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番外編
お兄ちゃんたちとの対面 3
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テーブルに理人さんが淹れたコーヒーとアップルパイが並び、かなり贅沢な組み合わせだ。
早くアップルパイを食べたいけれど、やっぱり最初は理人さんのコーヒーから。
理人さんと出会う前まではどちらかというと苦手だったコーヒーだけど、このコーヒーだけは美味しくて毎日必ず一杯は飲みたくなってしまう。
それもそのはず。このコーヒーは私と理人さんのためだけのコーヒーだから。
同じようにお兄ちゃんと透也さんが飲んでいるコーヒーも二人だけのもの。
それが理人さんの作るオリジナルプレンドコーヒーの凄さだ。
満足そうに透也さんとお揃いのコーヒーを飲んでいるお兄ちゃんを見ながら幸せに浸っていると、
「千鶴、一口ちょうだい」
と尋ねられる。
きっと他のコーヒーの味を飲み比べしたくなったんだろう。
私はここで実際に理人さんにほんの少し配合を変えたコーヒーの味がどれだけ変わるかを試させてもらったからわかってるけど、同じコーヒーでそこまで違うなんて普通なら想像つかない。
お互いにカップを交換し合って飲み比べると、いい香りでコーヒーだってそれなりに美味しく感じるけれど、やっぱり自分の好んでいるものと比べるとコレジャナイって思ってしまう。お兄ちゃんも同じように思ったみたいだ。
二人で味の違いに納得していると、理人さんと透也さんが不思議そうななんともいえない表情をして私たちを見ているのがわかる。
どうやらカップを直接交換して飲み比べていることにびっくりしていたみたい。
お兄ちゃんとは一緒にスイーツを食べに行ったりした時もそれぞれ食べたいものを選んで一口ずつ食べ合ったりしていたし、それが普通だと思っていた。だって家族だし……。
でもそれが普通じゃなかったのかもしれない。
「すみません、はしたなかったですか?」
「いいえ。大智さん以外とはされないんでしょう?」
「そう、ですね……そうかも。口をつける前のスイーツを友達とシェアすることはありましたけど、食べかけや飲みかけを交換するのは理人さん以外では兄だけですね」
「それなら気にすることはないですよ。私も同じ家族ってことですよね。大智さんと同じ立場なら光栄です」
笑顔の理人さんにホッとしつつ、お兄ちゃんの方を見るとあっちも大丈夫そう。
よかった、理人さんも透也さんも寛大な人で。
コーヒーを堪能したところでようやくアップルパイを食べる。
まさかニュースを見て食べたいと思っていたものをその日に食べられるとは思ってなかった。
サックサクのパイの中にたっぷり入ったりんごとシナモンが絶妙なバランスでものすごく美味しい!!
ああ、幸せ……。
半分ほど食べたところで、そっとお兄ちゃんを見るとちょっとご機嫌に戻っているのがわかる。
今なら拗ねていた理由を聞けるかもしれない。だってあんなふうに感情を見せるなんて今までのお兄ちゃんなら信じられないし、何があったのか知りたいもん。
「ねぇ、それでお兄ちゃんはどうして機嫌が悪かったの?」
その言葉に一気にまた機嫌が悪くなるのを感じたけれど、私がこうして繰り返し尋ねるときは絶対に理由を知りたいときだとわかっているお兄ちゃんは、諦めたように大きなため息を吐きながらゆっくりと口を開いた。
「間違われたんだよ」
「間違われた? って誰に?」
「高校生にだよ」
「えっ?」
一瞬時が止まった気がした。
お兄ちゃんが、高校生に、間違われた?
まさかそんなこと……と思いたい。
でも確かに目の前にいるお兄ちゃんは、高校生に見える、かもしれない……。
いや、透也さんと一緒にいれば確実に年下に見えるのは間違いない。
「失礼だよな。空港では警官に家出少年に間違われて危うく補導されそうになってさ。こっちに来る電車の中では女子高生に同級生だと間違われて、透也と社会人と高校生のカップルだと勘違いされて、透也が犯罪者みたいに思われてさ。いい迷惑だよ。ちゃんと見たら高校生に見えるなんてありえないだろう?」
私が仕方がないと思っているのも知らずに、お兄ちゃんは自分が今日体験したことを怒りながら話してくる。
きっと、
――私もお兄ちゃんも三十だよ。高校生なんて、ナイナイ!
なんて私がいうのを期待しているんだろう。
でも、そんなこと言えなかった。
「ああ……それは、仕方ないね」
正直にそう告げると、お兄ちゃんは目を丸くして、
「なんで?」
と言ってきたけど、多分理由がわかっていないのはお兄ちゃんだけだ。
でも私からは言い出しにくくて理人さんに助けを求めた。
「大智さんは、その……すごく可愛らしいので、私服だと高校生に見られてもおかしくないと言いますか……。スーツでもおそらく透也さんの後輩に見られるかと……」
理人さんは必死に言葉を選びながら言ってくれていたけれど、お兄ちゃんは理人さんの「後輩」という言葉に一番ショックを受けていたようだった。
「わ、私もよく大学生くらいに見られるし、お兄ちゃんと同じだよ。若く見られていいじゃない! ねっ」
必死にフォローしたけれどお兄ちゃんはどん底までショックを受けているようで大きな大きなため息を吐いていた。
* * *
久しぶりの更新でしたが読んでいただきありがとうございます。
お兄ちゃんの大智視点のお話
『年下イケメンに甘やかされすぎて困ってます』の番外編でも『千鶴たちとの対面』というタイトルでお話を書いています。大智が高校生に間違われたお話も載っていますので未読の方はぜひそちらもご覧ください。
そちらの最新話は今日の10時に更新予定です。どうぞお楽しみに♡
早くアップルパイを食べたいけれど、やっぱり最初は理人さんのコーヒーから。
理人さんと出会う前まではどちらかというと苦手だったコーヒーだけど、このコーヒーだけは美味しくて毎日必ず一杯は飲みたくなってしまう。
それもそのはず。このコーヒーは私と理人さんのためだけのコーヒーだから。
同じようにお兄ちゃんと透也さんが飲んでいるコーヒーも二人だけのもの。
それが理人さんの作るオリジナルプレンドコーヒーの凄さだ。
満足そうに透也さんとお揃いのコーヒーを飲んでいるお兄ちゃんを見ながら幸せに浸っていると、
「千鶴、一口ちょうだい」
と尋ねられる。
きっと他のコーヒーの味を飲み比べしたくなったんだろう。
私はここで実際に理人さんにほんの少し配合を変えたコーヒーの味がどれだけ変わるかを試させてもらったからわかってるけど、同じコーヒーでそこまで違うなんて普通なら想像つかない。
お互いにカップを交換し合って飲み比べると、いい香りでコーヒーだってそれなりに美味しく感じるけれど、やっぱり自分の好んでいるものと比べるとコレジャナイって思ってしまう。お兄ちゃんも同じように思ったみたいだ。
二人で味の違いに納得していると、理人さんと透也さんが不思議そうななんともいえない表情をして私たちを見ているのがわかる。
どうやらカップを直接交換して飲み比べていることにびっくりしていたみたい。
お兄ちゃんとは一緒にスイーツを食べに行ったりした時もそれぞれ食べたいものを選んで一口ずつ食べ合ったりしていたし、それが普通だと思っていた。だって家族だし……。
でもそれが普通じゃなかったのかもしれない。
「すみません、はしたなかったですか?」
「いいえ。大智さん以外とはされないんでしょう?」
「そう、ですね……そうかも。口をつける前のスイーツを友達とシェアすることはありましたけど、食べかけや飲みかけを交換するのは理人さん以外では兄だけですね」
「それなら気にすることはないですよ。私も同じ家族ってことですよね。大智さんと同じ立場なら光栄です」
笑顔の理人さんにホッとしつつ、お兄ちゃんの方を見るとあっちも大丈夫そう。
よかった、理人さんも透也さんも寛大な人で。
コーヒーを堪能したところでようやくアップルパイを食べる。
まさかニュースを見て食べたいと思っていたものをその日に食べられるとは思ってなかった。
サックサクのパイの中にたっぷり入ったりんごとシナモンが絶妙なバランスでものすごく美味しい!!
ああ、幸せ……。
半分ほど食べたところで、そっとお兄ちゃんを見るとちょっとご機嫌に戻っているのがわかる。
今なら拗ねていた理由を聞けるかもしれない。だってあんなふうに感情を見せるなんて今までのお兄ちゃんなら信じられないし、何があったのか知りたいもん。
「ねぇ、それでお兄ちゃんはどうして機嫌が悪かったの?」
その言葉に一気にまた機嫌が悪くなるのを感じたけれど、私がこうして繰り返し尋ねるときは絶対に理由を知りたいときだとわかっているお兄ちゃんは、諦めたように大きなため息を吐きながらゆっくりと口を開いた。
「間違われたんだよ」
「間違われた? って誰に?」
「高校生にだよ」
「えっ?」
一瞬時が止まった気がした。
お兄ちゃんが、高校生に、間違われた?
まさかそんなこと……と思いたい。
でも確かに目の前にいるお兄ちゃんは、高校生に見える、かもしれない……。
いや、透也さんと一緒にいれば確実に年下に見えるのは間違いない。
「失礼だよな。空港では警官に家出少年に間違われて危うく補導されそうになってさ。こっちに来る電車の中では女子高生に同級生だと間違われて、透也と社会人と高校生のカップルだと勘違いされて、透也が犯罪者みたいに思われてさ。いい迷惑だよ。ちゃんと見たら高校生に見えるなんてありえないだろう?」
私が仕方がないと思っているのも知らずに、お兄ちゃんは自分が今日体験したことを怒りながら話してくる。
きっと、
――私もお兄ちゃんも三十だよ。高校生なんて、ナイナイ!
なんて私がいうのを期待しているんだろう。
でも、そんなこと言えなかった。
「ああ……それは、仕方ないね」
正直にそう告げると、お兄ちゃんは目を丸くして、
「なんで?」
と言ってきたけど、多分理由がわかっていないのはお兄ちゃんだけだ。
でも私からは言い出しにくくて理人さんに助けを求めた。
「大智さんは、その……すごく可愛らしいので、私服だと高校生に見られてもおかしくないと言いますか……。スーツでもおそらく透也さんの後輩に見られるかと……」
理人さんは必死に言葉を選びながら言ってくれていたけれど、お兄ちゃんは理人さんの「後輩」という言葉に一番ショックを受けていたようだった。
「わ、私もよく大学生くらいに見られるし、お兄ちゃんと同じだよ。若く見られていいじゃない! ねっ」
必死にフォローしたけれどお兄ちゃんはどん底までショックを受けているようで大きな大きなため息を吐いていた。
* * *
久しぶりの更新でしたが読んでいただきありがとうございます。
お兄ちゃんの大智視点のお話
『年下イケメンに甘やかされすぎて困ってます』の番外編でも『千鶴たちとの対面』というタイトルでお話を書いています。大智が高校生に間違われたお話も載っていますので未読の方はぜひそちらもご覧ください。
そちらの最新話は今日の10時に更新予定です。どうぞお楽しみに♡
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