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幸せは笑顔から

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「それはそうと、比呂。今日からどこに住むの?」

「えっ? ここだけど……ダメ?」

「いや、ダメじゃないけど……ロベールさん足、怪我してるんでしょ?
その上、ここのサイズはロベールさんには小さすぎるんじゃない?」

「あっ……」

そういえば、さっき家に入る時も鴨居に頭ぶつけそうになってたし……。
足怪我しているのに頭にも気を遣わないといけないなんて大変だよね。

「どれくらいで治るって?」

「お医者さんは2週間は安静にって言ってた」

「2週間かぁ……。ねぇ、佑……どうしたらいい?」

「うーん、そうだな。治るまでの2週間はロベールが楽に過ごせるところの方がいいんじゃないかな。
ロベールは日本ではどこに住むことにしてるんだ?」

「港区にあるうちのホテルのペントハウスに宿泊してるんだ。日本に滞在するのはせいぜい半年くらいの予定だったからな」

「え――っ! 半年……」

ロベールさん、半年しか日本にいないんだ……。
その後はアメリカに?
それともまた別の国に?

いずれにしても遠距離になっちゃうんだ……。

一気に押し寄せてくる不安に俯くと、

「ヒロ? どうしたんだ?」

とロベールさんが顔を覗き込んでくる。

「あの……半年、経ったら……離れ離れになっちゃうのかなって、心配になっちゃって……」

「ヒロっ!! そんなにまで私のことを……」

「わっ!」

ロベールさんに急にぎゅっと抱きしめられて驚いてしまったけれど、ロベールさんが本気で嬉しそうな顔をしているから僕も嫌な気は全然しない。

「ヒロ、心配しなくていい。ヒロが日本がいいなら私も一緒にいるよ」

「えっ……でも、そんなこと……」

「大丈夫、日本にいたって仕事はいくらでもできるよ。だが、私はヒロがそばにいてくれないと何もできる気がしない」

「ロベールさん……」

「ヒロ」

ロベールさんの顔が近づいてくる。
わっ、キスされるっ!

俺が思わず目を瞑ってしまった瞬間、

「ん゛っ、んっ」

と咳払いの声が聞こえてビクッとしてしまった。

「流石にそれは2人っきりの時にやって欲しいんだけど」

姉さんの声が耳に入って、俺は一気に顔を赤らめた。

ロベールさんと話している間にすっかり姉さんたちの存在を忘れてたっ!
恥ずかしすぎてロベールさんの胸に顔を埋めると、ロベールさんは優しく俺の頭を撫でながら

「カエデさん、すみません」

と俺の代わりに謝ってくれた。
謝らせて悪いなと思いつつ、俺はしばらく顔を上げることができなかった。


「これから先の2人の家は後でじっくり話し合うとして、とりあえず足が完治するまでのこの2週間だけはロベールさんのところにお世話になったら? 港区からなら、大学もうちから通うのとあんまり距離は変わらないし、実際問題、比呂が家事をこなしながら、身体の大きなロベールさんのお世話を1人でするのは大変でしょう? ホテルのペントハウスならお掃除とかはお願いしたらやってもらえるんだろうし、それだけでも楽じゃない?」

「それは確かにそうかも……」

俺の気持ちが落ち着いたところで今夜からの宿泊場所についての話し合いを進めて、姉さんたちは今日はこのままうちに泊まり明日からの新婚旅行に備えることになり、俺とロベールさんは流石に新婚と同じ部屋に泊まるわけにはいかず、当面の必要なものを持って、今日からロベールさんの宿泊している部屋へと移動することになった。

「ごめんなさい、ロベールさん。俺がわざわざうちに連れてきたのにまた移動させることになっちゃって……最初からロベールさんのところに行ってればよかった」

「何を言っているんだ、ヒロ。私はヒロの生まれ育った家にあげてもらえて幸せだよ。足が治ってここで暮らす日が楽しみだ」

ああ……ロベールさんはいつでも嬉しいことばかり言ってくれる。
本当に優しいんだな。

「あの、俺……ロベールさんのところに持っていく荷物を用意してくるので、ここで待っててください」

「ああ、わかったよ」

そういうとロベールさんはずっと抱き締めていた俺の身体から腕を離した。
ロベールさんの温もりがなくなったことに一抹の寂しさを感じつつ、俺は自分の部屋へと向かい荷造りを始めた。

「とりあえず、授業でいるやつと……後は着替えがあれば生きていけるかな……」

ってか、教科書だけでキャリーケースにいっぱいになりそうだ。

なんて思いながら教科書を詰めていると、

「比呂」

と声をかけられた。

「わっ、びっくりした! どうしたの?」

てっきりリビングで待っていると思ってた姉さんの姿に驚いたけれど、

「佑とロベールさん、久しぶりだから話が盛り上がってるみたいで。だから私も比呂のところに来ちゃった」

と言いながら、俺のベッドに腰を下ろした。

俺は荷物を詰め込みながら、

「今日は急に驚かせてごめん……新婚旅行の予定も変えさせちゃってさ」

と顔も見れずに謝った。

「そのことはもういいって言ったでしょ。それに、私もロベールさんに会えて嬉しかったし……」

「えっ? なんで?」

「ふふっ。何? どっちに妬いてるの?」

「そんなんじゃないよ」

「比呂のそんな顔、久しぶりに見られたから」

姉さんが少し涙を浮かべているのが見える。
なんでそんな顔をしているんだろう?

「どういう意味?」

「覚えてる? お父さんたちが亡くなる前は比呂、いつも心から嬉しそうに笑ってた。感情も豊かだったし見ていてすごく嬉しい気持ちになれた。お父さんもお母さんも私も……みんな比呂の笑顔が大好きだった。でも、2人っきりになってからは私にいつも笑顔を見せようと必死に作ってたでしょ?」

「そんなこと……」

ない……と言おうとして、言葉に詰まった。
あの時の姉さんの泣き叫ぶ姿があまりにも可哀想すぎて、俺だけでもずっと笑顔でいなくちゃ! って自分に言い聞かせてたから。

「結婚が決まってからも比呂は私の前ではずっと笑顔で……きっと私の知らないところで泣いてるのかなと思ったら寂しかった。比呂を1人にするのが辛くて……だから、一緒に住もうって声をかけたんだよ。結局は比呂に押し切られちゃったけど……。だから、婚約者ができたって比呂に言われた時、すぐにでも確認しなきゃって思ったの。比呂が感情を押し殺してないか……。でも、ひと目見てそれが杞憂だったってわかった。比呂が心から喜んでるのがわかったから……」

「姉さん……」

「あんたが無理やり婚約者にさせられたなら、佑の友達だろうがなんだろうが絶対にやめさせるつもりだったけど、比呂もロベールさんのこと好きなんだってわかったから、これは祝福するしかないって思ったんだ。比呂の笑顔を取り戻してくれたんだもん、ロベールさんには感謝しないとね! 比呂の幸せそうな笑顔を取り戻したのが私じゃなくてロベールさんだってことは少し悔しい気もするけど……」

そう言って笑う姉さんの表情も昔の記憶にあるままの、幸せな我が家で見ていたあの時の笑顔だった。
そうか、俺たちはようやく幸せを取り戻したんだな。
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