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〜最愛の息子との出会い〜 1 side卓(直純のパパ)

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前回周平と敬介のお話で可哀想だった敬介の兄・知成のお話も捨てがたかったのですが、ずっと待っているこの子のお話を先に書いてみることにしました。こちらもまた本編とは変わって、かなり早い段階で幸せになります。
楽しんでいただけると嬉しいです♡

  *   *   *



<side卓>

貴船コンツェルンの顧問弁護士をしている私は半年に一度会社に足を運び、玄哉会長と現在の会社の状況についての意見交換をするようにしている。だが、貴船コンツェルンは社員に寄り添った会社づくりに徹しているため特段問題はない。

だから半年に一度のこの時間は、友人である玄哉と仕事の話はそこそこに食事を楽しみながら、プライベートな話をする、そんな時間になっている。

「それにしても、征哉くん……頼もしい限りだな。入社して早々、評判がかなりいい。さっきも少し話したが以前とはかなり別人だな。よほど仕事が楽しいんだろう」

「ああ。それもあるだろうが、一番大きな理由は運命の相手に出会ったからだろうな」

「へぇ、じゃあもうすぐ結婚か?」

「いや、それはまだまだ。そうだな……あと干支が一周するくらいは待たないといけないだろうな」

「えっ? そんなに? 何か問題でもあるのか?」

社会人になったタイミングで最愛に出会っても、自分の仕事が軌道に乗るまで数年待たせることはまぁあるだろう。
だが十年以上となれば話は別だ。何か途轍もない問題があるとしか考えられない。

「お前が反対しているのか? だが十年以上も待たせるのは流石に酷だろう」

「いや、私はもちろん賛成しているさ。だが、相手方に問題があるんだ」

「相手方に? 一体どんな?」

私の質問に玄哉は少し笑いを含みながらゆっくりと口を開いた。

「征哉の相手……櫻葉さんとこの息子なんだよ」

「えっ? 櫻葉さんのところの、って……えっ? 息子?」

征哉くんの相手が息子=男だということに驚きはあったが、自分の最愛も絢斗という男性である以上、そこの驚きはない。
それよりも櫻葉さんのところの息子は確か……。

「今年、小学生だと聞いた覚えがあるんだが……」

「ああ。そうだ。今は六歳。だから、あと干支一回りくらいは待たないといけないんだ」

「征哉くんの相手が……小学生……」

「ああ。でも素直で優しい子だよ。誰にも興味を持たなかった征哉を一瞬で虜にするくらいにな。征哉は一花くんには恥ずかしいところは見せられないと言って仕事にも熱が入っているし、一花くんはそんな征哉を癒してくれる。本当にお互いが必要な存在みたいだ」

それが運命の相手ということなんだろう。
私もそうだ。絢斗と出会ってから仕事にやる気が出た。絢斗と会うために自分の実力以上の力が出せたこともある。
私が絢斗と出会った時は十八に限りなく近い年齢になっていたからそこまで待たずともよかったが、もっと早く出会っていれば私も征哉くんのようになっていただろう。

最愛を目の前にして成長を待ち続けるというのはなんとも大変なものだな。だがそれもきっと幸せなんだろう。
さっき征哉くんを見た時、今までで見たこともないほど充実しているといった表情をしていたからな。

「さて、そろそろ事務所に戻ろうかな。仕事もまだ残っているからな」

「ああ。今日はありがとう」

「いや、いい気分転換になったよ。このところ、面倒な事件ばかりだったからな」

玄哉と別れ、エレベーターに乗り込むと途中で社員が一人乗り込んできた。
その表情があまりにも青褪めていて今にも倒れてしまいそうだ。

「君、医務室に行ったほうがいいんじゃないか?」

「い、いえ。だ、大丈夫です。急いで病院に行かないと、息子が……」

「病院? 息子さんに何かあったのか?」

「それは……」

「大丈夫。私は弁護士だ。気にせずに話をしてくれたらいい。君の力になると約束しよう」

とりあえずすぐに病院に行かなければいけないという彼に付き添い、私の車に乗せた。
彼の行き先である聖ラグエル病院に向かう車中で、できるだけ安心させるように声をかけた。

「私は貴船コンツェルンの顧問弁護士をしている。だから安心して話してくれていい」

「あ、でも僕はここの子会社の貴船商会の人間なので先生にお世話になることは……」

「いや、子会社でも構わないよ」

「本当ですか? 業務のことではないですがそれでも大丈夫ですか?」

「プライベートな話なんだね。大丈夫、今日起きたことも含めて君の状況を教えてくれないか?」

私の言葉に少し安心した様子で、彼はゆっくりと話し始めた。

「あ、あの……僕は迫田さこたたもつと言います。僕には、妻と息子がいるのですが、息子が生まれた頃に大きなプロジェクトのメンバーに選ばれたんです。でもそれがあまりにも大変で忙しすぎるから最初は断ろうとしたんです。でも家族を思うなら働いて給料をもらってこいって妻に言われて、妻子のためだと思って休日返上でがむしゃらに働きました。でもそのせいで家には寝に帰るくらいになっていて、子どもの様子も寝ている姿を少し見るだけで触れ合うこともなくなってました」

「それは会社側も配慮がなかったな。どれだけ君が仕事をしたいと希望しても、家族と過ごす時間も与えるべきだった。子どもが生まれたばかりなら尚更だ」

「いえ。会社側は休むように言ってくれました。でも僕が妻の言うことに逆らえなくて……人の残業まで代わって仕事してたせいです。でも、その僕のせいで息子が……」

涙を含んだ震える声に、最悪の事態を想定してしまう。

「息子さんがどうしたんだ?」

「妻が、息子を虐待していたんです」

「――っ!!」

そうでなければいいと思ったが、想定通りの状況に言葉もない。

「今日、あまりにも泣き続けている子どもがいると通報があってそれで発覚しました。妻はそのまま逮捕されて、息子は今、聖ラグエル病院の集中治療室にいます。僕は……息子を守れなかったんです。僕は父親の資格がない。わぁーーっ!!」

「自分を責めるのは良くない。君はこうして息子を思い、苦しんでいるじゃないか。愛情がなければそんな後悔すらしないよ」

頭を抱えて泣き叫ぶ彼を必死に宥めながら、私は聖ラグエル病院に急いだ。

集中治療室で必死に命の灯火を消さないように頑張っている彼の息子に、少しでも早く父親の声を届けたい。
その一心で……。
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