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番外編

僕の運命  <sideアシェル>

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アシェルsideを書いていなかったなと思って、ちょっと書いてみました。
楽しんでいただけると嬉しいです♡


  *   *   *

<sideアシェル>

「んっ……」

目を覚ますと、まだ夜も明けていない。
しんと静まり返った部屋で、スウスウと穏やかな音が聞こえる。

ほんの数時間前まで、身体の奥にたっぷりと蜜を注がれた。
クオンさんが毎日愛してくれるおかげで、僕の身体はもうすっかり子を宿せる身体に変化した。

このままいけば近いうちに、クオンさんとの愛しい子を宿す日が来るだろう。
でも、もう少しの間はクオンさんを独り占めしていたい。
そんな思いを抱いてしまうくらい、僕はクオンさんを愛しているんだ。

ああ、こんなにも素敵な人が僕の『神の計らい』だなんて……今でも信じられないくらい。


『神の計らい』
それはこのヴァラスウィン王国に暮らす者なら必ず知っていること。
なんせ、物心ついた時に、何よりも一番先に教えられることが『神の計らい』なのだからどれくらい重要なことかわかるだろう。

『神の計らい』とは、自分が一生を共に過ごす相手……すなわち、運命の相手のこと。

このヴァラスウィン王国では必ず18歳までにその『神の計らい』に出会うとされている。
そしてこの『神の計らい』に男女の区別はもちろんなく、またこの世界に住まう者とも限定はされていない。

現に現在のヴァラスウィン王国の国王さまの運命のお相手は異世界から来られたお方で、国王さまよりもかなり年上のお方だったけれど、今でもものすごく幸せそうにお過ごしでいらっしゃる。

どうやって『神の計らい』だとわかるかというと、一言で言えば勘。

そういうと、本当に運命かどうかわからないと思うかもしれないけれど、一目見てすぐに身体が反応する。
なんと言って言葉にしたらいいかわからないほど、全身でその人が運命の相手だと感じるのだ。

だから、僕も両親に『神の計らい』について教えられてから、運命の相手と出会う日を心待ちにしていた。

自分が子を作る方か、宿す方かは『神の計らい』に出会ってから、直感でわかるらしいけれど、僕は自分はきっと子を宿す方だと密かに思っていた。

なんせ、母上似の女性らしい顔つきと、華奢な身体。
どう考えても僕が子を作る方だとは想像もつかない。

だからいつかこのお腹に子を宿す日が来るのだと楽しみにしていたのだ。

けれど、10歳を過ぎても僕に『神の計らい』は現れなかった。

この世界のおよそ半数の人は10歳を迎える頃には運命の相手と出会い、15歳を過ぎて出会う人はほとんどいない。
兄上も12歳の頃、侯爵家に生まれた令嬢の誕生祝いで、彼女が『神の計らい』だとわかった。

だから僕も兄上と同じ頃までにはと期待したけれど、何事なく過ぎ去って、15を過ぎるともう誰もその話をしてこなくなった。

僕は神に嫌われているのかもしれない。
僕だって誰かに愛される人生を願っていたのに。

そして、何事もないまま18の誕生日を迎えた朝、悲しみに沈みながら毎朝の日課である庭の散歩に向かった。

「あれ? あそこに誰か、いる?」

昨夜までは確実になかったものがそこにあることに気づき、それが倒れている人じゃないかとわかって僕は急いで駆け寄った。

「――っ!!!」

そこには何の衣服も身につけていない長身で体格のいい男性が倒れていた。

「あ、あの……大丈夫ですか?」

横向きに倒れていたその人の肩を揺らすと、その男性の身体が仰向けに倒れてしまった。

「――っ!! すごいっ……! おっきぃ……っ!!」

騎士のように鍛えられた肉体と、その存在を主張する大きな昂りに目を奪われる。

彼が目を閉じているから確実ではないかもしれないけれど、僕は遠目で彼の姿を見かけた時から鼓動が激しくなっていた。
こんなの生まれて初めてだと思うくらい息が早くなって、ドキドキが止まらない。

彼が僕の『神の計らい』に違いないと全身が訴えている気がする。

この人が……ずっと僕が待ち焦がれていた運命の相手なんだ。
そう思わずにいられなかった。

とりあえず、彼をこのままにしておけない。
でも、僕よりもずっとずっと大きい彼を運べるわけがない。

僕は上着を脱いで彼の昂りを隠し、急いで屋敷に戻り、執事のバートに声をかけた。

道中で僕の『神の計らい』が見つかったんだ! というと、バートは嬉しそうに

「素晴らしいお誕生日なりましてよろしゅうございます、アシェルさま」

と涙を潤ませて言ってくれた。

まだ彼が『神の計らい』と決まったわけじゃない。
だけど、ここ数年誕生日を祝うのが辛かった僕にとってはとても嬉しい言葉だった。

バートはさっと彼に夜着を着せ、僕の寝室に運んでくれた。
僕のベッドに眠る彼を見て、早く目を覚まして……と願いを込めて、そっとほっぺたにキスをしたんだ。

その時ふわっと嬉しそうに笑った気がした。

それがとても嬉しかったんだ。

目を覚ましたら喉が渇いているかもしれない。
そう思い立って、飲み物を取りに行って戻ってきたら、彼は目覚めていた。
そして、僕の声に反応して僕を見た瞬間、ビリビリと電流が駆け抜けるような衝撃を感じた。

ああ、やっぱり彼が運命だったんだ。

今までずっと待ち続けていた僕に、神はこんなにも素晴らしい相手を連れてきてくれた。
今まで寂しくて辛い毎日だったけれど、これからは幸せなんだ。
そう思ったら、今までの日々が報われた気がした。




「クオンさん……一生、離しませんよ……」

すぐ隣で眠っているクオンさんの唇にそっと自分のそれを重ねると、

「んんっ……!!」

突然ギュッと抱きしめられて、唇を甘噛みされる。
驚いて口を開けると、柔らかく肉厚な舌がスッと僕の口内に滑り込んできて、舌先に吸い付かれ歯列をなぞられ絡みついてくる。

何度も角度を変え、貪られようやく唇が離された時には僕はすっかり身体の力が抜けてしまっていた。

「く、おんさん……」

「ふふっ。ごめん、アシェルがあんまり可愛いことをしているからつい我慢できなくなった」

「いいですよ……ぼく、くおんさんとのきす、すきです……」

「アシェル……っ!」

「まだ、よるですよ……もっと、あいして……」

「――っ!!!」

ギラギラと獰猛な目で僕を見つめるクオンさんの表情だけで、僕の身体の奥はきゅんきゅんと疼いてしまっていた。
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