17 / 36
どんどん好きになっていく
しおりを挟む
「すみません、長瀬さん」
「いえ、私の前だけだとわかっているからホッとしてます。皆の前でもこうだと可愛過ぎて外に出せなくなってしまいますから」
「可愛いだなんて、そんな……っ」
「私も本当のことしか言いませんよ」
長瀬さんのそんな直球の言葉にドキドキする。
そんなドキドキを隠すように話題を出してみた。
「あ、あの長瀬さん……じゃあ何が食べたいですか?」
「えっ? ああ、そうですね。なんでもいいんですか?」
「はい。あ、でもそんなに凝ったものは作れないですけど」
「それなら卵焼きが食べたいです」
「えっ? そんな簡単なものでいいんですか?」
「卵焼きはその家の味がよくわかるメニューですから、千鶴さんの好きな実家の味を知っておきたいんです。これから長い人生を歩むには食べ物の好みが合うのは大事なことですからね」
「長瀬さん……っ」
そこまで私のことを思ってくれているなんて……すごく嬉しい。
「わかりました。じゃあいつもの卵焼きを作りますね」
冷蔵庫から卵三個を取り出して、ボウルに割り入れてからあの出汁シリーズの出汁を少し貰って入れた。
「千鶴さんの家はだし巻き卵なんですね」
「はい。祖母と母から教えて貰ったので母方の味なんですけど、父もこれは好きみたいです」
「なるほど。出来上がりが楽しみですね。火傷にだけは気をつけてくださいね」
「はい。大丈夫です」
そう答えたけれど、卵焼き用のフライパンで卵焼きを作っている間、ずっと心配そうにみてくれていた。
それが危なっかしい手つきだと思われてみられているのではなく、本当に純粋に私が痛い思いをしないかだけをみてくれているのがわかって嬉しくなる。
だって、それだけ大切に思われているってことだから。
少し緊張しながらもなんとかいつも通りにできた卵焼きを包丁で切り分けた。
形を整えるために端っこを少し切り落としたものをいつものように味見しようと思ったところで、ふと長瀬さんにも味見してもらおうかなと思ってしまった。
「長瀬さん、あーん」
「えっ……っ」
菜箸で長瀬さんの口に近づけたけれど、長瀬さんはびっくりしてそのまま固まってしまった。
あ、流石に菜箸のままは失礼だったかと気づいて箸を下げようとしたけれど、そっと腕を取られて味見用の卵焼きは無事に長瀬さんの口に入った。
「ん! 最高に美味しいですね!! こんなに美味しい卵焼きは初めてです」
かなり興奮気味に褒められてさすがにちょっと恥ずかしくなってしまった。
「大袈裟ですよ」
「いえ、千鶴さんに食べさせて貰った卵焼きですよ。大袈裟でもなんでもなく極上の一品です」
笑顔でそう言われて、私は恥ずかしさ以上に喜びが優っていた。
私が卵焼きを作っている間に、長瀬さんも料理が出来上がったようだ。
本当に手際がいい。
さすがだな。
筍の炊き込みご飯に小松菜と長ネギのお味噌汁、きんぴらごぼうに鯖の味噌煮、それに私が作った卵焼きも合わせて彩りのいい食事が並んでいる。
「美味しそう! こんな短時間でこんなにいっぱい! すごいです!」
「きんぴらは作り置きですからそこまで大したことではないですよ。でも褒めていただいて嬉しいです。さぁ、いただきましょうか」
「はい。いただきます」
どれも早く食べてみたいけれど、やっぱり一番最初はあの出汁シリーズを使ったお味噌汁。
「んっ! すごく美味しいです!」
「ふふっ。よかった。私もいただきます」
そう言って真っ先に食べてくれたのは卵焼き。
「ああ、やっぱり最高ですね。この味、覚えますよ」
「嬉しいです。でも、長瀬さんの味も食べてみたいですよ」
「――っ、わかりました。それでは今度は私の卵焼きを食べてください」
「ふふっ。はい」
長瀬さんが時折見せてくれる可愛い表情がたまらなく愛おしい。
普段は年上のような感じがするのに、あの瞬間だけは可愛い弟のように見えるから不思議だな。
「長瀬さんはご兄弟はいらっしゃるんですか?」
「いえ、一人っ子なんですよ。だから千鶴さんのように兄弟がいて、しかも双子だなんて憧れます」
「でも小学生の頃までは兄じゃなくて。姉だったら……って思ってた時期もあったんですよ。男女の双子なんて珍しがられてたので、ちょっと恥ずかしいと思っていたのかも……」
「そうなんですね」
「でも、中学生になって、男子部と女子部に分かれて、学校の建物自体も遠くなってしまったので、今まで学校で会えてた兄に会えなくなると言うのが、なんだか身体が半分なくなっちゃったみたいで不安になって……一時期学校に行くのも嫌だったんですけど、兄が<千鶴が困ってたらすぐに助けに行くから>って言ってくれて、安心したのを覚えてます。あの時は、兄でよかったなって思いました」
「素敵なご兄妹ですね。本当に羨ましい。そういうご兄弟の絆には培ってきた年月もありますから、すぐにお兄さんのようにはなれないかもしれませんが、これから困っていたときは私がついてますから、それだけは安心してください」
「ふふっ。はい。長瀬さんが一緒にいてくださるから安心してますよ」
「千鶴さん……」
もしかしたらお兄ちゃんに嫉妬してくれたのかな?
ふふっ。長瀬さんって本当に可愛いところがある。
長瀬さんのこと、知れば知るほどどんどん好きになっていく気がするな。
「いえ、私の前だけだとわかっているからホッとしてます。皆の前でもこうだと可愛過ぎて外に出せなくなってしまいますから」
「可愛いだなんて、そんな……っ」
「私も本当のことしか言いませんよ」
長瀬さんのそんな直球の言葉にドキドキする。
そんなドキドキを隠すように話題を出してみた。
「あ、あの長瀬さん……じゃあ何が食べたいですか?」
「えっ? ああ、そうですね。なんでもいいんですか?」
「はい。あ、でもそんなに凝ったものは作れないですけど」
「それなら卵焼きが食べたいです」
「えっ? そんな簡単なものでいいんですか?」
「卵焼きはその家の味がよくわかるメニューですから、千鶴さんの好きな実家の味を知っておきたいんです。これから長い人生を歩むには食べ物の好みが合うのは大事なことですからね」
「長瀬さん……っ」
そこまで私のことを思ってくれているなんて……すごく嬉しい。
「わかりました。じゃあいつもの卵焼きを作りますね」
冷蔵庫から卵三個を取り出して、ボウルに割り入れてからあの出汁シリーズの出汁を少し貰って入れた。
「千鶴さんの家はだし巻き卵なんですね」
「はい。祖母と母から教えて貰ったので母方の味なんですけど、父もこれは好きみたいです」
「なるほど。出来上がりが楽しみですね。火傷にだけは気をつけてくださいね」
「はい。大丈夫です」
そう答えたけれど、卵焼き用のフライパンで卵焼きを作っている間、ずっと心配そうにみてくれていた。
それが危なっかしい手つきだと思われてみられているのではなく、本当に純粋に私が痛い思いをしないかだけをみてくれているのがわかって嬉しくなる。
だって、それだけ大切に思われているってことだから。
少し緊張しながらもなんとかいつも通りにできた卵焼きを包丁で切り分けた。
形を整えるために端っこを少し切り落としたものをいつものように味見しようと思ったところで、ふと長瀬さんにも味見してもらおうかなと思ってしまった。
「長瀬さん、あーん」
「えっ……っ」
菜箸で長瀬さんの口に近づけたけれど、長瀬さんはびっくりしてそのまま固まってしまった。
あ、流石に菜箸のままは失礼だったかと気づいて箸を下げようとしたけれど、そっと腕を取られて味見用の卵焼きは無事に長瀬さんの口に入った。
「ん! 最高に美味しいですね!! こんなに美味しい卵焼きは初めてです」
かなり興奮気味に褒められてさすがにちょっと恥ずかしくなってしまった。
「大袈裟ですよ」
「いえ、千鶴さんに食べさせて貰った卵焼きですよ。大袈裟でもなんでもなく極上の一品です」
笑顔でそう言われて、私は恥ずかしさ以上に喜びが優っていた。
私が卵焼きを作っている間に、長瀬さんも料理が出来上がったようだ。
本当に手際がいい。
さすがだな。
筍の炊き込みご飯に小松菜と長ネギのお味噌汁、きんぴらごぼうに鯖の味噌煮、それに私が作った卵焼きも合わせて彩りのいい食事が並んでいる。
「美味しそう! こんな短時間でこんなにいっぱい! すごいです!」
「きんぴらは作り置きですからそこまで大したことではないですよ。でも褒めていただいて嬉しいです。さぁ、いただきましょうか」
「はい。いただきます」
どれも早く食べてみたいけれど、やっぱり一番最初はあの出汁シリーズを使ったお味噌汁。
「んっ! すごく美味しいです!」
「ふふっ。よかった。私もいただきます」
そう言って真っ先に食べてくれたのは卵焼き。
「ああ、やっぱり最高ですね。この味、覚えますよ」
「嬉しいです。でも、長瀬さんの味も食べてみたいですよ」
「――っ、わかりました。それでは今度は私の卵焼きを食べてください」
「ふふっ。はい」
長瀬さんが時折見せてくれる可愛い表情がたまらなく愛おしい。
普段は年上のような感じがするのに、あの瞬間だけは可愛い弟のように見えるから不思議だな。
「長瀬さんはご兄弟はいらっしゃるんですか?」
「いえ、一人っ子なんですよ。だから千鶴さんのように兄弟がいて、しかも双子だなんて憧れます」
「でも小学生の頃までは兄じゃなくて。姉だったら……って思ってた時期もあったんですよ。男女の双子なんて珍しがられてたので、ちょっと恥ずかしいと思っていたのかも……」
「そうなんですね」
「でも、中学生になって、男子部と女子部に分かれて、学校の建物自体も遠くなってしまったので、今まで学校で会えてた兄に会えなくなると言うのが、なんだか身体が半分なくなっちゃったみたいで不安になって……一時期学校に行くのも嫌だったんですけど、兄が<千鶴が困ってたらすぐに助けに行くから>って言ってくれて、安心したのを覚えてます。あの時は、兄でよかったなって思いました」
「素敵なご兄妹ですね。本当に羨ましい。そういうご兄弟の絆には培ってきた年月もありますから、すぐにお兄さんのようにはなれないかもしれませんが、これから困っていたときは私がついてますから、それだけは安心してください」
「ふふっ。はい。長瀬さんが一緒にいてくださるから安心してますよ」
「千鶴さん……」
もしかしたらお兄ちゃんに嫉妬してくれたのかな?
ふふっ。長瀬さんって本当に可愛いところがある。
長瀬さんのこと、知れば知るほどどんどん好きになっていく気がするな。
535
お気に入りに追加
487
あなたにおすすめの小説
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
あなたのそばにいられるなら、卒業試験に落ちても構いません! そう思っていたのに、いきなり永久就職決定からの溺愛って、そんなのありですか?
石河 翠
恋愛
騎士を養成する騎士訓練校の卒業試験で、不合格になり続けている少女カレン。彼女が卒業試験でわざと失敗するのには、理由があった。 彼女は、教官である美貌の騎士フィリップに恋をしているのだ。
本当は料理が得意な彼女だが、「料理音痴」と笑われてもフィリップのそばにいたいと願っている。
ところがカレンはフィリップから、次の卒業試験で不合格になったら、騎士になる資格を永久に失うと告げられる。このままでは見知らぬ男に嫁がされてしまうと慌てる彼女。
本来の実力を発揮したカレンはだが、卒業試験当日、思いもよらない事実を知らされることになる。毛嫌いしていた見知らぬ婚約者の正体は実は……。
大好きなひとのために突き進むちょっと思い込みの激しい主人公と、なぜか主人公に思いが伝わらないまま外堀を必死で埋め続けるヒーロー。両片想いですれ違うふたりの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる