自家焙煎珈琲店で出会ったのは自分好みのコーヒーと運命の相手でした

波木真帆

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これから先もずっと

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「千鶴さん……この家で、一緒に暮らしませんか?」

「えっ?」

「もちろん、お父さまとおばあさまに千鶴さんとの結婚をお許しいただいてからですが……できるなら、早くその席を設けたいと思――」
「長瀬さん、本気ですか?」

「ええ、もちろんです。覚えていませんか? 私はもう千鶴さんを絶対に離さないと言ったはずです。千鶴さんもそれを望んでくれましたよね?」

「――っ!!!」

あれ、夢じゃなかったんだ……。
あまりにも幸せすぎて、自分の妄想かと思ってた。

「ふふっ。夢なんかじゃないですよ。現実です。もう千鶴さんは私のものですから」

「あっ、またっ!」

もう自分の言葉が出ちゃってるのかどうかもわからない。
それくらい感情が昂ってしまっているのかもしれない。

「いいんですよ。千鶴さんの心の声も全て知ることができて私は幸せですから」

「長瀬さん……」

「その呼び方も嫌いではないですが、千鶴さんには名前で呼んでほしいです」

「名前……理人、さん?」

「ふふっ。覚えててくださって嬉しいです。私の方が年下ですから、呼び捨てにしてくださっても構いませんよ」

「そんな……っ」

「まぁ、それはおいおい変えていくことにして、今は名前を呼んでくださるだけで嬉しいです」

「理人さん……」

「千鶴さん、ここで一緒に暮らしていただけますか?」

こんなにも深く私を愛してくれた人に、ここまで望まれて嫌なはずがない。

「はい。ずっと一緒にいてください」

「――っ、千鶴さんっ!!」

「んんっ……」

嬉しそうな理人さんにそのままキスされて、私たちは感情のままに身体の熱をぶつけ合ってまた甘い時間を過ごした。


「千鶴さん、身体は辛くないですか?」

「はい。まだ理人さんが中にいるような感覚はありますけど大丈夫です」

「――っ、千鶴さん……これ以上煽らないでください。また我慢できなくなります」

「えっ? 煽る?」

苦しげな理人さんの表情と言葉の意味があまりわからなかったけれど、

「いえ、いいんです。千鶴さんはそのままでいてください」

と言われたらそれ以上何も聞けなかった。

その日はお店も休みにしてくれて、理人さんにお世話されながら夕方近くまでベッドの上で過ごしていたおかげで身体の怠さも和らいできた。

「もう少し休んで行かれてもいいんですよ」

「ええ。でも、早く帰って祖母にも父にも理人さんとのことを話しておきたいので、今日は帰ります」

「千鶴さん、わかりました。では、送って行きますね」

ようやく深く繋がったばかりの理人さんと離れるのは名残惜しいけれど、理人さんとこれから先も一緒でいるために今日は帰らなきゃ。

あの時からずっと心配してくれていたおばあちゃんには、ずっとそばにいてくれる人ができたと報告して安心させてあげたい。
それに責任を感じているだろうお父さんにも……。

車に乗っている間も、今までよりずっと理人さんを近くに感じる。

「ふふっ。そんなに見つめられると照れますね」

「えっ、あっごめんなさい。かっこよくてつい……」

「――っ、千鶴さんは本当に私を煽る天才ですね」

「えっ? それってどういう意味ですか?」

「可愛いってことですよ」

「もうっ、からかわないでください。私なんてもう30なのに可愛いなんて……」

「何言ってるんですか。30だって40だって、それこそ60になったって千鶴さんは可愛いですよ」

「理人さん……」

「だから、私なんてと言わないでください。私は千鶴さんの全てを愛してるんですから」

大きな手でそっと頭を撫でられる。
それがたまらなくホッとする。

「私も、理人さんの全てを愛してます……んんっ……」

心のからの言葉が口を吐いて出た瞬間、身を乗り出してきた理人さんの柔らかな唇が重なった。
あまりにも短い、重ねるだけのキスで寂しく思っていたけれど、

「今が運転中じゃなかったら、速攻で寝室に連れて行ってましたよ」

そう言われて、今が車の中だと思い出す。

「大丈夫です。誰にも見られてませんし、千鶴さんの可愛い表情を見られるのは私だけです」

「もう……理人さんったら」

でも理人さんに独占されるのが嬉しい。
ああ、私……本当に幸せ。


おばあちゃんの家に到着すると、車の音が聞こえたのか玄関からおばあちゃんが出てきた。

理人さんと正式に恋人というか、プロポーズのようなことを言われて、ある意味婚約者のような関係になってから、おばあちゃんに会うのは気恥ずかしい。

けれど、理人さんにエスコートされながら車から降りてきた私を見て、嬉しそうな笑顔を見せてくれたおばあちゃんの姿に私はホッとした。

「長瀬さん、千鶴を送ってくださってありがとう」

「いえ。千鶴さんは私の大事な人ですから、当然のことです」

「それって……」

「はい。この度、千鶴さんと結婚を前提にお付き合いさせていただくことになりました」

理人さんが頭を下げてくれるのを見て、ドキドキしたけれど、

「あら、そうなの。よかったわ」

とおばあちゃんは驚く様子もなくただただ嬉しそうに言ってくれた。

「千鶴、いい人に巡り会えて本当に良かったわね」

「ありがとう、おばあちゃん」

「長瀬さん、千鶴のことよろしくお願いしますね」

「はい。お任せください」

そうはっきりと言い切ってくれた理人さんがとても頼もしく見えた。
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