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〜愛しいユヅルの願い〜  sideエヴァン

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<sideエヴァン>

『エヴァン!』

『ユヅル! ああ、会えるのを楽しみにしていたよ』

『ふふっ。二週間前に日本で会ったばかりだよ』

『何を言ってるんだ。ユヅルと会えない二週間は私にとっては数ヶ月会えないのと同じだぞ。ユヅルは私と会えなくて寂しくなかったのか?』

『ふふっ。ユヅルもエヴァンに会いたかったよ』

小さな身体で抱きついてきてくれるユヅルを思いっきり胸に抱き、再会を心から幸せを感じていた。


この半年の間、家族で日本に短期滞在していたニコラたち。
日本での生活は三人にとって、かなり充実した日々だったようだ。

逆に、フランスのロレーヌ家は可愛いユヅルが不在のため、火が消えたような寂しさが続いていた。

私は、ユヅルと会えない寂しさに耐えきれず何度か日本に会いに行ったりもしていたが、それでもユヅルと会えない日々は寂しいものだった。

それがようやく帰ってきたのだ。
嬉しくないわけがない。

だから我慢できずに空港まで迎えに行ったのだ。

到着口で待ち侘びていた私に一直線に飛び込んできてくれたユヅルを腕に抱き、再会の喜びを噛み締めていると、後ろからニコラとアマネと、この短期滞在に同行していたジュールがやってきた。

『あらあら、ユヅルったら会って早々甘えているのね。ふふっ。飛行機の中でもずっとエヴァンのことを話していたものね』

『ユヅル、そうなのか?』

『うん。だって、ユヅルはエヴァンが大好きだもん』

『――っ!! ユヅルっ!!』

『エヴァン、いい加減にしろ。ユヅルが可愛いのはわかるが目立ちすぎだ。すぐに駐車場に行くぞ』

ユヅルがあまりにも可愛すぎて抱きしめあっていると、ニコラに注意をされてしまった。
ニコラの言っていることは正しいが、それ以上に私がユヅルと抱き合っているのが面白くないのだろう。
可愛い息子を取られると思って嫉妬しているのだろうが、私たちはどんな障害があっても引き離されたりしないからな。

車に乗り込み、そのまま我が家に向かう。
ユヅルは私の膝の上で楽しそうにしながら、久しぶりのパリ市内の景色を楽しんでいた。

しかし先日、日本で会った時には幼稚園の話を楽しそうにしてくれていたが、今日はユヅルはもちろんニコラやアマネからもその話題が出ない。

あれだけ楽しそうにしていたのだ。
もしかしたら、別れが寂しすぎて話題にはできないのかもしれないな。

その意図を汲み取り、私はその話題を出さぬように心がけていたのだが屋敷に戻り、父との再会も終えた後、ユヅルが私の部屋にやってきた。

『エヴァン、ユヅルね……エヴァンに相談したいことがあるの』

神妙な顔をしてやってきたユヅルをすぐに抱きかかえてソファーに腰を下ろし

『どうしたんだ? 何か困ったことでもあるのか?』

と尋ねると、

『あのね、ユヅル……日本の小学校に行きたいの』

と思ってもみない言葉が耳に飛び込んできた。

『えっ? 日本の小学校に? どういうことだ?』

『あのね、桜守幼稚園がすごく楽しかったの。だから、みんなとお別れするのがすっごく寂しくって……。それで、どうしたらみんなとまた会えるようになるかなって考えて、みんなと一緒に桜守の小学校を受験したらいいってわかったの! 合格したらまたみんなと一緒に小学校通えるんだよ!!』

『いや、それはわかったが、でも日本の小学校に通うには日本に住まないといけないんだぞ。流石にフランスから毎日は通えないからな。だが、ニコラが今回日本に滞在できたのはたまたまで普段はフランスにいなくてはいけないのだから日本で暮らすのは難しいんじゃないか?』

『だからね、エヴァンと一緒に日本で暮らしたらどうかなって』

『えっ? 私と一緒に?』

『うん。一花ちゃんが言ってたの。桜守のすぐ近くに日本で一番優秀な人たちが通う大学があるんだって。エヴァンならそこに行けるでしょう?』

日本で一番と言えば、桜城大学か。
確かにそこなら私の通うシュベルニー大学とは姉妹校であるし、編入試験を受けても問題はないし合格は余裕で可能だろう。

だが、こんなことをアマネはともかく、ユヅルを溺愛しているニコラが許すはずがない。
説得などできないだろう。

『だが、ユヅル……』

『ねぇ、エヴァン。ユヅルと二人で日本で暮らそう? ねっ』

『くぅ――っ!!』

くそっ、ユヅルが可愛すぎる。
少し涙を潤ませた可愛らしい瞳で私を見つめ、小首を傾げられたら私の理性などひとたまりもない。

『ああ、わかった。ニコラが日本行きを許してくれるなら、私はユヅルと一緒に日本で暮らそう』

『わぁーっ、本当?』

『ああ、本当だとも。私は嘘などつかないよ』

『うん。だから、エヴァン大好きっ!!』

それからユヅルと桜守初等部の受験についてしっかりと調べ、勉強も教えつつニコラに話すタイミングを窺っていたが、ユヅルの五歳の誕生日に話をしようということで私たちの中では話がまとまった。

流石にニコラもユヅルと離れ離れになってしまうことに難色を示していたが、ユヅルは父上とアマネも仲間に引き入れ、日本移住の約束をニコラから取り付けた。

もちろん、本当に日本の小学校に通うには受験に合格することが重要な条件だが、ユヅルの結果は合格。
晴れて日本行きをもぎ取った。

ニコラが日本行きを認めるにあたってジュールの同行を条件としたが、父上やニコラと同じくらいにユヅルを溺愛しているジュールは喜んで日本行きを承諾し、三人での日本での生活が始まることとなった。

桜守初等部の入学式の日。
可愛いユヅルは可愛い友人たちに囲まれていたが、私も素晴らしい友人と出会う良き日となった。
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