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どんな手を使ってでも  <前編>

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小田切sideのお話です。
ある方々も特別出演してますので、気づいていただけたら嬉しいです♡

  *   *   *
<side小田切>

上田先生が急ぎの案件を全て終わらせ、明後日からのアメリカ出張の準備のために早く帰った日の夜、私は一人で溜まっていた書類仕事を終え、事務所の片付けをしていた。
すると、突然電話が鳴り出し、私はふと時計に視線を送った。

弁護士事務所にこんな夜間に電話をかけてくることはほぼない。
そこまで緊急を要することがないからだ。

珍しいなと思いつつ電話を取ると、私が取ると思っていなかったのか、電話相手は焦ったように相談したいことがあると言い出した。

急に何かの事件に巻き込まれたのかはわからないが、警察ではなく弁護士に電話をしてくるくらいだ。
緊急性はないにしても、ひとまず話を聞いたほうがいいだろう。

話をしているうちに冷静になるかもしれないと思い、深呼吸するように促し彼の言葉を待った。
すると、すでに事務所の目の前にいるという。
そこまで切羽詰まっているのなら、保護をして話を聞いたほうがいい。
その後で、警察なりに連絡しても遅くはないだろう。

急いで玄関扉を開け、彼の姿を目にした瞬間、私の中を稲妻が駆け抜けるような衝撃が走った。

――彼は私にとって絶対に手放してはいけない。あの一瞬でそう感じたんだ。

信頼している先輩弁護士がそう話してくれたのを思い出す。

もしかして、これがあの先輩が言っていたことか?
まさかそんなことが……と思っていたけれど、決して嘘を吐くような先輩ではない。
だから、いつか私にもそんなことが起こればいいと願っていたが、まさか本当に私にも訪れるとは夢にも思っていなかった。

彼を怖がらせないように事務所の中に案内していると、彼は遅い時間に突然来た事に対する詫びをした上で、私が上田先生なのかと尋ねてきた。

まぁ勘違いするのも無理はない。

ここの事務所の名前は『上田法律事務所』
そこにいる弁護士なのだから、私を上田だと思うだろう。

上田先生は友人である上田紘の兄で、司法修習を終えた私を、開業した自身の事務所に誘ってくれたのだ。
私が将来開業するまでいてほしいと言われていて、かなり高待遇で雇ってくれて助かっている。

今では持ち込まれる案件をほぼ半分ずつやれるほど、私も力をつけている。
それもこれも有能な弁護士である上田先生の仕事を間近で見せてもらっていたからだ。

その上田先生がいない時に彼に出会ったのも運命なのだろう。
たとえ彼が私より上田先生にお願いしたいと言い出しても、もうこの時点で私は先輩弁護士の教え通り、彼を決して手放さないと心の中で決めていた。

上田先生は大事な案件をまとめてからアメリカに向かうために明日は休みとなっている。
そして明後日から五日間の日程でアメリカに行くから、もし上田先生がいいと言い出しても一週間は先になるだろう。
彼の様子を見ているとそこまで待てそうにはなさそうだ。
きっと私にと言ってくれるはずだ。
いや、私だと言って欲しい。

そんな気持ちに気づいてくれたのか、彼は私に話を聞いてもらいたいと言ってくれた。

やはり彼も私に何か運命を感じてくれているのか?
そう思うだけで胸がときめく。

バリスタをやっている友人に作ってもらっているコーヒーを淹れると、一瞬怪訝そうな顔をした。
もしかしたらコーヒーが苦手だったのかもしれない。
先に好みを聞けばよかったかと思っていると、一口啜った途端、花が綻ぶような可愛らしい笑みを浮かべた。

心の底から漏れ出るような美味しいという言葉にホッとしたと同時に、彼にこんな顔をさせた友人に少しばかり嫉妬してしまった。

そんな可愛らしい笑みを浮かべる彼は心の中に一体どんな悩みを抱えているのか……。
私に全てを話してほしい。
どんなことでも、どんな手を使ってでも解決してやろう。

だが、彼の話した内容は私の想像を大きく超える、はらわたが煮えくりかえるような腹立たしい男の話だった。

自分の性的指向が同性だと上司に知られて無理やりに身体の関係を持たされた挙句、脅されて3ヶ月も関係を持たされ続けていると苦しそうに吐き出していた彼を見ているだけで辛い。

彼を一日も早くこの状況から救ってやりたい。
私の頭の中はそのことでいっぱいになっていた。

「北原さんの名誉は守りつつ、上司にはしっかりと罪を償っていただきましょう。全てお任せ下さい」

そういうと、彼は心から安堵の表情を見せながら大粒の涙を流し始めた。
今までずっと辛かったに違いない。
この小さな身体で一人でずっと耐えてきたのだと思うと余計にあの男への腹立ちが増してくる。

私の中に初めて芽生えた殺意。
だが、ここで本当に手を下しては私もあの男と同じ愚かな男に成り下がる。
だから、私は弁護士として法に則って成敗してやろう。
死んだほうがマシだと思えるほど徹底的にな。

彼が落ち着いたところで自宅に送る事にした。
本当なら、このまま私の自宅に連れ帰りたい。
でも今はまだ時期じゃない。
まずは全てを片付けてからだ。

家まで送り、彼の家をインプットする。
そして、連絡用にと電話番号とメッセージアプリのIDもゲットした。
これでいつでも彼と連絡を取り合うことができる。

こまめに連絡をとって、彼の中に私という存在を植え付けておく事にしよう。

自宅に戻り、彼が話してくれた内容をもとに情報を精査する。
彼の話ではクズ上司は結婚が決まったと言っていた。
その話にも裏がありそうだ。

裏話を調査するには信頼のおける人物に頼むのが一番いい。
私はスマホからユウさんの番号を出し、クズ上司・安田の調査を依頼した。

できるだけ早く調べてほしいと頼むと、24時間後に連絡すると一言言われて電話はすぐに切れた。

ユウさんに任せてできなかった仕事は一度もない。
これでその件に関しては大丈夫だろう。

あとはこっちだな。

彼の勤務先・笹川コーポーレーション。
その名前が出てきた時は、あまりの驚きについ声が出そうになってしまった。
やはりこれは運命としか言いようがない。

私は急いで先輩弁護士に電話をかけた。

ーもしもし。どうした?

ー夜分遅くに申し訳ありません。今、お時間大丈夫ですか?

ーああ。大丈夫だ。

この時間に電話をとってくれるということは今日は恋人と一緒にいないのだろう。
先輩には申し訳ないがホッとする。

ー実は、先輩が顧問弁護士を務めている笹川コーポレーションについて、お話ししたいことがありまして……。

ー笹川コーポレーション? 何かあったのか?

ー実は――――――

ーなるほど。それは野放しにしておけないな。会社の存続にも関わる。

ーはい。そう思って先輩に声をかけさせていただいたんです。今、ユウさんに情報をお願いしているので、明日には詳しい話をお伝えできると思うんですが……

ーそうか。ユウに任せておけば安心だな。その情報が来たら、すぐに社長と話をしよう。

ーよろしくお願いします。

ーなぁ、小田切……お前、もしかして、その彼のこと……?

ーわかりますか? 多分、先輩が仰っていた運命かもしれません。私も感じたんです。彼を手放したくないって……。

ーふっ。そうか。なら、その上司の方は徹底的にやってやらないといけないな。話をするのは、お前のことだから全てが解決してからだろう? 

ーはい。そのつもりです。安慶名先輩と恋人さんのようになれるように頑張りますから。

ーああ。良い報告待ってるよ。その前にひと頑張りしないといけないがな。

ーはい。じゃあ、明日情報が届いたらすぐに連絡します。

これで土台はできた。
あとは私の仕事だ。
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