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ロベールさんの正体

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『支社長、私もお手伝いいたします』

『いや、ヒロが支えてくれているから大丈夫だ。君はコテージの中にある荷物を運んでくれ』

『畏まりました』

運転手さんがコテージからさっと荷物を運び出しトランクへと入れてくれている間に、俺たちは別荘の前につけられた車になんとか辿り着き、ロベールさんを乗せようとして中を見て驚いた。

「うわっ、ひっろっ!!」

『んっ? ヒロ?』

『あっ、そうじゃなくて広いって言ったんです』

驚くとつい日本語が出ちゃうな。
紛らわしくて困る。

広々とした座り心地の良いソファーのような席にロベールさんを座らせると、ロベールさんはホッとしたように足を伸ばした。

『ヒロが手当てしてくれたおかげで昨日よりは随分と楽になったよ』

『それならよかったです。役に立てたみたいで嬉しいです。それより、あの、さっき……運転手さんがロベールさんのことを支社長って仰ってましたけど……』

『ああ、それか。ヒロは<ロードナイトホテル>を知ってるか?』

『ロードナイトホテルって、あの世界最大級のホテルグループですか? 日本にもいくつかある、あのホテルですよね?』

『ふふっ。よく知ってるな。ロードナイトホテルは私の高祖父が創業者でうちは一族経営なんだ。将来的には私がグループの会長を務める予定だが、その前に各国の支社を回って見聞を広めようと思ってね。今回支社長として日本に来たんだ』

『ええーっ!! ロベールさんってそんなすごい人だったんですかっ!!』

そんな人の婚約者が俺って……いや、絶対ダメだろっ!!

『ヒロ……どうした?』

驚きのあまり急に静かになった俺を心配してロベールさんが声をかけてくれた。

『あ、あの……ロベールさんみたいなすごい人の婚約者が俺とか……誰も納得しないですよ。やっぱり俺は婚約者には……』

『何言っているんだ、ヒロっ! あれは神が決めたものだ。それを覆すなんてできるはずがないだろう!』

『でも、俺は……両親もいないし、何もできないただの大学生です。ロベールさんと釣り合いが取れないですよ』

『はぁーっ。何言っているんだ、私のハニーは』

『えっ?』

『君が私を助けてくれたのを忘れたのか? 君は私の正体が何かなんて気にもせずにそんな小さな身体で一生懸命私を助けてくれただろう』

『でも、それは……目の前で怪我して困っている人がいれば助けるのは当然で……』

『ふふっ。そんな当然が当たり前のようにできる人がこの世の中にどれくらいいると思う? しかも、ヒロは私を助けただけでなく、手当をして食事を作り看病までしてくれた。私の正体を知らないままなんの見返りも求めずに……それがどれだけ凄いことかわからないか?』

真剣にそう語るロベールさんの言葉が俺の胸に突き刺さる。
あの時はただ無我夢中で……助けることしか考えてなかった。

『私は生まれ持ったこの境遇のせいでいろんな人を見てきた。私に声をかけてきたり、助けたりしてくれる人は必ず見返りを求めてきたんだ。だけど、ヒロは違った。私が苦しんでいるのを見てすぐに手当をするための道具を取りに行ってくれて……あの時は驚いたよ。小さな身体で必死にベッドまで運んでくれた時は本当に神が使わしてくれた天使だと思った。正直言ってあの時からヒロに惹かれてたよ。君みたいな子が運命の相手ならと思っていた』

『え……っ、本当に?』

『ああ。だから、ヒロが薬を飲ませるためとはいえ、なんの躊躇いもなくキスしてくれた時はもう天にも昇る心地だったよ』

『じゃあ……俺がキスしたから婚約者に決めた、わけじゃない?』

『ああ、ヒロに一目惚れしていた。だからなんとかしてヒロに私を好きになってもらおうと思っていたよ。まさか、その前に君の方からキスしてもらえるとは思ってなかったが……』

『うそ……っ』

『もしかしてヒロは私が君とキスしたから仕方なく婚約者にしたとでも思っていたのか?』

そう聞かれて俺は、正直に頷いた。

『はぁーっ、そうだったのか。誤解させて申し訳なかった。私はヒロが婚約者になってくれたことが嬉しくて大事なことを言ってなかったんだな。私はヒロを心から愛しているよ。私をロードナイトホテルの御曹司ではなく、ただのロベールとして接してくれたヒロが好きなんだ』

『ロベールさん……』

『ヒロの気持ちを聞かせてくれないか?』

『俺……恋愛なんてしたことなくて、人を好きになるとかよくわからなかったけど……ロベールさんのことは多分俺も一目惚れだったんだと思います。そうじゃなきゃ、口移しで薬を飲ませるなんてあんなことできなかったと思うし……。でも自分のせいで俺みたいなのがロベールさんの婚約者になって申し訳ないと思ってたけど、そうじゃなかったってわかって……今は嬉しい、です……。あの、だから頭の中がごちゃごちゃしてうまく言えないですけど……俺も、ロベールさんのこと……好き、なんだと思います』

『ふふっ。そこは好きと断言してほしいところだが、ヒロの初恋を私がもらえたのならまぁいい。
私の愛しいハニー。スイートハート。もう絶対に手放さないよ』

そういうとロベールさんは俺をギュッと抱きしめて、唇を重ね合わせた。

広い車の座席で俺たちはしばらくの間、甘いキスを続けた。


『支社長。病院に到着致しました」

「うわっ!!」

いきなり聞こえてきた声に俺が驚きの声をあげると、ロベールさんは俺を落ち着かせるように抱きしめてくれた。

『ハニー、驚かせてすまない。運転席からこちらに話ができるようになっているんだ』

『えっ……じゃあ、まさか……さっきの……』

俺の告白も運転手さんに聞かれてたり?
うわっ、そうだったら恥ずか死ぬ。
しかもチューとかしちゃってるし……。

『ああ、心配することはない。あちらから一方的にアナウンスできるだけで、こちらの会話は基本的に聞こえることはないよ。必要な場合にこのスイッチを押して話せばあちらとの会話はできるようになるけどね』

『そう、なんですね……よかった』

『ハニーの可愛い告白も、私とのキスに感じてくれている声も私以外に聞かせるわけがないだろう。ハニーの声も何もかも全て私だけのものだからね』

そうはっきりと言い切るロベールさんの言葉に恥ずかしくなりながらも、ロベールさんが見せてくれる執着も独占欲も嬉しいと思ってしまう自分がいた。
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