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最低だ、俺……
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「……えっ? フィ、フィアンセ? はっ? 俺が? なんで??」
フィアンセ?
フィアンセ??
って、なんだっけ?
婚約者とかそんな意味だった気が……。
婚約者?
誰が?? 俺が??
誰の?? ロベールさんの??
はぁっ?
何?
どういうこと??
もう頭の中がフィアンセ、婚約者の単語でいっぱいになってしまって、咄嗟に出てきた言葉が日本語なのか英語なのかもわからなくなって何がどうなっているのかも考えられずにいた。
詳しい話を聞きたかったけれど、その間にロベールさんは熱と薬の影響でそのまま眠ってしまっていて、それ以上の情報を得ることはできなかった。
「きっと、熱で朦朧としていておかしなこと口走っちゃったんだな。うん、そうに違いない」
自分にそう言い聞かせて俺は寝室を出た。
鍋に残ったポタージュスープとキッチンに置いてあった食パンでお腹を満たし、俺はもう一つの寝室へと向かった。
寝室に備え付けられたシャワールームで頭を冷やそうと冷たい水を被ったけれど、冷静になって余計にフィアンセという言葉が耳に残ってしまう。
「ああーっ、もうっ! なんなんだよっ!!」
こうなったらさっさと寝て忘れるに限る。
シャワールームを出て乱暴に頭をゴシゴシとタオルで拭き、パジャマに着替えてベッドに飛び込んだ。
けれど、ふかふかのベッドの上で横たわってもなお、脳裏をよぎるのは
――ヒロ、君は……私のフィアンセだ。
というロベールさんの言葉……。
熱に浮かされてたにしても、俺がフィアンセだなんて……。
何をどう間違えたらそう思うんだか。
姉さんの結婚式があんなにも感動的だったっていうのに、今の俺の頭の中はロベールさんのことばかり。
はぁーっ。もうなんなんだよ、一体。
そもそも男同士でフィアンセとかないだろ。
でも、フィアンセだって言ってきた時のロベールさんの熱を帯びたあの目……思わずドキッとしちゃったんだよな。
うわぁぁーっ、もうっ!
あれはロベールさんの戯言。
熱に浮かされて出ちゃっただけたって!
真剣に考えるほうがおかしいよな。
そう思いつつも、俺は結局ベッドの中でゴロゴロと身悶えながら朝を迎えてしまった。
「はぁーっ、結局よく眠れなかった。良いベッドだったのにもったいなかったな……。そうだ、ロベールさんは熱下がったかな?」
俺はトイレを済ませて洗面所で顔を洗い、恐る恐るロベールさんのいる寝室へ行き、まだ眠っているロベールさんのおでこにそっと手を当てた。
「よかった、熱下がってる……」
ホッと胸を撫で下ろすと、俺の声で起こしてしまったのか
『ヒロ……』
とロベールさんの声が聞こえた。
『ごめんなさい、起こしちゃいましたね――わっ!』
『おはよう。私の愛しいフィアンセ』
急に腕を引っ張られ、俺は起き上がったロベールさんに抱き込まれた。
しかも耳元で『フィアンセ』と甘く囁かれた上に耳たぶにチュッとキスをされてしまった。
『ちょ――っ、なにっ』
慌ててロベールさんの腕から離れようとすると、すごい力で抱きしめられて動けそうにない。
『あ、あの、ちょっとロベールさんっ!』
『なんだい、ハニー』
ロベールさんの蕩けるような甘い声にドキドキしてしまう。
『いやいや、ハニーって。あの、俺、何が何だかわからないんですけど……急に俺がフィアンセってなんなんですか?』
『ああ、そうか。私はまだ話してなかったのか。じゃあ、ちゃんと説明しよう』
ロベールさんはようやく俺が戸惑っていることに気づいてくれたけれど、その後も腕の力は緩むことがなく、それどころか俺が逃げないように、あぐらの中に俺を横抱きに座らせて何故か嬉しそうに話し始めた。
『私の家では初めてマウストゥマウスのキスをした相手と結婚しなければいけないという掟があるんだ。
そして、それを破ったものには神からの罰が与えられる』
マウストゥマウスのキスって……あの薬飲ませた時のあれ?
ってか、そんな掟でフィアンセ?
嘘だろっ。
『い、いや、でも……俺は男で……』
『キスの相手は神が決めた神聖なものだ。男だとか女だとかそんなのは関係ない。
ああ……まさか、この日本に私と一生を共にする相手がいたとは。私がここの教会に惹かれてきたのも神の思し召しだったようだな』
『そんな……掟とか神さまとか急にそんなこと言われても……』
『これは決定事項だ。私はヒロを伴侶として迎える。それだけだ。深く考えなくていい』
『深く考えるなって……そんなこと』
『掟を破れば、私は神から罰を受けることになるのだぞ。ヒロはそれでもいいと?』
『――っ! そ、れは……』
神さまからの罰?
信じ難いけどロベールさんがこんなにも頑なに守ろうとする掟だ。
もしかしたら今までに掟を守らずに罰を受けたご先祖さまでもいたりして……?
それは怖いな……。
大体、元はと言えば、俺が勝手にロベールさんにキスしちゃったからで……こんな状況になったのも俺のせいなんだよな……。
でも、俺がロベールさんと結婚??
いやいやいや、確かにかっこいい人だけど、男だぞ。
俺は普通に女性が好きなはずで……。
いや、別に今まで特に好きになった子はいないから定かではないけど……。
でも、姉さんたちみたいにお互いが惹かれあって助け合って一緒にいたいって思うような相手に巡り合うんだと思っていたのに。
こんな掟とかで結婚相手が決まるなんて……俺もロベールさんもそんなんで良いのか?
『あの……でも、俺……ロベールさんのこと何にも知らないし。出会ってすぐにフィアンセと言われても感情が追いついていかないっていうか……大体ロベールさんは俺なんかがフィアンセでいいんですか? そもそもロベールさん、すごくかっこいいからアメリカに彼女さんとかいるんじゃ……』
あれ?
なんで俺、落ち込んでるんだ?
ロベールさんに彼女がいるかどうか聞いただけじゃないか。
『ふふっ。ヒロ、可愛いな。それは嫉妬かい? 可愛いフィアンセからの初めての嫉妬がこんなにも嬉しいものだとは思わなかったな。言っておくが私には恋人はいない。今も昔もな』
『いや、嫉妬なんかじゃ――って、今も昔も恋人がいないって……それ……本当ですか?』
『もちろんだよ。言っただろう? キスをした相手がフィアンセになるんだ、一生の相手だと思えない相手と簡単に恋愛を楽しむことはできないよ』
あ……。
それはそうだ。
だからこそ、ロベールさんはずっと大切に守ってきたんだろうに……いくら何も知らないからって、俺が勝手に奪っちゃったのは本当にいけないことだったんだ。
それなのに、俺は……こんなことで結婚相手が決まるのが信じられないとか勝手なこと言ってる……。
最低だ、俺。
フィアンセ?
フィアンセ??
って、なんだっけ?
婚約者とかそんな意味だった気が……。
婚約者?
誰が?? 俺が??
誰の?? ロベールさんの??
はぁっ?
何?
どういうこと??
もう頭の中がフィアンセ、婚約者の単語でいっぱいになってしまって、咄嗟に出てきた言葉が日本語なのか英語なのかもわからなくなって何がどうなっているのかも考えられずにいた。
詳しい話を聞きたかったけれど、その間にロベールさんは熱と薬の影響でそのまま眠ってしまっていて、それ以上の情報を得ることはできなかった。
「きっと、熱で朦朧としていておかしなこと口走っちゃったんだな。うん、そうに違いない」
自分にそう言い聞かせて俺は寝室を出た。
鍋に残ったポタージュスープとキッチンに置いてあった食パンでお腹を満たし、俺はもう一つの寝室へと向かった。
寝室に備え付けられたシャワールームで頭を冷やそうと冷たい水を被ったけれど、冷静になって余計にフィアンセという言葉が耳に残ってしまう。
「ああーっ、もうっ! なんなんだよっ!!」
こうなったらさっさと寝て忘れるに限る。
シャワールームを出て乱暴に頭をゴシゴシとタオルで拭き、パジャマに着替えてベッドに飛び込んだ。
けれど、ふかふかのベッドの上で横たわってもなお、脳裏をよぎるのは
――ヒロ、君は……私のフィアンセだ。
というロベールさんの言葉……。
熱に浮かされてたにしても、俺がフィアンセだなんて……。
何をどう間違えたらそう思うんだか。
姉さんの結婚式があんなにも感動的だったっていうのに、今の俺の頭の中はロベールさんのことばかり。
はぁーっ。もうなんなんだよ、一体。
そもそも男同士でフィアンセとかないだろ。
でも、フィアンセだって言ってきた時のロベールさんの熱を帯びたあの目……思わずドキッとしちゃったんだよな。
うわぁぁーっ、もうっ!
あれはロベールさんの戯言。
熱に浮かされて出ちゃっただけたって!
真剣に考えるほうがおかしいよな。
そう思いつつも、俺は結局ベッドの中でゴロゴロと身悶えながら朝を迎えてしまった。
「はぁーっ、結局よく眠れなかった。良いベッドだったのにもったいなかったな……。そうだ、ロベールさんは熱下がったかな?」
俺はトイレを済ませて洗面所で顔を洗い、恐る恐るロベールさんのいる寝室へ行き、まだ眠っているロベールさんのおでこにそっと手を当てた。
「よかった、熱下がってる……」
ホッと胸を撫で下ろすと、俺の声で起こしてしまったのか
『ヒロ……』
とロベールさんの声が聞こえた。
『ごめんなさい、起こしちゃいましたね――わっ!』
『おはよう。私の愛しいフィアンセ』
急に腕を引っ張られ、俺は起き上がったロベールさんに抱き込まれた。
しかも耳元で『フィアンセ』と甘く囁かれた上に耳たぶにチュッとキスをされてしまった。
『ちょ――っ、なにっ』
慌ててロベールさんの腕から離れようとすると、すごい力で抱きしめられて動けそうにない。
『あ、あの、ちょっとロベールさんっ!』
『なんだい、ハニー』
ロベールさんの蕩けるような甘い声にドキドキしてしまう。
『いやいや、ハニーって。あの、俺、何が何だかわからないんですけど……急に俺がフィアンセってなんなんですか?』
『ああ、そうか。私はまだ話してなかったのか。じゃあ、ちゃんと説明しよう』
ロベールさんはようやく俺が戸惑っていることに気づいてくれたけれど、その後も腕の力は緩むことがなく、それどころか俺が逃げないように、あぐらの中に俺を横抱きに座らせて何故か嬉しそうに話し始めた。
『私の家では初めてマウストゥマウスのキスをした相手と結婚しなければいけないという掟があるんだ。
そして、それを破ったものには神からの罰が与えられる』
マウストゥマウスのキスって……あの薬飲ませた時のあれ?
ってか、そんな掟でフィアンセ?
嘘だろっ。
『い、いや、でも……俺は男で……』
『キスの相手は神が決めた神聖なものだ。男だとか女だとかそんなのは関係ない。
ああ……まさか、この日本に私と一生を共にする相手がいたとは。私がここの教会に惹かれてきたのも神の思し召しだったようだな』
『そんな……掟とか神さまとか急にそんなこと言われても……』
『これは決定事項だ。私はヒロを伴侶として迎える。それだけだ。深く考えなくていい』
『深く考えるなって……そんなこと』
『掟を破れば、私は神から罰を受けることになるのだぞ。ヒロはそれでもいいと?』
『――っ! そ、れは……』
神さまからの罰?
信じ難いけどロベールさんがこんなにも頑なに守ろうとする掟だ。
もしかしたら今までに掟を守らずに罰を受けたご先祖さまでもいたりして……?
それは怖いな……。
大体、元はと言えば、俺が勝手にロベールさんにキスしちゃったからで……こんな状況になったのも俺のせいなんだよな……。
でも、俺がロベールさんと結婚??
いやいやいや、確かにかっこいい人だけど、男だぞ。
俺は普通に女性が好きなはずで……。
いや、別に今まで特に好きになった子はいないから定かではないけど……。
でも、姉さんたちみたいにお互いが惹かれあって助け合って一緒にいたいって思うような相手に巡り合うんだと思っていたのに。
こんな掟とかで結婚相手が決まるなんて……俺もロベールさんもそんなんで良いのか?
『あの……でも、俺……ロベールさんのこと何にも知らないし。出会ってすぐにフィアンセと言われても感情が追いついていかないっていうか……大体ロベールさんは俺なんかがフィアンセでいいんですか? そもそもロベールさん、すごくかっこいいからアメリカに彼女さんとかいるんじゃ……』
あれ?
なんで俺、落ち込んでるんだ?
ロベールさんに彼女がいるかどうか聞いただけじゃないか。
『ふふっ。ヒロ、可愛いな。それは嫉妬かい? 可愛いフィアンセからの初めての嫉妬がこんなにも嬉しいものだとは思わなかったな。言っておくが私には恋人はいない。今も昔もな』
『いや、嫉妬なんかじゃ――って、今も昔も恋人がいないって……それ……本当ですか?』
『もちろんだよ。言っただろう? キスをした相手がフィアンセになるんだ、一生の相手だと思えない相手と簡単に恋愛を楽しむことはできないよ』
あ……。
それはそうだ。
だからこそ、ロベールさんはずっと大切に守ってきたんだろうに……いくら何も知らないからって、俺が勝手に奪っちゃったのは本当にいけないことだったんだ。
それなのに、俺は……こんなことで結婚相手が決まるのが信じられないとか勝手なこと言ってる……。
最低だ、俺。
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