虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

文字の大きさ
74 / 118
番外編

ほんとうのなまえ

しおりを挟む
<side直純改め、直>

「直くん! おめでとう!」

「きゃっ! きゃっ!」

いつものようにちゅぐぅちゃをおむかえに走って行ったら、ちゅぐぅちゃのおててからキラキラしたものが出てきてぼくのまわりをひらひらしながら落ちていった。

何かわからないけれど、とってもきれい!
これなんだろう?

「わぁー! 卓さん、紙吹雪、とっても綺麗!」

「かいふーき?」

「そう。紙吹雪。嬉しい時にかけてあげるんだよ。すごく綺麗で嬉しくなるでしょう?」

「かいふーき、きれー! うれちー!!」

きっとちゅぐぅちゃにいいことがあったんだ! だからうれしいんだろうな。

「ちゅぐぅちゃ、うれちー。なおも、うれちー!」

「そうか。直くん、ありがとう……」

ちゅぐぅちゃはうれしそうにぼくをだきあげて、へやの中に入った。

「ちゅぐぅちゃ、なにか、いいこちょ、あっちゃのかな?」

いつもちゅぐぅちゃにきかれることを、ちゅぐぅちゃに聞いてみた。
すると、ちゅぐぅちゃはあーちゃと顔を合わせてわらった。
何かおかしかったかな?

「ははっ。ああ、とってもいいことがあったんだよ。直くんの名前が<直>だけになったんだよ。だから、もう一つの名前は忘れるんだ。いい? これから直くんは<磯山直>だよ」

うーんと、もう一つの名前……なおずみだっけ。
思い出すだけでこわくなるから思い出さないようにしてたけど、でももうその名前を忘れていいってこと?

よし! 自分でも言ってみよう!!

「いちょやま、なお?」

「そう! 直くん、とっても上手!」

わぁ、あーちゃにほめてもらえてうれしい!!

「いちょやま、なおー!!」

もういちど言うと、今度はちゅぐぅちゃにも上手だよってほめてくれた。

そうか、ぼくは今日から<いそやまなお>になったんだ!

考えてみればちゅぐぅちゃもあーちゃも、じいちゃもあきちゃも、じいじもさーちゃも、おいちゃもふーちゃものぼりゅも、ぱぱもみんなぼくを<なおくん>って呼ぶもんね。
もう一つの名前がまちがいだったんだ!
ぼくのほんとうのなまえは、<いそやまなお>だったんだ!!

「いちょやま、なおー、いちょやま、なおー!」

これでもうこわい人を思い出さずにすむ! ぼくはわすれないように自分の名前をなんどもくり返した。


  *   *   *


「おお、直くん! 来たか」

「じいじー!! おはよー!!」

きょうは朝からちゅぐぅちゃの車に乗ってお出かけ。
ついたところはじいじとさーちゃのおうち。

げんかんに入ると、じいじが笑顔で来てくれた。

じいじって呼びながら近づいたら、ふわっと抱っこしてくれる。
ちゅぐぅちゃの抱っこにすごくにててとってもうれしくなるんだ。

「おお。直くん、おはよう。元気にしてたか?」

「うん。あのねー、なおは、いちょやま、なお、なの」

ぼくが言うと、じいじはちょこっとびっくりした顔をしていたけどすぐにやさしい笑顔になった。

「おおー! 挨拶できるようになったのか。とっても上手だな。もう一度名前を教えてくれ」

「ふふっ。いちょやま、なおー!!」

ぼくが名前を言うと、じいじが嬉しそうに笑ってくれる。

「そうか、磯山も言えるようになったか。じいじと同じだな」

「おなじー?」

「そうだよ。じいじも磯山だからな」

そうなんだ! じいじもなおとおなじなんだ!!

「いちょやま、じいじ?」

「ははっ。磯山じいじか。これは直くんにやられたな」

ぼくがじいじの名前を言うと、大笑いしていたけど、何かまちがってたのかな?
でもたのしそうだから、いいか。

「直くん、沙都にも挨拶しておいで」

笑いながら、じいじがぼくをおろしてくれる。
さとっていうのは、さーちゃのことなんだ。

ぼくはさーちゃに向かって走っていった。

「さーちゃー!」

「直くん、おはよう。元気そうでうれしいわ」

「さーちゃ、おはよー。あのね、なお、いちょやま、なお、なの」

「あらあら、上手にご挨拶できたわね。直くん、偉いわ」

「なお、えらいー!!」

みんながほめてくれるのってうれしいな。
いっしょうけんめい、名前覚えてよかったな。
しおりを挟む
感想 242

あなたにおすすめの小説

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

聖女じゃない私の奇跡

あんど もあ
ファンタジー
田舎の農家に生まれた平民のクレアは、少しだけ聖魔法が使える。あくまでもほんの少し。 だが、その魔法で蝗害を防いだ事から「聖女ではないか」と王都から調査が来ることに。 「私は聖女じゃありません!」と言っても聞いてもらえず…。

カミサンオメガは番運がなさすぎる

ミミナガ
BL
 医療の進歩により番関係を解消できるようになってから番解消回数により「噛み1(カミイチ)」「噛み2(カミニ)」と言われるようになった。  「噛み3(カミサン)」の経歴を持つオメガの満(みつる)は人生に疲れていた。  ある日、ふらりと迷い込んだ古びた神社で不思議な体験をすることとなった。 ※オメガバースの基本設定の説明は特に入れていません。

処理中です...