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運命、の……相手?
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「さぁ、こちらに座ってください。せっかくなので、ワインも開けましょう」
「あっ、僕あまり強くなくて……」
「そうですか、じゃあ軽い口当たりのものにしておきましょうね」
そう言って先生が出してくれたのはりんごのスパークリングワイン。
「これはアルコール度数2%ほどのものですから、楽に飲めますよ」
「わぁ、そんなのがあるんですね! 楽しみです」
お酒の味自体は嫌いじゃない。
いや、むしろ好きなくらい。
ただ弱いだけなんだ。
壊れそうなほど繊細なワイングラスに注いでもらい、グラスを掲げると小田切先生がにこりと笑みを浮かべる。
その笑顔にドキドキしながら一口飲むと、まるでりんごそのものを食べているような濃い甘みが感じられた。
「わっ、美味しいです」
「ふふっ。よかったです。さぁ、料理もぜひ召し上がってください」
「は、はい。いただきます」
どれから手をつけていいのかもわからないくらい美味しそうな料理に迷ってしまう。
「この鴨肉のソテーは手前味噌ながら美味しくできたんですよ、どうぞ」
小田切先生が切り分けたお肉をフォークに乗せて差し出してくる。
えっ、これって……食べていいのかな?
こういうのがマナーだっけ?
あまりにも緊張しすぎて何も考えられず、僕は言われるがままに口を開くと小田切先生はそれを僕の口に運んでくれた。
「あっ! すごく美味しいですっ!!! うわっ、何これ。初めて食べたけど、本当に美味しいですっ!」
びっくりするほど美味しくて興奮してしまう。
「ふふっ。お口にあったようで何よりです。こちらの鯛のポワレも自信作なんです。どうぞ」
あまりの興奮に僕は出されるがままに食べまくってしまった。
「あの、どれもとっても美味しいです」
「ふふっ。よかったです」
「でも、小田切先生はあまり召し上がってないんじゃ――あ、あれ?」
見ると、先生の前にあるお皿はどれも空っぽ。
「心配してくださったんですね。でも、ちゃんと私も食べていましたから大丈夫ですよ」
「あ……そ、そう見たいですね」
僕にあれだけ食べさせてくれていたのに、いつの間に食べていたんだろう……。
本当に不思議だ。
夕食を終え、片付けを手伝おうとすると
「食洗機ですぐに終わりますから、ソファーに座っていてください」
とにこやかにかわされる。
無理やり手伝いますともいえなくてソファーに座って待っていると、本当にあっという間に片付けが終わった。
先生は冷蔵庫を開けながら、
「甘いものはお好きですか?」
と尋ねてくる。
もちろん、甘いものはどんなものでも大好き。
はいと答えると冷蔵庫からケーキが出てきた。
「えっ、もしかしてこれも先生の手作りですか?」
「はい。もちろんですよ。チーズケーキは比較的簡単に作れますから」
「えーっ、すごい、です……」
仕事もものすごくできるのに、料理だけでなくデザートまで作れるなんて……本当にスーパーマンみたいな人だな。
「このチーズケーキには、この前のあのコーヒーがよく合うんですよ」
ソファーの前にあるテーブルに置いてくれたのは、あの時と同じコーヒーの香り。
「いい香り……。僕……実は、コーヒーが苦手なんですけど……」
「えっ? そうだったんですか?」
「はい。でも……小田切先生が出してくれるこのコーヒーだけは好きです。本当に無理してるとかじゃなくて、本当に美味しくて好きなんです」
「ふふっ。そうなんですね。実は、私もコーヒがあまり得意ではないんですよ」
「えっ、本当ですか?」
「ええ。でもバリスタの友人が私にも美味しく飲めるコーヒーを調合してくれて、それだけは飲めるようになったんです。そのバリスタの友人曰く、コーヒーの好みがピッタリと合う人は運命の相手なんだそうですよ」
「え――っ!!」
運命、の……相手?
うわっ……冗談でも、たとえ嘘でも嬉しいっ!!
「それくらいコーヒーは奥が深いってことらしいんですけどね。ほんの少しの配合の違いで全く違う味になるそうですから、同じ味が好きというのが運命だというのはあながち間違いじゃないかもしれませんね」
それって、小田切先生も僕のことを運命の相手だと思ってくれてる、とか……?
いやいや、そんなことあるわけない。
だって、僕は男だし……先生も男だし……。
僕はゲイだけど、先生は違うに決まってる。
こんな素敵な人、女性が放っておくわけないんだし。
期待しちゃダメだ。
こんな素敵な時間を過ごせるだけで十分なんだから。
ケーキとコーヒーを味わっていると、先生はソファーの隣に置いていた鞄から書類を取り出した。
ああ、あの話だ。
夢の時間もこれで終わり。
シンデレラみたいに夢から覚めるんだ。
少し寂しく思いながら、チーズケーキの最後のひとかけらを口に放り込んだ。
「あっ、僕あまり強くなくて……」
「そうですか、じゃあ軽い口当たりのものにしておきましょうね」
そう言って先生が出してくれたのはりんごのスパークリングワイン。
「これはアルコール度数2%ほどのものですから、楽に飲めますよ」
「わぁ、そんなのがあるんですね! 楽しみです」
お酒の味自体は嫌いじゃない。
いや、むしろ好きなくらい。
ただ弱いだけなんだ。
壊れそうなほど繊細なワイングラスに注いでもらい、グラスを掲げると小田切先生がにこりと笑みを浮かべる。
その笑顔にドキドキしながら一口飲むと、まるでりんごそのものを食べているような濃い甘みが感じられた。
「わっ、美味しいです」
「ふふっ。よかったです。さぁ、料理もぜひ召し上がってください」
「は、はい。いただきます」
どれから手をつけていいのかもわからないくらい美味しそうな料理に迷ってしまう。
「この鴨肉のソテーは手前味噌ながら美味しくできたんですよ、どうぞ」
小田切先生が切り分けたお肉をフォークに乗せて差し出してくる。
えっ、これって……食べていいのかな?
こういうのがマナーだっけ?
あまりにも緊張しすぎて何も考えられず、僕は言われるがままに口を開くと小田切先生はそれを僕の口に運んでくれた。
「あっ! すごく美味しいですっ!!! うわっ、何これ。初めて食べたけど、本当に美味しいですっ!」
びっくりするほど美味しくて興奮してしまう。
「ふふっ。お口にあったようで何よりです。こちらの鯛のポワレも自信作なんです。どうぞ」
あまりの興奮に僕は出されるがままに食べまくってしまった。
「あの、どれもとっても美味しいです」
「ふふっ。よかったです」
「でも、小田切先生はあまり召し上がってないんじゃ――あ、あれ?」
見ると、先生の前にあるお皿はどれも空っぽ。
「心配してくださったんですね。でも、ちゃんと私も食べていましたから大丈夫ですよ」
「あ……そ、そう見たいですね」
僕にあれだけ食べさせてくれていたのに、いつの間に食べていたんだろう……。
本当に不思議だ。
夕食を終え、片付けを手伝おうとすると
「食洗機ですぐに終わりますから、ソファーに座っていてください」
とにこやかにかわされる。
無理やり手伝いますともいえなくてソファーに座って待っていると、本当にあっという間に片付けが終わった。
先生は冷蔵庫を開けながら、
「甘いものはお好きですか?」
と尋ねてくる。
もちろん、甘いものはどんなものでも大好き。
はいと答えると冷蔵庫からケーキが出てきた。
「えっ、もしかしてこれも先生の手作りですか?」
「はい。もちろんですよ。チーズケーキは比較的簡単に作れますから」
「えーっ、すごい、です……」
仕事もものすごくできるのに、料理だけでなくデザートまで作れるなんて……本当にスーパーマンみたいな人だな。
「このチーズケーキには、この前のあのコーヒーがよく合うんですよ」
ソファーの前にあるテーブルに置いてくれたのは、あの時と同じコーヒーの香り。
「いい香り……。僕……実は、コーヒーが苦手なんですけど……」
「えっ? そうだったんですか?」
「はい。でも……小田切先生が出してくれるこのコーヒーだけは好きです。本当に無理してるとかじゃなくて、本当に美味しくて好きなんです」
「ふふっ。そうなんですね。実は、私もコーヒがあまり得意ではないんですよ」
「えっ、本当ですか?」
「ええ。でもバリスタの友人が私にも美味しく飲めるコーヒーを調合してくれて、それだけは飲めるようになったんです。そのバリスタの友人曰く、コーヒーの好みがピッタリと合う人は運命の相手なんだそうですよ」
「え――っ!!」
運命、の……相手?
うわっ……冗談でも、たとえ嘘でも嬉しいっ!!
「それくらいコーヒーは奥が深いってことらしいんですけどね。ほんの少しの配合の違いで全く違う味になるそうですから、同じ味が好きというのが運命だというのはあながち間違いじゃないかもしれませんね」
それって、小田切先生も僕のことを運命の相手だと思ってくれてる、とか……?
いやいや、そんなことあるわけない。
だって、僕は男だし……先生も男だし……。
僕はゲイだけど、先生は違うに決まってる。
こんな素敵な人、女性が放っておくわけないんだし。
期待しちゃダメだ。
こんな素敵な時間を過ごせるだけで十分なんだから。
ケーキとコーヒーを味わっていると、先生はソファーの隣に置いていた鞄から書類を取り出した。
ああ、あの話だ。
夢の時間もこれで終わり。
シンデレラみたいに夢から覚めるんだ。
少し寂しく思いながら、チーズケーキの最後のひとかけらを口に放り込んだ。
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