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〜愛しい息子の願い〜 sideニコラ(弓弦のパパ)

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<sideニコラ>

『パパーっ、お願いっ!! エヴァンと一緒に日本に行かせて!』

『うーん、だがなぁ……』

『おじいちゃまとママはパパがいいって言ったら行ってもいいって言ってくれたよー』

『ユヅルは私たちと離れて寂しくならないのか?』

『パパとママとおじいちゃまと離れるのは寂しいけど、エヴァンが一緒に行ってくれるし長いお休みにはちゃんと帰ってくるよ。ねっ、パパー、いいでしょう?』

『うーん、だが日本の小学校は六年間も通うのだぞ。エヴァンは大学はどうするんだ?』

『あのね、ユヅルが行きたい桜守の近くにエヴァンが行ける大学があるんだって。だからユヅルもエヴァンも合格したら行けるんだよ』

『だが、どちらも試験は難しいだろう?』

『大丈夫! エヴァンは頭いいし、ユヅルも頑張るもん! ねぇ、だからお願い!! パパーっ』

可愛い息子であるユヅルの願いは聞き遂げてあげたいが、如何せん息子との離れ離れになってしまう話だ。
そう簡単に了承はできない。

私の膝に乗り、少し目を潤ませながらおねだりをしてくるこの可愛いユヅルは、私と美しい妻・アマネとの間に生まれた大事な大事な一人息子だ。

アマネとの出会いは、今から六年ほど前。
パリの国際ヴァイオリンコンクールに出場していたアマネに審査員だった私が一目惚れをしたのがきっかけだ。

アマネはそのコンクールで史上最年少で見事優勝し、私の指導を受ける権利を得た。
我がロレーヌ家に滞在してヴァイオリンの技巧を学ぶうちに私たちは愛し合う仲になったのだ。

しかし、二十以上も年の差があることにアマネの両親は良い顔をせず、アマネを強制的に日本へ帰国させ私と引き離そうとしたが、その時にはすでにアマネのお腹には私たちの愛の結晶であるユヅルが宿っていた。

アマネの両親はそのことを知るやいなや、無理やり堕胎させようとしたが、必死で逃げてきたアマネを日本に迎えにきた私が助けてそのままフランスに連れ帰った。

そうして、我がロレーヌ家の全ての人脈を使い、アマネを二度と両親に会わせることがないようにしたのだ。
私たちがフランスで新しい生活を始めて、ユヅルが二歳の誕生日を迎えた頃、アマネの両親が亡くなったとの報告を受け、これで私たちの平和を脅かす存在がこの世からいなくなったことに心からホッとしたのを覚えている。

ユヅルが四歳の誕生日を迎えた頃、日本にいる知人からの誘いで演奏会がてら半年ほど日本での生活を楽しむことにしたのだが、その時の滞在場所の近くにあった『桜守幼稚園』というところにユヅルが通ってみたいと言い出した。
本来ならば入学試験を受けて入るところだが、我が家の身元は保証されているし、フランスに帰るまでの期間限定ということで特別に入学が許された。
それもこれも日本にいる友人がユヅルのために尽力してくれたおかげだ。

ユヅルは日本の幼稚園に通うようになってから毎日が楽しいようで、いつも帰ってくるとすぐに今日は何をしたと話してくれていた。

だからこそ、日本での滞在を終えてフランスに帰国するときは本当に涙を流して悲しんでいた。
特に親友だと言っていた『イチカ』と『マモル』と別れることは何よりも辛かったようだ。

その悲しみも時間と共に落ち着くかと思ったが、五歳の誕生日のプレゼントに何がいいかを尋ねたところ、

『受験をして桜守初等部に行きたい!』

と言い出した。
どうやらフランスに帰ってきてから、エヴァンに協力を頼み、ユヅルなりにいろいろと調べていたようだ。

試験は幼稚園児が受けるとはいえ、かなり難しく合格は狭き門だそうだが、ユヅルはこの歳ですでにフランス語と日本語をマスターし、ドイツ語も軽い読み書きができるほど優秀だ。
おそらく楽に合格できるだろう。

ユヅルがこんなにも望むなら許してやりたいのは山々だが、私がユヅルと離れ離れになることが耐えられないのだ。

なんせ、目に入れても痛くないほど可愛いユヅルと過ごす日々が私の幸せだというのに、それがなくなるなんて寂しすぎる。

はぁー、私は一体どうしたらいいのだ……。

何も考えられず、演奏室でヴァイオリンを弾いていると、私の愛しい妻・アマネがやってきた。

『音が乱れてますよ』

『ああ、もうどうしたらいいのかわからないのだよ』

『ふふっ。ニコラはユヅルを愛しているものね』

『ああ、あの子の成長を見届けるのが何よりも幸せなのに、日本に行ってしまったらそれが叶わなくなってしまう。アマネはどうして許したんだ?』

『日本には、可愛い子には旅をさせよという諺があります。ユヅルを愛しているからこそ、自分自身で体験させてやりたいんです。あの子があんなにも強く願っているのを止めたら、きっと将来後悔しますよ。ユヅルが友人と触れ合う時間は決まっているのですから。私たちは親ですけど、ユヅルの人生を変えるようなことはしないでおきましょう』

『アマネ……』

『ちゃんと長い休みにはフランスに帰ってきてニコラと過ごしたいって言ってましたよ。ニコラもその時にユヅルとたっぷり過ごせるようにスケジュールを組むことにしたらいいですよ』

『そうか、そうだな……』

愛しい妻と愛しい息子、どちらも私の命よりも大切な存在。
それは離れ離れになっても変わらないものだな。

愛しいアマネに説得されて、私はユヅルの受験を認めた。
合格したら日本で生活してもいい。
その代わり不合格なら、日本での生活は諦めるように。
そう約束したがユヅルは受験まで猛勉強を続け、桜守初等部に合格が決まり、エヴァンも桜城大学に無事に編入できることとなった。

そうして、入学の日。
もちろん私とアマネもユヅルの晴れ姿を見に行ったのだが、そこで私たちにも大勢の友人ができることになったのだった。
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