姉が結婚した日、俺にも男の婚約者ができました

波木真帆

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俺は幸せ者だ

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翌日から俺はロベールのいるペントハウスから大学へと通うことになった。

もちろん今まで通り公共交通機関を使って行く気満々の俺をよそに、

「ヒロを電車でなんて通わせられない!」

と心配性のロベールが車を用意してくれた。

それを出かける直前に知らされて、まさかあの白いリムジンみたいな目立つ車じゃないよね? とドキドキしながら、見送ってくれるロベールとホテル玄関へと向かうと、そこには大統領でも護衛してそうな大きくて頑丈そうな黒のSUV車が用意されていた。

「えっ? ろ、ロベール……もしかしてこれ?」

「ああ、そうだ。もしものために防弾仕様にもなっている。これならヒロの送迎に安心安全だろう?」

「いやいや、ちょっと豪華すぎない? 防弾仕様って……ここは日本だし、俺、ただ大学に通うだけだよ?」

「わかってる。ただ私が心配なだけだ。頼む、私の気持ちを汲んでくれないか?」

そんな訴えかけるような目で見られたらそれ以上反対もできない。
豪勢すぎるけど俺のために用意してくれたんだ。
あの白いリムジンじゃなかっただけよかったと思おう。

「わかった。ロベール、ありがとう」

「ヒロっ!! わかってくれて嬉しいよ。ああ、愛してる」

ロベールは嬉しそうに俺を抱きしめ、頬にちゅっと軽いキスをしてくれた。

ホテルの玄関前でみんなが見てるのに、相変わらず感情表現がすごい……。
こういうのはお国柄もあるんだし仕方ないとは思うけど……でも、まだ慣れないな。
ロベールに愛していると言われることが恥ずかしいんじゃなくて、イチャイチャしているところを見られるのが恥ずかしいっていうか……そういうところはロベールには理解できないんだろうな。
俺もロベールに愛されてる実感がするのは嬉しいからいいんだけど。

ロベールは怪我が治るまでの間、部屋でリモートで仕事をするらしい。
リモートでと言っても緊急の際には同じロードナイトホテルにいるのだから問題はないようだ。

こう考えたらやっぱりロベールのところに来ておいて正解だったみたいだ。
うちだとリモートワークもままならないだろうし、何かあってもすぐこられないからな。



「比呂……どうしたんだ? その車……」

「隼人……いや、その……」

俺はといえば……車で送ってもらった初日に、目立たないようにとわざわざ大学裏門に回ってもらったのに、部室に向かっていた親友の隼人に見つかってしまった。

「お前、この週末で何がどう変わったんだ?」

家族ぐるみで仲が良く、うちの家庭環境を知っている隼人に嘘をついたところですぐにバレる。
それに隠しておくのも親友としておかしい気がして、俺はもしかしたら引かれるかもしれないと思いつつ、隼人にこの数日の出来事を全て話すことにした。

「――というわけで、姉さんの結婚式の日に俺にも婚約者ができちゃってさ。あれよあれよという間にあんなことになっちゃったんだよ」

「……そ、それは……大変だったな。楓さんの結婚式行くって言ってから連絡がなかったから、てっきり1人で寂しがってるのかと思ってたらまさかそんなことになってるとはな……ってか、お前、なんでそんなに普通に受け入れてんの?」

「えっ?」

「いや、いくら掟だとか罰を受けるとか言われても、男同士だしちょっとは悩んだりとかしなかったのか?」

「そりゃあもちろん思ったよ! 俺もまさか恋人すっ飛ばして、しかも男の婚約者できるとか思ってなかったし……。でも、ロベールの場合は別に嫌だとは思わなかったんだよね。今まで特に好きな女の子がいたわけじゃないし、もしかしたら元々男の人の方が好きだったのかも……」

そこのところは俺にもわからないけど。
キスどころか一緒にあんなことしちゃっても嫌だと思わないってことはそうなんだろう。

「まぁ、お前は一番近くにいるのが楓さんみたいな極上の人だから、女の子に対するハードルが高すぎたのかもしれないな」

「どういう意味?」

「だって、楓さん美人だしスタイル抜群。料理はうまいし、仕事もできる。言うことなしだろ?」

そう淡々と隼人に言われると、そうかもなんて思ってしまうのは、俺がシスコンってわけじゃないと思いたい。
でもそう考えてみれば無意識に姉さんと重ねていたのかもしれないな。

「まぁ、俺はお前の相手が男だって知って驚いたけど、お前には包容力があってしっかりと甘えさせてくれるような人が合うと思ってたから納得はしてるぞ」

「そう、なの……?」

「ああ。楓さんも佑さんもその人のことは気に入ってるんだろ?」

「ああ、うん。実は佑さんとロベールは昔からの知り合いだったみたいで……」

「佑さんの? なら俺がとやかくいうことじゃないな。佑さんの知り合いなら信頼できるし。
よかったじゃん、いい相手で」

姉さんといい、隼人といい、佑さんへの信頼度の高さはびっくりするほどだ。
それくらい佑さんっていい人なんだよね。

「うん。ありがとう」

正直隼人にはどう話そうかって思ってたから、今日ああやって隼人に見つかってよかったな。
家族にも親友にも認めてもらえて、婚約者には大切にされて……俺って相当幸せ者かもな。


豪華な車での送迎で快適な学生生活を送っているうちにあっという間に1週間がすぎ、明日は佑さんと姉さんが新婚旅行から帰ってくる日になった。

ロベールの足の怪我は全治2週間と言われていたけれど、きちんと安静にしていたことと、普段から鍛えていたこともあってもうすっかり良くなっていた。
今日改めて病院で診察してもらって、もう大丈夫だと太鼓判を押されたらしい。

というわけでロベールのペントハウスで暮らすのも今日が最終日。
明日からは俺の家で一緒に生活することになっている。

ここでの生活も最初は緊張したけど、やっぱ慣れたら快適だった。
だって、掃除はしてくれるし料理も疲れた時はすぐにロベールがルームサービスを頼んでくれたし……。
快適すぎて明日からの生活が心配になりそうだ。
まぁロベールとなら頑張ってやれる……かな、きっと。

俺は今ロベールの部屋でロベールが帰ってくるのを待っているところだ。
さっき病院を出ると言っていたから、そろそろ着くころだろう。

時計をチラチラとみていると、扉のロックが解除される音が聞こえた。

あ、ロベールだ!!

そう思った時にはロベールが中へと入ってきていた。

「ロベール――わっ!――んんっ!」

『おかえり』と声をかけようとしたのを遮られ、気づいた時にはロベールに抱きかかえられ、あっという間にキスされていた。

クチュクチュと唇を何度も甘噛みされて深いキスになると思った途端、唇が離された。

「あ……っ」

名残惜しく離れていった唇をみていると、ロベールがにっこり笑って

「ようやくヒロと愛しあえる。いっぱい愛しあおう」

と俺を抱き上げ、嬉しそうにロベールのあの広い王さまの部屋へと連れて行かれた。
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