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出会えて良かった……
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食事を終えて、後片付けを手伝ったけれど、手渡された大きめのボウルを二個拭いている間にもう全てが終わってしまっていた。
「お手伝いにならなくてすみません」
「いえ、大物を片付けていただいたので早く終わったんですよ。千鶴さんのおかげです」
申し訳ないと思っていたのに笑顔でそんな優しい言葉をかけてくれる。
本当に長瀬さんは優しい。
「食後にデザートを召し上がりませんか? 千鶴さんに召し上がっていただきたくて昨日作っておいたんです」
「わぁ、ぜひいただきます」
お腹はいっぱいだけど、デザートは別腹。
この点はお兄ちゃんも同じなんだよね。
「良かったです」
そう言って長瀬さんが冷蔵庫から取り出したのは、色合いから見て多分ブルーベリーのレアチーズケーキ。
「わぁ、すごい! 美味しそう! さすがですね!」
「いえ、デザートは私の担当じゃないんですよ。いつもはスタッフの宗方くんにデザート作りはお願いしているんですけど、今回は千鶴さんに召し上がっていただきたくて、宗方くんに作り方を教えてもらったんです。デザートはほとんど素人ですよ」
「ええ、そうなんですか? その仕上がり見たら素人には全然見えませんよ。やっぱり長瀬さんは何を作ってもお上手なんですね。私も趣味でお菓子は作りますから余計にこの完成度の高さにびっくりしちゃいます」
「ふふっ。そんなに褒めていただけるなんて頑張った甲斐がありましたね。それじゃあ、コーヒーを淹れてきますね」
長瀬さんはそのチーズケーキをさっと切り分けて皿に盛り付け、コーヒーを淹れてくれた。
大好きなコーヒーの香りが漂ってくる。
ああ、幸せ……。
そっと長瀬さんに視線を向けると、嬉しそうに笑っているのが見える。
えっ? もしかして?
「あの……」
「ふふっ。幸せだと思ってくださって嬉しいですよ」
「――っ、やっぱり!」
やっぱり聞こえてたんだ。
ああ、もう! 自分の気持ちが声に出てしまうなんて恥ずかしすぎる。
一気に赤くなった顔を両手でパタパタと仰いでいると、
「恥ずかしがらなくていいんですよ、私は本当に嬉しいだけですから」
と言いながら、コーヒーを置いてくれる。
「ミルクだけでいいですか?」
「あ、はい。ありがとうございます。覚えててくださったんですね」
「はい。シナモンロールを召し上がっていた時、ミルクだけ入れていらしたので甘いものを召し上がる時はミルクだけなんだろうなと」
「そうなんです! 普段は砂糖入りも好きなんですよね」
「ふふっ。千鶴さんのことなら全て記憶してますから任せてください」
何も言わなくてもわかってくれるって、心地良い。
本当にここが私の居場所なのかもしれない。
「いただきましょうか」
「はい。本当に美味しそう!」
淡い紫色がなんとも涼しげで美味しそう。
「んっ!」
甘味を抑えているから、ブルーベリーの甘酸っぱさが広がって、これならあまり甘いものが得意ではないお父さんも食べられるかも。
「長瀬さん、これとっても美味しいです。このレシピ、教えてください! これなら、食べてもらえるかも」
「どなたかにお作りになるんですか?」
「えっ? あっ、あの……父に、作りたいなと思って……」
「お父さまに?」
「はい。父は自分のせいで私が……その、家から出られなくなったと責任を感じていて……父のせいではないことはわかっていても、その時は父のことまで考える余裕がなくて、一人で祖母の元に逃げてしまったので……だから謝りたくて……」
「千鶴さん、自分を追い詰めないでください。お父さまはもちろん、千鶴さんも責任を感じることはないですよ」
「でも……」
「私は、千鶴さんが何に苦しんでいるのか、事細かな事実を知っているわけではないですし、これからも無理に聞き出すつもりはありません。でも悪いのはお父さまでも千鶴さんでもありませんよ。そこだけはわかってください。おばあさまの元に行かれたのも逃げたからではなく、もう一度元気な千鶴さんを取り戻すための大切な時間だったんです。お父さまもその方がいいと思われたから、千鶴さんをおばあさまに託されたのだと思いますよ。千鶴さんに謝っていただきたいなんて思っていないはずです。確かに千鶴さんは辛い思いをされたかもしれません。ですが、それらを全て払拭するくらいに私と幸せになるんです。お父さまも喜ばれるはずですよ」
「長瀬さん……」
今、無性に長瀬さんに触れたい……。
そう願いながら見つめると、
「――っ、千鶴さんっ!!」
長瀬さんの大きな身体に包み込まれてホッとする。
「本当に、長瀬さんと出会えて良かった……」
私は心の底からその言葉を告げた。
「お手伝いにならなくてすみません」
「いえ、大物を片付けていただいたので早く終わったんですよ。千鶴さんのおかげです」
申し訳ないと思っていたのに笑顔でそんな優しい言葉をかけてくれる。
本当に長瀬さんは優しい。
「食後にデザートを召し上がりませんか? 千鶴さんに召し上がっていただきたくて昨日作っておいたんです」
「わぁ、ぜひいただきます」
お腹はいっぱいだけど、デザートは別腹。
この点はお兄ちゃんも同じなんだよね。
「良かったです」
そう言って長瀬さんが冷蔵庫から取り出したのは、色合いから見て多分ブルーベリーのレアチーズケーキ。
「わぁ、すごい! 美味しそう! さすがですね!」
「いえ、デザートは私の担当じゃないんですよ。いつもはスタッフの宗方くんにデザート作りはお願いしているんですけど、今回は千鶴さんに召し上がっていただきたくて、宗方くんに作り方を教えてもらったんです。デザートはほとんど素人ですよ」
「ええ、そうなんですか? その仕上がり見たら素人には全然見えませんよ。やっぱり長瀬さんは何を作ってもお上手なんですね。私も趣味でお菓子は作りますから余計にこの完成度の高さにびっくりしちゃいます」
「ふふっ。そんなに褒めていただけるなんて頑張った甲斐がありましたね。それじゃあ、コーヒーを淹れてきますね」
長瀬さんはそのチーズケーキをさっと切り分けて皿に盛り付け、コーヒーを淹れてくれた。
大好きなコーヒーの香りが漂ってくる。
ああ、幸せ……。
そっと長瀬さんに視線を向けると、嬉しそうに笑っているのが見える。
えっ? もしかして?
「あの……」
「ふふっ。幸せだと思ってくださって嬉しいですよ」
「――っ、やっぱり!」
やっぱり聞こえてたんだ。
ああ、もう! 自分の気持ちが声に出てしまうなんて恥ずかしすぎる。
一気に赤くなった顔を両手でパタパタと仰いでいると、
「恥ずかしがらなくていいんですよ、私は本当に嬉しいだけですから」
と言いながら、コーヒーを置いてくれる。
「ミルクだけでいいですか?」
「あ、はい。ありがとうございます。覚えててくださったんですね」
「はい。シナモンロールを召し上がっていた時、ミルクだけ入れていらしたので甘いものを召し上がる時はミルクだけなんだろうなと」
「そうなんです! 普段は砂糖入りも好きなんですよね」
「ふふっ。千鶴さんのことなら全て記憶してますから任せてください」
何も言わなくてもわかってくれるって、心地良い。
本当にここが私の居場所なのかもしれない。
「いただきましょうか」
「はい。本当に美味しそう!」
淡い紫色がなんとも涼しげで美味しそう。
「んっ!」
甘味を抑えているから、ブルーベリーの甘酸っぱさが広がって、これならあまり甘いものが得意ではないお父さんも食べられるかも。
「長瀬さん、これとっても美味しいです。このレシピ、教えてください! これなら、食べてもらえるかも」
「どなたかにお作りになるんですか?」
「えっ? あっ、あの……父に、作りたいなと思って……」
「お父さまに?」
「はい。父は自分のせいで私が……その、家から出られなくなったと責任を感じていて……父のせいではないことはわかっていても、その時は父のことまで考える余裕がなくて、一人で祖母の元に逃げてしまったので……だから謝りたくて……」
「千鶴さん、自分を追い詰めないでください。お父さまはもちろん、千鶴さんも責任を感じることはないですよ」
「でも……」
「私は、千鶴さんが何に苦しんでいるのか、事細かな事実を知っているわけではないですし、これからも無理に聞き出すつもりはありません。でも悪いのはお父さまでも千鶴さんでもありませんよ。そこだけはわかってください。おばあさまの元に行かれたのも逃げたからではなく、もう一度元気な千鶴さんを取り戻すための大切な時間だったんです。お父さまもその方がいいと思われたから、千鶴さんをおばあさまに託されたのだと思いますよ。千鶴さんに謝っていただきたいなんて思っていないはずです。確かに千鶴さんは辛い思いをされたかもしれません。ですが、それらを全て払拭するくらいに私と幸せになるんです。お父さまも喜ばれるはずですよ」
「長瀬さん……」
今、無性に長瀬さんに触れたい……。
そう願いながら見つめると、
「――っ、千鶴さんっ!!」
長瀬さんの大きな身体に包み込まれてホッとする。
「本当に、長瀬さんと出会えて良かった……」
私は心の底からその言葉を告げた。
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