自家焙煎珈琲店で出会ったのは自分好みのコーヒーと運命の相手でした

波木真帆

文字の大きさ
上 下
31 / 36
番外編

お兄ちゃんたちとの対面 5

しおりを挟む
でも本当に肌がもちもちプルプルしていてびっくりする。
もちろん透也さんのスキンケアの効果がすごいとは思うけど、お兄ちゃんのことだから透也さんに出会う前は特に気を遣っていなかったはず。その期間のほうが長いのに、ここまでシミひとつない綺麗な肌ってことは、生まれ持った美肌っていうことだ。

私もあまりニキビやシミも出にくくて友だちから羨ましがられたものだけど、手入れも全くせずにこの肌をキープし続けていたお兄ちゃんのほうが絶対的にすごそう。
透也さんが嬉々としてスキンケアをしているのが目に浮かぶ。

でも人のメイクするのって自分のメイクと違ってなんだか楽しい。透也さんがお兄ちゃんのスキンケアを楽しむのもわかる気がする。

ファンデーションはあまり塗らなくてもいいか。透也さん、ナチュラルが好きそうだし。

アイシャドウはせっかくだから少し明るいのにしようかな。
それにしてもお兄ちゃんってば、つけまつげ要らずの長いまつ毛。ビューラーを使うとその長さが際立つな。
アイライナーを綺麗に入れたら、ただでさえ大きな目がクリクリに見える。
マスカラをつけてアイメイクは完璧。軽くチークと口紅を塗って、よし! 完成!
うん! 我ながらいい仕事してる!

自分でメイクをした時以上の達成感と爽快感。

「お兄ちゃん、終わったよ。鏡、見てみて!」

得意満面で告げ、さっと鏡の前から避けた。
お兄ちゃんは恐る恐る鏡を見て、

「はっ? これ、誰?」

驚きの声をあげていた。

ベースはお兄ちゃんだからそこまで極端に変わるわけではないけれど、メイク姿を初めて見たのなら驚くのも無理はない。
でもものすごい美人が驚愕の表情を見せているのはちょっと面白い。

「お兄ちゃんでしょ」

見慣れない自分の姿に慌てふためくお兄ちゃんの様子がちょっと楽しくて、あっけらかんと言い切ってあげた。
それでもまだ困惑しているお兄ちゃんに、

「これなら、どう見ても高校生には見えないよ」

というと、どうやら納得してくれたらしい。
まぁ、鏡に映るお兄ちゃんはすっぴんの時と比べると三歳くらいは大人びて見えるしものすごく美人だもんね。
私がメイクをしているからお兄ちゃんより年上に見えることに関しては理解したみたいだ。

お兄ちゃんは私と話をしながらもずっと食い入るように鏡を見つめていた。

「何? メイク、気に入っちゃった?」

「えっ? いや、そうじゃなくて……これなら、日本でも透也と並んで歩いてもおかしな目で見られることはないんだろうなって思っただけだよ」

そういえば駅で会った時、私は理人さんと腕を組んでいたけど、お兄ちゃんたちは少し距離をとっていたっけ。
日本でも……ってことは、あっちL.Aでは手を繋いで歩いたりしているってことなのかな。
確かに同性カップルに関しては、地域にもよるだろうけど日本よりもアメリカのほうが寛容なのかもしれない。

本当は日本でも堂々といつもの姿で手を繋いだり、腕を組んだりしたいんだろうな……。
それならその願いを叶えたい。せっかくメイクもしたんだし、この機会を逃したらもったいないもんね。

「ねぇ、お兄ちゃん。せっかくだからメイクだけじゃなくて完璧に女装しちゃう?」

「えっ? 完璧ってどういうことだ?」

「だから、私の持ってるウイッグとか洋服とか着て女の子の格好しちゃおうよってこと」

「そ、それは流石にやばくないか? 透也も引くだろうし……」

透也さんの反応ならきっと、いや、絶対大丈夫。

お兄ちゃんがどんな格好していたって好きだと言ってくれる人だもん。

「大丈夫だって。こんなに綺麗なんだよ。ね、こんな機会ないよ。普段はアメリカにいるんだし、誰も知っている人には会わないからいいじゃない。ね、そうしよう」

もう決定事項と言わんばかりに告げると、どうやら諦めたらしい。
でも本当に嫌なら諦めたりしないから、きっとお兄ちゃんの中にもやってみようかなっていう気持ちはあったんだと思う。

「それで、ウイッグってどんなのがあるんだ? っていうか、そんなの持ってたんだな」

やると決まったら切り替えも早いお兄ちゃんはウイッグに興味津々な様子。

基本的に長い髪が好きな私は、その日の気分で髪を纏めたり、下ろしてみたり、ヘアアイロンで巻いてみたりしてヘアアレンジを楽しんでいるけれど、たまにはショートやボブを楽しみたい気持ちになることもあって、そういう時にウイッグを遣っていた。

手軽に別人感覚を味わえて、イメチェンにはもってこいだ。

長い髪を切ると、失恋だなんだと言ってくる上司や取引先もいたからそういうのを躱すのにもちょうどよかった。
髪を短くすると周りからいろいろ言われるとお兄ちゃんにいうと、

「まだそんなことを聞いてくる奴がいるのか? うちならすぐにセクハラでコンプラ違反だぞ」

呆れた様子を見せる。

外資系とは言ってもまだまだ固い考えを持つ上司が多いうちと違って、お兄ちゃんが勤めるベルンシュトルフホールディングスは会長自らLGBTQに柔軟な対応をするくらい時代の先端を行っている。
その考えを社長となる透也さんも踏襲しているから社員も安心して仕事ができているんだろう。

「今は特に透也が目を光らせてるからな。透也は本当にすごいんだよ」

私にも透也さんの凄さを惚気るお兄ちゃんが可愛く見える。このまま惚気を聞いていると遅くなりそうで、私は話題を変えた。

「このショートボブなら今より少し長いくらいだし。お兄ちゃん、小顔だから似合うよ」

「あ、これ。自然でいいかも」

いいウィッグを見つけて嬉しそうなお兄ちゃんに今度は洋服を選ばせる。

このままでいいなんて言っていたけれど、どうみたって今のメイクした顔とは釣り合いが取れない。

私が持っている服の中から、お兄ちゃんが着られそうな服を選んで渡した。

選んだのは、お気に入りのライムイエローのノースリーブのワンピース。
あまり体型を選ばないワンピースだからお兄ちゃんでも着られるはず。それにショート丈のベージュのカーディガンをチョイスした。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

顔も知らない旦那さま

ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。 しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない 私の結婚相手は一体どんな人?

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

処理中です...