自家焙煎珈琲店で出会ったのは自分好みのコーヒーと運命の相手でした

波木真帆

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番外編

お兄ちゃんたちとの対面 1

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「あっ! お兄ちゃん、こっち!」

今日はL.Aに海外赴任中の兄・大智が恋人さんを連れて私たちに会いに来てくれた。空港まで迎えに行こうかと言ったけれど、先にホテルにチェックインしたいからと言われて最寄駅での待ち合わせになった。

久しぶりの対面にワクワクしてしまっているのは、お兄ちゃんに早く大事な旦那さまである理人さんを紹介したいという理由もあるけれど、何よりもお兄ちゃんの恋人さんを紹介してもらえるのが楽しみだからだ。

お兄ちゃんの恋人が男性だということは聞いている。ようやく自分の気持ちに素直に向き合えるようになったんだなと思うと嬉しかった。やっぱりアメリカに行けてよかったのかもしれない。といってもお兄ちゃんの恋人はアメリカ人ではなく、同じ海外赴任中の日本人なんだけど。まぁ、それも運命なんだろうな。

キャリーケースはホテルに預けてきたからだろう。ついさっき海外から到着したとは思えないほどの軽装で改札を通ってこちらにやってくる。

笑顔で手を振る私とは裏腹になぜかお兄ちゃんのテンションが少し低い。どうしたんだろう? 時差ボケかな?
海外には慣れているはずのお兄ちゃんが珍しいと思いながら、近くまでやってきたお兄ちゃんに

「どうかした?」

と尋ねてみた。

「えっ? なんで?」

「なんか、テンション低いし怒ってるみたい」

「何もないよ」

わっ、お兄ちゃんが拗ねてるなんてますます珍しい。
お兄ちゃんがこんなふうに人前で素の表情を見せるなんて今までだったらありえないことだ。

そんなお兄ちゃんのすぐ傍で長身イケメンが笑いを堪えている。と言っても笑っているのは丸わかりだけど。
この人が透也さん……ベルンシュトルフの次期社長だって言ってたっけ。
次期社長だからとかそういうので好きになったわけじゃないってお兄ちゃんは言ってたけど……面食いだったのかも……なんて思ってしまうくらい、透也さんは格好いい。ああ、もちろん理人さんの次に。

「透也、笑うな」

「笑ってませんよ」

そんな二人の言い合いに

「やっぱり何かあったんじゃないの?」

と口を挟むと

「何もないって」

と返される。お兄ちゃんがむくれているのが面白いなと思っていると、

「透也さん、久しぶりですね」

と理人さんが透也さんに声をかけた。

「えっ? 理人さん、お知り合いですか?」

「ええ。まぁ」

そんなの知らなかった。まさか、理人さんがお兄ちゃんの恋人さんと知り合いだったなんて。でも、お兄ちゃんは全く驚いていない。もしかして私だけ知らなかった?

「あの、どういう……」

「とりあえず、そろそろここから離れよう。ここで話していても目立つばっかりだし」

尋ねようとしたところで、お兄ちゃんに遮られ、周りを見ればどうも注目を集めているっぽい。特に女性たちの視線がすごい。理人さんも透也さんもかっこいいし、お兄ちゃんもイケメンの部類には入るもんね。まぁ理人さんとは違って可愛い系イケメンだけど。

「駐車場はあっちです」

理人さんと手を繋いで案内すると、お兄ちゃんと透也さんは手こそ繋いでいないけど、ものすごく距離が近い。でもそれがあまりにも自然で素敵だ。

理人さんは車の鍵を開けると、まずは助手席の扉を開け私を座らせた。誰がいても理人さんは私を優先してくれる。その間に後部座席の扉を開いたのは透也さん。お兄ちゃんを先に車に乗らせて自分が乗り込んだ。そのエスコートの仕方もものすごく自然だ。私もお兄ちゃんもすごく大切にされているって感じられる。

「十分ほどで着きますから」

「ええ、知ってますよ」

私の言葉に透也さんが笑顔で返してくる。やっぱり知り合いなんだな。

「あの、どういったお知り合いなんですか?」

「長瀬さんにいつもコーヒーをお願いしているんですよ」

「ああ、コーヒー。そういうことですか。理人さんが名前で呼んでいたから、てっきり昔からのご友人なのかと……」

「うちは家族で長瀬さんのコーヒーにお世話になっているので、苗字だとややこしいでしょう?」

「なるほど。理人さんのコーヒー、家族で気に入ってくださってるなんて嬉しいですね」

「ええ。透也さんは特に、大智さんがコーヒーを気に入ってくれたと大喜びで電話までくれたんですよ」

「えっ? そうなのか?」

お兄ちゃんが驚いた様子で透也さんに問いかけると、

「ええ。ずっと長瀬さんから運命の相手の話を聞いてましたから、大智が俺の運命なんだってわかって嬉しかったんですよ。コーヒーを飲んでもらえる前からもちろん運命の相手だって感じてましたけどね」

と透也さんから甘い声が聞こえてくる。

「大智もそう思ったでしょう?」

「そうかな」

「正直に言った方がいいですよ」

「わかった、わかった。そう思ったよ」

「ふふっ。嬉しいです」

そんな二人の甘い会話に私と理人さんは顔を見合わせて笑った。さっきまでむくれていたお兄ちゃんの機嫌もすっかり治ったみたいだ。さすが透也さん、お兄ちゃんのことがよくわかっているんだな。
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