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早く会いたい!
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「今日は午後から二葉さんと昇がここに来るわ」
絢斗くんが直くんのおむつを替えている間に、これからのことを話しておこうと思い、少し離れた場所で沙都が卓に伝えると卓が驚きの声をあげた。
「えっ? 二人で?」
やっぱり心配するところはそこか。
最近は昇がだいぶ逞しくなってきたとはいえ、まだ小学一年生だから二人だけで出かけさせるのは心配だからな。
「毅も一緒よ。昇が半日授業だから、午後から二時間だけ抜けられるように調整したんですって。だから二葉さんと昇を迎えに行って一緒にここで過ごして、毅だけ一旦仕事に戻ってから夕方迎えに来るって言ってたわ」
沙都の説明に卓は納得の表情を見せた。
「本当は、直くんが退院してから毅たちに会わせようと思っていたのだけど、昇がね……」
「昇が、何かあるのか?」
「それが、直くんの動画を見て気に入ったみたいなのよね。直くんの事、可愛いって言ってたの」
「えっ――!!」
流石の卓も驚いたな。それもそうだろう。
昇は卓とよく似ている。卓も絢斗くんと出会うまでは可愛いなんて言葉を聞いたことがなかった。
それに比べたら昇は早かったな。
卓はしばらく考え込んだと思ったら、私たちをじっと見て口を開いた。
「昇と二葉さんが来るのはいつ頃ですか?」
「そうだな、午後だと言っていたから二時ごろじゃないか?」
昇の帰宅時間やケーキなどを買いに行く時間も考慮して伝えると卓は頷いた。
「わかりました。それじゃあ私もその時間に合わせて顔を出します」
「えっ? 来るのか?」
「ええ、可愛い息子を弟家族に会わせるんですから、私もいないと意味がないでしょう」
そうキッパリと言い切っていたが、本当のところは昇と直くんの初対面の様子を確認しておきたいのだろう。
まさか小学生の昇に牽制などはしないだろうが、心配だな。
卓は私の想像以上に、もうすっかり直くんの父になっているようだ。
直くんを抱っこして、卓と絢斗くんが仕事に向かうのを見送る。
小さな手で「いってらっしゃい」と可愛く手を振る姿は見ていて微笑ましい。
「直くん、何して遊ぼうか?」
「こりぇー」
沙都の呼びかけに嬉しそうに指さしたのはベッドから見える場所にある絵本たち。
私がその一冊を手に取ると、見慣れた文字で<直くんのお気に入り>と付箋が貼られている。
他の本も見てみると<悪者が出てくるところで怯える>や、<お菓子の家に興味津々で何度もそこを読む>など注意書きが書かれている。
「沙都、見てごらん」
沙都にその付箋を見せると、ふわっと優しい笑みを溢す。
「あの子がこんなことをすようになるなんてね……本当に直くんのおかげだわ」
その字を見ただけでこれを書いたのが卓だとわかったようだ。
あの動画で送られてきた読み聞かせをしている表情がこの上なく優しげだったことに毅は随分と驚いていた。
しかし、今日、目の前で見たら納得せざるを得ないはずだ。
卓が直くんを心の底から愛していることを。
<side昇>
「ねぇ、おかーさん。まだいかないの? せっかくはやくかえってきたのにー!」
今日は卓おじちゃんの子どもの直くんに初めて会いに行ける日だ。
そのために友だちとの遊びも全部断って走って帰ってきた。
急いでご飯も食べたし、片付けも手伝ったのに、まだ出かけないなんて!
「昇、さっきも言ったでしょう? お父さんが帰ってきてから病院に連れて行ってくれるって。もう会社は出たそうだからもうすぐ着くわよ。すぐに行けるように準備しておきなさい」
そんなのもうとっくにやってるのに!
俺の黄色のリュックには、二歳の時にサンタさんにもらったクマのぬいぐるみとネズミが出てくる大好きな絵本とお風呂で遊べるミニカーも入れてある。これは全部俺はもう遊ばないものだから、直くんにあげるんだ。
ずっと楽しくて遊んでいたものだからきっと直くんも喜んでくれるはずだ!
「これも気に入ってくれたらいいけどな……」
折り畳んで入れていたのは俺が好きだったブランケット。
小さい頃はこれをかけてもらって昼寝していた。
ふわふわで気持ちよくて好きだったけど、今の俺には小さくて使わなくなった。
きっと直くんならまだまだ使ってくれるだろうと思ったんだ。
久しぶりに広げてみると、やっぱり小さい。
でもあの動画と写真で見た直くんには似合いそう。
「使ってくれたらいいな」
ポツリと言葉が漏れたと同時にピンポンと玄関チャイムが鳴る音が聞こえた。
「おとーさんだ!」
俺は急いでブランケットをリュックに詰めて、急いで玄関に向かった。
絢斗くんが直くんのおむつを替えている間に、これからのことを話しておこうと思い、少し離れた場所で沙都が卓に伝えると卓が驚きの声をあげた。
「えっ? 二人で?」
やっぱり心配するところはそこか。
最近は昇がだいぶ逞しくなってきたとはいえ、まだ小学一年生だから二人だけで出かけさせるのは心配だからな。
「毅も一緒よ。昇が半日授業だから、午後から二時間だけ抜けられるように調整したんですって。だから二葉さんと昇を迎えに行って一緒にここで過ごして、毅だけ一旦仕事に戻ってから夕方迎えに来るって言ってたわ」
沙都の説明に卓は納得の表情を見せた。
「本当は、直くんが退院してから毅たちに会わせようと思っていたのだけど、昇がね……」
「昇が、何かあるのか?」
「それが、直くんの動画を見て気に入ったみたいなのよね。直くんの事、可愛いって言ってたの」
「えっ――!!」
流石の卓も驚いたな。それもそうだろう。
昇は卓とよく似ている。卓も絢斗くんと出会うまでは可愛いなんて言葉を聞いたことがなかった。
それに比べたら昇は早かったな。
卓はしばらく考え込んだと思ったら、私たちをじっと見て口を開いた。
「昇と二葉さんが来るのはいつ頃ですか?」
「そうだな、午後だと言っていたから二時ごろじゃないか?」
昇の帰宅時間やケーキなどを買いに行く時間も考慮して伝えると卓は頷いた。
「わかりました。それじゃあ私もその時間に合わせて顔を出します」
「えっ? 来るのか?」
「ええ、可愛い息子を弟家族に会わせるんですから、私もいないと意味がないでしょう」
そうキッパリと言い切っていたが、本当のところは昇と直くんの初対面の様子を確認しておきたいのだろう。
まさか小学生の昇に牽制などはしないだろうが、心配だな。
卓は私の想像以上に、もうすっかり直くんの父になっているようだ。
直くんを抱っこして、卓と絢斗くんが仕事に向かうのを見送る。
小さな手で「いってらっしゃい」と可愛く手を振る姿は見ていて微笑ましい。
「直くん、何して遊ぼうか?」
「こりぇー」
沙都の呼びかけに嬉しそうに指さしたのはベッドから見える場所にある絵本たち。
私がその一冊を手に取ると、見慣れた文字で<直くんのお気に入り>と付箋が貼られている。
他の本も見てみると<悪者が出てくるところで怯える>や、<お菓子の家に興味津々で何度もそこを読む>など注意書きが書かれている。
「沙都、見てごらん」
沙都にその付箋を見せると、ふわっと優しい笑みを溢す。
「あの子がこんなことをすようになるなんてね……本当に直くんのおかげだわ」
その字を見ただけでこれを書いたのが卓だとわかったようだ。
あの動画で送られてきた読み聞かせをしている表情がこの上なく優しげだったことに毅は随分と驚いていた。
しかし、今日、目の前で見たら納得せざるを得ないはずだ。
卓が直くんを心の底から愛していることを。
<side昇>
「ねぇ、おかーさん。まだいかないの? せっかくはやくかえってきたのにー!」
今日は卓おじちゃんの子どもの直くんに初めて会いに行ける日だ。
そのために友だちとの遊びも全部断って走って帰ってきた。
急いでご飯も食べたし、片付けも手伝ったのに、まだ出かけないなんて!
「昇、さっきも言ったでしょう? お父さんが帰ってきてから病院に連れて行ってくれるって。もう会社は出たそうだからもうすぐ着くわよ。すぐに行けるように準備しておきなさい」
そんなのもうとっくにやってるのに!
俺の黄色のリュックには、二歳の時にサンタさんにもらったクマのぬいぐるみとネズミが出てくる大好きな絵本とお風呂で遊べるミニカーも入れてある。これは全部俺はもう遊ばないものだから、直くんにあげるんだ。
ずっと楽しくて遊んでいたものだからきっと直くんも喜んでくれるはずだ!
「これも気に入ってくれたらいいけどな……」
折り畳んで入れていたのは俺が好きだったブランケット。
小さい頃はこれをかけてもらって昼寝していた。
ふわふわで気持ちよくて好きだったけど、今の俺には小さくて使わなくなった。
きっと直くんならまだまだ使ってくれるだろうと思ったんだ。
久しぶりに広げてみると、やっぱり小さい。
でもあの動画と写真で見た直くんには似合いそう。
「使ってくれたらいいな」
ポツリと言葉が漏れたと同時にピンポンと玄関チャイムが鳴る音が聞こえた。
「おとーさんだ!」
俺は急いでブランケットをリュックに詰めて、急いで玄関に向かった。
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