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桜の伝説 2 side周平
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<side周平>
別に今日でなくてもよかった。
あの資料が欲しいと思ったのは事実だが、そこまで急ぐものじゃない。でも、なぜか今日実家に行かなければ一生後悔する、そんな気がした。
もしかしたら、両親や弟に何か起こるのかもしれない。急に心配になってきて、予定を切り上げて実家に向かった。
インターフォンを押すのに一瞬戸惑う。なぜか指が震えていたから。
一体なんだというんだろう。玄関前で深呼吸をして震える指を必死に押さえながらインターフォンを押すと、すぐに繋がった。
「周平だけど……」
「ああ、今開けるよ」
いつもと変わらない父の声に安堵する。どうやら私の取り越し苦労だったみたいだな。
なんせ家族ファースト、特に母親を溺愛している父が、家族に何かあったとしたらあんな平然とした声を出せるわけがない。
虫の知らせなんてただの勘違いだったってことだな。
玄関が開き、やはりいつもと変わらない両親に出迎えられる。
「どうした? 突然くるなんて珍しいな。何かあったか?」
逆に心配されて思わず笑みがこぼれる。そういえば心配しすぎて連絡を入れておくのを忘れていた。
「いや、急に書斎に置いていた資料が必要になって……」
当たり障りのない理由を言うと、両親は納得したようだ。
本当にいつもと変わらないことにホッとしていると、
「今ね、涼平の大学のお友だちが来ているのよ」
と母親に教えられる。
いつもの倉橋くんならわざわざ実家に連れてこなくても、一人暮らしをしている部屋に連れて行けばいいのに……と思ったが、今の時間にいるのなら食事を食べにきたんだろう。
「一人は倉橋くんだから知ってるでしょう。もう一人は新しいお友だちなのよ」
そう言われて驚いてしまう。
なんせあいつは倉橋くん以外と学校以外でつるむ事はほとんどしない。大学で倉橋くんと同等に過ごせる相手ができたことに驚きしかない。
「へぇ、涼平が珍しいな」
そう言いながら、新しい涼平の友人に興味を持って、書斎に行く前にリビングに顔を出してみた。
ちょうどダイニングテーブルの一角が見える、そこに視線を送ると相手もまたこちらをみていた。
「――っ!!!!」
目があった瞬間、身体中に稲妻が走ったような衝撃を受け、その場に立ち尽くしたまま、目が離せなかった。
「周平?」
「周平、どうしたんだ?」
「おい!」
父親に肩を叩かれてハッと我に返った。
そして、視線の先に、
「浅香?」
「どうしたんだ?」
涼平たちに声をかけられている彼の姿が目に止まった。
私は慌てて、彼のそばに駆け寄り、
「あの、名前を……教えてくれないかな?」
と尋ねた。
「えっ? あの……」
「兄貴っ! いきなり何言ってんだよ! 浅香が困ってるだろ!」
庇うように私と彼の間に立つ涼平が邪魔で仕方がない。でも私の突然の行動が彼を驚かせたのは事実だ。
「困らせてすまない。あの、改めて自己紹介させてほしい。私は涼平の兄で周平だ。年は 24歳。Clef de Coeurのデザイナーで社長をしている。それから年収は……」
「えっ、あの、そこまでは……」
「えっ? ああ、そうか。申し訳ない」
「ふふっ」
「――っ!!」
彼には全てを知っていて欲しくてついペラペラと喋ってしまい、呆れられたかと思ったけれど、彼は私に優しい笑顔を向けてくれた。それがあまりにも可愛くて見惚れてしまった。
「あの……」
「僕は浅香敬介です。涼平くんと同じ桜城大学経済学部の一年生です」
「浅香、くん……」
「はい。他に何を聞きたいですか?」
彼に何を聞きたいかなんて、ひとつしかない。
「恋人は、いるのかな?」
「いいえ。いません」
「それなら、私が立候補してもいいかな?」
私がそう言った瞬間、周りから、
「きゃーっ!!」
「兄貴っ!」
「やっぱりな」
「すげぇ」
なんて声が飛び交っているが、私の耳は彼の返事しか聞きたくないと言っている。
少し、いや、かなり驚いている彼にもう一度、
「どうかな?」
と問いかけた。絶対に断らないでくれと願いながら彼を見つめると、彼の口がゆっくり開くのが見えた。
それがスローモーションに見えたのは、彼が断るのをみたくなかったからかもしれない。
「はい。喜んで」
「えっ? 本当に?」
「いやなんですか?」
「いやだなんてそんなことっ、あるわけない!!」
「僕もです!」
その笑顔がとてつもなく可愛くて、私は両親と弟、それに弟の友達がいる前にも関わらず、彼を抱きしめていた。その時の柔らかさも甘い匂いも私は一生忘れる事はないだろう。
別に今日でなくてもよかった。
あの資料が欲しいと思ったのは事実だが、そこまで急ぐものじゃない。でも、なぜか今日実家に行かなければ一生後悔する、そんな気がした。
もしかしたら、両親や弟に何か起こるのかもしれない。急に心配になってきて、予定を切り上げて実家に向かった。
インターフォンを押すのに一瞬戸惑う。なぜか指が震えていたから。
一体なんだというんだろう。玄関前で深呼吸をして震える指を必死に押さえながらインターフォンを押すと、すぐに繋がった。
「周平だけど……」
「ああ、今開けるよ」
いつもと変わらない父の声に安堵する。どうやら私の取り越し苦労だったみたいだな。
なんせ家族ファースト、特に母親を溺愛している父が、家族に何かあったとしたらあんな平然とした声を出せるわけがない。
虫の知らせなんてただの勘違いだったってことだな。
玄関が開き、やはりいつもと変わらない両親に出迎えられる。
「どうした? 突然くるなんて珍しいな。何かあったか?」
逆に心配されて思わず笑みがこぼれる。そういえば心配しすぎて連絡を入れておくのを忘れていた。
「いや、急に書斎に置いていた資料が必要になって……」
当たり障りのない理由を言うと、両親は納得したようだ。
本当にいつもと変わらないことにホッとしていると、
「今ね、涼平の大学のお友だちが来ているのよ」
と母親に教えられる。
いつもの倉橋くんならわざわざ実家に連れてこなくても、一人暮らしをしている部屋に連れて行けばいいのに……と思ったが、今の時間にいるのなら食事を食べにきたんだろう。
「一人は倉橋くんだから知ってるでしょう。もう一人は新しいお友だちなのよ」
そう言われて驚いてしまう。
なんせあいつは倉橋くん以外と学校以外でつるむ事はほとんどしない。大学で倉橋くんと同等に過ごせる相手ができたことに驚きしかない。
「へぇ、涼平が珍しいな」
そう言いながら、新しい涼平の友人に興味を持って、書斎に行く前にリビングに顔を出してみた。
ちょうどダイニングテーブルの一角が見える、そこに視線を送ると相手もまたこちらをみていた。
「――っ!!!!」
目があった瞬間、身体中に稲妻が走ったような衝撃を受け、その場に立ち尽くしたまま、目が離せなかった。
「周平?」
「周平、どうしたんだ?」
「おい!」
父親に肩を叩かれてハッと我に返った。
そして、視線の先に、
「浅香?」
「どうしたんだ?」
涼平たちに声をかけられている彼の姿が目に止まった。
私は慌てて、彼のそばに駆け寄り、
「あの、名前を……教えてくれないかな?」
と尋ねた。
「えっ? あの……」
「兄貴っ! いきなり何言ってんだよ! 浅香が困ってるだろ!」
庇うように私と彼の間に立つ涼平が邪魔で仕方がない。でも私の突然の行動が彼を驚かせたのは事実だ。
「困らせてすまない。あの、改めて自己紹介させてほしい。私は涼平の兄で周平だ。年は 24歳。Clef de Coeurのデザイナーで社長をしている。それから年収は……」
「えっ、あの、そこまでは……」
「えっ? ああ、そうか。申し訳ない」
「ふふっ」
「――っ!!」
彼には全てを知っていて欲しくてついペラペラと喋ってしまい、呆れられたかと思ったけれど、彼は私に優しい笑顔を向けてくれた。それがあまりにも可愛くて見惚れてしまった。
「あの……」
「僕は浅香敬介です。涼平くんと同じ桜城大学経済学部の一年生です」
「浅香、くん……」
「はい。他に何を聞きたいですか?」
彼に何を聞きたいかなんて、ひとつしかない。
「恋人は、いるのかな?」
「いいえ。いません」
「それなら、私が立候補してもいいかな?」
私がそう言った瞬間、周りから、
「きゃーっ!!」
「兄貴っ!」
「やっぱりな」
「すげぇ」
なんて声が飛び交っているが、私の耳は彼の返事しか聞きたくないと言っている。
少し、いや、かなり驚いている彼にもう一度、
「どうかな?」
と問いかけた。絶対に断らないでくれと願いながら彼を見つめると、彼の口がゆっくり開くのが見えた。
それがスローモーションに見えたのは、彼が断るのをみたくなかったからかもしれない。
「はい。喜んで」
「えっ? 本当に?」
「いやなんですか?」
「いやだなんてそんなことっ、あるわけない!!」
「僕もです!」
その笑顔がとてつもなく可愛くて、私は両親と弟、それに弟の友達がいる前にも関わらず、彼を抱きしめていた。その時の柔らかさも甘い匂いも私は一生忘れる事はないだろう。
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