嫌悪感を感じるような人じゃないから」
「はい」
そう返事はしたものの、今までずっとゲイであることを隠していた僕にとって少し不安だった。
田辺が仕事と本人の性的指向は全く別ものだと言ってくれたし、智さんのことを隠したりしないで恥ずかしがらずに堂々としていようと思ったばかりだけど、いざその時になると少し怖くなってくる。
「暁、不安にさせたか?」
「あ、いえ。あの……」
「どうした? 不安なことがあったら言ってくれ」
「あの……智さんが上田先生に話せなかったのは、僕が男だから言いにくかったのかなって……」
「ああ、そうか……悪い。あの言い方だとそう思ってしまうよな。違うんだ、私が今まで恋愛をしてこなかったから、口で説明しても上田先生は信じられないだろうと思ったんだ。だから、なにも言わずに私が暁と一緒にいて、幸せなところを見せるのが一番なんだ。だから、暁は何も心配しなくていいよ」
「智さん……」
「私を信じてくれ」
「はい」
僕が信じるのは周りの目じゃない。
智さんだけだ。
そう自分に言い聞かせている間に、車は目的地であるお店に到着した。
駐車場から細い路地をぬけ、小さな扉の前で番号を押すとカチャっと音が聞こえて扉が開いた。
「さぁ、気をつけて入って」
「ここ、お店なんですか? すごい場所にあるんですね」
「ああ、ここで認められた人からの紹介がないと入れない特別な店なんだよ。仕事柄、秘密にしないといけない話とか、打ち合わせをするときにここを使うんだよ」
なるほど。
確かにここなら秘密を守られそう。
弁護士さんってお店ひとつ探すにしても大変なんだな。
「こちらのお部屋でございます」
案内された部屋の前で、従業員さんが
「お連れ様がお越しでございます」
と声をかけて去っていく。
普通なら扉を開けてくれそうだけど、できるだけ邪魔をしないってことなのかな。
智さんがお待たせしましたと声をかけ入っていく隣を着いていくと、上田先生と思しきスーツの男性が僕をみたまま、目を丸くして動きを止めてしまった。
ああ、やっぱりダメだったのかもしれない……。
さっきまでの不安が一気に押し寄せてきて、目に涙が溜まっていくのがわかる。
泣いちゃいけない、泣いちゃいけない。
必死に涙がこぼれないように押し留めていると、
「暁、心配しなくていい。私が何も言わなかったから驚いていらっしゃるだけなんだ」
と必死な様子で智さんがフォローしてくれる。
その優しさは嬉しいけれど、どうみてもそれ以上に驚いている。
今日は邪魔しないように帰った方がいいかもしれない。
そう思っていると、
「申し訳ない! ただ、あまりにもタイムリーで本当に驚いただけなんだ」
と慌てたように上田先生が声をあげた。
タイムリー?
どういう意味だろう?
僕と同じように不思議に思ったらしい智さんが先生に尋ねると、驚くべき事実を教えてくれた。
「実は、私がロサンゼルスまで追いかけて行ったのは、彼と同じ歳くらいの男性なんだよ。私の恋人も男性なんだ」
その言葉に僕も智さんもびっくりしてつい大声を上げてしまった。
でもまさか、上田先生に恋人さんも男の人だったなんて……。
田辺の恋人さんも男性だって言ってたし、本当に僕が知らなかっただけで意外と多かったのかもしれないな。
本当に僕は世間知らずだったんだ……。
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