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桜の伝説 9
しおりを挟む今回で周平と敬介のお話もようやく完結。周平と敬介両視点で締めくくりです。
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
ゆっくりと唇が離れていく。
重ねるだけの軽いキスだったが、敬介からのキスだというだけで私は満ち足りた気持ちになっていた。
「敬介……」
名前を呼ぶと、この上なく嬉しそうな顔で見上げられる。
「よかった、やっとできました」
「んっ? それは、どういう意味だ?」
満足そうな表情に聞き返してみると、敬介は笑顔でゆっくりと口を開いた。
「この桜には素敵なジンクスがあるんです」
「ジンクス?」
「はい。この千年桜の下で大好きな人とキスをすると、一生一緒にいられるって。桜守の子はみんな知ってていつか自分に好きな人ができたらここでキスしようって夢を見てるんです。俺も初等部の時にその話を聞いていつか好きな人ができたらキスしようって思ってたんですよ」
「だから私をここに?」
「はい。やっと夢が叶いました。だから、俺たち一生一緒です。俺……絶対に周平さんと離れませんから……」
「――っ、敬介っ!」
私と一生一緒にいたくてここまで連れてきてくれたのか……。
敬介の気持ちがたまらなく嬉しい。
「私もこの桜に誓うよ。敬介を一生大切にする。だから、安心してついて来てほしい」
「周平さん……俺も、一生周平さんから離れません。ずっとそばにいます」
嬉しそうに涙を潤ませた敬介を抱きしめ、私たちはもう一度唇を重ねた。
私たちの誓いを祝うように桜の花びらが雪のように舞っていた。
<side敬介>
「鳴宮教授!」
「あ、敬介くん。おはよう。なんだか今日はいつもと違うね」
「そうですか?」
「うん、なんだかすごく幸せオーラ出てるよ。なんかいいことあった?」
やっぱり鳴宮教授にはなんでもお見通しなんだな。
顔を見ただけで気づかれるなんて……。それだけ俺のことを見てくれているってことだろう。
「あの桜が満開になってて、幸せなんです」
桜守出身者の鳴宮教授にあの桜といえばすぐにわかってくれる。
それくらい、俺たちにとってあの場所は神聖な場所だ。
「そうなんだー。じゃあ、今日にでも宗一郎さんと行ってこようかな」
「はい。ぜひ。裏から入れるようにしておきますよ」
「ありがとう」
そういえば、鳴宮教授はあのジンクスを知っているんだろうか?
俺と鳴宮教授は歳が離れているから、その頃からジンクスがあったか聞いたことなかったな。
せっかくの機会だから聞いてみようか。
「あの、なる――」
「ねぇ、敬介くんは知ってた? あの桜、絢斗と磯山先生の初めてのキスの場所なんだよ」
絢斗さんというのは、鳴宮教授の幼馴染。同じ桜守出身で今は桜城大学の法学部の教授をしている才子だ。
そして、磯山先生というのは、鳴宮教授のパートナーの経済学部の教授である志良堂教授の親友で凄腕の弁護士さん。二人も同じく同性カップルだ。
「えっ? そう、なんですか?」
「うん。初等部の時にね、桜の時期はいつも絢斗とあの場所で過ごしていたんだけど、風が強くて花びらが舞っていたことがあってすっごく綺麗だったんだよ。その時、『こんな綺麗な場所に大好きな人と一緒に来られたら一生幸せになれそうだね』って私が言ったんだ。そうしたら、『絢斗、絶対にこの景色を大好きな人と見る!』ってやる気になって……ふふっ」
「それでそこで?」
「絢斗はあの時のことをずっと覚えていたみたい。磯山先生と出会った頃がちょうど桜の季節だったから連れて行ったんだって。それで『小学生の時からこの景色を大好きな人と見るって決めてたんです』って言ったら、磯山先生にプロポーズされてそのままキスしたんだって、嬉しそうに教えてくれたんだよ」
「じゃあ、鳴宮教授が言ったことが本当になったんですね。緑川教授、今でもすごく幸せそうですもんね」
「そうだね。だから、私も便乗して宗一郎さんとあの桜を見に行ったんだよ。それから毎年二人で見に行っているんだ」
「じゃあ、そこでキスも……?」
「ふふっ。それは内緒」
幸せそうに笑う鳴宮教授を見て、俺は全ての線が繋がった気がした。
きっとそのシーンを目撃した在校生がいたんだろう。そして、そのあまりにも幸せな姿に将来の自分への夢を見た。
そうか……あのジンクスは鳴宮教授と緑川教授が作ったものだったんだ。
でも、それならあのジンクスは本物だ。なんせ二人とも本当に大好きな人と幸せになっているのだから。
俺も、きっと二人のように周平さんと一生一緒に、幸せに暮らせるはずだ。
あの桜に誓ったように……。
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