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桜の伝説 6 side敬介
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「雛子。待たせて悪かったな」
「随分長くお話されてたわね。蓮見くんたちではなかったの?」
「ああ、敬介の恋人が挨拶に来てくれていたんだ」
「えっ? そうなの?」
父の言葉に母は一気に顔を赤らめて俺を見た。
「敬介の恋人ってどんな人なの? ねぇ、お母さんにも教えて!」
キラキラと目を輝かせながら尋ねられて照れてしまうけど、ちゃんと素直な気持ちを告げないとな。
「その……蓮見の、お兄さんで周平さんっていうんだ。今日初めて会ったんだけど、目が合った瞬間に運命の人だって思った」
「きゃーっ!! 素敵!! 私が修一さんと出会った時と同じだわ!」
「本当に?」
「ええ。目があってすぐにこの人とは一生を共にするって分かったの。そうしたら修一さんの方から告白してくれたのよ。ね、修一さん」
「ああ。ここで雛子を自分のものにしておかないと一生後悔すると思ったからな」
父にもそんな情熱的なところがあったのかと思うと驚くけれど、だからこそ俺と周平さんのこともすぐに認めてくれたのかもしれない。
「それで、敬介はいつからその周平さんと一緒に暮らすの?」
「えっ、あ、明日迎えに来てくれるって……」
「あら。そうなの? もうこのまま攫って行ってもよかったのにね。周平さん、意外と冷静なのね」
早すぎると言われると思ったのに、このまま攫って行ってもよかったなんて……。
母の方こそ意外だったなと思いつつも、男同士とか何も囚われずに純粋に喜んでくれることに感謝した。
「知成にはしばらく敬介のことは内緒にしていたほうがいいかしら?」
「ああ、そうだな。私もそれを心配していたんだ」
「兄さん? 内緒ってどうして?」
「どうしてって……お前、気づいてなかったのか? 知成はお前を溺愛しているだろう? だからお前に恋人ができて、しかもすぐに同棲を始めるとしたら反対するに決まっているだろう? だから知成には時間をかけて説得して……」
「そんなこと絶対にないです! 兄さんは俺が幸せになるなら喜んでくれるはずです。反対なんてするわけない! 俺、兄さんに電話します」
いつも俺のことを考えて優しくしてくれていたんだ。俺に恋人ができたなら一番喜んでくれるはず。絶対にそうだ。
「敬介、ちょっと待て。私が連絡するからここに来てもらおう。な、そうしよう」
「わかりました」
そしてすぐに父が兄に連絡を入れ、十五分もしないうちに玄関チャイムが鳴ったと思ったらバタバタと家の中に入ってくる音が聞こえる。
リビングに入ってくるとすぐに俺の元に笑顔で駆け寄ってきた。
「敬介、何かあったのか? 父さんが、敬介が俺に話したいことがあるって言ってたけど、どうした? 兄さんになんでも話してくれ」
「夜遅いのに呼び出してごめん」
「そんなこと気にしなくていいよ。敬介のためならいつでもどこでも飛んでくるから」
兄の優しい笑顔にホッとする。いつもと同じ笑顔だ。こんな優しい兄が反対なんてするわけないよね。
「兄さん、ありがとう。あのね、嬉しい報告があるんだ」
「嬉しい報告? 楽しみだな。なんだろう?」
「あのね、俺……恋人ができたんだ」
「はっ? えっ? 今、なんて?」
「恋人ができたんだよ。ほら、大学で知り合った蓮見――」
「あいつか! あいつが敬介に手を出したのか!」
さっきまでの笑顔がどこに行ったんだろうっていうくらいに顔が怒ってる。こんな兄を見るのは初めてかも。話をちゃんと聞いて欲しくて俺は必死に声をかけた。
「えっ? 違うよ。蓮見のお兄さんで周平さんっていう人だよ。すごく優しい人でかっこいいんだ。今日初めて会ったんだけど、運命の人だって思ったんだ」
「兄、だと? しかも今日会ったばっかり? 敬介、お前騙されてるぞ!」
「騙されてる? そんなことあるわけないよ」
「いや、敬介は優しいから騙されてるんだ。兄さんが一度会って話を――」
「うっ、ぐすっ……兄さん、は俺が、信じられないの?」
「――っ、いや、そんなことは絶対にない!」
「周平さんはすごく素敵な人だよ。俺、一生そばにいたいんだ。兄さんが認めてくれないなら、兄さんと一生会えなくても俺は周平さんのところに行く!」
「な――っ、そんなっ!」
「兄さん……許してくれるよね?」
「ぐっ――!! あ、ああ。もちろんだよ」
兄を見上げながらこうしてお願いすると、いつも最後にはお願いを聞いてくれるんだ。
今日も同じようにすると、兄は少し苦しげな表情を浮かべながらも許してくれた。
「よかった! 兄さん、大好き!!」
嬉しくて抱きつくと、兄も背中に手を回してギュッと抱きしめてくれた。
「じゃあ、俺……荷物をまとめてくるから」
「えっ? 荷物をまとめるってどういうことだ?」
「明日から周平さんと一緒に暮らすんだ。だからその準備してくるね」
ウキウキでリビングを出た後で、微かに叫び声のような、大きな泣き声のような声が聞こえた気がしたけれど、明日からの周平さんとの生活が楽しみすぎて俺の耳にはそれ以上入ってこなかった。
「随分長くお話されてたわね。蓮見くんたちではなかったの?」
「ああ、敬介の恋人が挨拶に来てくれていたんだ」
「えっ? そうなの?」
父の言葉に母は一気に顔を赤らめて俺を見た。
「敬介の恋人ってどんな人なの? ねぇ、お母さんにも教えて!」
キラキラと目を輝かせながら尋ねられて照れてしまうけど、ちゃんと素直な気持ちを告げないとな。
「その……蓮見の、お兄さんで周平さんっていうんだ。今日初めて会ったんだけど、目が合った瞬間に運命の人だって思った」
「きゃーっ!! 素敵!! 私が修一さんと出会った時と同じだわ!」
「本当に?」
「ええ。目があってすぐにこの人とは一生を共にするって分かったの。そうしたら修一さんの方から告白してくれたのよ。ね、修一さん」
「ああ。ここで雛子を自分のものにしておかないと一生後悔すると思ったからな」
父にもそんな情熱的なところがあったのかと思うと驚くけれど、だからこそ俺と周平さんのこともすぐに認めてくれたのかもしれない。
「それで、敬介はいつからその周平さんと一緒に暮らすの?」
「えっ、あ、明日迎えに来てくれるって……」
「あら。そうなの? もうこのまま攫って行ってもよかったのにね。周平さん、意外と冷静なのね」
早すぎると言われると思ったのに、このまま攫って行ってもよかったなんて……。
母の方こそ意外だったなと思いつつも、男同士とか何も囚われずに純粋に喜んでくれることに感謝した。
「知成にはしばらく敬介のことは内緒にしていたほうがいいかしら?」
「ああ、そうだな。私もそれを心配していたんだ」
「兄さん? 内緒ってどうして?」
「どうしてって……お前、気づいてなかったのか? 知成はお前を溺愛しているだろう? だからお前に恋人ができて、しかもすぐに同棲を始めるとしたら反対するに決まっているだろう? だから知成には時間をかけて説得して……」
「そんなこと絶対にないです! 兄さんは俺が幸せになるなら喜んでくれるはずです。反対なんてするわけない! 俺、兄さんに電話します」
いつも俺のことを考えて優しくしてくれていたんだ。俺に恋人ができたなら一番喜んでくれるはず。絶対にそうだ。
「敬介、ちょっと待て。私が連絡するからここに来てもらおう。な、そうしよう」
「わかりました」
そしてすぐに父が兄に連絡を入れ、十五分もしないうちに玄関チャイムが鳴ったと思ったらバタバタと家の中に入ってくる音が聞こえる。
リビングに入ってくるとすぐに俺の元に笑顔で駆け寄ってきた。
「敬介、何かあったのか? 父さんが、敬介が俺に話したいことがあるって言ってたけど、どうした? 兄さんになんでも話してくれ」
「夜遅いのに呼び出してごめん」
「そんなこと気にしなくていいよ。敬介のためならいつでもどこでも飛んでくるから」
兄の優しい笑顔にホッとする。いつもと同じ笑顔だ。こんな優しい兄が反対なんてするわけないよね。
「兄さん、ありがとう。あのね、嬉しい報告があるんだ」
「嬉しい報告? 楽しみだな。なんだろう?」
「あのね、俺……恋人ができたんだ」
「はっ? えっ? 今、なんて?」
「恋人ができたんだよ。ほら、大学で知り合った蓮見――」
「あいつか! あいつが敬介に手を出したのか!」
さっきまでの笑顔がどこに行ったんだろうっていうくらいに顔が怒ってる。こんな兄を見るのは初めてかも。話をちゃんと聞いて欲しくて俺は必死に声をかけた。
「えっ? 違うよ。蓮見のお兄さんで周平さんっていう人だよ。すごく優しい人でかっこいいんだ。今日初めて会ったんだけど、運命の人だって思ったんだ」
「兄、だと? しかも今日会ったばっかり? 敬介、お前騙されてるぞ!」
「騙されてる? そんなことあるわけないよ」
「いや、敬介は優しいから騙されてるんだ。兄さんが一度会って話を――」
「うっ、ぐすっ……兄さん、は俺が、信じられないの?」
「――っ、いや、そんなことは絶対にない!」
「周平さんはすごく素敵な人だよ。俺、一生そばにいたいんだ。兄さんが認めてくれないなら、兄さんと一生会えなくても俺は周平さんのところに行く!」
「な――っ、そんなっ!」
「兄さん……許してくれるよね?」
「ぐっ――!! あ、ああ。もちろんだよ」
兄を見上げながらこうしてお願いすると、いつも最後にはお願いを聞いてくれるんだ。
今日も同じようにすると、兄は少し苦しげな表情を浮かべながらも許してくれた。
「よかった! 兄さん、大好き!!」
嬉しくて抱きつくと、兄も背中に手を回してギュッと抱きしめてくれた。
「じゃあ、俺……荷物をまとめてくるから」
「えっ? 荷物をまとめるってどういうことだ?」
「明日から周平さんと一緒に暮らすんだ。だからその準備してくるね」
ウキウキでリビングを出た後で、微かに叫び声のような、大きな泣き声のような声が聞こえた気がしたけれど、明日からの周平さんとの生活が楽しみすぎて俺の耳にはそれ以上入ってこなかった。
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