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〜新しい家族との出会い〜 side一帆 (真守の兄) <前編>
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<side一帆>
十歳の時にずっと二人っきりで生きてきたお母さんが病気で亡くなった。
お母さんが病気に気づいた時には、もう助からないと言われる状態になっていて、それから三ヶ月も経たないうちにお母さんはベッドから起き上がれなくなってしまった。
それでも僕はお母さんが元気になってくれることだけを夢見て、毎日お見舞いに行っていたけれど、日に日にお母さんは悪くなっていって、お医者さんからも他に会わせたい人がいたら連絡をしたほうがいいと言われてしまった。
僕は生まれた時からお母さんと二人暮らしで、お父さんはもちろんおじいちゃんおばあちゃんや親戚の話も聞いたことがない。
だから、お母さんには僕しかいない。
それでも誰か会いたい人がいるかもしれないと思ってお母さんに尋ねた。
「お母さん、誰か会いたい人はいない? 僕が連れてきてあげる!!」
お母さんはもうあまり喋ることもできなくなっていたけれど、その時だけは一生懸命僕に何かを告げようとしていた。
「ゆっくりでいいから、教えて」
そういうとお母さんはベッド横に置いていたネックレスを指差した。
これはお母さんがいつもつけていたネックレス。
病院に入院するようになってとらなくちゃいけなくなっても、ずっと自分の近くから離すことがなかったから。きっとお母さんの宝物なんだと思っていた。
「そ、れ……あ、けて……」
開ける?
不思議に思いつつも、僕はネックレスを初めてに取ると、確かに飾りのところが開けられるようになっているみたい。
「これ、開けるんだね」
頷くお母さんを見ながら、僕はそれを開けた。
中から小さく折り畳んだ紙が出てきて、それを広げてみると、中には、<高原智春>と誰かの名前が書かれていた。
「お母さん、これ……」
「あ、なた、の、ちち、おやよ」
「えっ、お父さん?」
「わ、たし、がい、なく、なった、ら……か、れを、さ、がして……」
「でも、どこにいるか名前だけじゃ……」
「おな、じとし、なの。か、ずほ、なら、みつ、けられ、る……」
「わかった。じゃあ、一生懸命探して連れてくるから、お母さんもそれまで頑張って!!」
僕の言葉にお母さんは笑顔を見せると、そのまま目を瞑り、二度と目を覚ますことはなかった。
それからは正直何も覚えていない。
病院の人や役所の人がやってきて、病院代の支払いもお葬式も全てやってくれた。
火葬が終わるのを待っている間、役所の人に他に家族はいないか? と尋ねられたけど、手がかりは名前と年齢だけ。
このままだと児童養護施設で引き取られることになると言われたけれど、僕はお母さんから教えられたお父さんを探したくて、なんとかお願いして、役所の人が持っていたノートパソコンを借りた。
学校でパソコンの使い方を習っておいてよかった。
とりあえず名前を検索してみると、何人かヒットしたけどそれがお父さんかはわからない。
全員が違うことも考えられる。
何か他にキーワードがないかを考えて、少し前の出来事を思い出した。
近所の人にお母さんの歳を尋ねられて、25歳だと答えたら、
――高校生で妊娠して、ここに逃げてきたのね。
とボソッと言われたことが頭から離れなかった。
なんとなくお母さんに言ってはいけないような気がして、自分の胸に閉じ込めていたけれど、お母さんが高校生の時まで住んでいた場所を入れてみたら、もしかしたらお父さんのヒントになるかもしれない。
前に聞いたことがある地名と年齢を入れてみると、その人の写真が出てきた。
名前の漢字も年齢も出身地も一緒。
これで他人の空似はないんじゃないか?
その人は東京でプラトーコーポレーションという会社をやっている社長さんらしい。
とりあえず電話をかけてみよう。
子どもだから取り次いでもらえなかったら、その時は会社まで行ってみよう。
僕はその会社の住所と電話番号をメモ帳に書き、全ての検索履歴を消去して役所の人にノートパソコンを返した。
そして、お母さんの骨壷を家に置きに行き、家中にあった小銭を持てるだけ持って少し離れた公衆電話に向かった。
会社に電話をかけると、最初はイタズラだと思われて、すぐに電話を切られてしまった。
それでも何度も何度も掛け直してお願いしていると、ようやく秘書という人に繋いでもらい、僕は自分のことを話した。
お母さんの名前と出身地を伝え、社長さんに聞いてみてほしいとお願いして待っていると、電話の相手が急に代わった。
ー君が佐山夏帆の息子というのは本当なのか?
ーはい。僕、佐山一帆と言います。
ー夏帆が、亡くなったというのは?
ー本当です。三日前に亡くなりました。ずっとお父さんのことは聞かされてなかったんですけど、亡くなる直前に名前と年齢を教えてもらって、居場所を探しました。
ー名前と年齢だけで私を探してくれたのか?
ーどうしても会いたくて……。お母さんに会って欲しくて……。
そう言うだけで涙が溢れる。
ー君の住所を教えてくれ。すぐにそこに行くから家で待ってるんだよ。
涙声で必死に住所を教え急いで自宅に戻ると、それから数時間後に本当に車でやってきてくれた。
僕の顔を見るなり、
「彼女に面影があるな」
と笑顔を見せながら、骨になってしまったお母さんを抱きしめてくれて、
「ここまで大きく育ててくれてありがとう」
と何度も言ってくれた。
それからすぐにどこかに電話をかけ、これからのことは心配しないでいいと言って僕の荷物とお母さんのものをまとめて車に乗せ連れて行ってくれた。
「あの……」
「お父さんでもパパでも構わないよ。もう私は君を息子として引き取ることに決めたから」
「えっ、いいんですか?」
「ああ、妻にも君に会いに行く前に了承をとった。妻は一帆と会えるのを楽しみにしてくれているよ」
「――っ!!」
急に現れた僕を息子だと信じてくれて、引き取ってくれるなんて!!
お母さん……お父さんはすごくいい人だったよ。
僕は涙を流しながら、形見のネックレスをギュッと握りしめた。
十歳の時にずっと二人っきりで生きてきたお母さんが病気で亡くなった。
お母さんが病気に気づいた時には、もう助からないと言われる状態になっていて、それから三ヶ月も経たないうちにお母さんはベッドから起き上がれなくなってしまった。
それでも僕はお母さんが元気になってくれることだけを夢見て、毎日お見舞いに行っていたけれど、日に日にお母さんは悪くなっていって、お医者さんからも他に会わせたい人がいたら連絡をしたほうがいいと言われてしまった。
僕は生まれた時からお母さんと二人暮らしで、お父さんはもちろんおじいちゃんおばあちゃんや親戚の話も聞いたことがない。
だから、お母さんには僕しかいない。
それでも誰か会いたい人がいるかもしれないと思ってお母さんに尋ねた。
「お母さん、誰か会いたい人はいない? 僕が連れてきてあげる!!」
お母さんはもうあまり喋ることもできなくなっていたけれど、その時だけは一生懸命僕に何かを告げようとしていた。
「ゆっくりでいいから、教えて」
そういうとお母さんはベッド横に置いていたネックレスを指差した。
これはお母さんがいつもつけていたネックレス。
病院に入院するようになってとらなくちゃいけなくなっても、ずっと自分の近くから離すことがなかったから。きっとお母さんの宝物なんだと思っていた。
「そ、れ……あ、けて……」
開ける?
不思議に思いつつも、僕はネックレスを初めてに取ると、確かに飾りのところが開けられるようになっているみたい。
「これ、開けるんだね」
頷くお母さんを見ながら、僕はそれを開けた。
中から小さく折り畳んだ紙が出てきて、それを広げてみると、中には、<高原智春>と誰かの名前が書かれていた。
「お母さん、これ……」
「あ、なた、の、ちち、おやよ」
「えっ、お父さん?」
「わ、たし、がい、なく、なった、ら……か、れを、さ、がして……」
「でも、どこにいるか名前だけじゃ……」
「おな、じとし、なの。か、ずほ、なら、みつ、けられ、る……」
「わかった。じゃあ、一生懸命探して連れてくるから、お母さんもそれまで頑張って!!」
僕の言葉にお母さんは笑顔を見せると、そのまま目を瞑り、二度と目を覚ますことはなかった。
それからは正直何も覚えていない。
病院の人や役所の人がやってきて、病院代の支払いもお葬式も全てやってくれた。
火葬が終わるのを待っている間、役所の人に他に家族はいないか? と尋ねられたけど、手がかりは名前と年齢だけ。
このままだと児童養護施設で引き取られることになると言われたけれど、僕はお母さんから教えられたお父さんを探したくて、なんとかお願いして、役所の人が持っていたノートパソコンを借りた。
学校でパソコンの使い方を習っておいてよかった。
とりあえず名前を検索してみると、何人かヒットしたけどそれがお父さんかはわからない。
全員が違うことも考えられる。
何か他にキーワードがないかを考えて、少し前の出来事を思い出した。
近所の人にお母さんの歳を尋ねられて、25歳だと答えたら、
――高校生で妊娠して、ここに逃げてきたのね。
とボソッと言われたことが頭から離れなかった。
なんとなくお母さんに言ってはいけないような気がして、自分の胸に閉じ込めていたけれど、お母さんが高校生の時まで住んでいた場所を入れてみたら、もしかしたらお父さんのヒントになるかもしれない。
前に聞いたことがある地名と年齢を入れてみると、その人の写真が出てきた。
名前の漢字も年齢も出身地も一緒。
これで他人の空似はないんじゃないか?
その人は東京でプラトーコーポレーションという会社をやっている社長さんらしい。
とりあえず電話をかけてみよう。
子どもだから取り次いでもらえなかったら、その時は会社まで行ってみよう。
僕はその会社の住所と電話番号をメモ帳に書き、全ての検索履歴を消去して役所の人にノートパソコンを返した。
そして、お母さんの骨壷を家に置きに行き、家中にあった小銭を持てるだけ持って少し離れた公衆電話に向かった。
会社に電話をかけると、最初はイタズラだと思われて、すぐに電話を切られてしまった。
それでも何度も何度も掛け直してお願いしていると、ようやく秘書という人に繋いでもらい、僕は自分のことを話した。
お母さんの名前と出身地を伝え、社長さんに聞いてみてほしいとお願いして待っていると、電話の相手が急に代わった。
ー君が佐山夏帆の息子というのは本当なのか?
ーはい。僕、佐山一帆と言います。
ー夏帆が、亡くなったというのは?
ー本当です。三日前に亡くなりました。ずっとお父さんのことは聞かされてなかったんですけど、亡くなる直前に名前と年齢を教えてもらって、居場所を探しました。
ー名前と年齢だけで私を探してくれたのか?
ーどうしても会いたくて……。お母さんに会って欲しくて……。
そう言うだけで涙が溢れる。
ー君の住所を教えてくれ。すぐにそこに行くから家で待ってるんだよ。
涙声で必死に住所を教え急いで自宅に戻ると、それから数時間後に本当に車でやってきてくれた。
僕の顔を見るなり、
「彼女に面影があるな」
と笑顔を見せながら、骨になってしまったお母さんを抱きしめてくれて、
「ここまで大きく育ててくれてありがとう」
と何度も言ってくれた。
それからすぐにどこかに電話をかけ、これからのことは心配しないでいいと言って僕の荷物とお母さんのものをまとめて車に乗せ連れて行ってくれた。
「あの……」
「お父さんでもパパでも構わないよ。もう私は君を息子として引き取ることに決めたから」
「えっ、いいんですか?」
「ああ、妻にも君に会いに行く前に了承をとった。妻は一帆と会えるのを楽しみにしてくれているよ」
「――っ!!」
急に現れた僕を息子だと信じてくれて、引き取ってくれるなんて!!
お母さん……お父さんはすごくいい人だったよ。
僕は涙を流しながら、形見のネックレスをギュッと握りしめた。
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